追放された美少女を助けた底辺おっさんが、実は元”特級冒険者”だった件について。

いちまる

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おっさん、ドラゴンを討伐する

秘密と信頼

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「ところで貴方達、いつからおじ様と冒険者パーティーを組んでますの?」

 じゃぽん、と肩を湯から出したハイデマリーに問われ、セレナは首を傾げて考えた。

「ええと、フレイムリザードの討伐依頼を受けた頃だから……3、4ヶ月前になるかな?」
「ボク達とダンテが知り合って、もうそんなに経つんだね」
「私は遅れて加入しましたが、初めて会った時からダンテさんとセレナさん、リンさんの中の良さは、何年もパーティーを組んでいるかのようでした」
「ふーん……おじ様について、貴方達はどれほど知っているというのかしら?」

 口を尖らせた彼女は、試すような口調で言った。

「どーゆー意味?」
「言葉通りの意味ですわ」

 湯船から出て岩場に腰かけたハイデマリーが、星が見え隠れする空を見つめる。
 彼女がずっと遠くを眺めている時、頭の中に浮かぶのは、いつもダンテのことだ。

「わたくしはおじ様に命を助けられ、もう一度出会うために血のにじむような努力を重ねて騎士になりましたわ。自分よりずっと年上の男を薙ぎ倒し、有名になればおじ様がわたくしに気付くと信じていましたわ」

 それくらい、彼女にとって雪山での出会いは運命的だった。
 彼の顔が、言葉が、雰囲気が、脳髄のうずいに刻み込まれた。
 だからこそハイデマリーは、10年経っても、おっさんになったダンテを見間違えなかったのだ――見間違えなど、あってはならなかったのだ。
 ただ、彼との再会は、すべてが喜びで満ちているわけでもなかった。

「その途中で、わたくしと兄様はおじ様の秘密を知りました。あのお方は冒険者でいるなどあり得てはならないほど強く、気高く……悲しい過去をお持ちですのよ」

 ハイデマリーはアルフォンスとともに、クロードからダンテの過去も聞いていた。
 彼が隠している何もかもを聞いたわけではないし、きっと彼の辛い思い出の一部だけだろうが、ハイデマリーの心を痛めるのには十分すぎた。

「あの穏やかな顔の裏にある苦しみを、痛みを、わたくしは癒してあげたい。伴侶として人生を共に歩み、背負った苦痛を消し去るほどの喜びを分かち合いたいのですわ」

 彼のためなら、騎士の道を投げ捨てるのもいとわない。
 それほどの覚悟を前にして、セレナも小さく頷いた。

「やっぱり、ダンテの正体はすごい人なんだね」
「あら? 貴方達、おじ様について何か知っていますの?」
「うん、知ってるよ。ダンテがあたし達に、隠し事をしてるってこと」
「謎を抱えていながらパーティーを組むなんて、ちゃんちゃらおかしいですわ」

 ハイデマリーが、はん、と嘲笑あざわらった。

「何を隠しているかも知らないのに、よくもまあ、信頼だの仲間だのと言えますわね。あけすけに互いを知ってこそ、真の仲間ではなくて?」
「そうだね、あたしも秘密を話してくれたら、嬉しいって思うよ」

 ダンテとパーティーを組んで間もないころ、セレナも同じ考えだった。
 しかし、今は違う。

「――でも、知られたくないことが、誰にでもあるんだ」

 彼女が硬い信条と共にハイデマリーを見つめる視線は、強い意志を伴っていた。
 ハイデマリーが思わず、たじろいでしまうほどに。

「あたしにもリンにも、きっとオフィーリアにもある。ハイデマリーだって、アルフォンスとかダンテにだって話せない秘密とか、隠し事があるでしょ?」
「そ、それは……」
「仲間が秘密を抱えていて、今は話したくないって言うなら、あたしはリーダーとして受け止める。そんでもって、いつかダンテが話したいって言った時は受け入れる」

 何があってもダンテを支える。
 自分達の夢を信じて、支えてくれると言ってくれたように。
 ダンテが許す限りのキモチを受け入れて、守りたいのだ。

「すべてを知らない信頼、ってのもあるんじゃないかな」

 にっとセレナが笑うと、静けさが女湯を包んだ。

「でも、ダンテが無茶をするなら問答無用で、全力で止めるけどね! そこだけは譲らないし、ごちゃごちゃ言うならぶっ飛ばすけど♪」

 静寂のとばりを破ったのも、また彼女なのだが。

「セレナ……」
「……ふん、一理あるのは、今回だけ認めてあげますわ」

 流石のハイデマリーも、セレナがどうしてリーダーを務められているのか、納得せざるを得ないようだ。
 もっとも、頑固さと(悪い意味での)根性は、彼女も負けず劣らずといったところだが。

「ですが、わたくしは諦めませんわよ! いつか必ず、おじ様を冒険者なんて薄暗いところから引きずり出して、騎士団のもとに連れて行きますわ!」
「そうはさせないよ、ダンテはあたし達と一緒に夢を叶えるんだからね!」
「なら、貴方とはいずれ決着を付けなければなりませんわね」
「ジョートーっ! いつでも受けて立つよ!」

 ざばん、と湯から飛び出したセレナと、岩場から降りたハイデマリーが睨み合う。

「とりあえずわたくしは、向こうの泡風呂に浸かるとしますわ。セレナさん、貴方のようなお子ちゃまはのぼせる前にさっさと上がってしまいなさいな」
「ハイデマリーこそ、鼻血ブーで気絶しないようにね!」

 湯船から出たふたりは、タオルを手に取った。

「「ふんっ!」」

 バシーンッ!
 そして股間に勢いよく振り当て、どかどかと大股に歩いていった。
 どちらも美女でなければ、やっていることはおっさんのようだ。

「……セレナとダンテって、似てるところがあると思ってたんだけど……」
「あのふたりのほうが、よっぽど似てますね♪」

 そんな様子を見て、オフィーリアはくすくすと笑った。
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