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おっさん、ドラゴンを討伐する
飲み過ぎ厳禁!
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「えっ!? ダンテ達、ギラヴィを倒しに行ったの!?」
ダンテと騎士が町を出て、そう経たないうちに、とある病室に素っ頓狂な声が響いた。
仲間の動向を聞いて驚いたのは、白いベッドに寝かされたセレナだ。
もちろん、隣で同じように仰向けに転がっているリン、オフィーリアも、まさかの事態に目を丸くしている。
「はい、先ほどメルカビス山に向かわれました。騎士団の増援を待っていては、邪悪なドラゴンが別のところに逃げてしまうからと……」
そんな彼女達に話しかけた看護師は、しまったと言いたげに、口を手でふさいだ。
「あ、これは言っちゃダメなんでした。忘れてくださいね」
「忘れられるわけがありません! 私達も増援に……痛た……!」
「安静にしていてください、そんな体で動けるわけありませんよ」
起き上がろうとして、背骨の痛みに悶えるオフィーリアを見て、看護師が呆れた。
「『ゲキレツポーション』を週に1回飲んで、しっかり療養しても、完全回復には2カ月かかる計算なんです。あなた達が無茶をしたら、白騎士様に叱られるのはこちらなんですから、じっとしておいてくださいよ」
「うっ……」
「はあ、こんな聞き分けのない人達を優先で治療しろなんて、おかしな命令ですよ」
セレナ達が飲まされた『ゲキレツポーション』というのは、文字通り激烈な効果をもたらすポーションである。
ほとんどの外傷、内傷を超高速で回復する薬ではあるが、用法・用量に厳しい制限があり、それを超過すると恐ろしい副作用がもたらされるのである。
一気飲みすれば即座に回復するが、後々やってくる副作用は恐ろしいものだ。
「あと、さっきも言いましたけど、ゲキレツポーションはジュースじゃないですからね。食い意地が張っても、飲んじゃいけませんからね」
「わ、分かってるってば!」
「どうだか。冒険者なんて、頭の悪い連中ばかりですし」
はん、と鼻を鳴らした看護師は、3人を見下した態度で病室を出てゆく。
足音がすっかり聞こえなくなってから、セレナはじたばたと布団の中でもがいた。
「あんにゃろ、看病してくれてるって言っても、あの態度はムカつくなー!」
リンも同じ気持ちのようで、眉間にしわを寄せて、天井を眺めている。
「今度余計なこと言ったら、ポーションを毒霧みたいに吹きつけてやる」
「あたしはこっそり、服に鼻くそくっつけてやる!」
「……そこまで私達が回復できるのは、いつでしょうか」
ただ、オフィーリアの言う通り、今の3人ではどうしようもない。
看護師の服に鼻くそをつけるどころか、起き上がることすらままならないのだから。
「……ダンテの力に、なれないのかな」
そのうち、ジタバタするのをやめて、セレナがぽつりとつぶやいた。
彼女の胸に去来するのは、ダンテの悲しそうな顔と、離別への恐れだ。
「ひとりでずっと戦ってて、あたし達はその手伝いとか、一緒にいたりとかができるって思ってたけど……このままじゃ、ただの足手まといのままだよ」
セレナの悲しそうな声を聞いて、リンとオフィーリアが、ベッドの上で首を横に振る。
「それでもそばにいるのが正しいと、私は思います」
「ダンテは強いけど、ひとりじゃいられない。ボク、そんな気がする」
「あの金色の竜と一度まみえたのなら、ダンテさんは今度こそ完全に決着をつけに行くでしょう。たとえ、自分の命を犠牲にしてでも……」
「そんなの、あたしは絶対に認めないよ!」
セレナの声が、天井にぶつかった。
「ダンテが何もかも一人でどうにかしたいと思ってるなんて、最初から知ってる! あたし達に話せない秘密があって、心のどこかで信用もされてないなんて、猫耳族の勘の良さで気づかないわけないじゃん!」
リーダーである彼女にとって、ダンテは放っておけないメンバーのひとりだ。
自分達よりずっと強くても、年上であっても、彼はひとりでうろつかせていれば、たちまち破滅へと突入してしまう。
誰も救われない、孤独の闇に、ダンテは自分から消えてしまいたがっているのだ。
