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第1章

パン焼き機→パンっぽいもの

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「クラフトレベルも12に上がってるし、麦って新しい素材を手に入れたから、クラフトできるアイテムもかなり増えたはず……あった!」

 実を言うと、この数日間でさらにクラフトレベルは上がってた。
 ちょっぴり広がったメニュー画面をスライドしているうち、すぐにそれは見つかった。

『小麦粉:麦、もしくはそれに近い素材からクラフト可能』

 それに近い素材ってのは気になるが、小麦粉なら何でも歓迎だ。

「エセル、小麦粉を作るからそれを貸してくれ。あと、皿も持ってきてくれるか?」
「分かりました」

 エセルに皿を用意してもらい、その上に麦を乗せて、クラフト画面を押す。
 すると、たちまち麦は真っ白な粉へと生まれ変わった。

「おお、スーパーで売ってるみたいな小麦粉だな! 砕いたり振るいにかけたりって作業が必要ないのは、マジでありがたいぜ……!」

 抱えるほどの麦の量に対して、小麦粉の量は半分以下だけど、そこは仕方ない。
 俺は次いで、小麦粉の項目から《パン焼き機》を探す。

『《パン焼き機》:小麦粉と複数の素材で、パンを焼ける。
 素材が足りなくても、一応クラフトできる』

 これに必要な素材は、さいわい倉庫に全部そろってたので、すぐにクラフトできた。
 だいたいのものは木と石、鉄、そんでもってマナストーンがあれば作れるみたいだな。

「なるほど、火だけじゃなくてマナストーンの力も使うのか」

 ひとり呟きながら、俺はいよいよ《パン》に必要な素材をチェックする。
 レアドロップであるはずのマナストーンを要求されたのに焦らなかったのは、実を言うと、採掘場所からどっさりゲットできたからだ。
 それこそ、本当にレアなのかと疑うくらいな。
 使い過ぎ厳禁だとしても――当面クラフトに使っても困らないはずだ。

「ええと、必要な素材は小麦粉と、水、砂糖……確か昨日、《サトウキビキビ》からクラフトした砂糖を瓶に詰めてたはずだ」
「たまたまですが、見つけていて幸運でしたね」
「リタがケーキを食べたがってたから、そういうのは早めに作ってやらないとな」

 俺とエセルがパンに必要な素材を集めている一方で、ジェシカとリタは赤い尻尾を揺らしながら、野菜をどんどん収穫してゆく。
 パンをクラフトする前に終わるんじゃないかと笑いながら、俺は最後の素材を見る。

「あとは……ドライイースト? そりゃ必要って言われるよな」

 ドライイーストは生地を膨らませる素材だ。
 クラフトしてもいいんだが、画面を見る限り、そのための素材集めが厄介だな。

「まあ、あるものだけでもパンは作れるだろ。《パン》、クラフト!」

 素材をすべて機械に詰め込み、画面をタップしてやると、パン焼き機に火が灯った。
 ごうごうと不思議な音が鳴り続けて数分後、ふたが開き、中からいい匂いがしてくる。
 耐熱性のある手で、エセルが機械の中から取り出してくれたパンは、まるで食パンみたいに四角形だけど、明らかに食パンとは違った。

「……パン、でしょうか」

 彼女が首を傾げた通り、なんだか色合いも匂いも、ちょっぴりパンとは違う。
 正確に言うと、いい匂いだし見た目も悪くないのに、パンと断言できない……なんか、不思議な食べ物って感じだ。

「9割くらいはパンだな。ドライイーストがないからって失敗はしなかったけど、代わりにこんな形になったのか?」

 気になった俺は、メニュー画面でパンを見る。

『パンっぽいもの:小麦で作った、パンに似た食材。
 味、見た目、匂い、食感、すべてパンの雰囲気がある』

 すると、ツッコミどころ満載の情報が目に飛び込んできた。
 いやいや、ドライイーストってのを追加しなかったから失敗するのは分かるけど、ビミョーに違う何かができるなんてあるのか?

「雰囲気っつったって、パンはパンだろ……」

 ひとまずできたてのパンを掴み、ふたりでほおばる。
 ふわっとした食感、ほのかな甘さ、喉と鼻孔びこうをくすぐる香ばしさ。
 そのすべてがパン――に近くて遠い食べ物、という印象しか頭に入ってこなかった。

「……何か、こう……パンを食べているような、食べていないような……?」

 俺とエセルは口に《パンっぽいもの》を含んだまま、なんだか喜ぶべきかがっかりするべきか分からないまま、目を合わせる。
 色々と言いたいことはあるだろうけど、深く追求しない方がよさそうだ。

「ま、サンドイッチにする分には、これで十分だな」

 次はドライイーストをクラフトすると固く誓った時、ジェシカとリタが駆け寄ってきた。

「コタロー君、野菜がこーんなに集まったよー☆」

 ふたりが見せてくれたかごには、ぎっしりと野菜が詰まってる。
 すごいなこりゃ、ちゃんと保存すればしばらくは食生活に困らなさそうだな。
 そして自生したものじゃなく、ちゃんと育てた野菜があれば、料理のバリエーションも一気に増えるってもんだ。

「ちょうどいいか、このパンみたいなやつと野菜でサンドイッチを作るぞ!」

 俺が真っ先に思い浮かんだのは、朝食の定番、サンドイッチだ。
 ワイルドな料理が多かったし、こういうのもたまにはいいんじゃないかな。

「リタ、ジェシカ。キャベツとトマトを水でよく洗って、爪で切ってくれ。カットする前に爪も洗うのを忘れずにな」
「はーい!」
「は~い……」

 とことこと井戸に向かうふたりを、俺とエセルが見つめる。

「野菜のこととなると、リタは相変わらず不機嫌ですね」
「故郷にいた頃から、ああだったのか?」
「ええ、少しも変わってませんよ。ふふっ」

 俺が聞くと、エセルがくすくすと笑う。
 青い髪が静かに揺れるのも相まって、やっぱり美人だと思ってしまう。

「……そ、そっか」

 いかんいかん、俺は何を考えてるんだ。
 エセルはあくまで島で一緒に暮らす仲間なんだし、それ以上でも以下でもないだろ。

「……虎太郎さん、じっと見ないでください」
「え!? お、俺、そんなに見てた!?」
「竜人族は視線に敏感ですので。人間と違うところが気になるのは分かりますが、その、ほどほどに……恥ずかしいです」
「あ、ああ、鱗とかじっと見ちゃったな。ごめん、エセル」

 慌てて目を逸らす俺の視界に、ほんのわずかに入ってきたエセルの耳。
 青い髪の中に、ちょっぴり赤い肌色が見えたのは、気のせいだろうか。

「お、お肉ばかり食べるので、野菜を食べさせるのには難儀しました。1日中むくれていた時もありましたよ」

 話題を引き戻してくれたのは、きっとエセルなりの気づかいだ。
 だったらそれに乗っかって、このもやもやした雰囲気を吹っ飛ばさないとな。

「なら、保存してたレッドバードの肉を焼いて、ちょっと機嫌を取ってやるとするか」

 困った時は肉って、相場が決まってるもんだ。
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