捨てられ王子の綺羅星

トウリン

文字の大きさ
上 下
47 / 48
Ⅲ:捨てられ王子の綺羅星

エピローグ

しおりを挟む
 その日、城は喜びに沸いていた。前庭は、ラムバルディアの住人の少なくとも半分は押しかけてきているのではないかと思うほどの人だかりだ。城門の外には、庭に入りきらなかった人々がひしめき合っていた。
 彼らは皆、正式に新たなティスヴァーレ王となったアレッサンドロと、その妃となった女性を祝福せんと集まってきた者たちだ。
 純白の衣装に身を包んだアレッサンドロとその伴侶が露台に姿を現すと同時に、地を揺るがさんばかりの歓声が上がる。
 誰もが皆、アレッサンドロの幸福を願っている。
 彼が王だから、というだけではない。アレッサンドロが民の為にどれほどのこと成してくれたかを、知っているからだ。
 歴代の王で、アレッサンドロほど国民から崇拝され慕われている者はいないだろう。

(私など、足元にも及ばない)
 露台の奥に立つジーノは、二人の背中を見つめながら、自嘲と祝福が複雑に入り混じった笑みを浮かべた。そもそも彼らの八年間を奪ってしまったのは、ジーノなのだ。彼に二人を祝福する権利など、あるのだろうか。
 吐息を一つこぼした時、背後から低い声が掛けられる。

「座ってなくていいんすか」
 振り返った先には、壁のような巨体がそびえたっていた。
「やあ、レイ君。ありがとう、大丈夫だよ、このくらいは」
 微笑んだジーノに、レイが歩み寄ってくる。隣に立った彼は、先ほどジーノがしていたように、観衆に向けて手を振るアレッサンドロとステラの背中を見つめた。その眼差しの中にあるものに、ジーノは少なからず罪悪感を覚える。

「……すまなかったね」
 謝罪の言葉に、レイが振り向いた。彼は視線でその意味を問うてくる。
「君に手紙を送ったのは、私だよ」
「……ああ」
 レイは短く答え、また、ステラたちの方へと眼を戻した。そのまま、続ける。
「そんな気がしてました。あいつの尻を叩いてやりたかったんでしょう?」
 その台詞に、ジーノは目を瞬かせた。
 武骨な男だが、その外見によらず、人の機微には敏いようだ。

「あの子からはあまりに多くのものを奪ってしまったから、一つだけ、一番大切なものだけは取り戻させてやりたかったんだよ。君には申し訳なかったが」
 レイはジーノをチラリと見下ろし、そして、肩を竦める。
「どうせオレのにはならないってことは、とうに判ってたんすよ。ただ、足掻いてみたかっただけで」
「そうか」
 と、不意に、彼らの視線に気付いたかのようにステラが振り返った。彼女は並ぶ二人に一瞬キョトンとし、次いで、満面の笑みを浮かべる。
 レイはそんな彼女にヒラヒラと手を振って、前を見るように促した。

 しばしの沈黙。
 そして。

「あんなふうに笑わなくなっちまったんですよ」
「え?」
「アレッサンドロがいなくなって、ステラはあんなふうに笑えなくなったんです。オレがいても、他の誰がいても」
 レイが、諦め混じりの嘆息をこぼす。
「笑えないあいつをオレのものにしたって、意味がない」
 呟きには、諦念と、そして、微かな悔しさが滲んでいた。
 ジーノはそんなレイの大きな背中をポンポンと叩く。
「じゃあ、これからは、あれを守るために尽力しようか」
「……そうですね」
 答えたレイの口元には、微かに、だが、確かに、笑みが浮かんでいた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】脇役令嬢だって死にたくない

こな
恋愛
自分はただの、ヒロインとヒーローの恋愛を発展させるために呆気なく死ぬ脇役令嬢──そんな運命、納得できるわけがない。 ※ざまぁは後半

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛

らがまふぃん
恋愛
 こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。※R6.5/18お気に入り登録300超に感謝!一話書いてみましたので是非是非! *らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。 ※R7.2/22お気に入り登録500を超えておりましたことに感謝を込めて、一話お届けいたします。本当にありがとうございます。

傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。

石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。 そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。 新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。 初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、別サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

根暗令嬢の華麗なる転身

しろねこ。
恋愛
「来なきゃよかったな」 ミューズは茶会が嫌いだった。 茶会デビューを果たしたものの、人から不細工と言われたショックから笑顔になれず、しまいには根暗令嬢と陰で呼ばれるようになった。 公爵家の次女に産まれ、キレイな母と実直な父、優しい姉に囲まれ幸せに暮らしていた。 何不自由なく、暮らしていた。 家族からも愛されて育った。 それを壊したのは悪意ある言葉。 「あんな不細工な令嬢見たことない」 それなのに今回の茶会だけは断れなかった。 父から絶対に参加してほしいという言われた茶会は特別で、第一王子と第二王子が来るものだ。 婚約者選びのものとして。 国王直々の声掛けに娘思いの父も断れず… 応援して頂けると嬉しいです(*´ω`*) ハピエン大好き、完全自己満、ご都合主義の作者による作品です。 同名主人公にてアナザーワールド的に別な作品も書いています。 立場や環境が違えども、幸せになって欲しいという思いで作品を書いています。 一部リンクしてるところもあり、他作品を見て頂ければよりキャラへの理解が深まって楽しいかと思います。 描写的なものに不安があるため、お気をつけ下さい。 ゆるりとお楽しみください。 こちら小説家になろうさん、カクヨムさんにも投稿させてもらっています。

【完結】100日後に処刑されるイグワーナ(悪役令嬢)は抜け毛スキルで無双する

みねバイヤーン
恋愛
せっかく悪役令嬢に転生したのに、もう断罪イベント終わって、牢屋にぶち込まれてるんですけどー。これは100日後に処刑されるイグワーナが、抜け毛操りスキルを使って無双し、自分を陥れた第一王子と聖女の妹をざまぁする、そんな物語。

身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】 妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。

夫は私を愛してくれない

はくまいキャベツ
恋愛
「今までお世話になりました」 「…ああ。ご苦労様」 彼はまるで長年勤めて退職する部下を労うかのように、妻である私にそう言った。いや、妻で“あった”私に。 二十数年間すれ違い続けた夫婦が別れを決めて、もう一度向き合う話。

処理中です...