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おっさん、A級冒険者の闇を暴く
裁くのは私の聖霊です!
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クッキーを食べたセレナ達は、少しだけもがいたかと思うと、すぐに動かなくなった。
「……おイ、どうしタ? もしかしテ、毒で死んだカ?」
「ボスの毒は、全身に回ればモンスターでも指一本動けなくしますからね」
「女どもはいい奴隷になると思ったんだがなあ」
テミスもハンター連中も、毒をまともにくらった敵がどうなるかを知っていたから、どうせ気を失ったか、死んだのだろうと思った。
いずれにしても、動かないのならどちらでもいい。
キッチンの地下から続く、冒険者用の檻に3人を叩き込むべく、テミスは手始めにセレナに近寄って手を伸ばした。
「まあいイ。こいつらはもともト、売り物にするつもりも――」
――だが、彼の行いは大きな間違いだった。
セレナの顔を覗き込もうとして、彼女を仰向けにした途端、テミスの目を閃光が奔った。
「――あッ」
いや、違う。
振り向きざまに薙がれたセレナの爪が、テミスの顔の皮を切り裂いたのだ。
「ア、ア、ああがあああああああアァッ!?」
絶叫と共に、テミスは血が泡のように噴き出る顔を両手で押さえた。
そしてそれが――魔導書を片手に立ち上がり、赤い魔力を迸らせるリンの、反撃のきっかけだった。
「『燃え盛る猛虎、喉に噛みつき食い破れ』!」
彼女が流暢に呪文を唱えると、魔導書から炎で生み出された虎が現れる。
真っ赤な猛獣は唸り声をあげるよりも早く、ハンターめがけて飛びかかった。
「ぎゃああ!?」
「虎だ、どこから……ひぎィ!」
ただ凶暴なだけでなく、全身が燃えている虎の攻撃を受ければ、いかに筋骨隆々なハンターでも逃げ回るしかない。
当然、虎はひとりも逃すつもりはなく、全員を追いかけ回して噛みつき、引き裂く。
「こ、このガキ……なんデ、俺の毒を受けたのニ……!?」
先ほどとは打って変わって窮地に追い詰められ、顔を覆って茫然とするテミスの前に、すっかり健康な顔色を取り戻したセレナとリンが仁王立ちしていた。
「オフィーリア特製クッキーのおかげだよ! 色んな薬草や香草をありったけ混ぜ込んだクッキーが、毒を中和したんだ!」
セレナの言う通り、彼女達を救ったのは、あのクッキーだ。
どの薬草、あるいはどの香草が効果を発揮したのかはさっぱりだが、山ほどのそれらが入ったクッキーならば、そのうちひとつは効くだろうと、セレナは確信した。
果たして、彼女の一世一代のギャンブルは大勝利の結果に終わった。
ひとつ、またはいくつかの薬草が、セレナ達の毒を消し去ってしまったのである。
「ほとんど、げほ、賭けだったけどね」
「へへーん! あたし、ここぞって時はちゃんと賭けに勝つんだよっ!」
もう、ふたりは毒などちっとも恐れない。
「リン、あいつらにありったけの魔法を叩き込んであげて!」
「任せて。『降りしきる水流、湧きあがる濁流、挟み穿ち押し潰せ』!」
「あたしも負けてらんないね! 爪と剣、ぜーんぶ使って切り刻んでやる!」
魔導書から放たれた激流と、爪と剣の斬撃の嵐が、ハンター達を襲った。
「「どわあああああ!?」」
ダンテに鍛えられた猫耳少女達の実力は、不意打ちでしか敵にダメージを与えられないハンターよりもずっと上だ。
ただでさえ減っていた敵の数が、彼女達の攻撃で瞬く間に減っていく。
このままいけば、数分もしないうちにハンターは全滅するだろう。
「ガキ共……だったラ、もう一度毒を吸わせてやろウ!」
そうはさせまいと、ようやく顔から手を離したテミスが、床を殴りつけて毒を放出した。
再び緑色の毒が空気に漂い、セレナやリンの体へと入ってゆく。
「どうダ、さっきよりもずっと濃い毒ダ! モンスターでも即死すル……」
「こんなの、もう効かないっつーの!」
「ぶぐォ!?」
ところが、セレナ達に毒はすっかり通用しなくなっていた。
彼女に顔面を殴られ、今度は血を噴水のように撒き散らかして倒れ込んだテミスの毒は、すでに何の効果もふたりにもたらさなくなっていたのだ。
おまけにテミスは、彼女達の強さを過小評価していた。
「セレナ、ザコはもう全部やっつけたよ」
