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選択の自由
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はっきりと、アストールから言われてしまった。
フラウがここに留まる理由はもうない、と。
眼が、左手の薬指で光るものに落ちる。
フラウがアストールから離れられない理由はもうないし、もしかしたら、彼女はアストールに害を為す力を持っているかもしれないのだ。万一にも、花束を散らしたように彼を傷付けてしまうことがあったら、フラウは自分を一生許せないだろう。
(わたしは、もう、ここにはいられない)
ただそれだけで頭の中がいっぱいになったフラウは、ゼスに声を掛けられるまで、いつの間にか自分が一階まで下りてきていたことにも気づいていなかった。
「……ラウ、フラウ?」
何度か呼ばれていたようで、目の前に立つゼスはいぶかし気に眉をひそめている。フラウは長身の彼を見上げたけれど、頭が働かない。
「大丈夫かい?」
「……ゼスさん……アストールさまに、お暇を出されてしまいました」
声に出してそう言うと、一気に現実が迫ってきた。
刹那、張り詰めていたものが砕け散り、ころりと熱い雫が頬を転がり落ちていく。
一滴零れ落ちれば、また一滴。
ぼろぼろとただ涙を溢れさせるだけのフラウに、ゼスが目を瞠る。
「ちょ、フラウ、暇ってどういうことだい?」
ゼスは前掛けでフラウの涙を拭おうとしたけれど、アストールがしばらく彼女と距離を置いていたことを思い出したのか、触れる寸前で舌打ちをして手を止めた。
「まったく、あの人は何を考えてんだ?」
ぼそりとぼやいてから、フラウの前にしゃがみこんだ。
「落ち着いて、フラウ。食堂に行って、座って、温かいものを飲んで、それから話を聞かせてくれ」
低い位置から一つ一つを噛んで含めるようにゆっくりと言ったゼスを、フラウは滲んだ視界で見つめる。眼が合うと、彼は励ますように微笑んだ。
フラウは小さな深呼吸を一つする。そうすると、少し頭が冷えてきた。少なくとも、ゼスの言葉に応じるだけの隙間はできて、彼女はこくりと頷く。
フラウの涙が止まったのを見てゼスはホッと息をつき、立ち上がった。
「おいで。温めた牛乳に蜂蜜を入れようか。それともジャムの方がいいかな。オレンジの皮で作ったやつがあるから」
歩きながらゼスはそう言ったけれど、フラウの答えは求めていないようだった。きっと、彼女を落ち着かせるために話しかけてくれているのだろう。実際、いつもと変わらない穏やかな彼の声が、フラウの頭の中をいっぱいにしていたアストールの言葉をぎゅうぎゅうと丸めて小さくしていってくれるようだった。
食堂に着くと、ゼスはフラウを椅子に座らせてから鍋を火にかけた。ややしてふわりとオレンジの香りが漂ってきて、大きなカップが彼女に差し出される。
「熱いから気を付けて」
ゼスの言葉に頷きながらフラウがそれを受け取ると、彼は彼女の真ん前に椅子を置き、腰を下ろした。
フラウはほんのりと温かな厚手の木のカップを両手で包み込み、立ち上がってくるオレンジの香りを吸い込む。舌を焼きそうなほどの熱さの甘い牛乳を、フラウはそっとすすった。
無心にカップの中身を胃に収めていくフラウをしばらく見守ってから、ゼスが口を開く。
「じゃあ、フラウ。アストール様が何て言ったのか、正確に教えてくれ。君に辞めろだなんて、あの人が言う筈がないんだから」
ゼスはそう確信しているようだけれども、アストールの言葉はしっかりとフラウの耳に残っていた。
「フラウ?」
また名前を呼ばれ、フラウの意識が目の前のゼスに戻される。
フラウは一つ二つ瞬きをして、左手の薬指にはめられた指輪に眼を落した。それを右手でギュッと握る。
「アストールさまは、この指輪をくださいました。これがあれば、わたしはアストールさまの魔力をいただかなくてもだいじょうぶだからって……」
フラウがアストールを必要としなくなる。
フラウが、アストールの傍にいる必要がなくなる。
指輪を渡し、どんな働きをするかを説明するアストールは、それがフラウにとって良いことだと信じているようだった。
――彼女はそんなことなど欠片も望んでいないというのに。
フラウは、アストールを彼女から遠ざけることになる指輪など、外してしまいたかった。彼が与えたものでなければ、はめられた瞬間にでも、そうしていただろう。
「指輪?」
問うたゼスにフラウはこくりと頷き、右手をどかして左手の薬指にあるそれを見せた。ゼスはそこに眼を落とし、眉をひそめる。
