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第二章:大いなる冬の訪れ
変革を望む者①
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フリージア一行の周りには、色取り取りのエルフィア達が集まってきていた。久方振りのヒトの姿を、彼らは遠巻きに眺めている。
四方八方からの視線を感じながら、フリージアはもう一度フォルスに繰り返した。
「エルフィアの人たちはフレイ王が決めたことに従うって、聞いてます」
繊細で優美なその顔を見上げて問うた彼女に、フォルスはピクリとも表情を変えることなく頷き返す。
「その通りだ」
それはまるで取るに足らない小さなことのような無造作な言い方で、フリージアにはやっぱりそれをすんなりと受け入れることができないのだ。
ニダベリルの要求通りかつて亡命してきたエルフィアを引き渡せば、彼らはきっとひどい目に遭う。フォルスも、あの国でエルフィアがどんな扱いをされているのかを聞いている筈だ。
――それなのに、抗おうとしないとは。
炎を自在に操り、大地をも動かせる力があるのであれば、それを使って拒めばいい。雨を降らせ、大風を吹かせて、追手を追い払えばいいだろう。
エルフィアは、そうできるだけの力は持っているのではないのか。
フリージアは眉間に皺を刻んで、更にフォルスを追及する。
「仲間の運命を王様に投げてしまって、それでいいんですか? エルフィアの事はエルフィアで決めようとは思わないんですか?」
「我々にそんな権利はない」
「え?」
即答してきた彼の言葉の意味を掴み損ねてフリージアは眉をひそめる。そんな彼女へ、フォルスは淡々と続けた。
「ここは、本来我々の土地ではない。貴女方グランゲルドの人間のもの、そうだろう? 我らはそこに『住まわせて』もらっているだけだ。ならば、そちらの言葉を聞くしかあるまいよ」
「違うでしょ? もうずっとここに住んでいるんだから、あなたたちはここにいる権利がある筈でしょ? イヤならイヤって言えるんだよ? そうする権利は、ちゃんとあるし、王様だってそう思ってるよ」
フリージアは言い募るが、フォルスは静かにかぶりを振るだけだ。
「いいや、我々にはそんなものはない。しかし、それでいいのだ。ニダベリルから逃れてきた者も、承知している。彼らが行くことで残る者が助かるのであればそれでいい、と」
「そんなの――」
「我々は、納得している。ニダベリルからの亡命者は十二名。もしもグランゲルド王が彼らを引き渡すと決めたなら、彼らと引き換えに残る百数十名は安泰だ。そうする方が、結局はエルフィアという種の為になる」
どこかで聞いたようなセリフだった。そしてフリージアは、それに大反対だったのだ。その考えがそう簡単に変わるわけがない。
「どっちもっていうふうには思えないの? どちらも護る為に自分ができる精一杯の事をしようって、思わないの?」
「もしも抗えばエルフィアはここを追われ、また安住の地を探して彷徨うことになるだろう。私が護りたいのは、エルフィアという『種』だ。『個』よりも『種』を優先する」
「でも、この里を作っているのは、一人一人のエルフィアでしょ? うまく言えないけど、でも……『その人』を大事にしなくちゃ、『集団』だって壊れちゃうよ。群れも大事だけど、一人一人だって、大事にしなくちゃ。ただの『数』の問題じゃないよ」
足りない言葉がもどかしくて、フリージアは拳に握った両手を振りながら、懸命にフォルスに説く。
フリージアもグランゲルドという『国』を大事に思っているが、彼女にとっては、それ以上にそこに住む『人』が大事なのだ。極論を言えば、国という形が無くなっても、みんなが変わらず幸せに過ごせるのなら別にそれでも構わない。
ニダベリルにおとなしく従えないのは、そうすれば今の幸せが壊れてしまうからだ。だから、それを護る為には戦うことも辞さない。戦わないで済むに越したことはないが、そうする必要があるのであれば、彼女の持てる力を全て尽くす。ダメだ、無理だと投げ出すのは、できることを全部やった後だ。
エルフィアだって、それは同じではないのか。
個々をないがしろにして種としての形だけを守ったとして、それが幸せだと言えるのか。ただ、『エルフィア』という種を保つだけに固執して、それで本当に『生きている』と言えるのだろうか。
こんな所に閉じこもって、ただ『数』を増やすだけだなんて。
「それは、なんか、違うと思う……」
目を伏せ、そう呟く。うまく説明できないが、フリージアにはそれが良いこととは思えない――納得、できない。
フリージアのその言葉に、すぐには返事がなかった。顔を上げると、フォルスの目はヒタと彼女に向けられている。いや、その目は深い翳りを帯びていて、フリージアに向けられているのに、彼女を突き抜けて他の何かを見つめているように感じられた。
その眼差しの中にあるものは――。