数分ももたず、ハンター達はリンの隣で山積みになってのびていた。
激流に呑まれたり、虎に燃やされたりした連中は、当分目を覚まさないだろう。
「バ、バカナ……!」
肌がべろんべろんにめくれた顔で驚愕するテミスを、セレナが嘲笑った。
「それにしても、デカい図体しといて頼るのが毒だなんて、あんたの性格丸見えじゃん! ヒキョーでヒクツで、不意打ちしかできないオクビョー者だよ!」
「な、何ヲ……」
「どうせなら、毒なんか捨てて正々堂々と戦ったらどう!? それもできないなら、闇ギルドもハンターもたいしたことないね!」
セレナに煽られたテミスは、ゆらりと立ち上がり、ファイティングポーズをとった。
「……い、いいだろウ……俺の自慢の拳デ、どれだけ強いか理解させてやル――」
きっと、彼は自慢の剛腕で、セレナくらいの小娘なら殴り殺せると思っていたに違いない。
もっとも、往々にして悪党の思い通りにことは運ばないものだ。
「――大聖霊『ミカエラ』!」
特に――正義と愛を信じる聖霊術師がいるのなら、なおさらだ。
「えげッ」
汚い悲鳴と共に、天から降り下ろされた金色の拳が、テミスを殴り潰した。
下劣な毒使いを潰れたカエルのようにしてしまったのは誰か、明白だ。
「……オフィーリア?」
背後に巨大な天使聖霊の『ミカエラ』を従える、オフィーリア。
彼女の目は、これまで誰も見たことがないくらい――セレナがオフィーリアの年齢について言及した時よりもずっと、怒りに満ちていた。
「卑劣な手段で人を傷つける邪悪を……聖霊術師は、許しませんッ!」
そして彼女の咆哮は、もはや悪党の存在そのものすら許さなかった。
天使が鬼の形相になり、テミスにラッシュを叩き込んだ。
「ミカミカミカミカミカミカミカミカミカミカァーッ!」
「ごばぎゃああああああああああッ!?」
ミカ、と叫ぶたびに体に直撃する拳の破壊力は、剣も魔法も、絶対に及ばない。
「裁くのは――私の聖霊ですッ!」
オフィーリアがびしっと決めると、天使の渾身の一撃が、ついに床を突き破ってテミスを完全に撃破してしまった。
砕けた木材の遥か下までめり込んだあの極悪人がどうなったか、考えただけでセレナとリンは冷や汗が止まらなかった。
「……い、生きてる、よね?」
「多分……死んでても、驚かないけど……」
顔を見合わせるふたりの前で、天使を消し去ったオフィーリアがにっこりと笑った。
「人が集まってきましたね……では、『竜王の冠』の皆さんを助けに行きましょうか♪」
「「う、うん……」」
確かに、宿の外から人の声が聞こえてきたが、とても笑顔で返せる気分ではない。
この夜、セレナ・ソーンダーズとリン・ミリィは心から誓った。
もう二度と――オフィーリアを怒らせたり、年齢をイジったりしない、と。
「……おイ、どうしタ? もしかしテ、毒で死んだカ?」
「ボスの毒は、全身に回ればモンスターでも指一本動けなくしますからね」
「女どもはいい奴隷になると思ったんだがなあ」
テミスもハンター連中も、毒をまともにくらった敵がどうなるかを知っていたから、どうせ気を失ったか、死んだのだろうと思った。
いずれにしても、動かないのならどちらでもいい。
キッチンの地下から続く、冒険者用の檻に3人を叩き込むべく、テミスは手始めにセレナに近寄って手を伸ばした。
「まあいイ。こいつらはもともト、売り物にするつもりも――」
――だが、彼の行いは大きな間違いだった。
セレナの顔を覗き込もうとして、彼女を仰向けにした途端、テミスの目を閃光が奔った。
「――あッ」
いや、違う。
振り向きざまに薙がれたセレナの爪が、テミスの顔の皮を切り裂いたのだ。
「ア、ア、ああがあああああああアァッ!?」
絶叫と共に、テミスは血が泡のように噴き出る顔を両手で押さえた。
そしてそれが――魔導書を片手に立ち上がり、赤い魔力を迸らせるリンの、反撃のきっかけだった。
「『燃え盛る猛虎、喉に噛みつき食い破れ』!」
彼女が流暢に呪文を唱えると、魔導書から炎で生み出された虎が現れる。
真っ赤な猛獣は唸り声をあげるよりも早く、ハンターめがけて飛びかかった。
「ぎゃああ!?」
「虎だ、どこから……ひぎィ!」
ただ凶暴なだけでなく、全身が燃えている虎の攻撃を受ければ、いかに筋骨隆々なハンターでも逃げ回るしかない。
当然、虎はひとりも逃すつもりはなく、全員を追いかけ回して噛みつき、引き裂く。