「それがあれば、自分も魔力が空っぽな状態の君に触れるのかい?」
「と、おっしゃいました」
「へぇ……」
ゼスは呟き、フラウがよける間もなく腕を伸ばして彼女の頭にポンと手をのせた。それで何も起きないことを確認すると、わしゃわしゃとフラウの髪を掻き混ぜるように撫でる。
「――ホントだ。何ともない。ここ数日、アストール様から魔力を受け取っていないんだよね?」
「はい」
さっき指輪をはめるためにほんの一瞬触れられたけれども、あれだけでは十分な魔力の受け渡しはできていないはずだ。
「これがあればわたしはもうアストールさまから魔力をいただく必要がないから、ここを出て、ルイ村に行くようにって」
つんと、また鼻の奥が痛くなった。
フラウにとって、アストールは絶対になくてはならない人だけれども、アストールにとってのフラウは、そうじゃない。今までこの塔にいられたのは、フラウが彼を必要としていたからだ。彼がフラウを放っておけない、優しい人だからだ。
うつむいたフラウの顎に、指がかかった。そっと顔を上げさせられて、覗き込んでくるゼスと目が合う。
「フラウ、ほら、温かいうちにそれを飲んでしまえよ。甘いものを腹に入れれば少しはまともに頭が働くようになるから」
ゼスに促されるままカップを持ち上げ、フラウは一口飲んだ。温かさとオレンジジャムの甘さで、ほんの少し、肩の力が抜ける。表情を和らげたフラウの前で、ゼスが太腿に肘を置いて身を乗り出してきた。
「アストール様の言動はだいたい掴めたけど、それで、フラウはどうしたいんだ?」
「え?」
「その指輪があれば人ごみに行ってうっかり他人に触ってしまっても大丈夫になるんだろう? 実際、いつでもアストール様から離れられるようになったわけだ。選択する自由は君にあるんだよ、フラウ。アストール様にじゃない」
「でも……」
「フラウはアストール様から離れたいのかい?」
「そんなこと!」
ゼスが言い終えないうちに、フラウは声を上げていた。そんな彼女を、ゼスは静かな眼差しで見返してくる。
フラウは顔を伏せ、カップをギュッと握り締めた。
「そんなこと、有り得ません」
フラウは、アストールの傍にいたい。彼女の方から彼のもとを去るなんて、考えたこともない。
うつむいたフラウに、ゼスが静かに問う。
「アストール様は、君に『出て行け』とは言っていない筈だ。たとえ口が裂けても、君に対してあの人がそんなことを言うわけがないよ。『出て行ける』とか『出て行ってもいい』とか、そんな言い方だったんじゃないかな。出て行くかどうかは君次第――違うかい?」
そうだろうか。
フラウはアストールとのやり取りを思い返す。
確かに、ルイ村へ行け、とは言われていなかったかもしれない。けれど、自分はルイ村に行くのかと確認したフラウに、アストールは頷いただけだった。フラウがどうしたいかは、訊かれなかった。
唇を噛んだフラウに、彼が再び尋ねる。
「アストール様は提案をした。それに対して、君はどんな答えを出す?」
「わたし、は……」
フラウは口ごもった。
どうしたいかと問われれば、フラウはここに残りたい。その答えしかない。
けれど、どうすべきかを考えたら、答えは定まらない。
迷うフラウをゼスが覗き込んでくる。
「フラウ?」
「わたし……わたしは、アストールさまのお傍にいたいです。でも、いてはいけないのかもしれません」
「え? なんでそんなふうに思うんだい? 他に、あの人が何か変なことを言った?」
眉根を寄せたゼスの前で、フラウはうなだれる。
「わたしがアストールさまにとって危険な存在かもしれないから……」
「はぁ!? 君が? アストール様が、君にとって危険、ではなくて?」
「アストールさまが危ない人のはずがないです」
ムッと唇を尖らせてから、フラウは胸の内の危惧を打ち明ける。
「わたし、この間配達してくれた時にカールからお花をもらったんですけど、それが突然粉々になってしまったんです。どうやったのかは自分でも判らないんですけど、きっと、わたしのせいなんです。もしかしたら、アストールさまにお怪我をさせてしまうかもしれないって思って……」
口ごもりながらフラウが言い終えても、ゼスからの反応がない。うつむけていた顔を上げると、彼が両手で顔を覆っていた。
「ゼスさん?」
「今ので全て解かったよ。まったく、あの人は……」
ゼスの声に含まれているものは、苛立ちと、それを遥かに上回る、呆れ、だ。彼は不安を隠すことができずにいるフラウを見つめ、ガシガシと頭を掻く。
「多分、あの人は君にだけは知られたくないんだろうなとは思うけど、こうなると話しちまった方がいいよな」
