追放された美少女を助けた底辺おっさんが、実は元”特級冒険者”だった件について。

いちまる

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おっさん、ドラゴンを討伐する

『セレナ団』集結!

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 突如として起きた爆発に、アルフォンスもハイデマリーも困惑する。

「なんだ、この煙は?」
「また新手ですの!? まったく、次から次へと!」

 てっきり二人は、新しい敵が来たのかと思った。
 だが、ダンテだけは、誰が来ているのかを知っていた。

「……いいや、違う」

 もくもくと立ち込める砂埃の奥から現れた影が携えるのは、猫の耳と尻尾、明らかに岸から盗んできた剣と篭手こて

「――お待たせ、ダンテ!」

 セレナ・ソーンダースだ。
 病室で寝込んでいるはずのセレナが、さっそうとダンテ達を助けに来たのだ。

「……セレナ……!」

 誰が来るかは知っていたが、まさか本当に来ているとは思っていなかったようで、さすがのダンテも驚きを隠せない様子だ。
 そのすきを狙い、残ったゴブリンがセレナめがけて襲い掛かってきた。

『ギャギャアアアアア!』
「下がれ、セレナ! モンスターはまだ攻めてくる――」

 ダンテが彼女を庇おうとするよりも先に、木の茂みから別の影が飛び出す。

「『曇天どんてんより舞い降りる雷鳴、檻をかたどり敵を縛り焼き尽くせ』」
「来たれ、聖霊『ガヴリール』!」

 雷を魔導書から放ち、金細工のような山羊を伴った二人の少女。
 彼女達の魔法の一撃は、ゴブリンをまとめて薙ぎ払った。

『『ゴオオオオオッ!?』』

 バラバラに砕け散ったゴブリンの残骸の上に、3人の少女が立つ。

「ボク達もいるよ」
「リン、オフィーリア!」

 セレナと一緒に山へと来ていたのは、リンとオフィーリアだった。
 体中に包帯を巻いたさまだが、力だけはみなぎっているように見える。

「おかしいですよ、ダンテさん! 彼女達は重傷で、『ゲキレツポーション』を飲んでもベッドから出られないほどのダメージを負っていたはずです!」
「その通りですわ! わたくしが見た時には、ポーションの瓶を傾けてもらわないと飲めないほど、弱っていましたのに!」

 今度こそグライスナー兄妹は、自分達が幻覚を見ているのだと確信したが、やはりダンテは、どうして彼女達がここにいるのか察したようだ。

「……なるほど。お前ら、あの瓶を飲み干したんだな」

 ゲキレツポーションの瓶を空にしたと知り、アルフォンスがぎょっとする。

「まさか……副作用で死ぬかもしれないのですよ!?」
「そのまさかを、その無茶をやってのけるのがこいつらだよ」

 モンスターの攻撃の波が収まったのを確かめ、ダンテは彼女達に歩み寄った。

「先に言っとくが、あの瓶を飲み干せばひと月はベッドから出られないぞ。下手すりゃ後遺症も残るし、最悪散々暴れ回った末に突然死だ。それを分かって、飲んだんだな?」
「……ダンテ」
「なんだ?」

 彼の問いかけに、セレナは言葉で返さなかった。

「――おんどりゃーっ!」
「うごぉっ!?」

 代わりに返ってきたのは、渾身の顔面パンチだ。
 これは予想していなかったのか、思わず仰向けにもんどりうったダンテに、仲間達が次々と追い打ちを仕掛ける。

「このバカ、バカダンテ、おっさんダンテ!」
「まったくもう、まったくもう、あなたという人はっ!」
「ていていてい、てーいっ」
「あ痛だだだだ!?」

 しかも冗談とかではなく、本気で3人が勢いよく踏みつけてくる。
 あまりの勢いに、周りの面々も若干引いているらしい。

「やめろよ、現在進行形で、死ぬ気で戦ってへとへとのおっさんに鞭うつなよ!?」
「やめないよ! だってダンテは、あたし達をほっといて自分だけでなんでも終わらせようとして、心配かけてるのも知らない大バカだもん!」

 手を必死に振るダンテの腹を、セレナが勢いよく蹴とばした。

「どんな理由があるか、ダンテがどんなつらい過去を抱えてるか聞かないってのは、パーティーの約束だからね! あたしは聞かないよ、リンもオフィーリアも聞かない!」

 ただ、そこに怒りはなかった。
 彼のウソに、隠し事に、彼女達は怒りなどみじんも覚えていなかった。

「でも……でも、あたし達から逃げるのだけはやめてよっ!」
「……!」

 あるのはただ――悲しみだけだ。
 目を見開いたダンテに、とうとうセレナ達は蹴りを入れるのをやめた。
 そうしなくとも、彼の心には十分すぎるほど深い言葉の槍が、突き刺さったからだ。

「一緒に幽霊屋敷を探検したじゃん、一緒にアポロスをぶっ飛ばしたじゃん! 黙ってたっていい、隠し事したっていい、でも信頼はしてよ!」

 だが、ダンテに彼女達を責める資格はない。
 その最大の原因を作った人物こそ、彼なのだから。

「……どうして、俺をそこまで……」
「言われなきゃわかんないんだ、ダンテ」
「敏感なのか鈍感なのか、相変わらず分からないお方ですね」

 すっかり呆れたリンとオフィーリアの肩に手を置き、セレナが言った。

「あたし達は『セレナ団』で、ダンテはそのメンバーだよ。他に理由がいる?」

 ダンテは、はっと目を見開いた。
 彼はこれまでずっと、仲間を心の底から信用していなかったし、信用するべきではないと思っていた。
 それは猜疑心からではなく、自分がそうあるのが当然だと思っていたからだ。
 ところが、本当になすべきことはその逆だった――ダンテ・ウォーレンという人間が本当にやり直すためには、まず信用するべきだったのだ。
 やはり、自分は大バカだった。
 アルフォンスに言われたように――まだ、あの時から何も変われてないのだから。

「……いや、いい。ありがとう、皆」

 だが、もうダンテの心に、過去への恐れはない。
 あるのは自分を信じてくれた、仲間を信じ返す決意と、未来を見据える目だけだ。
 ゆっくりと立ち上がる彼にセレナが手を貸すと、再びモンスターが正気を失ったかのように叫びだした。

「『セレナ団』の皆さんも集まったことですし、決着といきたいところですね」
「そうだな、決着の時だ――が動いた」

 ダンテには、モンスターのざわめきの理由が分かっていた。
 そして同時に、この戦いが終焉を迎えようとしているのも。

「ここが正念場だ! めちゃくちゃに暴れ回って、ギラヴィをぶっ倒すぞ!」

 6人は再び武器を構え、戦闘態勢をとった。
 もはやモンスターも後がないかのように、吠え猛って猛攻を仕掛けてきた。
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