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おっさん、A級冒険者の闇を暴く

決戦、開始!

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 アポロスの顔が、いよいよモンスターの如く醜悪な表情に染まった。
 きっと、他でもない弟が率いるハンターに掴まった時の屈辱くつじょくを思い出しているのだろう。

「『竜王の冠ドラゴンクラウン』を捕らえたって……アポロスのパーティーなのに!?」

 セレナだけでなく、リン達が驚くのも無理はなかった。

「テミスがいたなら、そんなヘマはしなかっただろうな。恐らく、こいつの部下が事情も知らずに、宿の外で捕まえてきたんだろ」
「どこかに逃がせばよかったのに」
「そうもいかない理由がある。誰かが抵抗して、テミスの顔を見たとかな」

 ダンテがテミスに視線をぶつけると、彼の顔も兄のように歪んだ。

「……!」

 白いマスクの中にあったのが、頼れるリーダー、アポロスに似通った顔。
 仮にパーティーメンバーであっても、アポロスに不信感を抱くのは当然だし、そんな仲間を真っ先にテミスが殺すのも当然だったに違いない。

「顔を見たやつを殺しても、テミスはたちまち疑心暗鬼ぎしんあんきに陥るに違いない。アポロスも自分とテミスの関係性を知られれば、一巻の終わりだ」

 もっとも、誰が顔を見たか、真相に気づいたかをあぶり出すのは至難しなんわざだ。
 そこで粗野そやなアポロスとテミスは、何よりも簡単な手段に頼ることにした。

「だから……パーティー全員を殺すことにした。一番簡単な解決手段だ」

 所属パーティー『竜王の冠』の抹殺だ。
 信じられないほどおぞましい解決法を聞き、オフィーリアが怒った。

「そんな、短絡的すぎます!」
「人を殺して済ませる簡単さを知ったら、何でもそうやって解決しようとする。人殺しってのが軒並のきなみバカなのは、それが理由だよ」

 ダンテもまた、アポロス達の保身的な考えを許すわけにはいかない。

 ハービンジャー兄弟の悪事をすべて暴露したのも、どこに逃がす気もないからだ。
「パーティーを全滅させて、ほとぼりが冷めたら、アポロスはギルドに帰るつもりだったんだろ? 『仲間を失った悲劇の冒険者』を気取ってな」

 推理を語り終えて、ダンテはやっと口を閉じた。

「……ギルドのマヌケ共は、俺様がそういえば信じるさ」

 少しばかりの沈黙を経て、アポロスが言った。
 もはやそこに、人々が恐れ、憧れるA級冒険者はいない。
 いるのは、ただの欲望にまみれた邪悪な犯罪者だ。

「証拠も証人もいなけりゃ、俺様の言葉を誰もが鵜呑うのみにしやがる! ダンテ、テメェらさえブチ殺しちまえば、A級冒険者の俺様の未来は安泰なんだよ!」

 自分が嫌われていると知っていながらここまで言えるのは、自身の権力と恐ろしさが、この1件で増すと信じて疑わないからだろう。
 あるいは、やっとギルドの人々が同情してくれると思っているからだろうか。

「……逃げられると思うなヨ‥‥‥」
「ハービンジャー兄弟は無敵だ! 今も、これからもなァ!」

 生まれながらのかすれ声で、テミスも兄の言葉に追従する。
 ゲラゲラと下品な笑い声を広間に響かせるアポロスを、ダンテ達はひたすら冷めた目で見ていた。
 もちろん、誰も彼らを無敵などと思っていない。

「確かに、悪党と手を組むなんて普通は思いつかないし、20人近いパーティーメンバーのほとんどを始末した手腕はだな」

 これまでの悪事を完璧にこなしていたなら、ダンテの評価も多少は変わったかもしれないが、アポロスの計画は穴だらけだ。

「だが、お前らはミスを犯してるぜ。エヴリンは、生きて王都にいるからよ」

 エヴリンの生存を知って、たちまちふたりの顔が驚愕に染まる。

「な、な、なんだとぉ!?」
「ぶ……部下ハ、始末したと言ってたのニ……!?」

 慌てふためく兄弟のさまは、無敵とは程遠いだろう。
 本人達がそれを察していないのも、一層滑稽こっけいさを引き立たせている。

「散々姑息こそくなマネをしておきながら、パーティーひとつ消し去るのに失敗して、都合のいい未来ばかりを妄想して……無敵だなんて、笑わせんじゃねえ」

 こんな連中を、セレナの憧れるA級冒険者でいさせていいものか。
 へらへらと笑って、冒険者ギルドに返していいものか。
 ――絶対に、許してはいけない。

「いいか――お前らはな、ふたりでひとり分にもなれない、卑怯な手を使わないと何もできない、C級以下の雑魚にすぎねえんだよ!」

 ダンテが吼えると、アポロスもテミスも、一瞬だけひるんだ。
 その隙に、背中を向けたままダンテが言った。

「セレナ、リン、オフィーリア! ここを出て、残ってるエヴリンの仲間を探せ!」
「探せって、場所なんて……」

 困り顔のセレナに、ダンテがポケットから布切れを取り出し、彼女に握らせた。

「エヴリンが着ていた服の一部だ! これと同じ匂いがする方向に、きっとまだあいつの仲間が捕まってる!」

 色んな匂いが混じった服だが、そのうちひとつでも合致する匂いがあれば、きっとこれがエヴリンの仲間のところまでセレナ達を導いてくれる。
 普段は「あたしは犬耳族じゃない」とふくれっ面を見せるセレナでも、今回ばかりは、強く頷く以外の選択肢はなかった。

「……分かった! ふたりとも、行くよ!」
「オッケー」
「はい!」

 きびすを返して洞穴ほらあなを駆けてゆく3人を、当然ハービンジャー兄弟が逃がすわけがない。

「テミス、裏口から出てあいつらを追いかけろ! 絶対逃がすなよ!」
「当然ダ」

 テミスが影の中に姿を消すと、ダンテとアポロスだけが広間に残った。
 特にアポロスは、背中の大剣を引き抜き、臨戦態勢を取っている。

「テメェの相手は俺様だぜ、ダンテ!」

 ダンテはというと、どこまでも冷めた目で彼を見ていた。
 彼自身は自分を「ダンテにとって恐るべき強敵」だと思っているのかもしれないが、ダンテからすれば取るに足らない相手だ。
 酒場で裂かれた口の傷が、うずかないのだろうか。

「……本当に何とも思わないのか? お前を、パーティーメンバーを助けてくれと俺達に依頼したのが、エヴリンでも?」
「思うわけねえだろ! 余計なことしやがって、あのクソアマ!」

 いや、そんな感傷をアポロスに期待するのが間違いらしい。
 自分に付き添ってきたパーティーメンバーにここまで言ってのける男が、一度やられた程度の失敗を反省することなどないだろう。

「俺様のやることにいちいちケチつける、邪魔なメスだったからな! 女の代わりならいくらでもいるし、テミスに今度こそ殺させてやるぜ!」
「……救いようがねえな」

 大剣を振るい、今にも攻撃を仕掛けてきそうなアポロスを前にして、ダンテはため息をついた。
 こんな男を斬れば、ナイフがさび付いてしまいそうな気がしてならなかった。
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