淡々としたフォルスの表情の奥に、チラリと何かが垣間見えたような気がしたのは、フリージアの希望に過ぎなかったのだろうか。
己に注がれている彼女の視線に気付くと、フォルスはゆっくりと瞬きを一つして、またすぐに元の静謐な顔を取り戻した。
四方八方からの視線を感じながら、フリージアはもう一度フォルスに繰り返した。
「エルフィアの人たちはフレイ王が決めたことに従うって、聞いてます」
繊細で優美なその顔を見上げて問うた彼女に、フォルスはピクリとも表情を変えることなく頷き返す。
「その通りだ」
それはまるで取るに足らない小さなことのような無造作な言い方で、フリージアにはやっぱりそれをすんなりと受け入れることができないのだ。
ニダベリルの要求通りかつて亡命してきたエルフィアを引き渡せば、彼らはきっとひどい目に遭う。フォルスも、あの国でエルフィアがどんな扱いをされているのかを聞いている筈だ。
――それなのに、抗おうとしないとは。
炎を自在に操り、大地をも動かせる力があるのであれば、それを使って拒めばいい。雨を降らせ、大風を吹かせて、追手を追い払えばいいだろう。
エルフィアは、そうできるだけの力は持っているのではないのか。
フリージアは眉間に皺を刻んで、更にフォルスを追及する。
「仲間の運命を王様に投げてしまって、それでいいんですか? エルフィアの事はエルフィアで決めようとは思わないんですか?」
「我々にそんな権利はない」
「え?」
即答してきた彼の言葉の意味を掴み損ねてフリージアは眉をひそめる。そんな彼女へ、フォルスは淡々と続けた。
「ここは、本来我々の土地ではない。貴女方グランゲルドの人間のもの、そうだろう? 我らはそこに『住まわせて』もらっているだけだ。ならば、そちらの言葉を聞くしかあるまいよ」
「違うでしょ? もうずっとここに住んでいるんだから、あなたたちはここにいる権利がある筈でしょ? イヤならイヤって言えるんだよ? そうする権利は、ちゃんとあるし、王様だってそう思ってるよ」
フリージアは言い募るが、フォルスは静かにかぶりを振るだけだ。
「いいや、我々にはそんなものはない。しかし、それでいいのだ。ニダベリルから逃れてきた者も、承知している。彼らが行くことで残る者が助かるのであればそれでいい、と」
「そんなの――」
「我々は、納得している。ニダベリルからの亡命者は十二名。もしもグランゲルド王が彼らを引き渡すと決めたなら、彼らと引き換えに残る百数十名は安泰だ。そうする方が、結局はエルフィアという種の為になる」
どこかで聞いたようなセリフだった。そしてフリージアは、それに大反対だったのだ。その考えがそう簡単に変わるわけがない。
「どっちもっていうふうには思えないの? どちらも護る為に自分ができる精一杯の事をしようって、思わないの?」
「もしも抗えばエルフィアはここを追われ、また安住の地を探して彷徨うことになるだろう。私が護りたいのは、エルフィアという『種』だ。『個』よりも『種』を優先する」
「でも、この里を作っているのは、一人一人のエルフィアでしょ? うまく言えないけど、でも……『その人』を大事にしなくちゃ、『集団』だって壊れちゃうよ。群れも大事だけど、一人一人だって、大事にしなくちゃ。ただの『数』の問題じゃないよ」
足りない言葉がもどかしくて、フリージアは拳に握った両手を振りながら、懸命にフォルスに説く。
フリージアもグランゲルドという『国』を大事に思っているが、彼女にとっては、それ以上にそこに住む『人』が大事なのだ。極論を言えば、国という形が無くなっても、みんなが変わらず幸せに過ごせるのなら別にそれでも構わない。
ニダベリルにおとなしく従えないのは、そうすれば今の幸せが壊れてしまうからだ。だから、それを護る為には戦うことも辞さない。戦わないで済むに越したことはないが、そうする必要があるのであれば、彼女の持てる力を全て尽くす。ダメだ、無理だと投げ出すのは、できることを全部やった後だ。
エルフィアだって、それは同じではないのか。
個々をないがしろにして種としての形だけを守ったとして、それが幸せだと言えるのか。ただ、『エルフィア』という種を保つだけに固執して、それで本当に『生きている』と言えるのだろうか。
こんな所に閉じこもって、ただ『数』を増やすだけだなんて。
「それは、なんか、違うと思う……」
目を伏せ、そう呟く。うまく説明できないが、フリージアにはそれが良いこととは思えない――納得、できない。
フリージアのその言葉に、すぐには返事がなかった。顔を上げると、フォルスの目はヒタと彼女に向けられている。いや、その目は深い翳りを帯びていて、フリージアに向けられているのに、彼女を突き抜けて他の何かを見つめているように感じられた。
その眼差しの中にあるものは――。
淡々としたフォルスの表情の奥に、チラリと何かが垣間見えたような気がしたのは、フリージアの希望に過ぎなかったのだろうか。
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