「けど、だけど……あたしは、リンは、オフィーリアはダンテの仲間だよ!」
そんな望みを、果たしてセレナが許すはずがないのである。
ただ、許さないからと言って、その覇気だけで動けるかと聞かれれば、そうでもない。
「ひとりになんてさせない、させるもんか……痛だだだだ!?」
「セレナ、大丈夫……んぎぎぎ!?」
「ふたりとも、無茶をしないで……んおおおぉっ!?」
3人は無理矢理体を動かそうとして、3人ともベッドの上で悶絶した。
この調子では、まともに動けるようになるまでに、何日もかかるだろう。
「……こんな体じゃ、どうしようもないのかな……」
はあ、とため息をついたセレナが、ふと首だけを動かしてポーションの入った瓶を見た。
ちゃぷ、と波打つ液体は、瓶にたっぷりと入っている。
そのうち飲んでいいのは、小さなカップ1杯分だ。
――2杯飲めば、もっと早く回復するのではないか。
「……そういえばさ、あのゲキレツポーションってどれくらい効くのかな」
セレナの問いを聞いて、リン達も首を動かし、彼女を見つめた。
「さあ、どうなんだろ? まだ2回しか飲んでないけど口にしてからしばらくの間は体が動きそうなくらい体力が……」
「……まさか」
驚くふたりと目を合わせて、セレナがにやりと笑った。
「そのまさかだよ。運よく、ポーションの瓶は3本ある」
信じられない話だが、セレナはあの『ゲキレツポーション』――絶対に過剰に服用してはいけないポーションを、3人でがぶ飲みするつもりなのだ。
もちろん回復の保証はないし、むしろ副作用の保証しかない。
「あれを全部飲み干せば、回復に近づくと考えているのですか?」
「近づくどころか、完治だって思ってるよ」
だとしても、セレナの目に迷いはなかった。
リーダーがその意気込みなら、仲間にも疑いはない。
「……皆、ポーションの瓶のところに行くくらいの体力はある?」
「もちろん。オフィーリアの分まで、ボクが回収するよ」
「申し訳ありません、リンさん。よろしくお願いします」
3人の目は、まっすぐに互いを見つめている。
彼女達『セレナ団』の目的は、ただひとつ。
「――決まりだね」
ダンテを救う。
そのためだけに、セレナ達は劇物同然の薬を飲むと決めた。
ダンテと騎士が町を出て、そう経たないうちに、とある病室に素っ頓狂な声が響いた。
仲間の動向を聞いて驚いたのは、白いベッドに寝かされたセレナだ。
もちろん、隣で同じように仰向けに転がっているリン、オフィーリアも、まさかの事態に目を丸くしている。
「はい、先ほどメルカビス山に向かわれました。騎士団の増援を待っていては、邪悪なドラゴンが別のところに逃げてしまうからと……」
そんな彼女達に話しかけた看護師は、しまったと言いたげに、口を手でふさいだ。
「あ、これは言っちゃダメなんでした。忘れてくださいね」
「忘れられるわけがありません! 私達も増援に……痛た……!」
「安静にしていてください、そんな体で動けるわけありませんよ」
起き上がろうとして、背骨の痛みに悶えるオフィーリアを見て、看護師が呆れた。
「『ゲキレツポーション』を週に1回飲んで、しっかり療養しても、完全回復には2カ月かかる計算なんです。あなた達が無茶をしたら、白騎士様に叱られるのはこちらなんですから、じっとしておいてくださいよ」
「うっ……」
「はあ、こんな聞き分けのない人達を優先で治療しろなんて、おかしな命令ですよ」
セレナ達が飲まされた『ゲキレツポーション』というのは、文字通り激烈な効果をもたらすポーションである。
ほとんどの外傷、内傷を超高速で回復する薬ではあるが、用法・用量に厳しい制限があり、それを超過すると恐ろしい副作用がもたらされるのである。
一気飲みすれば即座に回復するが、後々やってくる副作用は恐ろしいものだ。
「あと、さっきも言いましたけど、ゲキレツポーションはジュースじゃないですからね。食い意地が張っても、飲んじゃいけませんからね」
「わ、分かってるってば!」
「どうだか。冒険者なんて、頭の悪い連中ばかりですし」
はん、と鼻を鳴らした看護師は、3人を見下した態度で病室を出てゆく。
足音がすっかり聞こえなくなってから、セレナはじたばたと布団の中でもがいた。
「あんにゃろ、看病してくれてるって言っても、あの態度はムカつくなー!」
