道路の七不思議

トウリン

文字の大きさ
7 / 7

道路

しおりを挟む
 真っ直ぐに伸びた道。
 先が見通せないほど、真っ直ぐに。

 ようやく取れた、三日間だけの夏休み。お金はないから高速道路は使わずに、一般道を走って六百キロ離れた実家に帰る予定だった。

 シャグ、シャグ、シャグ、シャグ。

 遥か後方からの、微かな、音。

 昼が終わる直前。
 夜が始まる少し前。

 昼でもなく、夜でもない。
 昼でもあり、夜でもある。

 相反する二つの時が混ざり合った一瞬の夕暮れを、逢魔が時というらしい。
 そんな時刻に、私は車をひた走りに走らせていた。地図には存在しない、真っ直ぐな道を。

 カーナビはいつの間にか白いノイズしか映さなくなっていて、携帯電話の液晶にも『圏外』の文字がある。

 走っているのは、山の中の道の筈だった。日本の山間で、地平線すら見えそうなほどの長く伸びる道など、有り得はしない。にも拘らず、ハンドルをほんのわずかも曲げることなく、私は車を走らせていた。

 ガソリンメーターは、気付いた時からひとメモリも減っていない。
 リセットした記憶なんてないのに、トリップメーターも同じ数字を映し出している。

 こんなに、走っているのに。

 前方は明るい。
 後方は暗い。

 そして、その闇の奥から、微かに音が聞こえてくる。

 シャグ、シャグ、シャグ、シャグ。

 錆付いた切れ味の悪い鋏で紙を切る時のような、りんごかあるいはもっと硬い何かを金属の歯で咀嚼する時のような、鼓膜を貫いて脳に直接響いてくる、音。

 それは、先ほどよりも、また少し大きくなっていた。

 車を走らせても、走らせても、前方の光は遠ざかり、後方の闇は近付きつつある。

 夕暮れ。黄昏時。逢魔が時。

 私は、それに捕らわれようとしているのだ。

 あの耳障りな音を立てている咢《あぎと》に追い付かれた時、何が起きるのだろうか。

 ただ、夜の世界に戻るだけ?

 それとも……

 私には、それを試してみようと思える勇気はなかった。だから、ひたすら車を走らせる。
 アクセルペダルが床に着くまで踏み込んで。

 いつまでも――いつまでも。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

それなりに怖い話。

只野誠
ホラー
これは創作です。 実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。 本当に、実際に起きた話ではございません。 なので、安心して読むことができます。 オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。 不定期に章を追加していきます。 2025/12/24:『おおみそか』の章を追加。2025/12/31の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/23:『みこし』の章を追加。2025/12/30の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/22:『かれんだー』の章を追加。2025/12/29の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/21:『おつきさまがみている』の章を追加。2025/12/28の朝8時頃より公開開始予定。 2025/12/20:『にんぎょう』の章を追加。2025/12/27の朝8時頃より公開開始予定。 2025/12/19:『ひるさがり』の章を追加。2025/12/26の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/18:『いるみねーしょん』の章を追加。2025/12/25の朝4時頃より公開開始予定。 ※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

短い怖い話 (怖い話、ホラー、短編集)

本野汐梨 Honno Siori
ホラー
 あなたの身近にも訪れるかもしれない恐怖を集めました。 全て一話完結ですのでどこから読んでもらっても構いません。 短くて詳しい概要がよくわからないと思われるかもしれません。しかし、その分、なぜ本文の様な恐怖の事象が起こったのか、あなた自身で考えてみてください。 たくさんの短いお話の中から、是非お気に入りの恐怖を見つけてください。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

意味が分かると怖い話【短編集】

本田 壱好
ホラー
意味が分かると怖い話。 つまり、意味がわからなければ怖くない。 解釈は読者に委ねられる。 あなたはこの短編集をどのように読みますか?

処理中です...