追放された美少女を助けた底辺おっさんが、実は元”特級冒険者”だった件について。

いちまる

文字の大きさ
上 下
61 / 95
おっさん、A級冒険者の闇を暴く

やり直しなどない

しおりを挟む
「その両腕じゃあ、もう冒険者復帰はできないな」
「あひっ、はひ、ひいぃッ!」

 両腕を失ったアポロスはのたうち回りながら逃げようとするが、うまくいくわけがない。

「今更逃げるのか。判断が遅い」
「ぶっぎゃあああああああッ!?」

 ダンテがナイフを振り下ろすと、今度はアポロスの両足が斬り落とされた。
 相変わらず血はさほど噴き出ていないが、代わりにアポロスの額からは信じられない量の汗が流れ、口からはよだれをまき散らしている。

「あし、あ、あ、あしがあああああああ!」
「安心しろ、俺はどこを斬られても出血で死なない斬り方を知ってる。つまり、お前にはまだ、楽になれる時間も与えられないわけだ……さて、と」

 じたばたの芋虫の如く身をよじらせるアポロスの腹を、ダンテが踏みつけた。

「お前が見殺しにした仲間や試し切りに使ったやつ、診療所で待ってるエヴリンは、アポロスって冒険者を信じてるぞ。お前、本当に何とも思わないのか?」

 ダンテの問いに対し、アポロスはおぞましい形相ぎょうそうで叫んだ。

「うるざいいいいいッ! 俺は、俺様はやり直すんだああああああッ!」

 その途端、ダンテの目がかっと見開いた。

「……やり直しなんてないんだよ」
「ひッ……!」

 ドラゴンより鋭く、デーモンより恐ろしい目。
 ぎらりと光る目と視線が合った瞬間、アポロスは恐怖でもりもりと便を垂れ流した。
 モンスターを視線だけで殺しかけないその目は、もはや人間のそれではない。

「それが許されるのは、自分の罪と、弱さと向き合った人間だけだ。お前みたいな救いようのない小悪党に待ってるのはな、いいか、破滅だけだ」

 それくらい、ダンテにとってアポロスの言葉は許されるものではなかった。
 セレナやリンのように己を信じた者や、オフィーリアのように罪を認めて戦った者と同じように扱い、自分が許されると思っている。
 その態度を、ダンテはとても許せなかった。

「話は終わりだ。最後に何か、言い残すことはあるか」

 彼が静かにナイフを突きつけると、アポロスはもう、命乞いはしなかった。

「……殺してやる……テメェも……女も……犯して、なぶって……殺してやる……」

 代わりに漏れだしたのは、やぶれかぶれの罵倒だ。
 そして、彼の誤った判断は、ダンテの逆鱗に触れるには十分すぎる行いだった。

「……そうか」

 次の瞬間、ダンテはナイフの先端をアポロスの口に押し込んだ。

「むぐおぁッ!?」

 塞がりかけていた口の傷が開き、血がしたたる。
 痛みに悶えるアポロスだが、悲鳴を上げるとナイフが顎と頭蓋骨を引き裂いてしまいそうで、とても声を出せない。

「……! ……!」

 猿ぐつわを噛まされたような、みっともない声しか出せないアポロスがもがいていると、広間の入り口の方から声が聞こえてきた。

「ダンテーっ! まだそこにいるのーっ?」

 セレナの声だ。

「あいつら、あの様子だとテミスを倒して、皆を助けたんだな」

 仲間が近づいてきたのを察し、ダンテの視線が広間の入り口である通路に向いた。
 そして、信じられない言葉を放った。

「セレナ、来ないほうがいい。アポロスはひどいさまになって死んだ」

 ――まだ生きているはずのアポロスが、死んだと言ったのだ。

「……!?」

 まだ死んでいないと言いたいが、ナイフを口に差し込まれているせいでまったく話せないアポロスの上で、ダンテはとんでもない話を続けてゆく。

「あいつから闇ギルドの情報を聞こうとしたら、毒を飲んで死んだんだ。体が内側から溶けて、骨も肉もグズグズのシチューみたいになってるぜ」
「え、ええっ……!」
「キモ……」

