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第2章

ドラゴンの力→虎太郎の力

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「虎太郎さんが押せたのですから、自分たちならどれだけ固い扉だろうと玉砕できます。閉じ込められたと思わず、ここは気にしないで進みましょう」
「ああ、そうだな。前進した方がよさそうだ」

 退却のことはひとまず考えずに、松明と壁の明かりを頼りに、俺たちは歩き出す。
 足元は少しだけぬかるんでいて、湿原を歩いているような気分だ。

「じめっとしていて、冷たくて……幽霊が出てきそうな雰囲気ですわ」
「形のない幽霊なら、よほどましですね。こちらに害をなさない分……」

 何が出てくるかと警戒していると、すぐに俺が持っている『動体探知機』のアンテナが、前方を指してくるくると回り始めた。
 これはつまり、前から何かが迫ってきている証拠だ。

『『ギャオオオオ!』』

 その何かとは、トカゲの頭を持つ、全身を鱗に包まれたモンスター。
 前世のゲームで見たことがある――確かリザードマンとかいう怪物だ。

「……モンスターより、ずっと扱いやすいです」

 エセルが鼻を鳴らす隣で、ミーナは目を輝かせてる。

「ひゃああ~っ! リザードマンなんて初めて見ましたわ、感動ですわ~っ!」
「普通はビビるもんだがな。で、あいつらはどうやら、俺たちに敵意マシマシみたいだ」
「そのようですね。ここは、自分に任せてください」

 ずい、と前に出たエセルに向かって、リザードマンは爪を尖らせて襲い来る。
 普通の女の子なら俺が庇うところなんだが、彼女の場合はそんな必要はない。

「はあぁっ!」

 だって、エセルの方が、俺より何十倍も強いんだから。
 彼女が爪の一撃をかわして、思い切り左ストレートを叩き込むと、リザードマンは口から液体を吐き出して吹っ飛んだ。

『グギャゴ!』
『ギ、グギィ!?』

 殴られた1匹目に激突した勢いで、2匹目も後方に弾き飛ばされ、壁に衝突する。
 しばらく痙攣けいれんしていたリザードマンは、どちらもすぐにぐったりと動かなくなった。

「すごいですわ! モンスターをひとひねりだなんて!」

 そんな雄姿を目の当たりにして、ミーナは一層目をキラキラさせた。
 今更だが、モンスターを倒すのは、ミーナ的には大丈夫なんだろうか。
 まあ、愛らしいモンスターとは戦えませんから殺すのもよくないです、なんて言われるよりはずっとましだけどさ。

「モンスターとも仲良くなれるって言ってたが、ああやってぶっ飛ばされるのは、ミーナ的にはオーケーなのか?」

 くるりと振り返り、彼女は笑った。

「人間でも何でも、いきなり手を出す相手はいますわ! そういう時は、実力行使ですの!」
「お、思ったよりもリアリストなんだな……」
「もちろん、仲良くできる相手ならお話が優先ですの!」

 なるほど、と俺が納得していると、いきなりリタが俺たちの上に覆いかぶさった。

「ふたりとも、危ない!」

 何事だと聞くよりも先に、大きく開いたリタの翼が、唐突に落ちてきたがれきをすべて防いでしまった。
 そうか、このダンジョンにはモンスターだけじゃなくて、罠もあるんだな。

「モンスターを倒したと思ったら、落石トラップか!」
「リタ様のおっきな翼が、岩を弾きましたわ!」
「人間はリタたちと比べたらよわよわのザコなんだから、ぼさっとすんな♪」

 にやにやと笑うリタに、申し訳なさを覚えながら、俺は気を引き締めなおす。
 談笑をするにしても、未知のダンジョンじゃあ常に警戒するのが当然だな。

「予想していたよりも、妨害が多いですね。竜人族でなければ、先ほどのモンスターとトラップの連続で、動けなくなっていたでしょう」
「しかもちょっと歩くだけで、この徹底ぶりだ。きっとダンジョンの奥には、よっぽど見られたくないものがあるはずだぜ」
「それともぉ、とぉ~ってもレアなお宝とかぁ~?」
「あり得るな。どちらにしても警戒しつつ、離れずに……うおぉっ!?」

 なんて言ってるそばから、俺の胸元に、どこからか飛んできた矢が激突した。
 ジャケットのおかげでケガはないけど、もしも上着がなきゃ、俺は間違いなく即死だ。

「今度は矢か! ミーナ、しゃがめ!」

 こんな時、竜人族に頼ってばかりなのは情けないが、こればっかりは仕方ない。

「私に任せて、ぼおぉーっ☆」

 前に躍り出たジェシカが火を吐くと、飛んできた矢がことごとく焼かれて、それを放っていた弩弓どきゅうらしい装置も黒焦げになった。
 わざと壁の明かりがない壁に備え付けてあるから、見つけるのは難しかっただろうな。
 俺たちにとって運がいいのは、ドラゴン三姉妹が罠やモンスターよりずっと強くて、頼りになるってところだ。

「ちょっとしたトラップくらいなら、ジェシカの炎で丸ごと消し炭だな」
「も、もうおしまいですの?」
「いいや、『動体探知機』にまだ反応がある! 俺たちの後ろだ!」

 ただ、問題はいつだって、連続で襲い来るものだ。
 振り返った俺たちのところに、ぴょんぴょんと跳ねてくるのは、透き通った水色のわらび餅みたいなモンスター――スライムだ。

『スライム:低級のモンスター。敵を包み込んで窒息させるのが得意』

 メニュー画面の項目にも、あれがモンスターの代名詞だと表示されてる。
 もっとも、俺たちが入ってきた方向から、どうやってここまで来たのかは謎だ。

「スライムなんて、とってもかわいらしいですわ~っ!」
「かわいがるのはいいが、窒息死させられる前に追い払わないとな!」

 エセルたちが動くより先に、俺はスタンガンを手にして、勢いよくジャンプしてきたスライムめがけて押し付けてやった。

『『ギューッ!』』

 ビリビリと電撃がほとばしり、スライムたちがのたうち回る。
 追撃を仕掛けずともかなりの威力を誇る武器に恐れをなしたのか、何匹もいたスライムは、きびすを返して入口の方に逃げ出していった。
 我ながら、こりゃとんでもない武器をクラフトしちまったな――最高って意味で。

「すごいですね、その『スタンガン』というのは。まるで雷属性の魔法のようです」
「俺だって、守られてばっかじゃないってことさ。エセルや皆も、安心してくれ」

 スタンガンをしまって俺が笑うと、エセルが少しだけ顔をそむけた。

「……はい。守られるのは、嬉しいですから」

 そして、ポツリと何かをつぶやいた。
 何と言ったかは、俺にはちっとも聞こえなかった。

「ん?」
「な、なんでもありません! さあ、奥へと行きましょう!」

 俺が聞き返すと、エセルは答えず、どかどかとダンジョンの奥へと進んでゆく。
 もしかしたら、今まで守ってきた相手が戦える力を手に入れたことで、お株が奪われると思ってるのかもしれない。

 そりゃないよ――俺はエセルを、心から頼りにしてるんだから。

 あえてそれを伝えずに、俺は彼女の後ろについて行った。
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