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第1章
実食→美味
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各々がシータイガーの塩焼きをひとつずつ持ち、焚き火を囲む。
「そんじゃ、いただきます……」
俺は魚にかぶりつこうとしたけど、どういうわけか、3人ともきょとんとしたままだ。
どうしてだろうかと思っているうち、俺はすぐに原因を察した。
そりゃそうだ、異世界で「いただきます」なんて言わないだろうし、ドラゴン姉妹からすれば、おまじないでも唱えたように見えてるんだろう。
「ああ、『いただきます』ってのは、俺の地元の挨拶なんだ。メシを食べる前に言うと、なんつーか、ちょっと美味しくなるんだぜ」
嘘は言ってないはずだ――俺は少なくとも、そう思ってるし。
「ほんとに!? じゃあじゃあ、私も言うよーっ!」
「リタは信じてないけどぉ~、特別に言ったげるね♪」
「虎太郎さんが言うなら、やってみましょう」
「よし、だったらもう一度。せーの」
まだ出会って半日どころか、1時間も経っていない俺たちの声が重なり――。
「「いただきます!」」
一斉に、塩焼きにかぶりついた。
歯が肉に食い込んだ途端、ほんの一瞬だけ、俺たちは顔を見合わせた。
「「――おいし~いっ!」」
そして一斉に、心からの喜びの声を上げた。
「なんだこりゃ、マグロかカツオか、どっちよりもうまいぞっ!?」
噛むと弾かれるほどの弾力なのに、いざ噛み切ると口の中でほろほろと崩れる。
ぷりっぷりの魚肉から溢れ出す旨味に塩気が絡んで、より双方を引き立てる。
何より口の中で溶けてなくなる脂が、料理の味を一段階ランクアップさせてくれる。
総評――こんなにうまい魚は、食べたことがない!
あれだけ熱中してたゲームの中でだって、こんなに感動したことはなかったぞ!
涙すら出てきそうな俺の目に、塩焼きの情報がポン、とポップされる。
『《シータイガーの塩焼き》:モンスター料理のひとつ。
最高の調味料は大自然の恵みであると、君に教えてくれるだろう』
いやいや、いつもなら首を傾げるような紹介文も、今はニクく聞こえるくらい美味だ。
「すっごくおいしいね、リタ!」
「おいしーね、おねーちゃん♪ あ~、でも骨がある~っ」
「おねーちゃんに任せなさいっ! どれどれ……はい取れた、じゃじゃーん!」
「わぁ~っ♪ おねーちゃんだいすき~っ♪」
ほとんど無我夢中で食べる俺の周りで、ドラゴン姉妹も和気あいあい塩焼きを食べる。
3人とも小さな翼を揺らし、うまさに打ち震えてるみたいだ。
「驚きました、はぐ、自分、もぐ、こんなに美味しいのは初めて、まぐ、すいません虎太郎さん、もう1本もらいます!」
特にエセルは、もう俺を疑ってたのなんかすっかり忘れたみたいに、まだ地面に刺したままの塩焼きを手に取るほど気に入ったらしい。
いやはや、こんなにうまそうに食べてくれるなら、俺も作った甲斐があるってもんだ。
「私も食べちゃお!」
「リタも~!」
「じ、自分も1本追加させていただきます!」
……めちゃくちゃ食べるじゃねーか。
そういや、おとぎ話でも創作でも、ドラゴンってもりもり飯を食うイメージがあるよな。
10本以上刺してあったシータイガーの塩焼きがたちまちなくなっていくのは、流石はドラゴンの食欲ってところか。
こうして数分もしないうちに、シータイガーの塩焼きはすっかりなくなった。
それなりに大きいサイズだったのに、いまや全部ドラゴン三姉妹の腹の中だ。
「ふう……虎太郎さん、食事を作ってもらったのには感謝します」
俺も最後の1本を食べ終わると、エセルがこっちを見た。
食事中とは打って変わって、どこか真面目な顔つきだ。
「ですが貴方は、理由も知らないままここに流れ着いた人間です。完全に自分たちの信頼を得ているわけではないというのを、お忘れなく」
いや、すっげえキリっとした顔で言ってるけど、全然説得力ないぞ。
だって口の端には塩焼きのカスがついてるし、エセルの両手にはまだ、木の枝の串が4本握られてるんだから。
何というか、彼女は真面目でも、合理的にはなりきれない感じだな。
どっちかというと、ポンコツキャラなんじゃないか?