そう言って、ゼスは大きなため息を一つこぼした。
フラウがここに留まる理由はもうない、と。
眼が、左手の薬指で光るものに落ちる。
フラウがアストールから離れられない理由はもうないし、もしかしたら、彼女はアストールに害を為す力を持っているかもしれないのだ。万一にも、花束を散らしたように彼を傷付けてしまうことがあったら、フラウは自分を一生許せないだろう。
(わたしは、もう、ここにはいられない)
ただそれだけで頭の中がいっぱいになったフラウは、ゼスに声を掛けられるまで、いつの間にか自分が一階まで下りてきていたことにも気づいていなかった。
「……ラウ、フラウ?」
何度か呼ばれていたようで、目の前に立つゼスはいぶかし気に眉をひそめている。フラウは長身の彼を見上げたけれど、頭が働かない。
「大丈夫かい?」
「……ゼスさん……アストールさまに、お暇を出されてしまいました」
声に出してそう言うと、一気に現実が迫ってきた。
刹那、張り詰めていたものが砕け散り、ころりと熱い雫が頬を転がり落ちていく。
一滴零れ落ちれば、また一滴。
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「ちょ、フラウ、暇ってどういうことだい?」
ゼスは前掛けでフラウの涙を拭おうとしたけれど、アストールがしばらく彼女と距離を置いていたことを思い出したのか、触れる寸前で舌打ちをして手を止めた。
「まったく、あの人は何を考えてんだ?」
ぼそりとぼやいてから、フラウの前にしゃがみこんだ。
「落ち着いて、フラウ。食堂に行って、座って、温かいものを飲んで、それから話を聞かせてくれ」
低い位置から一つ一つを噛んで含めるようにゆっくりと言ったゼスを、フラウは滲んだ視界で見つめる。眼が合うと、彼は励ますように微笑んだ。
フラウは小さな深呼吸を一つする。そうすると、少し頭が冷えてきた。少なくとも、ゼスの言葉に応じるだけの隙間はできて、彼女はこくりと頷く。
フラウの涙が止まったのを見てゼスはホッと息をつき、立ち上がった。
「おいで。温めた牛乳に蜂蜜を入れようか。それともジャムの方がいいかな。オレンジの皮で作ったやつがあるから」
歩きながらゼスはそう言ったけれど、フラウの答えは求めていないようだった。きっと、彼女を落ち着かせるために話しかけてくれているのだろう。実際、いつもと変わらない穏やかな彼の声が、フラウの頭の中をいっぱいにしていたアストールの言葉をぎゅうぎゅうと丸めて小さくしていってくれるようだった。
食堂に着くと、ゼスはフラウを椅子に座らせてから鍋を火にかけた。ややしてふわりとオレンジの香りが漂ってきて、大きなカップが彼女に差し出される。
「熱いから気を付けて」
ゼスの言葉に頷きながらフラウがそれを受け取ると、彼は彼女の真ん前に椅子を置き、腰を下ろした。
フラウはほんのりと温かな厚手の木のカップを両手で包み込み、立ち上がってくるオレンジの香りを吸い込む。舌を焼きそうなほどの熱さの甘い牛乳を、フラウはそっとすすった。
無心にカップの中身を胃に収めていくフラウをしばらく見守ってから、ゼスが口を開く。
「じゃあ、フラウ。アストール様が何て言ったのか、正確に教えてくれ。君に辞めろだなんて、あの人が言う筈がないんだから」
ゼスはそう確信しているようだけれども、アストールの言葉はしっかりとフラウの耳に残っていた。
「フラウ?」
また名前を呼ばれ、フラウの意識が目の前のゼスに戻される。
フラウは一つ二つ瞬きをして、左手の薬指にはめられた指輪に眼を落した。それを右手でギュッと握る。
「アストールさまは、この指輪をくださいました。これがあれば、わたしはアストールさまの魔力をいただかなくてもだいじょうぶだからって……」
フラウがアストールを必要としなくなる。
フラウが、アストールの傍にいる必要がなくなる。
指輪を渡し、どんな働きをするかを説明するアストールは、それがフラウにとって良いことだと信じているようだった。
――彼女はそんなことなど欠片も望んでいないというのに。
フラウは、アストールを彼女から遠ざけることになる指輪など、外してしまいたかった。彼が与えたものでなければ、はめられた瞬間にでも、そうしていただろう。
「指輪?」
問うたゼスにフラウはこくりと頷き、右手をどかして左手の薬指にあるそれを見せた。ゼスはそこに眼を落とし、眉をひそめる。
「それがあれば、自分も魔力が空っぽな状態の君に触れるのかい?」
「と、おっしゃいました」
「へぇ……」
