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第二章:大いなる冬の訪れ
知るために①
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今、オルディンは切り立った崖の上に立ち、荒涼たる大地を見渡していた。隣にはフリージアがいて彼と同じように前を見据えており、少し後ろに離れたところにはバイダルとウル、そしてラタがいる。
この事態を予感はしていたとは言え、実現するとは思っていなかった。
……いったい、どうしてこんなことになったのか。
オルディンは深々とため息をつく。
「どうかした、オル?」
全ての元凶である少女がきょとんと彼を見上げてくるのへ、彼はじろりと睨み返した。
「俺たちが何でこんな所に立つ羽目になったのか、考えてたんだよ」
「そんなの簡単だろ? あたしが来たがったからだって」
フリージアがケロリと答えてヘラリと笑う。だが、オルディンが何か言おうとする前にその笑顔を消すと、また目の前の景色へと視線を向けた。
そして、小さな声でこぼす。
「ホントに、全然違う」
何と違うのか、というのは確かめなくても判った。
グランゲルドの北の山を抜け、国境を越えた時、彼らの前に広がっていたのは、茶と灰の世界だった。
そこは、埃の舞う赤土と、ゴツゴツとした大小の岩と、雲の多い低い空――そんなものばかりで埋め尽くされている。フリージアの脳裏には、グランゲルドの豊かな森や滔々と流れる河が映っているのだろう。
「あたし、こんな景色見たことなかったよ」
「そうかもな」
「グランゲルドは、真冬でももっと、こう……優しい感じだよね」
「あっちは気候が温暖だからな」
「……こんなに、違うんだね」
フリージアの手が上がり、オルディンの袖を握る。彼はその小さな手を握り返すでもなく、ただ彼女のするがままに任せておいた。
彼らは、今、ニダベリルの痩せた大地に立っている。
一国の将軍――それも最も位の高い――がろくな兵も連れずに何故敵国にいるのかと言えば、事の起こりは十日と少しほど前にさかのぼるのだ。
この事態を予感はしていたとは言え、実現するとは思っていなかった。
……いったい、どうしてこんなことになったのか。
オルディンは深々とため息をつく。
「どうかした、オル?」
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「俺たちが何でこんな所に立つ羽目になったのか、考えてたんだよ」
「そんなの簡単だろ? あたしが来たがったからだって」
フリージアがケロリと答えてヘラリと笑う。だが、オルディンが何か言おうとする前にその笑顔を消すと、また目の前の景色へと視線を向けた。
そして、小さな声でこぼす。
「ホントに、全然違う」
何と違うのか、というのは確かめなくても判った。
グランゲルドの北の山を抜け、国境を越えた時、彼らの前に広がっていたのは、茶と灰の世界だった。
そこは、埃の舞う赤土と、ゴツゴツとした大小の岩と、雲の多い低い空――そんなものばかりで埋め尽くされている。フリージアの脳裏には、グランゲルドの豊かな森や滔々と流れる河が映っているのだろう。
「あたし、こんな景色見たことなかったよ」
「そうかもな」
「グランゲルドは、真冬でももっと、こう……優しい感じだよね」
「あっちは気候が温暖だからな」
「……こんなに、違うんだね」
フリージアの手が上がり、オルディンの袖を握る。彼はその小さな手を握り返すでもなく、ただ彼女のするがままに任せておいた。
彼らは、今、ニダベリルの痩せた大地に立っている。
一国の将軍――それも最も位の高い――がろくな兵も連れずに何故敵国にいるのかと言えば、事の起こりは十日と少しほど前にさかのぼるのだ。
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