追放された美少女を助けた底辺おっさんが、実は元”特級冒険者”だった件について。

いちまる

文字の大きさ
上 下
89 / 95
おっさん、ドラゴンを討伐する

フルアーマーダンテ!

しおりを挟む
「お、おじ様、その武器は……!?」

 ハイデマリーが驚いたのは、ダンテがマントを脱ぎ捨てたから、だけではない。
 そんな程度では、そもそも誰も驚かない。
 彼女やアルフォンスが驚愕きょうがくしたのは――ダンテが全身に、刃物や鈍器、ありとあらゆる武器を巻きつけて装備していたからだ。
 しかも、すさまじい重量であろう武具をつけていながら、彼がいつもと変わらない様子で、ついさっきまで動いていた事実を知ったからだ。

「大したもんじゃないさ。ユドノーに残ってた騎士の武器を少しだけいじくって、拝借しただけだ」

 ダンテは当たり前のように話しながら、右腕に巻いたロープを解く。

「俺はアルやマリーみたいに、魔法を使えないからな。だから……こうする!」

 そして先端にナイフのついたロープを、思い切り投擲とうてきした。

『ギイイイイ!?』

 ナイフはモンスターの頭を串刺しにして、貫通する。
 間髪入れずダンテはナイフを引き抜くと、勢いを弱めず、他のモンスターに突き刺す。

『ギャギャアアアア!?』

 体の一部に刺さった程度で死なないなら、彼はロープを引っ張って、頭を地面に激突させて首の骨をへし折る。
 常軌を逸した技の連発に、グライスナー兄妹も思わず、剣を振るう手を止めてしまう。

「ロープとナイフで、遠距離攻撃を!?」
「しかもロープの節目に、別の刃物をくくりつけるとは。人間相手には残虐過ぎて使えませんが、モンスター相手にはいい武器ですね」

 二人は感心するが、しょせんは即席の武器で、壊れるのも早い。
 もっとも、ダンテにとっては耐久力の低さも織り込み済みだ。

「おっと、ここまでか。じゃあ次だな」

 ロープが千切れると、今度は腰に挟んでいた三節棍を振るい、ワイバーンの頭を殴り潰す。
 反対側からゴブリンが迫ると、手首に仕込んでいたナイフで眼球をえぐり抜く。

「三節棍に、仕込みナイフまで……!」
「ダンテさん、いったいどれだけの武器を体に隠してきたのですか?」
「まだ半分も見せてねえよ。それより、もっと暴れて山を登るぞ!」

 驚くアルフォンスとハイデマリーを率いて、ダンテは山道を駆け出した。

「はああッ!」

 信じられない量の武器が、ダンテの全身から飛び出す。
 剣、ナイフ、ハンマー、ブーメラン、かぎ爪、ロッド、刺突用のただの棒。
 何もかも、すべてダンテが使えば致死の凶器となりうる。

『ウギャア!』

 ワイバーンの翼が斬られ、ゴブリンの手足がもがれ、オークの腹に風穴が開き、スライムがみじん切りにされる。
 使った武器の総数が50を超える頃には、ダンテの周りには悲鳴としたいだけが積み重なる地獄が生み出されていた。

『『ギギギイイイイ!?』』

 それでも、まだモンスターの群れウェイブは収まらない。
 むしろ仲間の死を怒りに変えて、一層勢いを増しているかのようだ。

「メルカビス山のモンスターが総出で来てるみたいだな! じゃなきゃ、もうとっくにモンスターがいなくなっててもおかしくないぞ!」

 折れた三節棍でリザードマンの心臓を貫きながら、ダンテが吼える。

「おそらくはこの山だけでなく、他の地域からも集めています! 騎士団に報告されているモンスターの総数を、明らかに超えていますから!」
「まったく、ギラヴィとやらにどれほどのカリスマがありますの!?」

 赤い魔力の鞭でワイバーンを三匹まとめて引き千切るハイデマリーと、白い刃で木々もろともトレントを八つ裂きにするアルフォンス。
 彼らの力は未だ衰えないが、魔力を使っている以上、いつか限界は訪れる。
 そしてそれは間違いなく、モンスターの襲撃が終わるよりも早い。

