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第1章

クラフトスキル→テント作り

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「よし、それじゃあ早速、アイテムクラフトをしてみるか!」

 さっきまでの絶望感はどこへやら、俺はやる気満々でメニュー画面をタッチした。

『クラフトメニュー:●施設●ツール●武器』

 エトセトラエトセトラ……。
 山ほどクラフトできるアイテムや建物のジャンルと画像が表示されたけど、そのうちほとんどは灰色に染まってる。
 これはゲームだと、序盤のレベル不足が原因でクラフトできないアイテムだ。
 で、そのレベルを上げるにはどうするかって言うと、クラフトし続ければいい。
 ゲームをやり込めばやり込むほど、自然にレベルは上昇して、それにともなってクラフトできるアイテムは多くなり、建物は豪華になり、生活は便利になる。
 そしてさらに便利さを求めてクラフトして、レベルを上げてと、延々ループする。
 こんなやり込み要素があったから、前世の俺は寝る間も惜しんでこのゲームをやってた。
 おかげで一時期、成績がガクンと落ちて……いや、この話はやめとこう。

 とにかく、俺はゲームの記憶を手繰り寄せる。
 最初に作ってたのは、ええと、何だったかな。

「そうだ、家だ!」

 俺はゲームを始めて、とにもかくにも家を作りたがってた。
 何が潜んでいるのか、何が起きるか分からない島で、棲むところがないなんて不安感をいつまでも抱いてられない。
 逆に言えば、家さえあれば、とりあえず心の平穏は保たれるってのが俺の考えだ。
 そうと決まれば、善は急げ。俺はメニュー画面を指でスライドして、今のレベルで唯一クラフトできるをタップした。

『《テント》:レベル1でクラフト可能。とりあえず雨風はしのげるが、よく破れる。
 必要素材:木の枝×4、布系の素材×1』

 レベル1でクラフト可能なのは、ちょっと頼りないテント。
 欲を言えば“豆腐ハウス”くらいは欲しかったけど、異世界で少なくとも安心して眠れる場所が手に入るなら、文句も言ってられない。
 どっちかっていうと、問題は別のところにあるんだ。

「……急にモンスターとか、出てこないよな?」

 なんせここは、俺の知らない、ゲームの中とも違うらしい異世界。
 ゴブリンとかオークとか、ドラゴンとかが出てきたら、間違いなく一巻の終わりだ。

「……出てきませんように……」

 背筋にちょっぴり冷たいものを覚えながら、俺はいそいそと砂浜で素材を集め始めた。
 幸い、木の枝は落ちているものを簡単に拾えたし、布も漂着したらしいぼろきれがあったので、素材収集には5分とかからなかった。

「よし、これで素材は揃ったな」

 俺の声に応じるように、メニュー画面にも『クラフト可能』と表示される。
 あとはその項目をタッチすれば、あっという間にクラフトが完了するんだよな……もちろん、ゲームの中の話だけど。

「……頼む、うまくいってくれよ……!」

 確信はあるのに、なぜか祈るような気持ちで、俺は『クラフト可能』を押した。

「うおっ! まぶしっ!」

 すると、1カ所に集めてた素材が光り出し、たちまちひとりでに組み立てられてゆく。
 動画を早送りするように、ぱたぱたとコマ送りの漫画を見るように。
 光が収束してゆくと、そこには小ぢんまりとしたテントが完成していた。

「すっげえ……」

 俺は思わず言葉を漏らし、テントに触れる。
 布はぼろきれとは思えないほど分厚くなってて、木の枝は太い木材となって、わが家が倒れないようにしっかりと支えてる。
 中も布でしっかりと覆われてて、砂の上なのに不安定な様子もない。
 どこまでもテントだけど、ほっそい枝+ボロボロの布でできたものとは考えられないな。
 これなら、ずっととは言わずとも、しばらくは生活拠点にできるはずだ。
 そう思うと、俺の中で、異世界で生きていける自信が湧いてきた。

「……このクラフトスキルがあれば、何でもできる……!」

 間違いない!
 レベルさえ上がれば、俺は謎の島で暮らしていける!
 もっと大きな家に、水源になる井戸に、畑にその他もろもろ、ゲームみたいにどんなものでもクラフトできる!
 そしていずれは島を出て、異世界を心ゆくまで楽しむんだ!

「このスキルで、サイコーにハッピーな異世界ライフを満喫してやるぜ――」

 テントの前で夢を膨らませた俺が、両手を高く掲げて宣言した時だった。



 突然、海と砂浜の境目が弾けた。
 いや、違う。
 海の中から、俺めがけて何かが飛び出してきたんだ。

「――え」

 それは巨大な、本当に巨大な魚だった。
 俺の背丈より長く、信じられないほど肥え太っている、縞模様の魚。
 おまけに大きく開いた口には牙が並んでいて、目は確かに俺を捉えてる。

『キシャアアアーッ!』

 雄叫びまで上げるそいつが俺のところまで海から飛び跳ねてきたんだから、何をするつもりかなんて決まってる。俺を頭から丸かじりする気だ。
 逃げろと脳が命令しても、体が動かない。
 そしてこれはゲームじゃないから、頭を食いちぎられれば間違いなく死ぬ。
 冗談だろ、せっかく希望を見出したのに、こんなところでゲームオーバーか。
 ふざけんな、笑えない、最悪だ。
 言いたいことをひとつも話せないまま、俺は死を覚悟して目を閉じた――。



「……?」

 だけど、痛みも死も、ちっともやってこない。
 どうしてだろうかと思いつつ、俺はゆっくりと目を開けた。

『ギュグエッ!?』

 そこにいたのは、体がの字に曲がった怪魚。
 そして――どデカい魚を殴りつける、少女の姿だった。

「でりゃあああッ!」

 青い髪の女の子が拳を振り抜くと、巨大な魚はたちまち吹っ飛ばされて、砂浜に転がった。
 口から青い泡を吹いて痙攣けいれんしているうち、魚はぴくりとも動かなくなる。
 間違いなく死んだとおぼしき魚を、俺が唖然あぜんと見つめていると、少女が言った。

「まさか『シータイガー』が島の近くに来るなんて……ですが、おかげで昼食には困りませんね」

 そうして凛とした顔つきで俺を見て、首を傾げた。

「それで、どうしてが、このヘルヘイムス島にいるのですか?」

 彼女が俺をわざわざ人間と呼ぶ理由は、すぐに分かった。
 少女の背中に生えた翼と、お尻から生えた長い尻尾。
 まるでドラゴンとヒトののような彼女の目は、腰を抜かした俺を、しっかと見据えていた。
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