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おっさん、ドラゴンを討伐する
復讐の終わり
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『図に乗るなよ、人間風情がッ!』
眼前の敵が何であっても、まだ完全にギラヴィの心は折れていなかった。
残った前脚を振るって攻撃を仕掛けるが、ダンテには当たらない。
「遅い」
『ウグ、ギ、ギイッ!』
むしろ避けざまにナイフで鱗をはぎ取られ、悶絶するのだ。
「言っておくが、俺はまだ本気を出しちゃいないぞ。というか、お前に本気を出してやるまでもないし、見せてやる理由もない」
『ふざけるなあああああッ!』
ギラヴィの怒りを炎に変換したかのような炎が、爪にまとわりつき、ダンテの体を焼き払おうと恐るべき攻撃を繰り出した。
『我の炎を纏った、鋼をも貫く爪だ! その貧弱な刃で受け止められるかァ!』
どんなモンスターでも、人間でも、完全な回避はできない。
ただ、ダンテ・ウォーレンはやはり、その中には当てはまらないのだ。
「爪? 爪なんて、どこにある?」
彼の一言で、ギラヴィは振りかざした己の前脚を見た。
そこにはもう、炎どころか、爪もなかった。
あらゆる敵を屠ってきた、剣より鋭く強靭なそれが、ことごとく切り落とされていたのだ。
『……ア、アア……?』
「もう分かっただろ。お前じゃ俺に、天地がひっくり返っても勝てねえ。くだらない反撃なんてしてないで、さっさと諦めろ」
くるくるとナイフを回すダンテの、余裕綽々な態度が、もはや臨界点を超えたギラヴィの怒りを、想像を絶するほどに湧きあがらせてしまった。
『――ン、ググ、グググギイイイイイイイイイイイッ!』
傷だらけの頭を起こし、ギラヴィは口の前に巨大な炎の塊を作り出そうとした。
まるで太陽が地の上に降りてきたかのような、ダンテですら汗をかくほどの熱気の集合体だ。
『何もかも焼き払ってやる! このメルカビス山ごと、人間もモンスターも、ありとあらゆる生命を灰燼に帰し、人間世界の終わりを告げてやるッ!』
「ったく、話を聞かないガキは――」
ならばとばかりに、ダンテはギラヴィの口を引き裂こうとした。
だが、そんな必要はなかった。
『――ガギッ』
ギラヴィの両頬に、セレナとハイデマリーの剣が突き刺さったからだ。
すでに満身創痍の二人が、竜の凶悪な一撃を食い止めたのだ。
「ダンテ、あたし達もいるっての、忘れてないよね!」
「窮地のおじ様を助けるのは、このハイデマリー・グライスナーの役目ですわ!」
「……お前ら」
ダンテの攻撃で弱った竜の鱗は、もはや防御壁としての意味を成さない。
二人が思い切り剣をひねると、あまりの激痛に炎の球体が維持できず、たちまち霧散した。
『何、を、ぶが、が、何をおおおおおおッ!?』
青い血を噴き出して喚くギラヴィだが、まだ攻撃は終わっていない。
「口を閉じてもしゃべるなんて、器用だね」
「私達は、飛んで逃げださないようにきっちりと動きを制しましょう!」
今度はリンの魔法とオフィーリアの聖霊術が、金色の竜に追撃を仕掛ける。
残っていた翼と巨躯を支える後ろ脚を、リンの土魔法で生み出された土の柱と、オフィーリアの光の巨人の拳が貫いた。
『ギャブアアアアアア!?』
こうなればもう、ギラヴィは立っていることすらままならない。
地面に倒れ伏した巨竜にできる手段といえば、叫び散らすだけだ。
『あの無能、ども! こいつらを、殺せ、何をしているううううッ!?』
しかも、周りにまだ、自分の配下であるモンスターがいると思っているのだ。
半分どころかまったく現状が見えていないギラヴィに、現実を突きつけるように、アルフォンスが仁王立ちした。
「モンスターなら、すべて逃げ出しましたよ」
『なああああッ!?』
「何度も巻き添えにして、先ほどもまとめて焼いてしまおうとしたでしょう? どれだけ強かろうと、そんな相手についていく大馬鹿はいないでしょう」
そう――モンスターはすべて、メルカビス山から逃げ出した。
