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おっさん、ドラゴンを討伐する
邪悪、来たりて
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さて、自警団やグライスナー兄妹が尽力しているとはいえ、いまだユドノーには逃げ遅れた人が取り残されていた。
火の海で右往左往する肉の塊は、ワイバーンにとっては格好の餌食だ。
「わ、わわっ……!」
「ひいいー! 死にたくない、まだ死にたくないーっ!」
おまけに叫び散らすさまは、モンスターの食欲と嗜虐欲を一層高めてくれる。
ワイバーンの中には、舌なめずりをするものまでいる始末だ。
『グオオオオオ!』
弱肉強食の決まりに則り、ワイバーンのうち1匹が、人々に向かって急降下した。
牙を光らせ、人間の首をもぎ取ろうとしたが――。
「――さ・せ・る・かぁーッ!」
突如として割り込んできたセレナの刃によって、ワイバーンの翼が切り裂かれた。
『ギャアアース!』
着地したセレナのそばで、ワイバーンがみっともなく瓦礫の中に突っ込む。
ちゃきり、と尻尾で掴んだ剣をしならせるセレナを、人々は先ほどまで死にかけていたのも忘れて、茫然と見つめている。
「おじさん達、早く逃げて! ここはあたし達が食い止めるから!」
「あ、あの……」
「いいから逃げなってば! もたもたしてると、またワイバーンが来るよ!」
しかし、セレナに怒鳴られた一同は、すぐに自分達の危機的状況を思い出した。
「「わああああッ!」」
どたどたと逃げる人とは逆に、リンとオフィーリアが駆け寄ってくる。
てっきりセレナは、ふたりにワイバーンを倒したのを自慢するかと思ったが、彼女の顔に浮かんでいるのは複雑さと神妙さであった。
「どうかしましたか、セレナさん?」
「ワイバーンの鱗は簡単に斬れたけど、きっとかなり硬いよ。剣を振り抜いた尻尾の先が、まだ痺れてる……一点集中の攻撃じゃないと、ふたりの技が弾かれるかも」
ぴりぴりとした感触の奔る尻尾を揺らして、セレナが言った。
なるべく3人でまとめて敵を撃破した方がいいのではないかとセレナは思ったが、リン達は自信ありげに首を横に振った。
「心配なし、ノープロブレム」
「一撃の破壊力なら、私達も負けていませんよ!」
そして、くるりと振り返り、迫りくるワイバーンめがけて手と魔導書をかざし、叫んだ。
「『雷鳴、固まり交わり、矢となり夜を穿て』」
「聖霊召喚――『メタトウル』!」
リンとオフィーリアから放たれたのは、金色に輝く光だ。
片方は夜の闇を裂くほど鋭くまばゆい雷撃。
もう片方は、光の金線でかたどられた巨大な雄牛。
そのうち雷は主人の命令を待たず、またたく間にひび割れのごとく宙を切り裂き、ワイバーンの翼をいくつも貫いた。
「すごい……リンの雷の魔法、こんなに強くなってるなんて!」
「ボクだって、訓練してるからね」
珍しく笑うリンの隣で、オフィーリアもぐっと手のひらに力を込める。
「地に落ちたモンスターの相手なら、猛牛メタトウルに敵うものはありえません!」
地面に堕ちてきたワイバーンは1匹残らず、とてつもない勢いで迫ってくる猛牛――メタトウルの突進を受けたり、踏みつぶされたりした。
『ブルアアアアア!』
『グギュウウウ!?』
いくらワイバーンが強固な鱗を持っているとしても、雄牛の蹄の前では意味がない。
めちゃくちゃに破壊される同胞の叫び声を聞いて、ユドノーに散らばるワイバーン達がついに、セレナ団を標的として定めた。
『『ギィイイイオオオオオーッ!』』
夜闇を埋め尽くすほどのモンスターを前に、セレナは息を呑みつつ、強気に仁王立ちする。
「よし、ワイバーンの気を引き付けた! あとはなるべく長く連中をこっちに集めて時間稼ぎ……ううん、ぶっ飛ばせるなら、全部ぶっ飛ばすよ!」
「けっこー無茶かもだけどね」
「その無茶を貫いてきたのが『セレナ団』ですよ」
「ユドノーのためにも、ダンテのためにも――ここでやられるわけにはいかないっしょ!」
迷いを振り切るように剣を地面に叩きつけ、セレナが先陣を切ってワイバーンの群れに飛び込んだ。