リンも同じ気持ちのようで、眉間にしわを寄せて、天井を眺めている。
「今度余計なこと言ったら、ポーションを毒霧みたいに吹きつけてやる」
「あたしはこっそり、服に鼻くそくっつけてやる!」
「……そこまで私達が回復できるのは、いつでしょうか」
ただ、オフィーリアの言う通り、今の3人ではどうしようもない。
看護師の服に鼻くそをつけるどころか、起き上がることすらままならないのだから。
「……ダンテの力に、なれないのかな」
そのうち、ジタバタするのをやめて、セレナがぽつりとつぶやいた。
彼女の胸に去来するのは、ダンテの悲しそうな顔と、離別への恐れだ。
「ひとりでずっと戦ってて、あたし達はその手伝いとか、一緒にいたりとかができるって思ってたけど……このままじゃ、ただの足手まといのままだよ」
セレナの悲しそうな声を聞いて、リンとオフィーリアが、ベッドの上で首を横に振る。
「それでもそばにいるのが正しいと、私は思います」
「ダンテは強いけど、ひとりじゃいられない。ボク、そんな気がする」
「あの金色の竜と一度まみえたのなら、ダンテさんは今度こそ完全に決着をつけに行くでしょう。たとえ、自分の命を犠牲にしてでも……」
「そんなの、あたしは絶対に認めないよ!」
セレナの声が、天井にぶつかった。
「ダンテが何もかも一人でどうにかしたいと思ってるなんて、最初から知ってる! あたし達に話せない秘密があって、心のどこかで信用もされてないなんて、猫耳族の勘の良さで気づかないわけないじゃん!」
リーダーである彼女にとって、ダンテは放っておけないメンバーのひとりだ。
自分達よりずっと強くても、年上であっても、彼はひとりでうろつかせていれば、たちまち破滅へと突入してしまう。
誰も救われない、孤独の闇に、ダンテは自分から消えてしまいたがっているのだ。
「けど、だけど……あたしは、リンは、オフィーリアはダンテの仲間だよ!」
そんな望みを、果たしてセレナが許すはずがないのである。
ただ、許さないからと言って、その覇気だけで動けるかと聞かれれば、そうでもない。
「ひとりになんてさせない、させるもんか……痛だだだだ!?」
「セレナ、大丈夫……んぎぎぎ!?」
「ふたりとも、無茶をしないで……んおおおぉっ!?」
3人は無理矢理体を動かそうとして、3人ともベッドの上で悶絶した。
この調子では、まともに動けるようになるまでに、何日もかかるだろう。
「……こんな体じゃ、どうしようもないのかな……」
はあ、とため息をついたセレナが、ふと首だけを動かしてポーションの入った瓶を見た。
ちゃぷ、と波打つ液体は、瓶にたっぷりと入っている。
そのうち飲んでいいのは、小さなカップ1杯分だ。
――2杯飲めば、もっと早く回復するのではないか。
「……そういえばさ、あのゲキレツポーションってどれくらい効くのかな」
セレナの問いを聞いて、リン達も首を動かし、彼女を見つめた。
「さあ、どうなんだろ? まだ2回しか飲んでないけど口にしてからしばらくの間は体が動きそうなくらい体力が……」
「……まさか」
驚くふたりと目を合わせて、セレナがにやりと笑った。
「そのまさかだよ。運よく、ポーションの瓶は3本ある」
信じられない話だが、セレナはあの『ゲキレツポーション』――絶対に過剰に服用してはいけないポーションを、3人でがぶ飲みするつもりなのだ。
もちろん回復の保証はないし、むしろ副作用の保証しかない。
「あれを全部飲み干せば、回復に近づくと考えているのですか?」
「近づくどころか、完治だって思ってるよ」
だとしても、セレナの目に迷いはなかった。
リーダーがその意気込みなら、仲間にも疑いはない。
「……皆、ポーションの瓶のところに行くくらいの体力はある?」
「もちろん。オフィーリアの分まで、ボクが回収するよ」
「申し訳ありません、リンさん。よろしくお願いします」
3人の目は、まっすぐに互いを見つめている。
彼女達『セレナ団』の目的は、ただひとつ。
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ダンテを救う。
そのためだけに、セレナ達は劇物同然の薬を飲むと決めた。
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