ただでさえ、自分達の身など微塵も案じない傲慢な王についていったのは、人間への恨みを晴らせるのと、うまい汁を啜れるからだ。
なのに、肝心の首魁が今や人間に敗れかけ、はいつくばっている。
そんなさまを見たモンスターに、ギラヴィに対する情の心などあるわけがない。
一匹、また一匹と逃げ出して、すでに残っているのは竜だけだった。
「第一、貴方はどう見ても劣勢です。モンスターというのは、ほかの生き物よりも直観に長けているのですよ……大方、貴方はどうあがいても負けると判断され、見捨てられましたね」
『グ、ググ……!』
「はりぼての王よ、玉座はもうどこにもありません。いえ――」
アルフォンスの隣に立ち、ダンテが言った。
「――最初からなかったんだよ。お前が座る椅子なんて、どこにもな」
その途端、ギラヴィの中で何かがはじけた。
『――アアアアアアアアッ!』
地面を震わす絶叫も、誰も恐れてはいない。
すでに剣を抜いたセレナやハイデマリー、仲間達も恐怖など抱いていない。
ただ、ただひたすらにみじめだと――哀れんでいる。
『なぜだ、人間!? 貴様らはなぜ、我らからすべてを奪う!? 奪っておきながら許され、のうのうと生きていられる、生を享受できるのだ!?』
「お前だって奪う側になったろ。なのに、まだ分からないのか?」
今、これ以上の会話は無意味だ。
そう思ったダンテは、ナイフをひと振りしまい、もうひと振りを握り締める。
「高望みしすぎたんだよ、お前は。身の丈に合ってない地位を求めて、目的を定めて、知らない間に自分が目的を上回る存在になったと勘違いしたんだ」
彼の言葉は、彼自身に言っているのかもしれない。
違うとすれば、ダンテは過去の戒めであり、ギラヴィは手遅れだというだけ。
「そしてお前は、一番大事なことを忘れてる。奪った側の責任と末路を、だ」
「ダンテ……」
「奪えば奪われる。お前は今、奪われる側に戻った――それだけだ」
セレナの声を背に受けたダンテは、少しだけ目を閉じ、開いた。
『ガッ……』
そして――喚くギラヴィの首を、一撃で刎ねた。
金色の竜の首が宙を舞い、ごとり、と地に堕ちた。
眼前の敵が何であっても、まだ完全にギラヴィの心は折れていなかった。
残った前脚を振るって攻撃を仕掛けるが、ダンテには当たらない。
「遅い」
『ウグ、ギ、ギイッ!』
むしろ避けざまにナイフで鱗をはぎ取られ、悶絶するのだ。
「言っておくが、俺はまだ本気を出しちゃいないぞ。というか、お前に本気を出してやるまでもないし、見せてやる理由もない」
『ふざけるなあああああッ!』
ギラヴィの怒りを炎に変換したかのような炎が、爪にまとわりつき、ダンテの体を焼き払おうと恐るべき攻撃を繰り出した。
『我の炎を纏った、鋼をも貫く爪だ! その貧弱な刃で受け止められるかァ!』
どんなモンスターでも、人間でも、完全な回避はできない。
ただ、ダンテ・ウォーレンはやはり、その中には当てはまらないのだ。
「爪? 爪なんて、どこにある?」
彼の一言で、ギラヴィは振りかざした己の前脚を見た。
そこにはもう、炎どころか、爪もなかった。
あらゆる敵を屠ってきた、剣より鋭く強靭なそれが、ことごとく切り落とされていたのだ。
『……ア、アア……?』
「もう分かっただろ。お前じゃ俺に、天地がひっくり返っても勝てねえ。くだらない反撃なんてしてないで、さっさと諦めろ」
くるくるとナイフを回すダンテの、余裕綽々な態度が、もはや臨界点を超えたギラヴィの怒りを、想像を絶するほどに湧きあがらせてしまった。
『――ン、ググ、グググギイイイイイイイイイイイッ!』
傷だらけの頭を起こし、ギラヴィは口の前に巨大な炎の塊を作り出そうとした。
まるで太陽が地の上に降りてきたかのような、ダンテですら汗をかくほどの熱気の集合体だ。
『何もかも焼き払ってやる! このメルカビス山ごと、人間もモンスターも、ありとあらゆる生命を灰燼に帰し、人間世界の終わりを告げてやるッ!』
「ったく、話を聞かないガキは――」
ならばとばかりに、ダンテはギラヴィの口を引き裂こうとした。