次いでリン、オフィーリアも魔法と聖霊術を携えて突撃する。
「どりゃあああああ!」
鱗の硬さに負けじと力を加え、セレナはワイバーンの翼を一刀両断した。
「『水流、地より湧き出せ』! 『稲妻、迸り天へ昇れ』!」
「メタトウル、遠慮はいりません! 地を駆け飛び跳ね、我らの敵を踏み潰すのです!」
リンの魔法による水流がモンスターを濡らし、感電させて墜落させると、オフィーリアの聖霊がそれを踏み砕いてゆく。
各々がフルパワーで敵を倒してゆくさまは、正しく強力な冒険者のさまだ。
ところが、ワイバーンの数は一向に減る様子がないし、撤退する気もない。
『ゴオウアアァ!』
むしろ仲間の死に怒り、炎を噴き出す始末だ。
「火が……!」
「セレナ、オフィーリア、ボクの後ろに来て!」
リンが前に躍り出て、魔導書をまくって勢いよく掲げた。
「『激流よ、我が友を守る城壁となれ』!」
すると、地面から放たれていた水流が渦になり、3人を守る盾となった。
ただ、ワイバーンの炎を弾くには、あまりにも心もとない。
「う、ぐ、ぐぐ……!」
リンがどれだけ魔力を注いでも、炎を相殺させるのが限界だった。
そして攻撃の手を緩めると、知らない間に、ワイバーンがさっきと同じだけの数に戻っているのだ。
同じ数を倒せば、同じ数だけモンスターが来る。
次第にリンやオフィーリアの額に汗が浮かび、息が上がってきた。
「はあ、はあ……こいつら、倒しても倒しても……出てくるよ……!」
「いったいどこから、こんな数のワイバーンが来るのでしょうか……これでは敵を撤退させるより先に、私達の力が尽きかねません……!」
「まだだ、まだやれる!」
それでもセレナだけは、ぜいぜいと乱れる呼吸を整えて叫んだ。
「ちょっとでも、一瞬一秒でも長く時間を稼いで、街の皆を逃がさないと――」
だが、彼女の正義の雄叫びは、あっさりとかき消された。
不意に彼女の尻尾が総毛立って、心臓を鷲掴みにされたような感覚に襲われた。
彼女ですらそうなのだから、リンとオフィーリアにいたっては、さっきまでとは別の意味での汗が止まらず噴き出している。
いったいなぜか、誰がこんな恐怖をもたらしているのか。
答えを知るべく、セレナは振り向いた。
「……え……」
音もなく、しかし翼をはためかせて舞い降りるそれと、セレナの目が合った。
金色の瞳。
金色の角。
金色の鱗。
金色の牙。
「……こいつが……ドラゴン……!」
そして見上げるほどの巨躯と、憤怒に満ちた炎の域。
果たして正体は――人を憎む邪竜、ギラヴィであった。
火の海で右往左往する肉の塊は、ワイバーンにとっては格好の餌食だ。
「わ、わわっ……!」
「ひいいー! 死にたくない、まだ死にたくないーっ!」
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ワイバーンの中には、舌なめずりをするものまでいる始末だ。
『グオオオオオ!』
弱肉強食の決まりに則り、ワイバーンのうち1匹が、人々に向かって急降下した。
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ちゃきり、と尻尾で掴んだ剣をしならせるセレナを、人々は先ほどまで死にかけていたのも忘れて、茫然と見つめている。
「おじさん達、早く逃げて! ここはあたし達が食い止めるから!」
「あ、あの……」
「いいから逃げなってば! もたもたしてると、またワイバーンが来るよ!」
しかし、セレナに怒鳴られた一同は、すぐに自分達の危機的状況を思い出した。
「「わああああッ!」」
どたどたと逃げる人とは逆に、リンとオフィーリアが駆け寄ってくる。
てっきりセレナは、ふたりにワイバーンを倒したのを自慢するかと思ったが、彼女の顔に浮かんでいるのは複雑さと神妙さであった。
「どうかしましたか、セレナさん?」
「ワイバーンの鱗は簡単に斬れたけど、きっとかなり硬いよ。剣を振り抜いた尻尾の先が、まだ痺れてる……一点集中の攻撃じゃないと、ふたりの技が弾かれるかも」
ぴりぴりとした感触の奔る尻尾を揺らして、セレナが言った。
なるべく3人でまとめて敵を撃破した方がいいのではないかとセレナは思ったが、リン達は自信ありげに首を横に振った。
