追放された美少女を助けた底辺おっさんが、実は元”特級冒険者”だった件について。

いちまる

文字の大きさ
上 下
68 / 95
おっさん、ドラゴンを討伐する

少数精鋭、竜に挑め

しおりを挟む
「金色のドラゴンは、俺について何か話していたんだな?」
「ええ、三度目の迎撃失敗の際、やつは明らかにダンテさんの名前を呼びました」

 アルフォンスはドラゴンの駒を動かしながら言った。

「こちらが持っていった『対大型モンスター破砕槍』も『完全耐火魔法盾』も叩き潰したあのドラゴンは、自らをギラヴィと名乗りました。そしてこうえたのです……ダンテ・ウォーレンを連れて来いと」
「自らの復讐を、果たさせろと。そう言ったらしいですわ」

 きっと、名前を聞いた騎士達は首を傾げたはずだ。
 高名な騎士にも、冒険者にも、ダンテ・ウォーレンという名前の人物はいない。
 仮にいるとすれば、ドラゴンが名指しで呼びつけようとするほどの腕前の持ち主を、知っていないわけがないのだ。

「貴方の名前を聞いた時、私もマリーも直感しました。私達を助けてくれた恩人が、間違いなくまだ、リットエルド王国のどこかにいるのだと」

 ところが、グライスナー兄妹だけは違った。
 ふたりは覚えていたのだ――自分達の命を救った、恩人の名前を。

「名前を隠したつもりはなかったんだが、今まで見つけられなかったんだな?」

 ダンテが悪戯っぽく笑うと、ハイデマリーが頬を膨らませた。

「おじ様ってば、意地の悪いことをおっしゃらないでくださいまし! 騎士団と冒険者ギルドは犬猿の仲で、資料ひとつ手に入れるのにも難儀なんぎしますの!」
「もっとも、今回の場合は私達の先入観にも問題はありました。貴方ほどの人が、まさかC級冒険者を何年も続けているなど思いもしませんでしたよ」

 冒険者と騎士、ならず者とエリートの軋轢あつれきを考えれば、ふたりがダンテを見つけるのはまだ早い方だっただろう。
 恐らく、彼らに重要な情報源があったはずだ。

「俺を見つけられる、きっかけはあったのか?」
「クロード大宰相さいしょう様が、教えてくださったのです」

 たとえば、ダンテの過去を知るクロードの入れ知恵とか。
 厄介者の笑顔が頭に浮かぶと、ダンテは露骨に嫌そうな表情を見せる。

「……あいつから、俺についてどこまで聞いた?」
「特級冒険者という組織についても聞いています」
「あの野郎、口が軽いぜ……!」

 ダンテはこれ以上ないくらい、大きなため息をついた。

「まさか、騎士団を飛び越えた国家直属の組織があるとは思いませんでした。それも想像を超えるような、とんでもない任務をこなしていたのですね」

 国の陰から守護する存在について聞かされても、アルフォンスは動じていなかった。

「安心してください、私は貴方の正体について口外するつもりはありません。むしろ、10年前の強さの理由にやっと納得できましたよ」
「わたくしは一層、おじ様に惚れ直しましたわ♪」

 クロードからどんな話を聞いたのかはともかく、美談や英雄譚ばかりを伝えられたに違いない、とダンテは思った。
 彼が本当にこなしてきた任務は、とても人に話せるようなものではないからだ。

「……そんないいものじゃないさ、特級冒険者ってのは」

 はあ、と自嘲じちょう気味に笑うダンテの前で、アルフォンスが首を振った。

「とにかく、私とマリーは金色のドラゴン、ギラヴィの討伐に向かいます。ダンテさん、ぜひ貴方にもついてきてほしいのです」
「アルとマリーだけ? 他の騎士は?」
「2回の敗走で、数に意味はないと判断しましたわ。今回は少数精鋭で討伐しますの」

 確かに『白騎士』と『赤騎士』の称号を冠する騎士がいるのなら、他の色の騎士や部隊がいても、邪魔にしかならないだろう。
 そのメンバーの中にダンテを加え入れたいと言うのだから、本気の具合が伝わってくる。
 ギラヴィと名乗るドラゴンが、どれほどの強敵であるかも。

「……分かった。相手が俺を呼んでるなら、行かない理由はないな」

 ダンテは了承しつつ、カーテンがかかった作戦室の窓に近寄る。

「ただし、こいつらを説得しないといけないが……なっ!」

 そして一気に、カーテンを開いた。
 窓の外にあるのは、青々と茂る木々と、小さな庭。

「「わあああっ!?」」

 ついでに、窓にへばりついていた『セレナ団』のメンバーだ。
 セレナ、リン、オフィーリアの3人が揃って窓から中庭に転げ落ちるのを見て、アルフォンスとハイデマリーは目を丸くした。

