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サラブレットを蹴飛ばす方法
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「弥生ちゃん?」
「いじゅういんさん、それは、なにかのまちがいか、かんちがい、れす」
何やら弥生の舌使いが怪しくなっている。
そんなに飲ませてしまっただろうかと彼女の手の中のグラスに目をやったが、その中身は半分以上残っていた。
フラフラし始めた弥生の肩を、伊集院は慌てて支える。
「間違いでも勘違いでもない。俺は本気だよ?」
ジッと見つめてそう言うと、同じように彼女は真っ直ぐに彼を見返してきて、やがてふるふると首を振った。
「いいえ。いじゅういんさんのめは、かずきくんとちがいます」
「『アイツ』――新藤一輝と? どう違うって言うんだ?」
問いかける声は、尖ったものになってしまった。だが、そんな険しい伊集院の口調には全く気付いていないかのように、弥生はふにゃりとこの上なく幸せそうに笑う。
「かずきくんは、わたしのことを、すっごくやさしいめで、みてくれるんれすぅ」
「優しい?」
「はいぃ」
あの、いつも冷ややかな眼差しで周囲を睥睨している新藤一輝の『優しい目』など、想像もつかない。やはり、それほど大事にしている女なのか。
「俺も、あなたのことを愛してるよ。アイツよりも……」
「かずきくんより、なんて、そんなの、むりれすよぉ」
即刻却下、だった。
こうなれば、言葉より行動だ。
伊集院はガバと弥生を抱き締めると、その瞳を覗き込みつつ、ゆっくりと顔を寄せる。
が。
グイ、グイグイ、と、伊集院の顔が押しやられる。彼の顎にある弥生の手は、酔っ払いとは思えない力がこもっていた。
「だめれすよぉ。わたしにキスするのは、かずきくんだけれすぅ」
いかにも押しに弱そうな彼女からの意外な抵抗に、伊集院の頭にはカッと血が上る。
「なんで、そんなにアイツがいいんだ? あんなの、ガキがやってるのが珍しいだけだろ? たいして実力もないくせに、どいつもこいつも、ちやほやしやがって。ただの客寄せパンダなんだよ――ッ!」
ペチン、という間の抜けた音が、人気の少ないフロアに響き渡る。
初め、伊集院は何が起きたのか判らなかった。
やがてジワジワ頭に浸透していく。
小さな手のひらが繰り出した平手では、痛みなど、殆どない。しかし、誰かに頬を張られたことなど今まで経験したことがない彼には、その行為自体が衝撃だった。
言葉もなく呆然としている伊集院の腕を振り払いながら、弥生がキッと彼を見上げる。
「かずきくんは、がんばったんだから! いじゅういんさんよりずっとちいさかったときから、ずっと、がんばってきたんだから! いまも、がんばってるんだからね!」
フラフラと千鳥足もいいところの弥生に思わず伸ばした手は、にべもなく振り払われた。
「だれもあまやかしてあげないから、わたしがあまやかしてあげるの!」
舌足らずな口調なのに、妙に迫力があった。
よろめく彼女に手を差し出したまま、彼は固まる。
小柄な弥生から睨め上げられて何も言い返せずにいる伊集院の耳に、不意に低い忍び笑いが響いてきた。
この場にいるのは、伊集院と弥生の二人だけの筈である。いったい誰が――と見回した彼の視界に、一番見たくない人物が飛び込んできた。
「新藤、一輝……何故、ここに?」
呻くようにその名を呟く。
その男は、レストランの入り口に身を持たせかけ、口元を押さえて笑いを堪えていた。
「ああ、あなたが何やら動いていると聞きましたのでね、少し見張りを付けせていただきました。ここには少し前に着きまして。失礼しました。我慢しなければ、と思ったのですが……」
そう言いながらも、クックとその喉の奥から漏れてくるものが、いやでも伊集院の耳に届いてくる。
バカにしているのかと一輝を睨み付けたが、彼の目は笑いとは正反対の色を浮かべていた。いつもの、穏やかかつ冷淡なものとも違っている。
その視線を真っ直ぐに向けられた伊集院の背を、ブルリと悪寒が駆け上がっていった。
と。
そんな伊集院の胸中をよそに、能天気な声が響く。
「あ、かずきくんだぁ!」
彼を押し退けるようにしてどかした弥生は子どものように両手を前に突き出して、ふらつきながら彼のもとに走って行く。
人を射殺すことができるのではないかと思われた一輝の眼差しが、弥生に向いた途端に一変した。
――これが、新藤一輝か?
