天使と狼

トウリン

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第三章：ほんとうの、はじまり

プロローグ

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　まさか、この自分が家族を持つことを望むようになろうとは、夢にも思っていなかった。

　一美かずよしはしみじみとそう胸中で呟く。
　彼女と出逢うまで、家庭を作ることの意義が解からず、その必要性を全く感じなかった。

　だが、今なら解かる。それは必要だから作るのではない。
　作りたいから作るのだ。
　守り、慈しみ、共に時を過ごしていく。そうしたいと思える存在を見つけることができたから、作るのだ――その相手と、家庭を。

　そんな単純なことに、ようやく気付いた。

　彼女と出逢って、自分は変わった。
　変わったことを抵抗なく受け入れ、むしろそれを喜んですらいることが、驚きだった。
　彼女を得て、初めて、この両足が地面にしっかりと着いていることを実感できるようになった気がする。彼女の中の欠損を知って、しっかりと立とう、立って彼女を支えよう、支えたいと、思った。

　彼女の気持ちが解からない、ともがいていた頃は、焦燥や苛立ち、そんなものが心の中を支配していた。おそらく彼女自身が知らないであろうものを知ろうと焦り、彼女が教えられないであろうことに対して教えようとしてくれないと苛立った。

　未だに、彼女のことは理解できないことが多い。だが、それなら、察すればいい。

　彼女が何を思い、何を欲しているのか。

　自分の考えが間違っているかもしれない。だが、それならまた考える。
　彼女を幸せにし、そして自分自身を幸せにする為には、何度も試行錯誤を繰り返すだろう。

　けれど、その労苦を惜しむ気はない――いや、それすら楽しめる。

　誰かといて大事なことは、相手を理解することよりも理解しようとすることなのかもしれない

　彼の腕に包まれて眠る彼女を見つめて、そう、一美は思った。

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