ジア戦記

トウリン

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第二章:大いなる冬の訪れ

解放②

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 ロキスたち一行がヘルドを出発したのは、結局日が暮れてからのことだった。

 暗闇に包まれた山の中を、天からの月の光と手に持つ小さな灯かりを頼りに進む。

「まったく、何でこんなことやってんだかな、オレ達は」
 ぼやいたロキスに、活を入れたのはヒュンだ。
「しっかりしろ、自分らは軍人だろ。これも任務だ」

 ろくに腕を振るう機会もなくなって、軍人が聞いて呆れる。

 そう、内心でせせら笑いながら、ロキスは肩を竦めて返した。訓練でも、今の部隊の中に、彼に敵う者はいない。剣を交えてもさっぱり興奮できやしない。もっと、こう、血が沸くようなことが欲しい。それは、急速に彼の中に募りつつある欲求だった。

 退屈な『仲間』から目を逸らし、ロキスは森の中に向ける。

 ――いっそ、冬眠前の飢えた獣でも現れてくれねぇかな。

 そんな考えが彼の頭をよぎった時だった。
 森の中にチラリと何かが動くのを、夜目の効くロキスの深紅の目が確かに捉える。獣では、ない。

「おい、あれ」
 他の四人に抑えた声で呼びかけた。
「何だ?」
「あっちに人がいる」
「はぁ? こんな時間にか?」
 呆れた声を上げたのはオトだ。他の三人も半信半疑の色をその目に浮かべている。

「確かに、人だ。あっちはナイの方だよな?」
「ああ、そうだが……」
「そっちから来たみたいだが――村のヤツがこんな時間に森を歩くと思うか?」
「いや」

 ロキスの問いに、めいめいが首を振る。特にこの時期の獣は、危険だ。昼間ですら気を張って歩かねばならないというのに、夜中に出歩くなど、有り得ない。

「となると、当たり、か?」
 まさかと思ったが、どうやらこの夜間行軍も無駄にはならなかったようだ。

「前後で挟み撃ちにするぞ。オレとヴァリは前、オト、ヒュン、ベリングは奴らの後ろへ回れ」

 瞬間、皆の顔がサッと引き締まった。ダレているように見えても、軍人だ。いざとなれば、即座に臨戦態勢へと切り替わる。

「行くぞ」

 ロキスのその声と共に、彼らはサッと二手に分かれ、音もなく闇にまぎれていった。
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