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おっさん、A級冒険者の闇を暴く
極悪兄弟
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「テミスが、アポロスの弟……!?」
信じられない事実を目の当たりにして、セレナ達は思わず唖然とした。
アポロスとテミスが兄弟だというのもそうだが、並び立つふたりの外見は、血がつながっていると聞かされても疑わないほど、特徴が似通っていたのだ。
赤い髪、目の色や形――体躯以外の見た目は、まさしく兄弟のそれだ。
「い、言われてみれば、ちょっと似てる……かも?」
「ダンテさん、もしかして最初から、すべて知っていたのですか?」
オフィーリアに聞かれたダンテが頷いた。
「情報自体は信頼できる筋から集めさせてたけど、確実な証拠がなかったからな。オフィーリアはともかく、余計な情報をセレナ達に共有すれば、言いふらすかもしれないだろ」
「むっ」
「ボク達、秘密は守る方だよ」
頬を膨らませる猫耳コンビに、ダンテは意地の悪い笑顔を見せる。
「そうか? じゃあ、半月前に、宿で俺が隠してたおやつを食べた犯人を教えろ。先に喋った方を許してやる」
「リンだよ!」
「セレナが食べてた」
「「あっ」」
あっさりと親友を差し出したセレナとリンを見て、彼は一層にやりと笑った。
どうやらマヌケは見つかったうえに、共犯らしい。
「……今回は、どっちも一発で許してやる」
「「いたっ!」」
ふたりに軽くげんこつをお見舞いしてから、ダンテはアポロス達に向き直った。
「さてと、待たせてすまなかったな。答え合わせを始めるとするか」
「答え合わせ、だとォ!?」
喚くアポロスの反応など予期していたかのように、ダンテが話し始める。
「テミス・ハービンジャー。お前はデカい体つきと乱暴な性格のせいで、故郷じゃ鼻つまみ者だった。実際のところ、悪事も繰り返してたみたいだしな。お前の味方なんて、小さな田舎町じゃあ、兄を除いてどこにもいなかっただろ」
恵まれた体躯に加え、粗野で人を殴るのをためらわない性格。
テミスが生まれ故郷で何をしていたかなど、容易に想像がつく。
もしもアポロスが、何度でも自分を助けてくれたのなら、テミスにとって誰よりも尊敬できる兄だと認識してしまうのも仕方ない。
「どんな時でも自分を助けてくれたアポロスを、テミスが妄信しないわけがない。そして何でもしてくれる弟の敬愛は、兄にとって都合が良かった」
「ぐっ……」
「アポロス、故郷で弟が死んだように見せかけたのは、お前だろ?」
ぎりぎりと歯軋りをするアポロスを見て、セレナが首を傾げる。
「弟が死んだ? でも、ダンテ、テミスはここに……」
「書類と墓を偽造したんだよ。どんな形でも死んでいれば、悪事が起きても、誰も死人を犯人だと決めつけないし、追いかけようともしないからな」
ここまでの情報ならば、誰もがテミスを死人だと思い込むだろう。
唯一の誤算があるとすれば、その死を喫茶店のマスターがもう一度調べたことだ。
「そしてテミスは、完全なアポロスの影になった。闇ギルドに所属して、兄から金をもらう代わりに邪魔者を始末する……マスクを被り、素性を隠して暗殺者になったんだ」
果たしてテミスが選んだ道は、闇ギルドのハンター。
そしてアポロスにとっての障害を排除する、兄の道具そのものである。
「まさか、これまでのクエストにも!?」
「ああ、テミスが関わってた。仲間の視界に入らないところで討伐対象を弱らせ、アポロスが仕留める。『竜王の冠』のクエスト成功に貢献してたわけだ」
「エヴリンさんは、このことを知っていたのでしょうか……」
「知らないだろうな。あいつどころか、仲間の誰も知らないだろうよ」
もしもテミスの協力がなければ、アポロスはB級冒険者止まりだっただろう。
それほどまでに弟の恩恵を受けていた彼が、実際のところ、A級冒険者の実力に達していないというのは、セレナ達にも予想できた。
「でも、それだけじゃないだろ? お前は人間も手にかけてたんじゃないか?」