「えぇ~? でもでもぉ、ジェシカおねーちゃんとリタと違ってぇ、エセルおねーちゃんはずぅ~っと食べてたよねぇ~♪」
「なっ……じ、自分は長女ですから! たくさん食べるのは自然の摂理です!」
少なくとも、リタにこう言われてたじろぐあたり、インテリキャラは難しそうだが。
「それに自分には、毒見の役目があります! ジェシカとリタが虎太郎さんの料理で大変なことにならないように、わざとたくさん食べていたのですよ!」
「ほんとに!? やっぱりお姉ちゃんってすごいなーっ!」
「一緒に食べてたのに、毒見の意味ないじゃ~ん」
「もうっ! 余計なことばかり言うリタにはお仕置きですっ!」
「きゃ~♪ 頭ぐりぐり、いたぁ~い♪」
エセルはげんこつでリタのこめかみをぐりぐりと押すけど、妹は痛がるどころか、むしろ姉とのやり取りを喜んでるみたいだ。
あはは、と笑うジェシカの態度を見るに、こんな感じのやり取りは日常茶飯事だろうな。
真面目で責任感があるエセル。
底抜けに明るくて素直なジェシカ。
小悪魔で甘え上手のリタ。
何というか、仲のいい姉妹なんだなって、俺は思った。
「ま、塩焼きを作ったのは俺の気まぐれだと思ってくれていいよ」
俺がそう言うと、三姉妹が同時に俺を見た。
はっきり言って恩を売るつもりなんて毛頭ないし、クラフトスキルがどれほどのスペックを持ってるのか確かめようとしただけだ。
それで皆がサイコーにハッピーになったなら、俺は嬉しいってだけだからさ。
「……変な人ですね。見返りも求めずに、食事を作ってどこかに行くつもりですか?」
「エセルたちが、そうしてくれって望むならな」
にっと笑うと、エセルはちょっぴり呆れたように笑い返した。
「……参りました。美味しい料理を作ってくれた人を邪険に扱うほど、自分は冷たい竜人ではありませんよ」
よかった、どうやら彼女にも信用してもらえたみたいだ。
ウマい料理は心をひとつにするって、古事記にも書いてた気がするし。
「自分たちにできることなら、お礼はなんでもします。島の外に出たいというなら、できる限り協力しましょう」
「私たちもなんでもするもんねー?」
「ね~♪」
にこにこ笑顔を見せるジェシカとリタに、俺は気になってたことを言ってみる。
「だったら、どうしてエセルたちがこの島にいるのか、聞かせてくれないか?」
「……本来なら、掟に反するのですが、今は仕方ありませんね」
妹たちが顔を見合わせる中、エセルが口を開いた。
「自分とジェシカは、試練を受けているのです。人のいないヘルヘイムス島で生活し、竜人族の成人として認められる試練を」
パチパチと揺れる火の勢いが、少しだけ弱くなった気がした。
俺も誰も、話を聞いていて、木をくべようとはしなかった。
「そんじゃ、いただきます……」
俺は魚にかぶりつこうとしたけど、どういうわけか、3人ともきょとんとしたままだ。
どうしてだろうかと思っているうち、俺はすぐに原因を察した。
そりゃそうだ、異世界で「いただきます」なんて言わないだろうし、ドラゴン姉妹からすれば、おまじないでも唱えたように見えてるんだろう。
「ああ、『いただきます』ってのは、俺の地元の挨拶なんだ。メシを食べる前に言うと、なんつーか、ちょっと美味しくなるんだぜ」
嘘は言ってないはずだ――俺は少なくとも、そう思ってるし。
「ほんとに!? じゃあじゃあ、私も言うよーっ!」
「リタは信じてないけどぉ~、特別に言ったげるね♪」
「虎太郎さんが言うなら、やってみましょう」
「よし、だったらもう一度。せーの」
まだ出会って半日どころか、1時間も経っていない俺たちの声が重なり――。
「「いただきます!」」
一斉に、塩焼きにかぶりついた。
歯が肉に食い込んだ途端、ほんの一瞬だけ、俺たちは顔を見合わせた。
「「――おいし~いっ!」」
そして一斉に、心からの喜びの声を上げた。
「なんだこりゃ、マグロかカツオか、どっちよりもうまいぞっ!?」
噛むと弾かれるほどの弾力なのに、いざ噛み切ると口の中でほろほろと崩れる。
ぷりっぷりの魚肉から溢れ出す旨味に塩気が絡んで、より双方を引き立てる。
何より口の中で溶けてなくなる脂が、料理の味を一段階ランクアップさせてくれる。
総評――こんなにうまい魚は、食べたことがない!
あれだけ熱中してたゲームの中でだって、こんなに感動したことはなかったぞ!
