追放された美少女を助けた底辺おっさんが、実は元”特級冒険者”だった件について。

いちまる

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おっさん、A級冒険者の闇を暴く

長い夜の幕開け

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「……むにゃ……」

 その日の晩、セレナはふかふかのベッドで目を覚ました。
 結局、一行はテミスの宿に泊まり、夜まで街をふらついてから戻ってきたのだ。
 特に酒場で散々飲んだセレナは、広い部屋のふわふわの布団の誘惑に勝てず、すぐに倒れ込むように眠ってしまった。
 そんな彼女がベッドから出た理由は、単にもよおしてきたからだ。

「……おしっこ……リン、起きて……」

 寝ぼけ眼でリンを探すが、灯りがついていないし、月も雲でかげっているので、聴覚を頼りにするしかない。
 ごしごしとセレナが目を擦っているうち、なぜか上ずったリンの声が返ってきた。

「セレナ……おしっこくらい、ひとりで行きなよ……」
「酒場で、お酒、飲み過ぎちゃったから……お願い、おしっこぉ……」

 普段なら、トイレまでついてきてくれるのに。
 リンがダメならオフィーリアに頼もう、と彼女が思った時だった。

「――っ!?」

 突然、背後から何者かがセレナの口を手で覆った。
 しかもそれだけではなく、彼女の背中に刃物を突き付けているようだ。

「動くなよ。お前も、お前の仲間も、全員だ」

 野太い男の声が後ろから聞こえてきて、やっとセレナは状況を理解した。
 月明かりがやっと差し込んだ部屋には、すでに彼女を脅している人物以外にも、ふたりの男が忍び込み、リンとオフィーリアを同じように抑えつけていたのだ。

「む、むぐ……!」
「リン、オフィーリア……!」

 パジャマ姿の仲間を心配するセレナをベッドに押し付けて、男が言った。

「確認しとくが、こいつらはさらって問題ないんだな?」

 リン達を拘束している連中が、彼の問いかけに答えた。

みたいに、間違った冒険者を捕まえてボスにどやされるのは勘弁だぜ。あのを追いかけ回すようなのは、二度とごめんだ」
「おいおい、あいつは死んだってことにしたろ? それにこいつらは、ボスの知り合いじゃないし、むしろあのを探しに来た連中だぜ」
「なるほど……だったら、遠慮しなくてよさそうだ」

 あの女というのはエヴリン、A級冒険者はアポロスで間違いない。
 どうやらこの連中が、『龍王の冠ドラゴンクラウン』の襲撃に関わっていると断定してもよさそうだ。

「こいつらを気絶させて、いつもの場所に運ぶぞ」

 男に無理矢理立ち上がらせられたセレナは、じたばたと騒ぐ。

「んー、んむーっ!」
「抵抗してんじゃねえ! 武器も魔導書も、全部こっちが預かったんだからよ!」

 てっきり男達は、無駄な悪あがきだと思ったのだろう。
 しかし、セレナが足掻あがいたのは、わずかでも口を塞ぐ手が離れるチャンスを生むためだ。

「女3人如きが、どうにかできると――」

 完全に油断しているらしい男達が部屋を出ようとする前に、とうとうセレナが叫んだ。

「――オフィーリアっ!」

 そしてそれが、反撃ののろしであった。
 名前を呼ばれたオフィーリアが体を思い切りひねると、パジャマの内側――恐らく太ももに挟んでいたナイフが床に落ちた。
 すると、聖霊術の光を蓄えていたナイフが、たちまち凄まじい光を解き放った。

「「うぎゃああああっ!?」」

 いきなり大量の光を浴びせられた男達は、思わず手で自身の目を覆う。
 光はすぐに収束したが、相手からすれば目を焼かれるような衝撃がはしっただろう。

「な、なんだぁ!?」
「目が、目がぁ~っ!」

 一方でセレナ達は、まるでこうなると知っていたかのように、機敏に動き出した。

「爪でもくらってろ、ヘンタイっ!」
「あばああああああっ!?」

 セレナが長く伸ばした爪でひっかくと、男の顔がすだれのように裂かれ、血が吹き出す。

「リン、魔導書っ!」

 その隙に、彼女は部屋の奥にどけられていた魔導書を尻尾で掴み、リンに投げ渡した。

「サンキュー、セレナ……『動け、動け、飛び回り掻き乱して骨を折れ』!」

 男達はやっと手を顔から離したが、リンの魔法によって操られた本や棚、テーブルが飛び交ってくる状況には対応できなかった。
 いかに屈強な体つきでも、連続して木材が激突すればひとたまりもない。

「痛だ、いだだだ!?」
「本と家具がひとりでに……ぐはっ」

 とどめとばかりにテーブルを顔面にぶつけられ、ふたりの男が気絶した。

「よし、残ってるのはこいつだけだね。リン、縄で縛っておいて」
「『土で編まれた紐、我が命ずまで切れるな、解けるな』」

 床に転がる男の体を、光る魔導書からずるりと這い出た土の縄が縛り上げる。
 もがいてもほどけない強固な縄をどうにかしようと、無駄な抵抗を続ける男の前に、セレナ達が仁王立ちした。

「……さてと。あんた達、誰の命令であたし達を襲ったの?」
「ふざけんじゃねえよ! お前ら、どうして武器を隠し持って……ぶぐっ!?」

 血を垂れ流しながら喚く男の顔に、セレナが蹴りを入れる。
 鼻が折れる音がしたが、尋問じんもんに支障はきたさないだろう。

「聞いてるのはこっちなんだけど。まあ、答えてあげる」

 セレナ達が互いに頷くと、リンとオフィーリアがパジャマを脱いだ。
 てっきり下着姿があらわになるかと思ったが、なんと出てきたのはいつもと同じ、冒険者として活動する格好だ。

「あたしの頼れるがね、教えてくれたんだ。もしも宿で誰かが襲ってくるなら真夜中で、部屋に忍び込んで反撃の手段を奪うに違いないって」
「な、なんだと!?」
「だから、オフィーリアには寝たふりをしてもらって、仕込み武器を用意したんだ。後は光で敵の目をくらませて、反撃したってワケ」

 つまり、一行は敵の襲撃を予測していて、リン達は捕まったふりをしていたのだ。
 ちなみにセレナだけは、眠気に勝てず爆睡ばくすいしていた。
 仲間達はきっと分かっているが、あえて指摘しないだけだ。

「さてと、質問に戻るよ。あんた達、『闇ギルド』のハンターなの?」

 そんなセレナが顔を寄せて睨むと、男がえた。


「うっせえよ、クソガキ! さっさと解かねえとぶっ殺すぞ!」
 当然、セレナがこの程度で怯えるわけがない。
 ふうん、と軽く受け流した彼女は、リンと何かを話し合い、ごそごそと何かを漁り出した。

「どうしますか、セレナさん?」

 オフィーリアに問われたセレナとリンの回答は、ただひとつ。
 ばきり、とへし折った椅子の脚――角材を構えたふたりがやることも、ただひとつ。

「――レッツ・ボコボコターイム☆」
「あんぎゃあああああっ!?」

 獣人特有の牙を見せる笑顔を浮かべて、セレナ達は一斉に男を殴りつけた。
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