追放された美少女を助けた底辺おっさんが、実は元”特級冒険者”だった件について。

いちまる

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おっさん、A級冒険者の闇を暴く

聖霊術師のお手製クッキー♪

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 王都冒険者ギルドで今、一番注目されている冒険者パーティーはどこか。
 そう聞かれれば、ほとんどの冒険者や、王都の住民はこう答えるだろう。

「お、『セレナ団』の登場だ!」

 新進気鋭の『セレナ団』であると。
 金髪と黒髪の猫耳族コンビのセレナとリン、ふたりを支えるおっさん冒険者のダンテの名声は、同業者のほとんどに広まっていた。

「仲間も増えたらしいし、いまや王都ギルドのニューホープってところか」
「もうじき『昇格クエスト』も張り出されるし、B級冒険者への昇格は確実だろうよ!」

 3人が近くのテーブルに腰かけるまで、嬉しいこそこそ話が耐えない。
 そんな現状は、目立ちたがりのリーダー、セレナにとってたまらなく嬉しかった。

「う~ん! 何度聞いても、あたし達を褒める声はサイコーだねっ!」
「もう誰も、ボクらを子供だなんて言わないのはサイコー」

 にやにやと顔を見合わせて笑うふたりの向かい側で、ダンテが腕を組んで頷く。

「C級冒険者は、普通何度かクエストを失敗するのが当たり前だ。でも俺達は、まだ一度も失敗してないからな。注目が集まるのも当然だな」
「もしかしたら、『王都中央新聞社セントラルジャーナル』から取材が来ちゃうかも!?」
「気が早いっての。そういうのは、A級冒険者になってからだ」

 とはいえ、ダンテにとっても、セレナ達がA級冒険者になるという大きな夢に向かって歩みを進めているのが嬉しいのは事実だ。
 しかもつい最近、もうひとつ嬉しい出来事も起きていた。

「皆さん、お待たせしました」

 ダンテ達に遅れてギルドに入ってきた、アッシュグレーの長髪と黒づくめの格好の女性。
 見た目は20代、中身は50代のおっとり聖霊術師、オフィーリア・ブルームだ。
 幽霊屋敷調査のクエストでダンテ達に助けられた彼女は、パーティーに加入して半月も経つと、すっかりメンバーの一員として馴染なじんでいた。

「オフィーリア! 遅刻なんて珍しいね、どうしたの?」
「ごめんなさい、次に受けるクエストで持っていく予定だった保存食の試食をしていたら、つい待ち合わせに遅れてしまって……」

 少し息を切らしながら椅子に腰かけたオフィーリア。
 一方でセレナとリンは、思わず身を乗り出した。

「保存食!?」
「それ、美味しいの!?」

 獣人の中でも、猫耳族は食い意地が張っている。
 セレナとリンは、特に食いしん坊だ。

「聖霊術を学んでいた頃は、食事をる機会があまりなかったので、山奥でよく作っていたものです。よかったら、味見してみますか?」
「え、持ってきてるのっ?」
「はい、ここに♪」

 オフィーリアがローブのポケットから小袋を取り出すと、ふたりの目が輝いた。
 おばあちゃんの作ってきたお菓子は絶対に美味しいというのが相場だと、セレナもリンも、楽しそうに見つめるダンテも知っているからだ。

「20種類の山菜や薬草を混ぜ込んだ自慢のクッキー、お腹いっぱい召し上がれ♪」

 にこにこと笑いながら、オフィーリアは包みをテーブルの上で開いた。

「わーい、いただきま――」

 セレナ達は早速、中のお菓子を手に取ろうとした。
 しかし、できなかった。



((――ウンコだ!))

 クッキーの見た目が――明らかに、固形の大便だったからだ。
 緑や黒の差し色が目立つ濃い茶色や、しっかり焼き上がっていない半生の質感、そして先端が千切れたような細長い形状。
 どれだけフォローしようとしても、ウンコ以外に形容できない見た目なのだ。

「……あのさ、オフィーリア、これ……」
「師匠直伝のクッキーです。ポーションの代わりにもなるくらい耐毒効果と体力回復効果に優れていますから、冒険者活動にはうってつけですよ♪」
「そ、そうじゃなくて、この形と色が……」
「薬草の色が気になるかもしれませんが、味は保証します、もぐもぐ……」

 ドン引きするセレナやリン、ダンテの前で、オフィーリアはクッキーをつまんで口に運ぶ。
 ナイスバディの美人がウンコを食べるという凄まじい絵面だが、当の本人はほっぺたが落ちそうなほど幸せそうな表情を浮かべている。

美味ボーノウ、相変わらず美味しいです!」

 しかもオフィーリアの出身地であるギローヴァ公国の言葉も出てくるくらいなのだから、彼女にとっては本当に美味らしい。
 世間には、見た目はひどいが味が良い料理は山ほどある。
 これもそのうちのひとつなのかもしれないと信じ、3人はクッキーを手に取った。

(もしかして、見た目はともかく味はいいのかも?)
(これはクッキー、これはクッキー、ウンコじゃない、ウンコじゃない)
(とりあえず1枚は食っとくか)

 なぜか生温かいクッキーを口元まで運び、ダンテ達は意を決し、食べた。

((――まずっ!?))

 案の定、クッキーはまずかった。
 ダンテはどうにか咀嚼そしゃくできているが、セレナとリンは明らかに口の端にクッキーを押しのけており、とても噛み砕ける様子ではない。

(口の中で色んな苦味が大暴れして、嫌な爽やかさが鼻を突き抜けるっ!)
(食感もべちゃべちゃしてるし、歯の間に詰まって取れない、気持ち悪いっ!)

 例えるなら、臭みと苦みの詰まった香草をまるかじりしているようなものか。
 まだまだ舌が子供のふたりにとっては、顔が青ざめるほどの劇薬だ。

「……お、オフィーリア……このクッキー、ちょっと、ちょっと……」
「……苦い、かも……」

 そんな彼女達をよそに、オフィーリアはクッキーをぱくぱく食べてゆく。

「確かにビターな味なので、おふたりにはちょっぴり苦いかもしれませんね。でも、大人になると、この苦味がクセになるんですよ♪」
「「ちょっぴり……?」」

 絶句するセレナとリンのそばで、ダンテは心の中でツッコんでいた。

(大人だけど言わせてもらうぞ! こんなもん、2枚も3枚も食ったら舌がバカになる! オフィーリアの味覚はどうなってんだ!?)

 3人とも、彼女がいわゆる『メシマズ』である可能性を感じ取っていた。
 とにもかくにも、オフィーリアに料理を作らせてはいけないのだけは間違いない。

「昔は朝昼晩とこのクッキーを……あら、なんだか騒がしいですね?」

 ダンテを含めた面々が、そう確信した時だった。
 オフィーリアの視線がクッキーではなく、ギルドの玄関に向いた。
 いや、彼女だけではなく、ギルドにいるあらゆる人間がそこを見ている。

「ダンテ、あれ!」

 セレナが椅子から立ち上がり、指さした先に、それはいた。
 ぼろぼろの雑巾よりも薄汚れて、血に塗れた、今にも死にそうな人間がギルドの扉にもたれかかっていた。
 しかもその人物を、ダンテ達は知っていた。

「……エヴリン……!」

 ダンテ達のライバルパーティー、『竜王の冠』サブリーダーのエヴリンだ。
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