ジア戦記

トウリン

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第二章:大いなる冬の訪れ

ニダベリルという国①

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 ソリンの住む村であるナイは、川の上流にあった。少年が連れてきたのは男性二人で、ウルは彼らが持ってきた戸板に乗せられて運ばれている。

 戻ってきたら突然増えていたオルディンにソリンは目を丸くしたが、フリージアが嬉しそうに「探しに来てくれたんだ」と説明すると、さして疑問を覚えたふうもなく納得してくれた。確かに、たいていの事は、子ども二人でこんな山の中をうろついているという事態の前では霞んでしまうに違いない。

 不安定な足場にも拘らず男たちは危なげもなくさっさと進んでいく。

「ねえ、オル」
 彼らの後を追いながら、フリージアが小声でオルディンの名を呼んだ。
「何だ?」
「あのさ、これ、ちょっとまずいかな」
「何が」
「ソリンの村に行くこと」

 オルディンが横を見下ろすと、彼女は眉間にしわを寄せていた。
「何を、今更」
 呆れた声で、彼は思わずそう返してしまう。

「俺は最初から言っていただろう? 今になってまずいもクソもあるか」
「う……ゴメン。でも、ほら、あたしたち、下流に流されたでしょ? だから、大丈夫だって思ってたんだ」
「どういうことだ?」

 オルディンの視線の先で、彼女は小さく首をかしげながら続ける。
「追っかけられてる時は上流に向かってたから、あいつらには上流に逃げたって思われてると思ってたんだよね。だから、下流に向かう分には大丈夫じゃないかなって」
「その頭は、多少はモノを考えてたのか」
「そりゃ、考えてるよ……多少は」

 その『考え』が楽観的に過ぎたことに気付いてか、唇を尖らせて序盤は勢いよく始めたフリージアの台詞は、しりすぼみになる。オルディンはやれやれとため息をついた。

「この川を渡る橋は、上流にはねぇよ」
「え?」
「ヘルドからこっち側に来るには、ヘルドの下流にある橋を渡らねぇとなんだよ。だから、お前の推測はあながち間違っちゃいない」
「そうなの?」

 オルディンの言葉に、パッと顔を輝かせるフリージア。ここで図に乗らせてはならないと、彼は間髪を容れずに釘を刺す。

「危ない状況であることは同じだ。取り敢えず俺とバイダルで奴らを撒いたが、見失った、仕方がない、と諦めてくれなきゃ、最寄りの村に捜索の手が伸びてくるだろうよ」

 再びフリージアは視線を落とした。この娘は、多少落ち込んでいるくらいが丁度良いのだ。でなければ、どんな無謀な行動をしでかすか、予測もつかないのだから。

「うう、そうだよねぇ……」
「少しは状況が解かったか」
「確かにちょっと甘かったけどさ、でも、オルが来てくれたんだし」

 ね? と全幅の信頼を寄せて笑顔になられたら、何と答えたらいいものなのか。言葉に詰まり、オルディンはフリージアを睨み付けた。

「……俺の最優先事項はお前だからな」
「じゃ、あたしはウルを護るから」

 そう、彼女はケロリと答える。

 少しは何か思うところがあるかと思ったら、全く堪えたふうではないフリージアであった。
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