伊集院には、先ほどの冷笑を浮かべていた男と、今恋人を見つめて微笑んでいる男が同一人物だとは信じられなかった。
「弥生さん」
一輝は、伊集院が今まで聞いたことのない甘やかな声で彼女の名前を呼び、つまづきかけたところを受け止め、そのまま抱き上げる。
「お酒を飲まれましたね? 大丈夫ですか?」
「だぁいじょうぶ。なんだかフワフワして、きもちいいよぉ」
「それは、酔っているんです」
「うふふ、かずきくん、だぁいすきぃ」
首にしがみつく支離滅裂な弥生に、一輝はこの上なく満足そうだ。まるでかけがえのない宝物でもあるかのように、彼女を抱き締めている。
――結局、俺のしたことはむしろヤツを喜ばせただけだったのか?
まるっきり蚊帳の外に置かれた伊集院には、そんな気がしてならない。そうなると、腹立たしさだけが湧き上がってくる。
「なんなんだよ、お前たちは。ガキにはガキがお似合いだよな。ああ、ガキのお前には、色気のないその女で充分だ」
伊集院が嘲るようにそう言った、その時だった。
一輝に抱きついていた弥生がパッと振り向くと、噛み付くように言い放つ。
「かずきくんはガキなんかじゃないんだから! あなたなんかより、ずっとえらいのよ! とってもおとこらしいんだから!」
そう言うと。
一輝の顔を両手で挟み、自分の唇を彼のそれに押し付けた。
色気など微塵も感じさせない、キス。
実は弥生から一輝への初めてのキスなのだが、伊集院はそれを知る由もない。ただその迫力に、呆気に取られるばかりだった。
どれほどそうしていただろう。
プハッと音がせんばかりに顔を離すと、再び弥生が伊集院に振り返り、ビシッと人差指を向ける。
「いい? わたしがキスするのは、かずきくんだけなんだからね! かずきくんはせかいでいちばん、かっこいいのよ!」
惚気るだけ惚気ると――彼女はくたりと一輝の肩にしなだれかかった。伊集院に、何か応えさせる暇もなく。
一輝が弥生の身体を抱え直し、一瞬優しい眼差しを落とした後、いつもの視線を伊集院に向ける――いや、いつも以上の鋭さだ。
「今回は僕もいい思いをさせていただきましたので、貴方のことは不問に付しておきましょう。ですが……今度彼女に不快な思いをさせたなら、僕も手を打ちます。格下の企業だから、と油断しない方がいいですよ?」
そう言って、彼がニッコリと微笑む。伊集院は、人の笑顔をこれほど恐ろしいと感じたことは今までなかった。その鬼気迫る笑みに向けて、コクコクと頷く。
「よろしい。では、また、どこかでお会いしましょう」
そうして、新藤一輝は弥生と共に去って行く。
残された伊集院は、この二人には二度と関わるものかと、心の中で誓った。
「いじゅういんさん、それは、なにかのまちがいか、かんちがい、れす」
何やら弥生の舌使いが怪しくなっている。
そんなに飲ませてしまっただろうかと彼女の手の中のグラスに目をやったが、その中身は半分以上残っていた。
フラフラし始めた弥生の肩を、伊集院は慌てて支える。
「間違いでも勘違いでもない。俺は本気だよ?」
ジッと見つめてそう言うと、同じように彼女は真っ直ぐに彼を見返してきて、やがてふるふると首を振った。
「いいえ。いじゅういんさんのめは、かずきくんとちがいます」
「『アイツ』――新藤一輝と? どう違うって言うんだ?」
問いかける声は、尖ったものになってしまった。だが、そんな険しい伊集院の口調には全く気付いていないかのように、弥生はふにゃりとこの上なく幸せそうに笑う。
「かずきくんは、わたしのことを、すっごくやさしいめで、みてくれるんれすぅ」
「優しい?」
「はいぃ」
あの、いつも冷ややかな眼差しで周囲を睥睨している新藤一輝の『優しい目』など、想像もつかない。やはり、それほど大事にしている女なのか。
「俺も、あなたのことを愛してるよ。アイツよりも……」
「かずきくんより、なんて、そんなの、むりれすよぉ」
即刻却下、だった。
こうなれば、言葉より行動だ。
伊集院はガバと弥生を抱き締めると、その瞳を覗き込みつつ、ゆっくりと顔を寄せる。
が。
グイ、グイグイ、と、伊集院の顔が押しやられる。彼の顎にある弥生の手は、酔っ払いとは思えない力がこもっていた。
「だめれすよぉ。わたしにキスするのは、かずきくんだけれすぅ」
いかにも押しに弱そうな彼女からの意外な抵抗に、伊集院の頭にはカッと血が上る。
「なんで、そんなにアイツがいいんだ? あんなの、ガキがやってるのが珍しいだけだろ? たいして実力もないくせに、どいつもこいつも、ちやほやしやがって。ただの客寄せパンダなんだよ――ッ!」
ペチン、という間の抜けた音が、人気の少ないフロアに響き渡る。
初め、伊集院は何が起きたのか判らなかった。
やがてジワジワ頭に浸透していく。
