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おっさん、A級冒険者の闇を暴く
冒険者狩り
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「『闇ギルド』?」
「『ハンター』?」
その謎の連中の正体を知っているのは、『セレナ団』だとダンテだけのようだ。
オフィーリアも知らないような連中について、エヴリンの代わりにダンテが語り出した。
「……お前ら、人に聞かれたくないような仕事を頼むなら、誰がいい? 強盗、誘拐、麻薬の密輸、人身売買に殺人……犯罪を誰かにやってほしい時は?」
「うーん、やりたいと思ったことがないから、分かんないや」
セレナは肩をすくめるだけだったが、オフィーリアは何かを悟ったらしい。
「それらの代行人が闇ギルドである、と?」
「察しがいいな、オフィーリア。その通りだ」
指を鳴らし、ダンテは話を続けた。
「闇ギルドは冒険者におけるギルドのように、犯罪者にクエストとして犯罪行為を依頼する組織だ。決して世間の表舞台には出ない、最悪のシンジケートだよ」
ダンテの説明を聞いて、セレナとリンは唾を飲み込んだ。
刹那の衝動に駆られたり、のっぴきならない事情があったりといった理由以外で、犯罪を自らの手を用いて行うのは、当然だが相当なリスクだ。
だが、それらを代行してくれる組織があるとすれば。
報酬を支払えば、冒険者ギルドで突っぱねられるどころか、騎士団にしょっ引かれてしまうような恐ろしい仕事をこなしてくれるギルドがあるとすれば。
それが、ダンテの言う『闇ギルド』なのだ。
「中でも『ハンター』は、対人間に特化した連中の総称だ。並の冒険者がこいつらに狙われたら、身ぐるみ剥がれるどころか、骨の一本まで売り飛ばされるぜ」
おまけにアポロスやエヴリンを狙ったのは、闇ギルドでも相当危険な集団らしい。
「そんな連中が、エヴリンを襲ったの……?」
「ええ、そうよ。私達はアバランテ雪山の道中、タウランの街に泊まっている時にやられたわ」
「タウラン……『宿の街』か」
王都からアバランテ雪山まで、翼竜の背に乗って空を移動する『ワイバーン航空』を使ってもひと月はかかるし、馬車であればふた月以上の道程を要する。
彼らはまだ目的地にもついていなかったのだと、ダンテは納得した。
一方、セレナ達は別のところが気になったようだ。
「何それ?」
「宿屋しかない街みたいだね」
「まあ、そんなところだ」
宿の街について、今は多く語る必要がないと思い、彼は軽く話を流した。
ダンテが視線を向けると、エヴリンが再び口を開いた。
「寝込みを襲われた私達は、誰も抵抗できなかった。アポロスの姿はいつの間にかなくなっていたけど、連中のひとりが確かに彼を捕らえたと言っていたわ」
「捕らえた、か。あいつの性格上、大人しくしているとは思えないがな」
「全員が拘束されて、タウランから半日ほど離れた隠れ家に連れていかれて……20人いた仲間のうち、6人は抵抗を理由にその場で殺された」
オフィーリアが、思わず目を見開いて口を押さえた。
30年前であれば、こんな残虐な所業を行う人間の存在など想像もしなかっただろう。
「残った5人は奴隷市場に売りに出されたわ。今頃、どこかの富裕層の下で、死んだ方がましだと思えるほどの仕打ちを受けているはずよ」
「ひどい……!」
仲間のおぞましい末路を聞き、流石のセレナやリンも義憤に駆られる。
特にオフィーリアは、珍しく顔に犯罪者への嫌悪が見て取れる。
「王国では奴隷への権利が許されているはずです。そこまで残酷な目には……」
「残念だが、ふたりとも。裏の界隈から奴隷を買うような輩が、法を守るわけがない」
ダンテがそう言うと、彼女は俯いた。
エヴリンも同様に、仲間の身を案じているようだった。
「私も同じように、奴隷の焼きごてを押されそうになった時……運よく、相手が油断してくれたおかげで、敵の指を噛み千切って逃げ出せたのよ」
「タウランからここまで、歩けば相当かかるぞ。よくあの傷で生きて帰ってきたな」
「まさか、出発してすぐに捕まって、今までずっと閉じ込められてたの!?」
「冒険者は鍛えている分、高く売れるから、ハンターは一番高額を提示する連中のところで売りたがる。今回は人数が多いから、処理に時間がかかったんだろう」
「それに、奴らは足がつかないように、奴隷の売り先を何回も変えていたわ」