 これから何をされるのかを察し、アポロスの顔が青くなってゆく。

「きっと、闇ギルドからの報復を恐れたんだろうな。オフィーリア、セレナとリンを連れて外で待ってろ。死体を片付けたら戻る」
「分かりました。ふたりとも、こちらへ」

 オフィーリアが仲間を連れてゆき、足音が聞こえなくなって、やっとダンテはアポロスを見た。

「……待たせたな。助けは来ないから、たっぷり苦しんでくれ」

 ダンテは突き刺さったままの大剣に、もうひと振りのナイフをあてがい、流れっぱなしになっている毒をすくい取る。
 しかも彼のナイフは、毒に触れているのに、ちっとも溶けていない。

「むーっ! んむ、むぅーっ!」
「俺のナイフが熔けてないのが、そんなにおかしいか? たかが毒くらいで、『アザトートクロム』製の刃がどうにかできるわけがないだろ?」

 淡々と返事をしながら、ダンテが毒付きのナイフを、もう片方の刃にあてがう。
 つう、と毒が刃を伝い、アポロスの口に向かって垂れてゆく。

「お前は仲間も、自分を信じてくれた人も裏切った。あまつさえ、俺の仲間を殺すと言った」
「む……む、むが……!」
「だから、体と魂に刻み込んでやる。永遠に忘れられない恐怖と絶望をな」

 そしてついに、毒がナイフを渡り、アポロスの口に流れ込んだ。

「~~~~~~~~ッ!?」

 その刹那、アポロスの全身を、形容しがたい激痛が襲った。
 当然だ――彼は今、触れるだけで痛みを伴いながら体が熔けるほどの猛毒を、口を通じて全身で味わっているのだから。

「ん~~~~~~~ッ! ぶぐ~~むぐ~~~ッ!」

 舌が熔けて、言葉が発せない。
 喉が焼けて、声が出ない。
 胸や肺がただれて、呼吸もできない。
 全身が内側から溶けて――痛い、痛い、痛い。

 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!!

「~~~……~~…………」

 ついに毒が心臓を溶かしきるまで、たっぷりと時間がかかった。
 アポロスはそれまで、無限に感じるほどの間、ショックで何百回死んでもおかしくないほどの痛みを味わい続けた。
 果たして彼の体は、完全に消失していた。
 残っているのは、ぐずぐずに溶けた体の中で唯一、ダンテを睨み続ける目だけだ。

「……そんなに憎いなら、化けて出て来い。お前の死を、やり直させてやるよ」

 冷たく言い放ち、ダンテは彼の頭を踏みつぶした。

「ただし――結果は同じだろうけどな。何度でも、殺してやるさ」

 大剣だけが惨めに残った広間で、ダンテは毒を払い、ナイフをしまった。
 かくして、アポロスという偽りのA級冒険者は、自らの犯した罪にふさわしい罰を受けたのであった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

無能扱いされた実は万能な武器職人、Sランクパーティーに招かれる~理不尽な理由でパーティーから追い出されましたが、恵まれた新天地で頑張ります~

詩葉 豊庸(旧名:堅茹でパスタ)
ファンタジー
鍛冶職人が武器を作り、提供する……なんてことはもう古い時代。 現代のパーティーには武具生成を役目とするクリエイターという存在があった。 アレンはそんなクリエイターの一人であり、彼もまたとある零細パーティーに属していた。 しかしアレンはパーティーリーダーのテリーに理不尽なまでの要望を突きつけられる日常を送っていた。 本当は彼の適性に合った武器を提供していたというのに…… そんな中、アレンの元に二人の少女が歩み寄ってくる。アレンは少女たちにパーティーへのスカウトを受けることになるが、後にその二人がとんでもない存在だったということを知る。 後日、アレンはテリーの裁量でパーティーから追い出されてしまう。 だが彼はクビを宣告されても何とも思わなかった。 むしろ、彼にとってはこの上なく嬉しいことだった。 これは万能クリエイター(本人は自覚無し)が最高の仲間たちと紡ぐ冒険の物語である。

クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした

コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。 クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。 召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。 理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。 ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。 これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います

しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!! 「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。

克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作 「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

処理中です...