ゼスは呟き、フラウがよける間もなく腕を伸ばして彼女の頭にポンと手をのせた。それで何も起きないことを確認すると、わしゃわしゃとフラウの髪を掻き混ぜるように撫でる。
「――ホントだ。何ともない。ここ数日、アストール様から魔力を受け取っていないんだよね?」
「はい」
さっき指輪をはめるためにほんの一瞬触れられたけれども、あれだけでは十分な魔力の受け渡しはできていないはずだ。
「これがあればわたしはもうアストールさまから魔力をいただく必要がないから、ここを出て、ルイ村に行くようにって」
つんと、また鼻の奥が痛くなった。
フラウにとって、アストールは絶対になくてはならない人だけれども、アストールにとってのフラウは、そうじゃない。今までこの塔にいられたのは、フラウが彼を必要としていたからだ。彼がフラウを放っておけない、優しい人だからだ。
うつむいたフラウの顎に、指がかかった。そっと顔を上げさせられて、覗き込んでくるゼスと目が合う。
「フラウ、ほら、温かいうちにそれを飲んでしまえよ。甘いものを腹に入れれば少しはまともに頭が働くようになるから」
ゼスに促されるままカップを持ち上げ、フラウは一口飲んだ。温かさとオレンジジャムの甘さで、ほんの少し、肩の力が抜ける。表情を和らげたフラウの前で、ゼスが太腿に肘を置いて身を乗り出してきた。
「アストール様の言動はだいたい掴めたけど、それで、フラウはどうしたいんだ?」
「え?」
「その指輪があれば人ごみに行ってうっかり他人に触ってしまっても大丈夫になるんだろう? 実際、いつでもアストール様から離れられるようになったわけだ。選択する自由は君にあるんだよ、フラウ。アストール様にじゃない」
「でも……」
「フラウはアストール様から離れたいのかい?」
「そんなこと!」
ゼスが言い終えないうちに、フラウは声を上げていた。そんな彼女を、ゼスは静かな眼差しで見返してくる。
フラウは顔を伏せ、カップをギュッと握り締めた。
「そんなこと、有り得ません」
フラウは、アストールの傍にいたい。彼女の方から彼のもとを去るなんて、考えたこともない。
うつむいたフラウに、ゼスが静かに問う。
「アストール様は、君に『出て行け』とは言っていない筈だ。たとえ口が裂けても、君に対してあの人がそんなことを言うわけがないよ。『出て行ける』とか『出て行ってもいい』とか、そんな言い方だったんじゃないかな。出て行くかどうかは君次第――違うかい?」
そうだろうか。
フラウはアストールとのやり取りを思い返す。
確かに、ルイ村へ行け、とは言われていなかったかもしれない。けれど、自分はルイ村に行くのかと確認したフラウに、アストールは頷いただけだった。フラウがどうしたいかは、訊かれなかった。
唇を噛んだフラウに、彼が再び尋ねる。
「アストール様は提案をした。それに対して、君はどんな答えを出す?」
「わたし、は……」
フラウは口ごもった。
どうしたいかと問われれば、フラウはここに残りたい。その答えしかない。
けれど、どうすべきかを考えたら、答えは定まらない。
迷うフラウをゼスが覗き込んでくる。
「フラウ?」
「わたし……わたしは、アストールさまのお傍にいたいです。でも、いてはいけないのかもしれません」
「え? なんでそんなふうに思うんだい? 他に、あの人が何か変なことを言った?」
眉根を寄せたゼスの前で、フラウはうなだれる。
「わたしがアストールさまにとって危険な存在かもしれないから……」
「はぁ!? 君が? アストール様が、君にとって危険、ではなくて?」
「アストールさまが危ない人のはずがないです」
ムッと唇を尖らせてから、フラウは胸の内の危惧を打ち明ける。
「わたし、この間配達してくれた時にカールからお花をもらったんですけど、それが突然粉々になってしまったんです。どうやったのかは自分でも判らないんですけど、きっと、わたしのせいなんです。もしかしたら、アストールさまにお怪我をさせてしまうかもしれないって思って……」
口ごもりながらフラウが言い終えても、ゼスからの反応がない。うつむけていた顔を上げると、彼が両手で顔を覆っていた。
「ゼスさん?」
「今ので全て解かったよ。まったく、あの人は……」
ゼスの声に含まれているものは、苛立ちと、それを遥かに上回る、呆れ、だ。彼は不安を隠すことができずにいるフラウを見つめ、ガシガシと頭を掻く。
「多分、あの人は君にだけは知られたくないんだろうなとは思うけど、こうなると話しちまった方がいいよな」
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