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第2章

パズル→意外な特技

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 暗い道は一本道で、特に迷うような複雑さはなかった。
 ただ、手に持った方位磁石の針は、しばらく歩いていると、急にくるくると回り出した。

「『方位磁石』の針が回転し始めたな。さっきまではずっと北に進んでたんだが……」
「通ってきた道の壁には、すべて火をつけています。帰るのは難しくないはずですよ」

 エセルの言う通り、もしも危ないと思ったなら、踵を返せばいいだけか。

「ところで、モンスターって私たちが来るまで、ずーっとここにいたのかな?」

 少しだけ後ろを振り返った俺の肩を、ジェシカが叩いた。

「どういう意味だ?」
「リタ、分かるよ♪ あんなザコザコモンスターがダンジョンに閉じ込められてたら、共食いで皆くたばってるに決まってるじゃ~ん♪」
「確かに……」

 ふたりの疑問は、至極当たり前のものだ。
 道中で倒してきたモンスターがずっとここに住んでいるとするなら、明るい光で目がくらむだろうし、そもそも共倒れしてるはずだろ。
 第一、スライムだって俺たちが来た道から襲ってきたもんな。

「もしかすると、このダンジョンは外につながっているのではありませんこと?」
「外に?」

 俺の頭に浮かんだ謎は、ミーナの一言で解決した。

「地上からモンスターが入ってくるから、誰もえませんし、常にモンスターがい続けると、わたくしは思っていますの」
「なるほど……」

 あのスライムたちも、俺の知らない道を使って入ってきて、逃げて行ったわけか。
 こりゃ、ただの一本道と思わず、いろいろと調べてみる価値がありそうだな。

「コタロー君! 行き止まりだよ!」

 なんて思っているうち、ジェシカの声が通路に響いた。
 はっと俺が顔を上げると、確かに通路を重厚な壁が塞いでる。
 しかも壁は記号らしい装飾や彫り込みで埋め尽くされてて、何というか、マヤ文明のおかしな遺跡の一部みたいなんだ。

「なんだこりゃ、パズルか?」
「こーゆーの、リタはお手上げ~♪」
「私も、ちょっぴり苦手かも……」

 リタとジェシカがしり込みする中、エセルがずい、と前に出た。

「ここは自分にお任せください。幼いころは神童と呼ばれていた自分の知恵であれば、すぐに突破できます」

 彼女はさっそく、壁に埋め込まれた装飾品を、彫り込みに沿って動かし始めた。
 やっぱりこれはパズルのたぐいみたいだ。

「……赤い記号を、青い記号と重ねて……ん……いや、違いますね……」

 ただ、得意と豪語したわりに、エセルの動きはどうにも要領を得ない。
 うんうんとうなり、頭をひねり、装飾品をもとに戻すのを繰り返すばかりだ。

「エセル、俺が代わろうか?」
「いえ、必要ありません! こんな幼稚なパズルくらい、すぐに解いてみせますので!」

 おまけに、ムキになりつつあるのがまるわかりだ。
 そうしてとうとう、不安げに見つめる俺たちの前で、エセルはぐるぐると腕を回しだした。

「……もういいです。破壊すれば奥から通路か何かが出てくるでしょう」

 やばい、ヤケクソになって壁をぶっ壊すつもりだ。

「わーっ! エセル、ステイステイ!」
「エセルおねーちゃん、いったん落ち着こっか!?」

 俺たちがエセルを引き留めると、彼女は自分にがっかりしたようにため息をついた。
 思慮深いのは確かなんだが、それはそれとして苛立ちが竜人族特有の「パワーで解決」に直結するのが、エセルのちょっと困ったところなんだよな。

「パズルを解かないと進めないんじゃ、どうしようもないな。いったん引き返して、別の道がないか探してみるか」

 俺が頭を掻いて辺りを見回していると、不意にミーナが壁に近づいた。

「わたくし、このパズルが解けるかもしれませんわ」
「「え?」」

 そして、俺たちが驚くのも構わず、装飾品をするすると動かし始めた。
 しかもエセルの時と違って、手によどみがない。

「赤と青、黄色の彫刻はそれぞれ太陽と月、ニヴェル公国南部の部族であがめられている空の神を表していますわ。確かその3神は、位置が決まっていたはずですの」

 誰も知らない知識をつぶやきながら、装飾品をそれらしい位置に移動してゆく。
 正しいかはさっぱりでも、なんとなく、間違っているようには思えない。

「太陽の神は中央で世を照らし、月の神は太陽をうらやむように陰にいて、大空の神はふたりを支えるすぐ真下……つまり、これを動かせば……」

 みっつの装飾品をミーナが動かし終えると、壁がずしん、と揺れた。
 ゴゴゴ、と大きな音を立てて動き、まっぷたつに割れるさまを見ると、どうやらミーナの動かし方が正しかったみたいだな。

「――やりましたわ、壁が動きましたわ!」

 はしゃぐミーナの隣で、俺は腕を組んで感心する。

「ミーナ、どうして分かったんだ?」
「部屋に閉じ込められていた時、色んな本を読み漁っていましたの。こうしてヘルヘイムス島で活躍する機会があるのは、驚きでしたわ!」

 謙遜してるが、彼女の知恵と機転の良さは立派なものだ。

「……驚きました。貴女はすごい人ですね、ミーナさん」
「えへへ……褒められるのは、あまり慣れていませんわ……」

 リンゴより赤い頬を染めるミーナの肩を叩きつつ、俺たちはパズルの奥に進む。
 代り映えのない風景の中をしばらく歩いているうち、不意に空気の流れが変わるのを感じ取れた。
 見ると、俺たちがいる場所は、狭苦しい通路なんかじゃなかった。

「さっきよりずっと広い道だな。広場、って言った方がいいか」
「雰囲気は変わりましたが、ダンジョンの中であることは変わりません。気を抜かず、早めに通り抜けて……」

 まじめに話すエセルだけど、突然お腹が鳴った。
 彼女だけじゃない――俺もドラゴン三姉妹も、ミーナも、全員だ。

「……ご、ごほん」
「みーんな、一緒にお腹が鳴っちゃったね☆」

 恥ずかしそうに咳払いをするエセルと、にっこりと笑うジェシカ。
 ふたりに笑いかけて、俺は言った。

「腹が減っては何とやらだ。ここで一度、ランチにするか」

 ダンジョンの中でだって、俺の役割は変わらない。
 おいしいランチで、皆をサイコーにハッピーな気分にするのさ!
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