「心配なし、ノープロブレム」
「一撃の破壊力なら、私達も負けていませんよ!」
そして、くるりと振り返り、迫りくるワイバーンめがけて手と魔導書をかざし、叫んだ。
「『雷鳴、固まり交わり、矢となり夜を穿て』」
「聖霊召喚――『メタトウル』!」
リンとオフィーリアから放たれたのは、金色に輝く光だ。
片方は夜の闇を裂くほど鋭くまばゆい雷撃。
もう片方は、光の金線でかたどられた巨大な雄牛。
そのうち雷は主人の命令を待たず、またたく間にひび割れのごとく宙を切り裂き、ワイバーンの翼をいくつも貫いた。
「すごい……リンの雷の魔法、こんなに強くなってるなんて!」
「ボクだって、訓練してるからね」
珍しく笑うリンの隣で、オフィーリアもぐっと手のひらに力を込める。
「地に落ちたモンスターの相手なら、猛牛メタトウルに敵うものはありえません!」
地面に堕ちてきたワイバーンは1匹残らず、とてつもない勢いで迫ってくる猛牛――メタトウルの突進を受けたり、踏みつぶされたりした。
『ブルアアアアア!』
『グギュウウウ!?』
いくらワイバーンが強固な鱗を持っているとしても、雄牛の蹄の前では意味がない。
めちゃくちゃに破壊される同胞の叫び声を聞いて、ユドノーに散らばるワイバーン達がついに、セレナ団を標的として定めた。
『『ギィイイイオオオオオーッ!』』
夜闇を埋め尽くすほどのモンスターを前に、セレナは息を呑みつつ、強気に仁王立ちする。
「よし、ワイバーンの気を引き付けた! あとはなるべく長く連中をこっちに集めて時間稼ぎ……ううん、ぶっ飛ばせるなら、全部ぶっ飛ばすよ!」
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次いでリン、オフィーリアも魔法と聖霊術を携えて突撃する。
「どりゃあああああ!」
鱗の硬さに負けじと力を加え、セレナはワイバーンの翼を一刀両断した。
「『水流、地より湧き出せ』! 『稲妻、迸り天へ昇れ』!」
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リンの魔法による水流がモンスターを濡らし、感電させて墜落させると、オフィーリアの聖霊がそれを踏み砕いてゆく。
各々がフルパワーで敵を倒してゆくさまは、正しく強力な冒険者のさまだ。
ところが、ワイバーンの数は一向に減る様子がないし、撤退する気もない。
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むしろ仲間の死に怒り、炎を噴き出す始末だ。
「火が……!」
「セレナ、オフィーリア、ボクの後ろに来て!」
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すると、地面から放たれていた水流が渦になり、3人を守る盾となった。
ただ、ワイバーンの炎を弾くには、あまりにも心もとない。
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同じ数を倒せば、同じ数だけモンスターが来る。
次第にリンやオフィーリアの額に汗が浮かび、息が上がってきた。
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「いったいどこから、こんな数のワイバーンが来るのでしょうか……これでは敵を撤退させるより先に、私達の力が尽きかねません……!」
「まだだ、まだやれる!」
それでもセレナだけは、ぜいぜいと乱れる呼吸を整えて叫んだ。
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だが、彼女の正義の雄叫びは、あっさりとかき消された。
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「……え……」
音もなく、しかし翼をはためかせて舞い降りるそれと、セレナの目が合った。
金色の瞳。
金色の角。
金色の鱗。
金色の牙。
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