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第3章

孤独→その名はチャタロウ

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「こいつ、いきなり発生するってことはさ、どこにも家族がいないんだろ? 他の種族にもなじめずに、ヘルヘイムス島をうろついて、ここに来たんだよな」

 俺とローンウルフが似てるのは、親がいないってところだ。
 まあ、こいつは最初から、俺は捨てられたからって違いはあるけども。

「家族がいないって……虎太郎さん、まさか」
「ああ。俺の両親は、俺を置いて蒸発じょうはつしたからな」

 はっきり言って、俺の両親は無責任極まりない。
 俺が幼いうちに「育てられませんでした」の書置きを残して消えて、それっきり。
 聞いた話じゃあ、どこぞ知らない土地で呑気にやってるらしい――こっちは引き取り手もいない、頼れる相手もいない幼少期を送ったってのにな。
 今となっては思い出語りみたいなもんだけど、もしも両親を見つけたなら、割れたビール瓶で顔面をにしてやりたいね。

「……すみません」
「ご、ごめんね、おにーちゃん」

 エセルとリタは、しまったという顔と共に謝った。
 メスガキっぽい態度ばかり取ってるリタだけど、根はまじめで何かと気にするタイプなんだよな。

「気にしなくていいっての。今は、皆っていう家族がいるんだから」

 小さく笑いながら、俺はチャタロウをもう一度撫でる。

「でも、誰にも頼れなくて、誰も信じられない時はあった。もしもローンウルフだって同じ気持ちなら、俺は放っておけないんだ」
『グゥ』

 今度は顎をさすってやると、グルグルと喉を鳴らす音が聞こえた。

「コタロー君、噛まれちゃうよ!」
「さっきも言ったろ? 噛みやしない。そうだよな?」
『……ガルォン』

 ジェシカの心配をよそに、チャタロウは俺に頬ずりしてくれる。
 ふかふかの毛は、なんだかお日様のような匂いがする。

「はははっ! こいつ、思ってたよりもずっと人懐っこいじゃないか!」
「あたしももふもふするーっ☆」
「リタも~♪」

 すっかり害はないと分かったジェシカとリタも、チャタロウに飛びついた。
 もちろん、チャタロウは抵抗なんてしないし、されるがままだ。

「わあ、すっごくやわらか~い! お布団みたいだよ~☆」
「どうやら、本当にこちらに危害を加えるつもりはなさそうですね。それになんだか、虎太郎さんにとても懐いているようです」
「そうなのか?」
『ワオォン!』

 短い手足をばたつかせ、チャタロウがお腹を見せて寝転がる。
 こんなに警戒心がないんじゃあ、自然の中で生きていくのは大変だぞ。

「これじゃあ狼ってより、わんこだな。でも、その方が俺も好きだぜ」

 ま、俺たちが面倒を見るなら話は別だけど。

「なあ、皆? よかったらこいつの面倒を、ここで……」
「「やったーっ!」」
「まだ何も言ってねえだろ」

 元気なドラゴン娘が飛び跳ねる様子からして、もう聞くまでもなさそうだ。
 エセルだって肩に手を当ててはいるものの、まったく反論も拒否もしない――むしろ喜んでるような顔も見せてるし、満場一致でいいらしい。
 つまり、このローンウルフは、今この瞬間から我が家の一員だ。
 しつけをしたり、必要なアイテムをクラフトしたりと、やることは色々と思いつく。

「ところで、この子の名前はどうしますか? こちらで面倒を見るのに、ローンウルフと呼ぶだけでは、少し味気ない気がします」

 ただ、俺は大事なポイントをすっかり忘れてた。
 こいつの名前を付けてやらないと、エセルの言う通り、何かと困りそうだな。

「うーん、ふかふかの茶色い毛と……」
「コタロー君のことが大好きみたいだから……」

 ジェシカとリタは、顔を見合わせて笑う。

「ジェシカおねーちゃん、決まった?」
「うん、決まったよ! この子の名前は、せーの――」

 どうやらいい名前が浮かんだみたいだし、ここはふたりに任せようか。

「「チャタロウ」」

 と思った矢先、俺は見事にずっこけた。
 そんな安直な名前、勘弁してやってくれ。

「ちゃ、チャタロウ!? いくらなんでも、そりゃ安直すぎるだろ!」
『ワフーン!』
「当のチャタロウは、随分と気に入っているようですね?」

 ごろりと立ち上がったチャタロウの顔を見るに、なんだかお気に入りの名前のようだ。
 というか、俺も無意識にチャタロウって呼んでるじゃねえか。
 こりゃもう、決まったも同然だな。

「ま、本人がいいなら、それでいいか」

 チャタロウがワン、と鳴くのを聞いて、俺たちは揃えたように笑った。

「さて、家族が増えたし、クラフトするものが増えたな。こいつの寝床にトイレ、メシだって作ってやらないといけないし、チャタロウが食べた分の料理も……」

 指を折りながら考える俺の手に、エセルが手のひらを乗せる。

「そういうことを分け合ってこその家族ですよ、虎太郎さん」

 ほんのちょっぴり、俺はエセルの顔をじっと見つめた。
 ああ、そうだった。
 チャタロウに俺たちがいるように、俺だって、もう大人なんてひとりも信用できなかった頃の俺じゃないんだ。
 ヘルヘイムス島にはエセルが、ジェシカが、リタがいる。
 それはなんて、幸せなことなんだろうか。

「……ありがとな。てわけで、お前を歓迎するぜ、チャタロウ!」

 俺が親指を立ててチャタロウに告げると、なんだか気持ちが伝わったみたいだ。

『ワオオーンっ!』
「ちょ、おま、いきなり跳びかかるのは……ぎゃーっ!」

 といっても、ここまでストレートに愛情表現をしてくれるのは予想外だぞ。
 飛び跳ねたチャタロウが俺にのしかかり、床に転げる。
 毛だらけ、チャタロウのよだれだらけになって、俺は皆と一緒に笑った。



 こうしてヘルヘイムス島に――もじゃもじゃの家族が増えた。
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