追放された美少女を助けた底辺おっさんが、実は元”特級冒険者”だった件について。

いちまる

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おっさん、ドラゴンを討伐する

大きな馬車に揺られて

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 騎士団駐屯所での話し合いから2日後。

「――では、我々の目的と到着予定地を共有しておきます」

 セレナ率いる冒険者パーティー『セレナ団』と、アルフォンスとハイデマリーのグライスナー兄妹は、揃って馬車に揺られて白い道を進んでいた。
 6人も馬車に詰め込まれているのかと言うと、実はそうでもない。

「今回は非常に特殊な任務となります。まず、我々が目指すのは……」
「うわーっ! うわー、うわーっ! これだけでかい馬車ってだけでもすごいのに、飲み物も食べ物も、望遠鏡までついてるよーっ!」

 長椅子に腰かけて任務の要綱ようこうを話そうとするアルフォンスの声を、セレナがさえぎった。
 そう、この馬車は普通のよりも倍近く大きい、文字通り規格外のサイズなのだ。
 巨大な馬2頭にかれる馬車の中は、まるで高級宿の一室のようで、椅子はふかふかだし、近頃発明された『魔道具冷蔵庫』まで完備されている。
 普通に生きていれば絶対に乗る機会のない乗り物に、他のメンバーも興奮気味だ。

「馬も大きい。普通のより、倍くらいあるよね」
「ありゃあグラウンドホースつって、人間に飼い慣らされたモンスターだ。タフだし、多少のモンスターは追い払えるくらい強いから、貴族がこぞって馬車を曳かせたがるんだよ」
「なるほど、道理で、こんなに大きな馬車を動かせるのですね」

 ただ、こんな調子の面々を放っておくわけにもいかないのが当然だ。

「珍しいのは分かりますが、ひとまず任務の目的を……」
「まったく、冒険者なんて野蛮人を連れてきたのが間違いですわ」

 アルフォンスは軌道を戻そうとしたが、今度はハイデマリーが話題を変えてしまった。
 当然、セレナも獣のような目で彼女を睨む。

「んだとーっ!? もっぺん言ってみろっ!」
「ふん、わたくしと兄様とおじ様がいれば問題ないのに。わざわざついてきて、ぎゃあぎゃあ騒ぎ立てるだけなら追い出してしまってもよろしくてよ?」
「討伐に失敗してる側の騎士団が、よく言うよね」

 リンが冷静に反論すると、たちまちハイデマリーの顔がショックで染まる。

「なっ……おじさまぁ~っ、わたくしとっても傷つきましたわぁ~っ!」

 いや、正確に言うと、染まったふりをしたとでも言うべきか。
 ダンテにべったりとくっつく名目であるなど、誰の目にも明らかだ。

「おいおい、広いっつっても馬車なんだから騒ぐな。御者ぎょしゃに迷惑がかかるだろうが」
「だって、だってぇ~! この野蛮人達にひどいことを言われましたもの! 傷ついた心はおじ様の胸の中でしか癒せませんわ~っ!」
「嘘つけーっ! ダンテとひっつきたいだけでしょうがーっ!」
「お前ら、アルが話してるんだぞ。静かにしろ」

 この中でダンテだけが、アルフォンスの話に耳を傾けようとしている。

「あのですね、皆さん……」

 困った顔で笑う彼の話など、もちろんダンテ以外誰も聞こうとしない。
 これではまるで、はしゃぎ回る孤児院の子供達のようだ。

「おじ様おじ様~、わたくしをもっと慰めてくださいまし、よしよしぎゅーしてちゅーして好き好きって愛の言葉をささやいてくださいな~っ!」
「だ、だからハレンチなことをしてはいけないと、先日も――」

 なので、アルフォンスは、少し乱暴な手段をとることにした。

「少し――静かにしようか」

 彼はほんのわずかに――刃が見えるか見えないかくらい、剣を鞘から抜いた。
 その途端、馬車の中が恐ろしいほどに凍り付いた。

「「……ッ!?」」

 アルフォンスから放たれる覇気は、気配に敏感な猫耳族のセレナやリンだけでなく、オフィーリア、親族のハイデマリーすらぞっとさせるには十分すぎた。

(なに、今の!? 剣を抜いただけなのに……!?)
(モンスターと戦う時のダンテと同じだ)
(直感的に死を悟るレベルの気迫! この方、ずっとお若いでしょうに、これだけの技量に至れるとは……天賦てんぷの才の持ち主としか……!)

 『セレナ団』の3人は、ごくりと息を呑んだ。

「に、兄様! いきなり抜剣ばっけんしないでくださいまし!」

 ハイデマリーも慌てた調子だが、アルフォンスはまだ剣を収めようとしない。

「マリーはこうでもしないと、大人しく私の言うことを聞こうとしないだろう? 『セレナ団』の皆さんも、話しは真面目に聞いてください」
「「はいっ!」」
「よろしい」

 4人の背筋がぴん、と張ったところで、やっと彼は剣を鞘に納めた。
 心臓を握り潰すような気迫を放つアルフォンスの実力を、誰もが認識する中、彼はハイデマリーを引きはがし終えたダンテを見た。

「それにしても、やはり貴方だけは動じませんでしたね、ダンテさん。抜剣だけでもモンスターが逃げていくというのに、眉ひとつ動かさない相手は初めてです」

 彼の言う通り、ダンテだけは威圧にまったく動じなかったのだ。

「気迫を操るのは、俺も得意だ。アル、俺を怖気づかせたいと思うなら、剣を抜いただけでモンスターを殺せるようになるんだな」
「精進します。では改めて、目的と到着予定地を共有しましょう」

 ダンテの力を見て安心したような、改めて尊敬し直したような顔で微笑みつつ、アルフォンスは手元の紙をぺらぺらとめくってゆく。

「我々の最終目的は『竜部族トライバル』の殲滅、統領と思しきドラゴンの討伐。作戦開始予定地に関しては、当面、最も目撃証言の多い王国最北端のゴドス山とします」
「当面?」
「今回、複数の騎士から得た情報をもとに、敵が襲撃を仕掛けてきた場所に移動しながら追いかけます。あくまでゴドス山は何も起きなかった時に戦う場所になります」
「予定よりずっと早く、金色のドラゴンと戦う可能性があるわけですね」
「今この瞬間にも『竜部族』の襲撃がないとは言い切れません。戦い続けるわけではありませんが、常に精神的な備えを怠らないでください」

 さっきとは別の意味で、セレナ達が唾を飲む音が聞こえた。

「……分かったな、お前ら」

 ダンテがそう言うと、3人はずっと真摯な顔で、強く頷いた。
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