ジア戦記

トウリン

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第二章:大いなる冬の訪れ

知るために④

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 そうして、王都グランディアを出発してから十日が過ぎ。
 バイダルとウル、ラタの三人を連れて、フリージアとオルディンはここに来たのだ――緑のない、ニダベリルの地に。

 バイダルを供にしたのは、ここに来るにあたってビグヴィルが出した条件のうちの一つだった。
 彼なら、一人で十人の腕利きの兵士に勝る。オルディンと併せれば殆ど向かうところ敵なしとなるだろう。

 ウルは、彼のような『いかにも人畜無害』な『普通』な少年がいれば、何かの際に使えると見込んだからだ。

 ラタを同伴させるように言ったのはミミルで、恐らくこのエルフィアの遠隔転移の力故だろう。フリージアには伝えていないが、万が一の場合はラタが彼女を連れて逃げることになっている。

「そろそろ行こうか。いつまでもここを眺めているわけにもいかないから。目指すのはヘルドっていう町だったよね?」
「ああ、そうだ」

 ヘルドはニダベリルの中でも武器の開発と生産を担っている町だ。ある意味、王都ニダドゥンよりもニダベリルらしい、この国の要とも言える。当然警備も厳しいだろうし、そこに近づくということは、相当な危険を伴う。

「引き返すつもりはないのか」

 オルディンは喉元まで出かけたその台詞を辛うじて呑み込む。訊かずとも、フリージアが何と答えるかなど、判っているのだ。

 ビグヴィルが迎えに来た時、さっさと行方をくらましていれば。
 フリージアを預かった時、どこか一ヶ所に腰を落ち着けて『普通の少女』として育てていれば。
 いや、そもそも、ゲルダの願いを聞いていなければ。

 どこまでさかのぼって道を修正すれば、今頃こんな所には来ずに済んでいたのだろうか。どうしていれば、フリージアをこんな危険な状況に置く羽目にならずに済んでいたのだろう。

 考えたところで、どうにもならない。時間は巻き戻すことなどできはしないし、第一、これまでの過去無くして、今のフリージアは作られないのだ。おとなしい、可愛らしいだけの彼女など、オルディンには想像すらできない。
 結局、彼にとってこのフリージア以外のフリージアなど有り得ないのだから、今の状況も受け入れざるを得ないのだ。

「オル、早く!」

 内心でため息をついたオルディンの隣でそう声をあげて、フリージアはバイダルたちの方へと走っていく。そうして、馬の鐙に足をかけるとヒラリとまたがった。スレイプの翼ならあっという間だろうが、今回はバイダルたちと足並みを揃える必要があったから、スレイプのことはグランゲルドに置いてきたのだ。

 馬の脚で、王都からここまで十日を要した。復路にかかる時間を考えると、ニダベリル国内で過ごすのは、七日ほどになるだろう。その七日は、これまでの十二年間を全部合わせても比較にならないほどの危険を孕んでいる。

 だが、その危険をフリージアに近付けさせはしない。
 オルディンには、小さなかすり傷一つでさえも、フリージアに付けさせる気はなかった。

 馬上から、フリージアがオルディンを呼んでいる。彼はもう一度目の前の風景に目を走らせて、彼女の元に向かった。
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