「こ、このガキ……なんデ、俺の毒を受けたのニ……!?」
先ほどとは打って変わって窮地に追い詰められ、顔を覆って茫然とするテミスの前に、すっかり健康な顔色を取り戻したセレナとリンが仁王立ちしていた。
「オフィーリア特製クッキーのおかげだよ! 色んな薬草や香草をありったけ混ぜ込んだクッキーが、毒を中和したんだ!」
セレナの言う通り、彼女達を救ったのは、あのクッキーだ。
どの薬草、あるいはどの香草が効果を発揮したのかはさっぱりだが、山ほどのそれらが入ったクッキーならば、そのうちひとつは効くだろうと、セレナは確信した。
果たして、彼女の一世一代のギャンブルは大勝利の結果に終わった。
ひとつ、またはいくつかの薬草が、セレナ達の毒を消し去ってしまったのである。
「ほとんど、げほ、賭けだったけどね」
「へへーん! あたし、ここぞって時はちゃんと賭けに勝つんだよっ!」
もう、ふたりは毒などちっとも恐れない。
「リン、あいつらにありったけの魔法を叩き込んであげて!」
「任せて。『降りしきる水流、湧きあがる濁流、挟み穿ち押し潰せ』!」
「あたしも負けてらんないね! 爪と剣、ぜーんぶ使って切り刻んでやる!」
魔導書から放たれた激流と、爪と剣の斬撃の嵐が、ハンター達を襲った。
「「どわあああああ!?」」
ダンテに鍛えられた猫耳少女達の実力は、不意打ちでしか敵にダメージを与えられないハンターよりもずっと上だ。
ただでさえ減っていた敵の数が、彼女達の攻撃で瞬く間に減っていく。
このままいけば、数分もしないうちにハンターは全滅するだろう。
「ガキ共……だったラ、もう一度毒を吸わせてやろウ!」
そうはさせまいと、ようやく顔から手を離したテミスが、床を殴りつけて毒を放出した。
再び緑色の毒が空気に漂い、セレナやリンの体へと入ってゆく。
「どうダ、さっきよりもずっと濃い毒ダ! モンスターでも即死すル……」
「こんなの、もう効かないっつーの!」
「ぶぐォ!?」
ところが、セレナ達に毒はすっかり通用しなくなっていた。
彼女に顔面を殴られ、今度は血を噴水のように撒き散らかして倒れ込んだテミスの毒は、すでに何の効果もふたりにもたらさなくなっていたのだ。
おまけにテミスは、彼女達の強さを過小評価していた。
「セレナ、ザコはもう全部やっつけたよ」
数分ももたず、ハンター達はリンの隣で山積みになってのびていた。
激流に呑まれたり、虎に燃やされたりした連中は、当分目を覚まさないだろう。
「バ、バカナ……!」
肌がべろんべろんにめくれた顔で驚愕するテミスを、セレナが嘲笑った。
「それにしても、デカい図体しといて頼るのが毒だなんて、あんたの性格丸見えじゃん! ヒキョーでヒクツで、不意打ちしかできないオクビョー者だよ!」
「な、何ヲ……」
「どうせなら、毒なんか捨てて正々堂々と戦ったらどう!? それもできないなら、闇ギルドもハンターもたいしたことないね!」
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きっと、彼は自慢の剛腕で、セレナくらいの小娘なら殴り殺せると思っていたに違いない。
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「――大聖霊『ミカエラ』!」
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「えげッ」
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ミカ、と叫ぶたびに体に直撃する拳の破壊力は、剣も魔法も、絶対に及ばない。
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「人が集まってきましたね……では、『竜王の冠』の皆さんを助けに行きましょうか♪」
「「う、うん……」」
確かに、宿の外から人の声が聞こえてきたが、とても笑顔で返せる気分ではない。
この夜、セレナ・ソーンダーズとリン・ミリィは心から誓った。
もう二度と――オフィーリアを怒らせたり、年齢をイジったりしない、と。
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