小さな手のひらが繰り出した平手では、痛みなど、殆どない。しかし、誰かに頬を張られたことなど今まで経験したことがない彼には、その行為自体が衝撃だった。
言葉もなく呆然としている伊集院の腕を振り払いながら、弥生がキッと彼を見上げる。
「かずきくんは、がんばったんだから! いじゅういんさんよりずっとちいさかったときから、ずっと、がんばってきたんだから! いまも、がんばってるんだからね!」
フラフラと千鳥足もいいところの弥生に思わず伸ばした手は、にべもなく振り払われた。
「だれもあまやかしてあげないから、わたしがあまやかしてあげるの!」
舌足らずな口調なのに、妙に迫力があった。
よろめく彼女に手を差し出したまま、彼は固まる。
小柄な弥生から睨め上げられて何も言い返せずにいる伊集院の耳に、不意に低い忍び笑いが響いてきた。
この場にいるのは、伊集院と弥生の二人だけの筈である。いったい誰が――と見回した彼の視界に、一番見たくない人物が飛び込んできた。
「新藤、一輝……何故、ここに?」
呻くようにその名を呟く。
その男は、レストランの入り口に身を持たせかけ、口元を押さえて笑いを堪えていた。
「ああ、あなたが何やら動いていると聞きましたのでね、少し見張りを付けせていただきました。ここには少し前に着きまして。失礼しました。我慢しなければ、と思ったのですが……」
そう言いながらも、クックとその喉の奥から漏れてくるものが、いやでも伊集院の耳に届いてくる。
バカにしているのかと一輝を睨み付けたが、彼の目は笑いとは正反対の色を浮かべていた。いつもの、穏やかかつ冷淡なものとも違っている。
その視線を真っ直ぐに向けられた伊集院の背を、ブルリと悪寒が駆け上がっていった。
と。
そんな伊集院の胸中をよそに、能天気な声が響く。
「あ、かずきくんだぁ!」
彼を押し退けるようにしてどかした弥生は子どものように両手を前に突き出して、ふらつきながら彼のもとに走って行く。
人を射殺すことができるのではないかと思われた一輝の眼差しが、弥生に向いた途端に一変した。
――これが、新藤一輝か?
伊集院には、先ほどの冷笑を浮かべていた男と、今恋人を見つめて微笑んでいる男が同一人物だとは信じられなかった。
「弥生さん」
一輝は、伊集院が今まで聞いたことのない甘やかな声で彼女の名前を呼び、つまづきかけたところを受け止め、そのまま抱き上げる。
「お酒を飲まれましたね? 大丈夫ですか?」
「だぁいじょうぶ。なんだかフワフワして、きもちいいよぉ」
「それは、酔っているんです」
「うふふ、かずきくん、だぁいすきぃ」
首にしがみつく支離滅裂な弥生に、一輝はこの上なく満足そうだ。まるでかけがえのない宝物でもあるかのように、彼女を抱き締めている。
――結局、俺のしたことはむしろヤツを喜ばせただけだったのか?
まるっきり蚊帳の外に置かれた伊集院には、そんな気がしてならない。そうなると、腹立たしさだけが湧き上がってくる。
「なんなんだよ、お前たちは。ガキにはガキがお似合いだよな。ああ、ガキのお前には、色気のないその女で充分だ」
伊集院が嘲るようにそう言った、その時だった。
一輝に抱きついていた弥生がパッと振り向くと、噛み付くように言い放つ。
「かずきくんはガキなんかじゃないんだから! あなたなんかより、ずっとえらいのよ! とってもおとこらしいんだから!」
そう言うと。
一輝の顔を両手で挟み、自分の唇を彼のそれに押し付けた。
色気など微塵も感じさせない、キス。
実は弥生から一輝への初めてのキスなのだが、伊集院はそれを知る由もない。ただその迫力に、呆気に取られるばかりだった。
どれほどそうしていただろう。
プハッと音がせんばかりに顔を離すと、再び弥生が伊集院に振り返り、ビシッと人差指を向ける。
「いい? わたしがキスするのは、かずきくんだけなんだからね! かずきくんはせかいでいちばん、かっこいいのよ!」
惚気るだけ惚気ると――彼女はくたりと一輝の肩にしなだれかかった。伊集院に、何か応えさせる暇もなく。
一輝が弥生の身体を抱え直し、一瞬優しい眼差しを落とした後、いつもの視線を伊集院に向ける――いや、いつも以上の鋭さだ。
「今回は僕もいい思いをさせていただきましたので、貴方のことは不問に付しておきましょう。ですが……今度彼女に不快な思いをさせたなら、僕も手を打ちます。格下の企業だから、と油断しない方がいいですよ?」
そう言って、彼がニッコリと微笑む。伊集院は、人の笑顔をこれほど恐ろしいと感じたことは今までなかった。その鬼気迫る笑みに向けて、コクコクと頷く。
「よろしい。では、また、どこかでお会いしましょう」
そうして、新藤一輝は弥生と共に去って行く。
残された伊集院は、この二人には二度と関わるものかと、心の中で誓った。
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