力と強さ意外に何の興味もないはずの女の目に映るのは、仲間の無惨なありさまだ。
行方不明になったアポロスも、自身を姉御と呼んでくれていたパーティーメンバーも、今この瞬間に死んでいるかもしれない。
あるいは、死んだ方がましだと叫んでいるかもしれない。
こんな状況になって初めて、エヴリンはメンバーの大切さを痛感していた。
「……アポロスだけじゃない、私を慕っていた冒険者は、きっとまだ売られずにタウランの周辺で幽閉されているはずよ。彼らを死なせて平然といられるほど、私は……」
唇を噛みしめるエヴリンに、セレナとリンが身を乗り出した。
「あたし達を見殺しにしようとしといて、よく言うよねー」
「わ、分かってるわよ! 都合のいいワガママだってのは、百も承知だわ!」
思わずエヴリンが大声で反論するような、デリカシーの欠片もないふたりの言い分をダンテが咎めないのは、これが彼女らなりの慰め方だと知っているからである。
オフィーリアもまた、おどけているだけだと分かっている。
なにより、エヴリンが一番、彼女らの態度をありがたいと思っていた。
許されるよりもずっと、この関係のままの方が話しやすいからだ。
「……だとしても、冒険者としてではなく、ひとりの依頼人のエヴリン・ボロウとしてクエストを申請させてちょうだい。セレナ団、貴女達に受けてほしいの」
痛む体を動かし、4人に向き直り、エヴリンは深々と頭を下げた。
「『竜王の冠』の仲間を――助けてあげて」
ダンテはセレナの肩に手を置いた。
「どうするんだ、セレナ?」
「そんなの、決まってるよ!」
振り向いた彼女の表情を見て、ダンテもリンも、オフィーリアも確信した。
「任せて、エヴリン! あたし達『セレナ団』が、絶対に助け出してみせるからっ!」
歯を見せて笑い、親指を立てたセレナこそが――真に強い冒険者であると。
顔を上げたエヴリンすらも、心の中でもう、彼女には敵わないと悟っていた。
依頼人:エヴリン・ボロウ
クエストランク:B
詳細:闇ギルドに誘拐された『竜王の冠』パーティーメンバーの救出
報酬:2万エメト+クエストに必要な旅費および宿泊費
備考①:本クエスト達成を以って、ギルドは『セレナ団』メンバーの昇格を認める。
備考②:仲間を頼んだわよ、『セレナ団』。
「『ハンター』?」
その謎の連中の正体を知っているのは、『セレナ団』だとダンテだけのようだ。
オフィーリアも知らないような連中について、エヴリンの代わりにダンテが語り出した。
「……お前ら、人に聞かれたくないような仕事を頼むなら、誰がいい? 強盗、誘拐、麻薬の密輸、人身売買に殺人……犯罪を誰かにやってほしい時は?」
「うーん、やりたいと思ったことがないから、分かんないや」
セレナは肩をすくめるだけだったが、オフィーリアは何かを悟ったらしい。
「それらの代行人が闇ギルドである、と?」
「察しがいいな、オフィーリア。その通りだ」
指を鳴らし、ダンテは話を続けた。
「闇ギルドは冒険者におけるギルドのように、犯罪者にクエストとして犯罪行為を依頼する組織だ。決して世間の表舞台には出ない、最悪のシンジケートだよ」
ダンテの説明を聞いて、セレナとリンは唾を飲み込んだ。
刹那の衝動に駆られたり、のっぴきならない事情があったりといった理由以外で、犯罪を自らの手を用いて行うのは、当然だが相当なリスクだ。
だが、それらを代行してくれる組織があるとすれば。
報酬を支払えば、冒険者ギルドで突っぱねられるどころか、騎士団にしょっ引かれてしまうような恐ろしい仕事をこなしてくれるギルドがあるとすれば。
それが、ダンテの言う『闇ギルド』なのだ。
「中でも『ハンター』は、対人間に特化した連中の総称だ。並の冒険者がこいつらに狙われたら、身ぐるみ剥がれるどころか、骨の一本まで売り飛ばされるぜ」
おまけにアポロスやエヴリンを狙ったのは、闇ギルドでも相当危険な集団らしい。
「そんな連中が、エヴリンを襲ったの……?」
「ええ、そうよ。私達はアバランテ雪山の道中、タウランの街に泊まっている時にやられたわ」
「タウラン……『宿の街』か」
王都からアバランテ雪山まで、翼竜の背に乗って空を移動する『ワイバーン航空』を使ってもひと月はかかるし、馬車であればふた月以上の道程を要する。
彼らはまだ目的地にもついていなかったのだと、ダンテは納得した。
一方、セレナ達は別のところが気になったようだ。
「何それ?」
「宿屋しかない街みたいだね」