ところが、ダンテが告げた真実だけは、今度こそ予想できなかった。
彼が語るのは、アポロスとテミスが苛立ちと怒りで顔が歪むほど、知られたくない大悪事だ。
「A級昇格に邪魔な奴、喧嘩を吹っかけてきた奴、なんとなく目障りな奴……そういった連中を始末するのも、テミスの役割だ」
「弟の方に、メリットがあるの?」
「闇ギルドのハンターは、冒険者を殺せば名声を得られる。アポロスは邪魔者が消えて、悠々と冒険者生活が送れる。最低最悪の一石二鳥だな」
そう。
同僚の冒険者も、アポロスにとっては目の上のたんこぶだった。
討伐対象のモンスターと同様に、それらもテミスに殺させてきたのだ。
自分の手を汚さず、あまつさえ邪魔だという理由だけで何人も他者を殺め続けてきた外道ぶりに、再びセレナの怒りの臨界点が突破した。
「こいつ……どうしようもないクソ野郎だよ!」
「俺もセレナに同意だな。こいつは冒険者の皮を被った犯罪者だ」
ダンテもまた、兄弟の邪悪さに顔をしかめた。
「どうした? ここまでの推理が間違ってるなら、指摘してもいいんだぜ?」
「うぐぐ、ぐう……!」
一方でハービンジャー兄弟も、指摘がほぼ当たっているのか、反論をしてこない。
「じゃあ、話を続けるか。俺達がタウランの街まで来た理由だ」
それをいいことに、ダンテは話を進めていく。
「ここからは予想だが、テミスはアポロスのヘルプだけじゃあ満足できなくなった。タウランで宿を開き、裕福な冒険者を襲う『事業』を始めた……」
闇ギルドに属している以上、冒険者のように常に成果を上げ続けなければならない。
特にテミスのように、心のどこかで名声にしがみついているところがあればなおさらだ。
タウランの街で宿を開き、泊まった冒険者を殺すか奴隷にしてしまうビジネスは、しばらくの間はうまくいっただろう。
街の住民は冒険者の所在など気にしないし、証拠は一切出てこない。
「こいつらはある日、とんでもない連中を誤って捕まえたんだ」
ところが、予想だにしない事態は、ある日急に転がり込んだのだ。
「――『竜王の冠』を、な」
兄がリーダーを務めるパーティーを獲物にするという――最悪の事態が。
信じられない事実を目の当たりにして、セレナ達は思わず唖然とした。
アポロスとテミスが兄弟だというのもそうだが、並び立つふたりの外見は、血がつながっていると聞かされても疑わないほど、特徴が似通っていたのだ。
赤い髪、目の色や形――体躯以外の見た目は、まさしく兄弟のそれだ。
「い、言われてみれば、ちょっと似てる……かも?」
「ダンテさん、もしかして最初から、すべて知っていたのですか?」
オフィーリアに聞かれたダンテが頷いた。
「情報自体は信頼できる筋から集めさせてたけど、確実な証拠がなかったからな。オフィーリアはともかく、余計な情報をセレナ達に共有すれば、言いふらすかもしれないだろ」
「むっ」
「ボク達、秘密は守る方だよ」
頬を膨らませる猫耳コンビに、ダンテは意地の悪い笑顔を見せる。
「そうか? じゃあ、半月前に、宿で俺が隠してたおやつを食べた犯人を教えろ。先に喋った方を許してやる」
「リンだよ!」
「セレナが食べてた」
「「あっ」」
あっさりと親友を差し出したセレナとリンを見て、彼は一層にやりと笑った。
どうやらマヌケは見つかったうえに、共犯らしい。
「……今回は、どっちも一発で許してやる」
「「いたっ!」」
ふたりに軽くげんこつをお見舞いしてから、ダンテはアポロス達に向き直った。
「さてと、待たせてすまなかったな。答え合わせを始めるとするか」
「答え合わせ、だとォ!?」
喚くアポロスの反応など予期していたかのように、ダンテが話し始める。
「テミス・ハービンジャー。お前はデカい体つきと乱暴な性格のせいで、故郷じゃ鼻つまみ者だった。実際のところ、悪事も繰り返してたみたいだしな。お前の味方なんて、小さな田舎町じゃあ、兄を除いてどこにもいなかっただろ」
恵まれた体躯に加え、粗野で人を殴るのをためらわない性格。
テミスが生まれ故郷で何をしていたかなど、容易に想像がつく。
