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第1章

お風呂クラフト→いざ入浴?

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「素材集め、完了っ!」
「完了ですね」
「かんりょーっ☆」
「かんりょ~♪」

 砂浜から昨日と同じところで素材を集めて、家に戻ってくるまでの間に夕方に差し掛かった。
 前回はスタッグソーが乱入してきたけど、今回はジェシカにビビってるのか、遠目にこっちを眺めてるばかりだった。
 それも、エセルやリタが睨むと、すたこら逃げていったんだけど。
 おかげで素材は予定より多く集まったし、木材や鋼材を載せたそりも楽々運べたんだ。

「家ほどではありませんが、思っていたよりも素材が必要でしたね。まさか、またそりを使うとは思いませんでした」
「重労働ばっかり任せちまってごめんな」
「いえ、気にしないでください。クラフトしてもらう分、自分たちは自分たちにできることを精いっぱいやる……それが、助け合いでしょう?」
「動いた分、お昼ごはんが美味しくなったしね!」

 エセルの後ろから、ジェシカが顔を覗かせる。
 実は素材を集めて帰ってきた俺たちは、まず腹ごしらえをしたんだ。
 といっても、豪勢な料理じゃなくて、近くで捕まえたウサギを焼いただけなんだが。

「帰り道に捕まえた『マダラウサギ』を使ったソテー、ジェシカはすっかり気に入ったみたいだな。料理人冥利に尽きるぜ」
「うんっ! 私、ウサギ大好き!」

 3人ともバクバク食べてくれたのが、俺にとってはとても嬉しかった。

「リタも~、ウサギを捕まえようとしてずっこけるおにーちゃんがぁ、みっともなくてだ~いすき♪」

 もっとも、ウサギを捕まえてくれたのはエセルたちだ。
 最初は俺が見栄みえを張って捕まえようとしたけど、全然追いかけられなかったんだよな。

「い、言わなくていいだろ! 俺だって真剣に追いかけたんだぜ!」
「ですが……顔から木に激突した時の虎太郎さんは……ふふ……」

 カッコつけるもんじゃないな、ほんとに。

「エセルまで笑うなよ、ったく……とにかく、素材も揃ったし早速クラフトしていくか!」

 話を逸らすように、俺はクラフト画面を開く。
 ポン、と橙色の画面に出てきたのは、今作れる唯一のお風呂。

『《五右衛門風呂》:クラフトレベル4で建設可能。
 古き良き時代のお風呂。体中を温めてくれるが、火傷に注意』

 うんうん、と俺は頷いてから、画面をタップした。

「《五右衛門風呂》と、《脱衣所》……クラフト!」

 すると、家をクラフトした時のように、素材がピカッと輝いた。
 ブロック型のおもちゃを組み立てるかの如く、素材が形を変えてゆく。
 そしてたちまち、目の前に釜のお風呂と、木の板に囲まれた脱衣所が完成した。

「……これが、お風呂? 自分たちが見知った風呂とは、随分違いますが……」

 俺はあまり違和感を覚えないけど、エセルやジェシカ、リタにとっては見慣れない形みたいで、ちょっぴり複雑そうな表情を見せる。
 この世界の風呂がどんなものかさっぱりだが、まあ、五右衛門風呂には縁がないか。

「安心してくれ、俺の故郷じゃあ有名な形の風呂だぜ」
「虎太郎さんがそう言うなら、確かなのですね。おまけに脱衣所までクラフトしてくれるなんて、嬉しいです」
「そりゃあ、一緒に着替えるなんてわけにはいかないからな」

 脱衣所をクラフトするのは、風呂を作る時から決めてた。
 一緒に着替えるだの、風呂に入るだのは良くない――えっちなゲームじゃあるまいし。

「ついでにお湯までは沸かしてくれないか。まきをくべて温め続けないといけないから、皆が入る時は俺が火を管理するよ」

 ひとまず3人から先に風呂に入ってもらおうとすると、リタが尻尾で俺をつついた。

「おにーちゃん、そんなこと言ってぇ、下心みえみえだよ~?」

 言ってるそばから変な挑発をするなっつーの、メスガキめ。
 しかも変なことを言うから、エセルまでじろりと俺を見つめてるじゃねえか。

「……虎太郎さん?」
「あのな、何を疑ってんだよ。後で綿製の《タオル》もクラフトするし、トラブルは――」

 俺は火を焚いてる間はうつむくし、肌色なんて絶対に目に入れないつもりだった。
 今だけじゃない、夜にパジャマに着替える時だってそうだ。

「わーい、お風呂だーっ☆」

 ――ただ、こればっかりは予測も回避も不可能だった!
 なんとジェシカが、いきなり服を脱ぎだしたんだ!

「なっ……!」

 勢いよく丸裸になって笑顔を見せるジェシカ。
 俺の方からは背中しか見えてないけど、間違いなくあの子は振り返るぞ。

「ジェシカおねーちゃん!?」
「虎太郎さん、妹を見ないでくださいッ!」

 そう思った俺が目を伏せるよりも先に、エセルの二本指が俺の目に直撃した。
 ずぶり、と竜人の指が眼球に触れた――超痛いッ!

「ぎゃああああああ! 目が、めがあああああああッ!」

 眼球から素早く脳に届いた痛みに耐えられず、俺はゴロゴロと転げまわる。

「す、すいません、つい……」

 エセルが慌てて俺を抱きかかえる一方で、リタがジェシカに近寄る音が聞こえた。

「おねーちゃん、脱衣所があるのにどうしてここで脱いじゃうの!? お湯もまだ沸いてないんだし、ほら、早く服を着て!」
「えー? 服は素材集めでドロドロだし、すっぽんぽんじゃダメー?」
「ダメ! おねーちゃんとリタだけならいいけど、おにーちゃんがいるから絶対ダメ!」

 ああ、間違いなく、リタはメスガキを演じてるだけの真面目な子だ。
 だって俺を挑発するよりも先に、ジェシカに服を着せるのを優先したんだからな。
 本当にメスガキなら俺に「ざぁ~こ♪」とか「へんた~い♪」とか言って腰をつついてくるに違いないからさ。
 あ、ちなみに今こんなことを考えてるのは、目の痛みから逃れるためだ。
 おかげで何度かまばたきして、目を開けるくらいには回復した。
 ジェシカはというと、どうやらリタに連れられて脱衣所の中に入っていったみたいだ。

「うう……とりあえずお湯を沸かすから……誰か、誰か井戸から水を運んでくれ……」
「じ、自分がやります」

 よろよろと歩いて、家の隣に作っておいた薪を持ってゆく。
 じゃばじゃばと風呂桶に水が入る音を聞きながら薪を詰めていると、不意にエセルが俺に耳打ちした。

「……一応聞いておきますが、正面から見てませんね?」

 回復してきた目に映るのは、エセルのドラゴンらしい、細い瞳孔どうこう
 見たなら記憶が飛ぶまで殴ると告げている。
 嘘をつけば青い尻尾で絞め殺すと告げている。

「……はい」

 俺が心の底からの真実を伝えると、エセルは「ならよかったです」と微笑んで、再び井戸に向かった。
 脱衣所からジェシカとリタの談笑が聞こえる頃には、すっかり風呂の準備ができた。
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