「あいつにカリスマはねえよ。あるのは焚きつける言葉の強さと、自分に従わないやつをためらいなく殺す冷酷さだけだ」
「まるで人間の暴君のようですね」
「気づいてないのは、あいつだけだよ。一番憎んでる人間に、近づいてるなんてな」

 そう言いながら、ダンテはオークの頭をハンマーで殴り潰す。
 同時に強度の限界を迎えたのか、武器がぼきり、と嫌な音を立てて折れた。

「ハンマーの強度も、案外低いもんだな。ま、武器はまだまだあるぜ」

 ダンテが新たに取り出したのは、腰に巻いていた鎖と、先端につないだ2本のナイフ、ポケットから取り出したナックルダスター。

「もう、体の中から武器が出てきたって、私は驚きませんよ」

 アルフォンスが冗談めいた言葉を放つと、ダンテが笑い、再びモンスターに攻撃した。
 3人の圧倒的な力は、モンスターを近づけないまま、彼らをとうとうギラヴィの元へと相当近づけた。

「じき中腹に辿り着きますが、まだギラヴィは出てきませんわね!」

 まだギラヴィの興味を引かないのか、あるいはあちらが思っているより冷静なのか。
 いずれにせよ、グライスナー兄妹としては、ここが踏ん張りどころだ。

「私やマリーの魔力にも制限があります、一時的にですが能力を解除します! マリー、私と背中合わせで、隙を減らすぞ!」
「はい! おじ様、援護を!」
「任せろ」

 グライスナー兄妹の体から放たれる魔力が、一層大きくなる。
 可視化された白と赤のオーラは強烈で、見ただけで一部のモンスターがひるみ、動けなくなるほどだ。
 あれに近づけば死ぬのだと、直観しているのだ。

『『ウゴオオオオ!』』

 そんな群れを鼓舞するのは、森の奥から出てきた新手のモンスター。
 木製の兜と鎧を身に纏い、棍棒ではなく巨大な斧を装備した、灰色のオークだ。

「驚いた、ハイオークの群れか」

 20匹からなるモンスターの群れが、並の冒険者であれば一ひねりで殺してしまう入オークであると、ダンテも知っている。

「上級ランクのモンスターまで率いるなんて!」
「道理で、包丁くらいじゃまともなダメージを与えられないわけだ」
「しかもまだまだ、群れの勢いが収まりませんね。数年前にスタンピードが発生しましたが、群れの密度で言えば、あの時と同じくらいでしょう」
「だったら、いい加減本命の武器を使ってやらないとな」

 鎖とナックルダスターを捨てたダンテは、いよいよ腰に差した、愛用のナイフに手をかける。
 これまで様々な敵を屠ってきた、アザトートクロム製のナイフだ。

「ギラヴィがここに来るまでに、あいつのしもべとやらを細切れにしてやるか――」

 そしてナイフを構えたダンテが、ハイオークをまとめて切り払おうとした時だった。

『ウギャアアアースッ!?』

 突如として、強烈な爆発が起きた。
 とんでもない勢いの土埃つちぼこりと共に、ハイオークの群れはあっという間に肉片と化した。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

無能扱いされた実は万能な武器職人、Sランクパーティーに招かれる~理不尽な理由でパーティーから追い出されましたが、恵まれた新天地で頑張ります~

詩葉 豊庸(旧名:堅茹でパスタ)
ファンタジー
鍛冶職人が武器を作り、提供する……なんてことはもう古い時代。 現代のパーティーには武具生成を役目とするクリエイターという存在があった。 アレンはそんなクリエイターの一人であり、彼もまたとある零細パーティーに属していた。 しかしアレンはパーティーリーダーのテリーに理不尽なまでの要望を突きつけられる日常を送っていた。 本当は彼の適性に合った武器を提供していたというのに…… そんな中、アレンの元に二人の少女が歩み寄ってくる。アレンは少女たちにパーティーへのスカウトを受けることになるが、後にその二人がとんでもない存在だったということを知る。 後日、アレンはテリーの裁量でパーティーから追い出されてしまう。 だが彼はクビを宣告されても何とも思わなかった。 むしろ、彼にとってはこの上なく嬉しいことだった。 これは万能クリエイター(本人は自覚無し)が最高の仲間たちと紡ぐ冒険の物語である。

クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした

コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。 クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。 召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。 理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。 ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。 これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います

しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!! 「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。

克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作 「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

処理中です...