「おや、貴方達は……」
「おじ様のパーティーメンバー! 帰ってませんでしたの!?」

 窓を開け、ダンテは3人の手を引いて部屋の中に押し込む。

「もうじき、アルの部下が来るかもしれないな。帰らせるよう指示されていたはずの女の子が、揃っていなくなったとか何とかで……ったく、厄介な話だ」

 並ばされたセレナ達の前で、ダンテは腕を組み、神妙な目で見つめた。
 アルフォンスのあきれ顔も、ハイデマリーの苛立ちに満ちた目も3人はちっとも気にしなかったが、ダンテの表情だけはどうにもこたえた。

「ダンテ……」
「何で話を盗み聞きしてたんだ、とは今更聞かないぞ」
「…………」
「俺がこれから討伐しようとしてる『竜部族トライバル』は、これまでのクエストで倒してきたモンスターとは比べ物にならないほど危険な相手だ」

 だんまりのセレナを説得させようと、ダンテはあえて任務の恐ろしさを伝えた。
 彼の話す内容はすべてが真実だし、ともすればそれ以上のリスクも伴うのである。
 故に彼は、仲間達に諦めてほしかったのだ。

「道中は過酷で、何より冒険者の依頼じゃないから報酬なんて手に入らない。だから――」

 ところが、顔を上げたセレナの返事は、ダンテの予想を上回った。

「その全部が、ダンテについていかない理由にならないよ」

 はたしてセレナは、仲間達は、微塵も恐れを抱いていなかった。

「あたしは『セレナ団』のリーダーで、ダンテも皆がとっても大事なメンバーのひとり! でも、子分ならリーダーのメーレーを聞くべきじゃない!」

 いや、恐れだけではない。
 リーダーだ何だと言っているが、大事なのは言葉ではなく、裏に秘められた心だ。
 いつもならがめついほどの損得勘定そんとくかんじょうすらどこかに蹴飛ばして、ただひたすらに、仲間をひとりで危険な目に遭わせたくないと言っているのだ。

「メーレーするよ! ダンテ、あたし達を討伐につれてって!」
「セレナってば、本当に強引だね」
「ですが、これくらい強気なのがいいんです。ね、ダンテさん?」

 猪突猛進なリーダーの隣で肩をすくめるリンと、口に手を当てて微笑むオフィーリア。
 そしてようやく、ダンテは思い出した。
 彼女達は誰も、自分の忠告を聞くような真面目ちゃんではないと。

「……アル、任務にはついて行く。ただし、条件がある」

 くるりと振り向いて、ダンテはグライスナー兄妹に言った。

「この命知らずの大バカ野郎ども――『セレナ団』も一緒に、だ」

 恩人にこう言われれば、ふたりも納得せざるを得なかった。
 こうして国の一大危機を救う臨時パーティーが、駐屯所の作戦室で結成されたのだ。
 エリート騎士と奇想天外な冒険者という――おかしなパーティーが。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

無能扱いされた実は万能な武器職人、Sランクパーティーに招かれる~理不尽な理由でパーティーから追い出されましたが、恵まれた新天地で頑張ります~

詩葉 豊庸(旧名:堅茹でパスタ)
ファンタジー
鍛冶職人が武器を作り、提供する……なんてことはもう古い時代。 現代のパーティーには武具生成を役目とするクリエイターという存在があった。 アレンはそんなクリエイターの一人であり、彼もまたとある零細パーティーに属していた。 しかしアレンはパーティーリーダーのテリーに理不尽なまでの要望を突きつけられる日常を送っていた。 本当は彼の適性に合った武器を提供していたというのに…… そんな中、アレンの元に二人の少女が歩み寄ってくる。アレンは少女たちにパーティーへのスカウトを受けることになるが、後にその二人がとんでもない存在だったということを知る。 後日、アレンはテリーの裁量でパーティーから追い出されてしまう。 だが彼はクビを宣告されても何とも思わなかった。 むしろ、彼にとってはこの上なく嬉しいことだった。 これは万能クリエイター(本人は自覚無し)が最高の仲間たちと紡ぐ冒険の物語である。

クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした

コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。 クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。 召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。 理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。 ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。 これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います

しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!! 「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。

克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作 「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

処理中です...