もしもアポロスが、何度でも自分を助けてくれたのなら、テミスにとって誰よりも尊敬できる兄だと認識してしまうのも仕方ない。
「どんな時でも自分を助けてくれたアポロスを、テミスが妄信しないわけがない。そして何でもしてくれる弟の敬愛は、兄にとって都合が良かった」
「ぐっ……」
「アポロス、故郷で弟が死んだように見せかけたのは、お前だろ?」
ぎりぎりと歯軋りをするアポロスを見て、セレナが首を傾げる。
「弟が死んだ? でも、ダンテ、テミスはここに……」
「書類と墓を偽造したんだよ。どんな形でも死んでいれば、悪事が起きても、誰も死人を犯人だと決めつけないし、追いかけようともしないからな」
ここまでの情報ならば、誰もがテミスを死人だと思い込むだろう。
唯一の誤算があるとすれば、その死を喫茶店のマスターがもう一度調べたことだ。
「そしてテミスは、完全なアポロスの影になった。闇ギルドに所属して、兄から金をもらう代わりに邪魔者を始末する……マスクを被り、素性を隠して暗殺者になったんだ」
果たしてテミスが選んだ道は、闇ギルドのハンター。
そしてアポロスにとっての障害を排除する、兄の道具そのものである。
「まさか、これまでのクエストにも!?」
「ああ、テミスが関わってた。仲間の視界に入らないところで討伐対象を弱らせ、アポロスが仕留める。『竜王の冠』のクエスト成功に貢献してたわけだ」
「エヴリンさんは、このことを知っていたのでしょうか……」
「知らないだろうな。あいつどころか、仲間の誰も知らないだろうよ」
もしもテミスの協力がなければ、アポロスはB級冒険者止まりだっただろう。
それほどまでに弟の恩恵を受けていた彼が、実際のところ、A級冒険者の実力に達していないというのは、セレナ達にも予想できた。
「でも、それだけじゃないだろ? お前は人間も手にかけてたんじゃないか?」
ところが、ダンテが告げた真実だけは、今度こそ予想できなかった。
彼が語るのは、アポロスとテミスが苛立ちと怒りで顔が歪むほど、知られたくない大悪事だ。
「A級昇格に邪魔な奴、喧嘩を吹っかけてきた奴、なんとなく目障りな奴……そういった連中を始末するのも、テミスの役割だ」
「弟の方に、メリットがあるの?」
「闇ギルドのハンターは、冒険者を殺せば名声を得られる。アポロスは邪魔者が消えて、悠々と冒険者生活が送れる。最低最悪の一石二鳥だな」
そう。
同僚の冒険者も、アポロスにとっては目の上のたんこぶだった。
討伐対象のモンスターと同様に、それらもテミスに殺させてきたのだ。
自分の手を汚さず、あまつさえ邪魔だという理由だけで何人も他者を殺め続けてきた外道ぶりに、再びセレナの怒りの臨界点が突破した。
「こいつ……どうしようもないクソ野郎だよ!」
「俺もセレナに同意だな。こいつは冒険者の皮を被った犯罪者だ」
ダンテもまた、兄弟の邪悪さに顔をしかめた。
「どうした? ここまでの推理が間違ってるなら、指摘してもいいんだぜ?」
「うぐぐ、ぐう……!」
一方でハービンジャー兄弟も、指摘がほぼ当たっているのか、反論をしてこない。
「じゃあ、話を続けるか。俺達がタウランの街まで来た理由だ」
それをいいことに、ダンテは話を進めていく。
「ここからは予想だが、テミスはアポロスのヘルプだけじゃあ満足できなくなった。タウランで宿を開き、裕福な冒険者を襲う『事業』を始めた……」
闇ギルドに属している以上、冒険者のように常に成果を上げ続けなければならない。
特にテミスのように、心のどこかで名声にしがみついているところがあればなおさらだ。
タウランの街で宿を開き、泊まった冒険者を殺すか奴隷にしてしまうビジネスは、しばらくの間はうまくいっただろう。
街の住民は冒険者の所在など気にしないし、証拠は一切出てこない。
「こいつらはある日、とんでもない連中を誤って捕まえたんだ」
ところが、予想だにしない事態は、ある日急に転がり込んだのだ。
「――『竜王の冠』を、な」
兄がリーダーを務めるパーティーを獲物にするという――最悪の事態が。
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