「まあ、そんなところだ」
宿の街について、今は多く語る必要がないと思い、彼は軽く話を流した。
ダンテが視線を向けると、エヴリンが再び口を開いた。
「寝込みを襲われた私達は、誰も抵抗できなかった。アポロスの姿はいつの間にかなくなっていたけど、連中のひとりが確かに彼を捕らえたと言っていたわ」
「捕らえた、か。あいつの性格上、大人しくしているとは思えないがな」
「全員が拘束されて、タウランから半日ほど離れた隠れ家に連れていかれて……20人いた仲間のうち、6人は抵抗を理由にその場で殺された」
オフィーリアが、思わず目を見開いて口を押さえた。
30年前であれば、こんな残虐な所業を行う人間の存在など想像もしなかっただろう。
「残った5人は奴隷市場に売りに出されたわ。今頃、どこかの富裕層の下で、死んだ方がましだと思えるほどの仕打ちを受けているはずよ」
「ひどい……!」
仲間のおぞましい末路を聞き、流石のセレナやリンも義憤に駆られる。
特にオフィーリアは、珍しく顔に犯罪者への嫌悪が見て取れる。
「王国では奴隷への権利が許されているはずです。そこまで残酷な目には……」
「残念だが、ふたりとも。裏の界隈から奴隷を買うような輩が、法を守るわけがない」
ダンテがそう言うと、彼女は俯いた。
エヴリンも同様に、仲間の身を案じているようだった。
「私も同じように、奴隷の焼きごてを押されそうになった時……運よく、相手が油断してくれたおかげで、敵の指を噛み千切って逃げ出せたのよ」
「タウランからここまで、歩けば相当かかるぞ。よくあの傷で生きて帰ってきたな」
「まさか、出発してすぐに捕まって、今までずっと閉じ込められてたの!?」
「冒険者は鍛えている分、高く売れるから、ハンターは一番高額を提示する連中のところで売りたがる。今回は人数が多いから、処理に時間がかかったんだろう」
「それに、奴らは足がつかないように、奴隷の売り先を何回も変えていたわ」
力と強さ意外に何の興味もないはずの女の目に映るのは、仲間の無惨なありさまだ。
行方不明になったアポロスも、自身を姉御と呼んでくれていたパーティーメンバーも、今この瞬間に死んでいるかもしれない。
あるいは、死んだ方がましだと叫んでいるかもしれない。
こんな状況になって初めて、エヴリンはメンバーの大切さを痛感していた。
「……アポロスだけじゃない、私を慕っていた冒険者は、きっとまだ売られずにタウランの周辺で幽閉されているはずよ。彼らを死なせて平然といられるほど、私は……」
唇を噛みしめるエヴリンに、セレナとリンが身を乗り出した。
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思わずエヴリンが大声で反論するような、デリカシーの欠片もないふたりの言い分をダンテが咎めないのは、これが彼女らなりの慰め方だと知っているからである。
オフィーリアもまた、おどけているだけだと分かっている。
なにより、エヴリンが一番、彼女らの態度をありがたいと思っていた。
許されるよりもずっと、この関係のままの方が話しやすいからだ。
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痛む体を動かし、4人に向き直り、エヴリンは深々と頭を下げた。
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ダンテはセレナの肩に手を置いた。
「どうするんだ、セレナ?」
「そんなの、決まってるよ!」
振り向いた彼女の表情を見て、ダンテもリンも、オフィーリアも確信した。
「任せて、エヴリン! あたし達『セレナ団』が、絶対に助け出してみせるからっ!」
歯を見せて笑い、親指を立てたセレナこそが――真に強い冒険者であると。
顔を上げたエヴリンすらも、心の中でもう、彼女には敵わないと悟っていた。
依頼人:エヴリン・ボロウ
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詳細:闇ギルドに誘拐された『竜王の冠』パーティーメンバーの救出
報酬:2万エメト+クエストに必要な旅費および宿泊費
備考①:本クエスト達成を以って、ギルドは『セレナ団』メンバーの昇格を認める。
備考②:仲間を頼んだわよ、『セレナ団』。
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