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小さな変化
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初めに「あれ?」と思ったのは、妙に夜が暗く感じられたことだった。
その時、僕はまだ中学生で、冬のある日、部活を終えて玄関の戸をくぐった。
うちは母親が専業主婦だから、僕や父さんが帰ってくる時間には、いつも玄関の電気を点けておいてくれる。だけどその日は真っ暗で、街灯のある外の方が明るいくらいだった。
玄関に入った途端に、視界は暗転。まさに暗闇そのもので、まるでお化け屋敷にでも入ったみたいだった。
――なんで、こんなに暗いんだ?
あまりに暗過ぎて、壁にあるはずのスウィッチに手を伸ばすこともできなかった。
その場で固まっていたのは、多分、五分かそこらくらい。
突然ガチャリと玄関が開いて、外の薄らとした光が射し込んだ。振り返った先にいたのは、母さんだった。
「あら、やっぱり帰ってきてたのね。ごめんね、回覧板渡しに行ったら、ちょっとお隣の奥さんと話し込んじゃって」
母さんの能天気な声が、にぎやかに響く。
けど、僕の顔は、微かに強張っていたんだろう。母さんは少し怪訝そうな顔をして、僕を見た。
「あんた、どうしたの? ちょっと顔色悪くない? ほら、電気点けなさいよ」
そう言いながら、僕を押し退けるようにして腕を伸ばし、玄関の明かりのスウィッチを押す。そうして、僕をしげしげと見上げてきた。
「やっぱり、ちょっと顔色悪いかしら? 気分悪い?」
「なんでもないよ。多分、ちょっと立ちくらみしたんだと思う。目の前が真っ暗になった」
母さんがあんまり心配そうな顔をするから、僕は何とか口元に笑みを浮かべて答えた。自分自身にも、なんでもない、気のせいだ、と言い聞かせて。
それからも、鳥目になったな、と思ったり、妙に陽射しを眩しく感じたりすることがあったけれど、ちょうど三年生で受験も始まった頃でもあって、寝不足だからに違いない、と自分を納得させていた。
その時、僕はまだ中学生で、冬のある日、部活を終えて玄関の戸をくぐった。
うちは母親が専業主婦だから、僕や父さんが帰ってくる時間には、いつも玄関の電気を点けておいてくれる。だけどその日は真っ暗で、街灯のある外の方が明るいくらいだった。
玄関に入った途端に、視界は暗転。まさに暗闇そのもので、まるでお化け屋敷にでも入ったみたいだった。
――なんで、こんなに暗いんだ?
あまりに暗過ぎて、壁にあるはずのスウィッチに手を伸ばすこともできなかった。
その場で固まっていたのは、多分、五分かそこらくらい。
突然ガチャリと玄関が開いて、外の薄らとした光が射し込んだ。振り返った先にいたのは、母さんだった。
「あら、やっぱり帰ってきてたのね。ごめんね、回覧板渡しに行ったら、ちょっとお隣の奥さんと話し込んじゃって」
母さんの能天気な声が、にぎやかに響く。
けど、僕の顔は、微かに強張っていたんだろう。母さんは少し怪訝そうな顔をして、僕を見た。
「あんた、どうしたの? ちょっと顔色悪くない? ほら、電気点けなさいよ」
そう言いながら、僕を押し退けるようにして腕を伸ばし、玄関の明かりのスウィッチを押す。そうして、僕をしげしげと見上げてきた。
「やっぱり、ちょっと顔色悪いかしら? 気分悪い?」
「なんでもないよ。多分、ちょっと立ちくらみしたんだと思う。目の前が真っ暗になった」
母さんがあんまり心配そうな顔をするから、僕は何とか口元に笑みを浮かべて答えた。自分自身にも、なんでもない、気のせいだ、と言い聞かせて。
それからも、鳥目になったな、と思ったり、妙に陽射しを眩しく感じたりすることがあったけれど、ちょうど三年生で受験も始まった頃でもあって、寝不足だからに違いない、と自分を納得させていた。
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