だが、そんな必要はなかった。
『――ガギッ』
ギラヴィの両頬に、セレナとハイデマリーの剣が突き刺さったからだ。
すでに満身創痍の二人が、竜の凶悪な一撃を食い止めたのだ。
「ダンテ、あたし達もいるっての、忘れてないよね!」
「窮地のおじ様を助けるのは、このハイデマリー・グライスナーの役目ですわ!」
「……お前ら」
ダンテの攻撃で弱った竜の鱗は、もはや防御壁としての意味を成さない。
二人が思い切り剣をひねると、あまりの激痛に炎の球体が維持できず、たちまち霧散した。
『何、を、ぶが、が、何をおおおおおおッ!?』
青い血を噴き出して喚くギラヴィだが、まだ攻撃は終わっていない。
「口を閉じてもしゃべるなんて、器用だね」
「私達は、飛んで逃げださないようにきっちりと動きを制しましょう!」
今度はリンの魔法とオフィーリアの聖霊術が、金色の竜に追撃を仕掛ける。
残っていた翼と巨躯を支える後ろ脚を、リンの土魔法で生み出された土の柱と、オフィーリアの光の巨人の拳が貫いた。
『ギャブアアアアアア!?』
こうなればもう、ギラヴィは立っていることすらままならない。
地面に倒れ伏した巨竜にできる手段といえば、叫び散らすだけだ。
『あの無能、ども! こいつらを、殺せ、何をしているううううッ!?』
しかも、周りにまだ、自分の配下であるモンスターがいると思っているのだ。
半分どころかまったく現状が見えていないギラヴィに、現実を突きつけるように、アルフォンスが仁王立ちした。
「モンスターなら、すべて逃げ出しましたよ」
『なああああッ!?』
「何度も巻き添えにして、先ほどもまとめて焼いてしまおうとしたでしょう? どれだけ強かろうと、そんな相手についていく大馬鹿はいないでしょう」
そう――モンスターはすべて、メルカビス山から逃げ出した。
ただでさえ、自分達の身など微塵も案じない傲慢な王についていったのは、人間への恨みを晴らせるのと、うまい汁を啜れるからだ。
なのに、肝心の首魁が今や人間に敗れかけ、はいつくばっている。
そんなさまを見たモンスターに、ギラヴィに対する情の心などあるわけがない。
一匹、また一匹と逃げ出して、すでに残っているのは竜だけだった。
「第一、貴方はどう見ても劣勢です。モンスターというのは、ほかの生き物よりも直観に長けているのですよ……大方、貴方はどうあがいても負けると判断され、見捨てられましたね」
『グ、ググ……!』
「はりぼての王よ、玉座はもうどこにもありません。いえ――」
アルフォンスの隣に立ち、ダンテが言った。
「――最初からなかったんだよ。お前が座る椅子なんて、どこにもな」
その途端、ギラヴィの中で何かがはじけた。
『――アアアアアアアアッ!』
地面を震わす絶叫も、誰も恐れてはいない。
すでに剣を抜いたセレナやハイデマリー、仲間達も恐怖など抱いていない。
ただ、ただひたすらにみじめだと――哀れんでいる。
『なぜだ、人間!? 貴様らはなぜ、我らからすべてを奪う!? 奪っておきながら許され、のうのうと生きていられる、生を享受できるのだ!?』
「お前だって奪う側になったろ。なのに、まだ分からないのか?」
今、これ以上の会話は無意味だ。
そう思ったダンテは、ナイフをひと振りしまい、もうひと振りを握り締める。
「高望みしすぎたんだよ、お前は。身の丈に合ってない地位を求めて、目的を定めて、知らない間に自分が目的を上回る存在になったと勘違いしたんだ」
彼の言葉は、彼自身に言っているのかもしれない。
違うとすれば、ダンテは過去の戒めであり、ギラヴィは手遅れだというだけ。
「そしてお前は、一番大事なことを忘れてる。奪った側の責任と末路を、だ」
「ダンテ……」
「奪えば奪われる。お前は今、奪われる側に戻った――それだけだ」
セレナの声を背に受けたダンテは、少しだけ目を閉じ、開いた。
『ガッ……』
そして――喚くギラヴィの首を、一撃で刎ねた。
金色の竜の首が宙を舞い、ごとり、と地に堕ちた。
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