追放された美少女を助けた底辺おっさんが、実は元”特級冒険者”だった件について。

いちまる

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おっさん、幽霊屋敷に行く

4人で目指せ、屋敷の出口!

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「ところでダンテ、その人は誰?」

 やっとオフィーリアの存在に気付いたセレナ達に、ダンテが言った。

「幽霊屋敷の住人だ」

 彼の説明は端的たんてきだが、あまり良くなかった。
 というのも、ふたりが揃って顔を青くしたからだ。

「ひーっ! じゃあ、この人もお化け!?」
「ナムアミダブツナムアミダブツ……!」
「そんなわけないだろ。れっきとした人間だ」

 震えながら、手をすり合わせておまじないを唱えるふたりに苦笑いをして、オフィーリアはぺこりと頭を下げた。

「初めまして、オフィーリア・ブルームと申します。貴女達がセレナさんと……リンさん、でよろしいでしょうか?」

 丁寧な態度を見たセレナとリンの表情が、恐怖から好奇心へと変わってゆく。

「ボク達のこと、知ってるの?」
「ダンテさんからお聞きしましたので。彼はとても、おふたりを心配していましたよ」
「お、おい! 言うなよ、こいつらが調子に乗るだろ!」

 オフィーリアとしては悪意がなく、純粋に事実を告げただけだ。
 しかし、ダンテからすればとてもまずかった。

「へー、ふーん、ほほーう♪」
「ダンテ、さみしがりだもんね。うりうり」

 彼が予想していた通り、セレナ達は調子に乗って、ダンテをひじで小突きだした。
 いつもはそっけないダンテが、実はパーティーメンバーの身を案じていたのだと知って、このふたりがにやにやと笑わないわけがないのだ。

「うるせえよ、さっきまでレイスにビビりまくってたくせに!」

 ふたりの頭に軽くげんこつをお見舞いして、ダンテは廊下の奥を見据える。

「さっさとここを出ないと、いつまでもモンスターが湧いてくるぞ!」

 ダンテの言う通り、テラーハウスは早くも彼らを追いかけてむさぼり尽くす死角、レイスを大量に差し向けてきた。

『『オオォォ……!』』
「「ぎゃああぁーっ!」」

 さっきまでのにやけ顔はどこへやら、セレナ達はダンテにまたもしがみついた。

「ヤバいよダンテ、あいつら斬撃も魔法も通じないんだよ!」

 迫りくるモンスターに普通の攻撃が通じないことなど、彼は百も承知だ。
 だが、今は違う――こちらには聖霊術師がいる。

「オフィーリア、ふたりに聖霊の加護を付与できるか?」
「聖霊の……加護?」
「ええ、お任せを。力をお貸しください――聖霊『ラファエロ』!」

 オフィーリアが祈りを捧げ、手をかざすと、そこから金色の光で描かれた蝶が現れた。

「うわっ、ちょうちょだ!」

 驚くセレナとリンのまわりを飛ぶ蝶は、鱗粉りんぷんのように金色の粉を撒き散らし、それに触れたふたりの武器と魔導書をきらきらと光らせた。
 尻尾で持ち上げた剣からも、魔導書からも、いつもとは違う力があふれ出ている。

「魔導書と剣が、金色に輝いて……これが、聖霊の加護?」
「はい、聖なる力はよこしまなモンスターに効力を発揮します。たとえ相手があらゆる攻撃を透かすレイスであっても、このようにっ!」

 オフィーリアがレイスを指さすと、山羊の聖霊『ガヴリール』がレイスに突進した。
 ぐるぐると巻かれた角による一撃は透けるどころか、怪物をまとめて薙ぎ払う。

『アオオオ……!?』
「山羊の突進で、レイスが粉々になった!」

 雄山羊が大暴れするさまは、ふたりに戦う勇気をもたらす。

「あの金色の光が力の助けになってるんだ。だったら、ボクの魔法も……『ごうごうと叫びし稲光いなびかり、あまたの槍で悪を射止めろ』!」

 レイスに向かってリンが放った雷撃は、金色の光を纏い、敵を幾重いくえにも貫いた。

『ギャアアア……!』
「効いた! セレナの攻撃も、きっと効果があるはず!」
「ピカピカの剣があれば、もう怖いものなんてないよ! どりゃあーっ!」

 セレナもまた、猫のように機敏な動きで、レイスに触れることなく敵を切り裂く。
 自分達が無敵であるという利点が失われれば、レイスは迂闊うかつに反撃できなくなり、またたく間に数を減らされてしまう。
 30匹以上いたモンスターは、3人の活躍でたちまち5匹になってしまった。
 そしてとうとう、勝ち目無しと踏んだレイスは一時撤退を選んだ。

「よし、俺達を十分に警戒したみたいだ! オフィーリア、今のうちに出口を探すぞ!」
「もちろんです、と言いたいですが……テラーハウスは、こちらの動きを察したようです」

 しかし、今度はレイスではなく、テラーハウスそのものが邪魔をする。
 ぎしぎしと屋敷そのものが軋んで、音を立てたかと思うと、廊下や壁がぐねぐねと形を変えてゆく。
 そうしてほんの数秒前と同じ場所とは思えないほど、内装は変わってしまった。
 壁も、通路も、家具すらも、先ほどと同じものはひとつもない。

「屋敷の形が変わったな。俺達を惑わせて、出口までたどり着かせないつもりか」
「もう完全に、私の知る道ではありません……先導しようにも、また道が変われば、記憶があてにならなくなります!」
「さて、どうしたものかな」

 道を閉ざし、永遠にこちらを迷わせる算段だろう。
 ダンテですら頬を掻き、困った調子で呟いた時だった。



「――うーん、あっちの方じゃない?」
「「え?」」

 全員の視線が、セレナに集中した。
 なんと彼女はここまで変貌した道の中で、当たりと思しき道が分かると言うのだ。

「お前、道が分かるのか?」
「分かるわけじゃないけど、あの扉の奥から変な音と匂いがするんだよね。それに何というか、どんより冷たい雰囲気が漂ってくるというか……」

 リンとオフィーリアは理屈を全く理解できないようだった。
 ところがダンテだけは、はっと何かに気付いて、セレナの肩を掴んだ。

「……でかした、セレナ! お前の五感と直感は、猫耳族の中でもひときわ鋭いんだ!」

 彼が思い出したのは、マンドラゴラ討伐クエスト。
 防護魔法をかけてもらっても歌が聞こえてしまうのは、彼女が鈍いからではない。
 あまりにも五感が鋭すぎるのだ――魔法の効きが悪いのではなく、防護魔法ですら防げないほど耳が良いのだ。
 しかもセレナは、鼻も利くし、何より獣人の特徴として勘も鋭い。

「魔法越しにもマンドラゴラの声が聞こえるほど耳がいいセレナなら――五感と勘で、外への出口が分かるはずだ!」

 ダンテは確信した。
 セレナの直感こそが、ここを出る唯一の手段だと。
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