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第三章:角笛の音色と新たな夜明け
砦到着①
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ルト川よりも北からニダベリルの領土までは、殆どヒトの手が付けられていない。
ニダベリルとグランゲルドを分かつ国境が明瞭に定められたのは、十六年前の戦いの後である。フリージア達が今いる場所は、地図の上ではグランゲルドの領土だ。だが、ルト川以北は徐々に土地も痩せ始め、グランゲルド国内には他にいくらでも豊かな土地があるというのに、敢えてそこに住む利点はない。
グランゲルドもニダベリルも手を出していない土地。そんな一帯が始まる場所に、グランゲルドの最北端を監視する砦があった。
もっとも、小高い丘に建てられたそれは、『砦』と呼ぶにはあまりに貧弱である。
兵士宿舎に物見櫓に厩舎に倉庫、訓練場とそれらをぐるりと取り囲む壁。
ある物と言ったらその程度だ。兵士の数も二十人そこそこ。多少の籠城はできるように外壁はしっかりしており物見台も備えられてはいるが、ニダベリルの武力の前にどれほど耐えられるかは甚だ疑問だ。
さもありなん。
ここは砦と言っても進軍を阻むことが目的ではなく、異状をいち早く見つけ、グランディアに報告することが一番の役割なのだ。その為、詰める者には馬を巧みに操れることが要求され、結果、必然的に紅竜軍から持ち回りで兵士が派遣されていた。
「ロウグ将軍!」
物見櫓の上から、紅竜軍が近付いてくるのが見えていたのだろう。フリージアが砦の中に入るとすぐに、警備隊長が駆け出してきた。
「あ、隊長、お疲れ様」
ひらりと馬から降りて、フリージアの方からも彼に近寄る。彼女の前まで来ると警備隊長はザッと音を立ててひざまずいた。
「お待ちしておりました。まだ、国境の方にもニダベリル軍の影はありません」
「まだ、もう少し時間はある筈だよ。多分、早くてあと十五日、かかっても二十日くらいかな。あっちがここに到達するまで、そのくらいだと思う。どっちにしても、そんなにゆっくりはしてられないけどね」
「いよいよですね。 でも……」
隊長は言葉を濁しながらフリージアの後ろに視線を流した。そこにいるのは、彼も見慣れた紅竜軍だけだ。ニダベリルと一戦交えるには、いささか不安を覚えても当然だろう。
「ここでは戦わないよ……まあ、ちょっとくらいはやるかもだけど、基本的には戦わない。隊長達も、荷物まとめてここを出る用意をして。ここの倉庫にしまってある物は、どこかに穴でも掘って隠すんだ。到着したニダベリル軍に取られちゃわないようにね」
フリージアの言葉に、警備隊長は怪訝そうな面持ちになる。そんな彼に、彼女はニッと笑う。
「隊長達にも、ひと仕事やってもらわないと。時間がないから、急いでね」
イタズラでも企んでいるかのようなフリージアの笑顔に、警備隊長は眉間のしわを深くした。
ニダベリルとグランゲルドを分かつ国境が明瞭に定められたのは、十六年前の戦いの後である。フリージア達が今いる場所は、地図の上ではグランゲルドの領土だ。だが、ルト川以北は徐々に土地も痩せ始め、グランゲルド国内には他にいくらでも豊かな土地があるというのに、敢えてそこに住む利点はない。
グランゲルドもニダベリルも手を出していない土地。そんな一帯が始まる場所に、グランゲルドの最北端を監視する砦があった。
もっとも、小高い丘に建てられたそれは、『砦』と呼ぶにはあまりに貧弱である。
兵士宿舎に物見櫓に厩舎に倉庫、訓練場とそれらをぐるりと取り囲む壁。
ある物と言ったらその程度だ。兵士の数も二十人そこそこ。多少の籠城はできるように外壁はしっかりしており物見台も備えられてはいるが、ニダベリルの武力の前にどれほど耐えられるかは甚だ疑問だ。
さもありなん。
ここは砦と言っても進軍を阻むことが目的ではなく、異状をいち早く見つけ、グランディアに報告することが一番の役割なのだ。その為、詰める者には馬を巧みに操れることが要求され、結果、必然的に紅竜軍から持ち回りで兵士が派遣されていた。
「ロウグ将軍!」
物見櫓の上から、紅竜軍が近付いてくるのが見えていたのだろう。フリージアが砦の中に入るとすぐに、警備隊長が駆け出してきた。
「あ、隊長、お疲れ様」
ひらりと馬から降りて、フリージアの方からも彼に近寄る。彼女の前まで来ると警備隊長はザッと音を立ててひざまずいた。
「お待ちしておりました。まだ、国境の方にもニダベリル軍の影はありません」
「まだ、もう少し時間はある筈だよ。多分、早くてあと十五日、かかっても二十日くらいかな。あっちがここに到達するまで、そのくらいだと思う。どっちにしても、そんなにゆっくりはしてられないけどね」
「いよいよですね。 でも……」
隊長は言葉を濁しながらフリージアの後ろに視線を流した。そこにいるのは、彼も見慣れた紅竜軍だけだ。ニダベリルと一戦交えるには、いささか不安を覚えても当然だろう。
「ここでは戦わないよ……まあ、ちょっとくらいはやるかもだけど、基本的には戦わない。隊長達も、荷物まとめてここを出る用意をして。ここの倉庫にしまってある物は、どこかに穴でも掘って隠すんだ。到着したニダベリル軍に取られちゃわないようにね」
フリージアの言葉に、警備隊長は怪訝そうな面持ちになる。そんな彼に、彼女はニッと笑う。
「隊長達にも、ひと仕事やってもらわないと。時間がないから、急いでね」
イタズラでも企んでいるかのようなフリージアの笑顔に、警備隊長は眉間のしわを深くした。
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