涙すら出てきそうな俺の目に、塩焼きの情報がポン、とポップされる。
『《シータイガーの塩焼き》:モンスター料理のひとつ。
最高の調味料は大自然の恵みであると、君に教えてくれるだろう』
いやいや、いつもなら首を傾げるような紹介文も、今はニクく聞こえるくらい美味だ。
「すっごくおいしいね、リタ!」
「おいしーね、おねーちゃん♪ あ~、でも骨がある~っ」
「おねーちゃんに任せなさいっ! どれどれ……はい取れた、じゃじゃーん!」
「わぁ~っ♪ おねーちゃんだいすき~っ♪」
ほとんど無我夢中で食べる俺の周りで、ドラゴン姉妹も和気あいあい塩焼きを食べる。
3人とも小さな翼を揺らし、うまさに打ち震えてるみたいだ。
「驚きました、はぐ、自分、もぐ、こんなに美味しいのは初めて、まぐ、すいません虎太郎さん、もう1本もらいます!」
特にエセルは、もう俺を疑ってたのなんかすっかり忘れたみたいに、まだ地面に刺したままの塩焼きを手に取るほど気に入ったらしい。
いやはや、こんなにうまそうに食べてくれるなら、俺も作った甲斐があるってもんだ。
「私も食べちゃお!」
「リタも~!」
「じ、自分も1本追加させていただきます!」
……めちゃくちゃ食べるじゃねーか。
そういや、おとぎ話でも創作でも、ドラゴンってもりもり飯を食うイメージがあるよな。
10本以上刺してあったシータイガーの塩焼きがたちまちなくなっていくのは、流石はドラゴンの食欲ってところか。
こうして数分もしないうちに、シータイガーの塩焼きはすっかりなくなった。
それなりに大きいサイズだったのに、いまや全部ドラゴン三姉妹の腹の中だ。
「ふう……虎太郎さん、食事を作ってもらったのには感謝します」
俺も最後の1本を食べ終わると、エセルがこっちを見た。
食事中とは打って変わって、どこか真面目な顔つきだ。
「ですが貴方は、理由も知らないままここに流れ着いた人間です。完全に自分たちの信頼を得ているわけではないというのを、お忘れなく」
いや、すっげえキリっとした顔で言ってるけど、全然説得力ないぞ。
だって口の端には塩焼きのカスがついてるし、エセルの両手にはまだ、木の枝の串が4本握られてるんだから。
何というか、彼女は真面目でも、合理的にはなりきれない感じだな。
どっちかというと、ポンコツキャラなんじゃないか?
「えぇ~? でもでもぉ、ジェシカおねーちゃんとリタと違ってぇ、エセルおねーちゃんはずぅ~っと食べてたよねぇ~♪」
「なっ……じ、自分は長女ですから! たくさん食べるのは自然の摂理です!」
少なくとも、リタにこう言われてたじろぐあたり、インテリキャラは難しそうだが。
「それに自分には、毒見の役目があります! ジェシカとリタが虎太郎さんの料理で大変なことにならないように、わざとたくさん食べていたのですよ!」
「ほんとに!? やっぱりお姉ちゃんってすごいなーっ!」
「一緒に食べてたのに、毒見の意味ないじゃ~ん」
「もうっ! 余計なことばかり言うリタにはお仕置きですっ!」
「きゃ~♪ 頭ぐりぐり、いたぁ~い♪」
エセルはげんこつでリタのこめかみをぐりぐりと押すけど、妹は痛がるどころか、むしろ姉とのやり取りを喜んでるみたいだ。
あはは、と笑うジェシカの態度を見るに、こんな感じのやり取りは日常茶飯事だろうな。
真面目で責任感があるエセル。
底抜けに明るくて素直なジェシカ。
小悪魔で甘え上手のリタ。
何というか、仲のいい姉妹なんだなって、俺は思った。
「ま、塩焼きを作ったのは俺の気まぐれだと思ってくれていいよ」
俺がそう言うと、三姉妹が同時に俺を見た。
はっきり言って恩を売るつもりなんて毛頭ないし、クラフトスキルがどれほどのスペックを持ってるのか確かめようとしただけだ。
それで皆がサイコーにハッピーになったなら、俺は嬉しいってだけだからさ。
「……変な人ですね。見返りも求めずに、食事を作ってどこかに行くつもりですか?」
「エセルたちが、そうしてくれって望むならな」
にっと笑うと、エセルはちょっぴり呆れたように笑い返した。
「……参りました。美味しい料理を作ってくれた人を邪険に扱うほど、自分は冷たい竜人ではありませんよ」
よかった、どうやら彼女にも信用してもらえたみたいだ。
ウマい料理は心をひとつにするって、古事記にも書いてた気がするし。
「自分たちにできることなら、お礼はなんでもします。島の外に出たいというなら、できる限り協力しましょう」
「私たちもなんでもするもんねー?」
「ね~♪」
にこにこ笑顔を見せるジェシカとリタに、俺は気になってたことを言ってみる。
「だったら、どうしてエセルたちがこの島にいるのか、聞かせてくれないか?」
「……本来なら、掟に反するのですが、今は仕方ありませんね」
妹たちが顔を見合わせる中、エセルが口を開いた。
「自分とジェシカは、試練を受けているのです。人のいないヘルヘイムス島で生活し、竜人族の成人として認められる試練を」
パチパチと揺れる火の勢いが、少しだけ弱くなった気がした。
俺も誰も、話を聞いていて、木をくべようとはしなかった。
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