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おっさん、幽霊屋敷に行く
ラン・ラン・ラン!
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「――あー、もー、くそーっ! よくもあたしを食べたな、このバケモノめーっ!」
一方、先に食べられたセレナとリンは、ダンテとはまるで違うところにいた。
同じように見える廊下だが、仲間の姿は見えず、やはりどこまで歩いても終わりがない。
「丸呑みされたと思ったら屋敷の中にいて、しかもどこまで歩いてもずっと、ずーっと長い廊下から抜け出せないなんて、どうなってるのさーっ!」
「落ち着いて、セレナ。きっと幻覚を見せられてるんだよ」
腕を振り回して怒鳴るセレナの隣で、リンはいつもの調子で言った。
「ボク達を呑み込んだのは、間違いなくモンスターだ。幽霊屋敷なんて存在しないし、怪奇現象もない。全部、特殊能力を持つ怪物に襲われただけ」
摩訶不思議な現象に遭遇しても、やはり彼女はマイペースだ。
「だから、怖がる理由はない。ダンテもいるし、きっと幻覚を解いてくれる」
「リン、足が震えてるよ」
「うるさい」
訂正――マイペースに見えるのは、恐怖を隠しているだけかもしれない。
とにもかくにも、進まなければ財宝も手に入らないし、出口にもたどり着けないと思い、ふたりはどかどかと青い廊下を歩いていた。
すると、セレナの猫耳がピンと動き、何かを察知した。
「……ねえ、廊下の奥から、何か聞こえない?」
ふたりが足を止めると、確かに誰かが囁くような声が、廊下の奥から聞こえてくる。
しかも、青いカーペットの端で、人影がうずくまっているのだ。
「あそこに誰かいるよ! もしかしたら、脱出する方法を知ってるかも!」
「待って、セレナ!」
リンの制止も聞かず、セレナは人影に駆け寄った。
薄暗いせいではっきりと姿は見えないが、間違いなく人の形をしているのだから問題ないと、セレナは思っていた。
「すいませーん! あたし達、幽霊屋敷に食べられて、気づいたらここに……」
それがまずかった。
『シャアァ……!』
彼女が肩を叩こうとした相手は――半透明の恐怖のモンスター、レイスだったのだ。
「――ぎゃああぁーっ!?」
セレナは目が飛び出るほど驚き、リンに飛びついた。
「お化けだよ、リン、お化けがいるよーっ!?」
真っ青な顔で怯えるセレナがリンにしがみついているのは、彼女が怪奇現象を信じない、クールで頼れる幼馴染だと思っているからだ。
ところが、彼女の予想は見事に裏切られた。
「お、おば、おばおばおばおばけなんて、い、い、いないよ。あ、あ、あれは、あれあれは、モ、モモ、モモモモンスターだよ」
(めちゃくちゃビビってるーっ!)
リンは脂汗と涙をだらだらと流しながら、足を生まれたての子鹿のように震わせていた。
やはり、彼女の力説は臆病さを隠す手段だったのだ。
『フォオオオ……!』
『シュオオオ……』
そうこうしているうち、レイスがふたりに向かってきた。
おまけにいつの間にか、あらゆる隙間から仲間が集まってきている。
「とにかく、こっちに来る前に追っ払わないと! リン、魔法を使って!」
「う、うん!」
じりじりと退きながら、セレナに急かされ、リンは魔導書を開いた。
「『踏まれた土くれ、お前が呑みこむ者となれ』!」
そして呪文を唱えると、床から石の槍がせり出してレイスを貫いた――はずだった。
「……あれ?」
「すり抜けて、当たってない?」
石の槍は、どういうわけかモンスターの体を通過して、何のダメージも与えていないのだ。
「『手のひらの雷、舌の先まで痺れさせろ』!」
今度は魔導書を黄色く光らせて、雷撃でレイスを焼き焦がそうとしたが、やはり何の効果ももたらさない。
しかもカーペットや屋敷の壁を雷が破壊しても、すぐに元通りになった。
要するに、リンの魔法はレイスにも幽霊屋敷にも、まるで効果がないのである。
「……当たってない……」
「……こうなったら……」
レイスに対して、ふたりは無力。
ならば、どうするか。
「「逃げろーっ!」」
三十六計逃げるに如かず、である。
ふたりはものすごい形相のままレイスに背を向け、全速力で走り出した。
もちろん、後ろからは悲鳴を上げてモンスターが追いかけて来る。
「どうして当たらないのさ、いくらお化けみたいだからって攻撃が全部通り過ぎちゃうなら、倒す方法なんてないじゃない!」
喚き散らしても現実は変わらないが、今のセレナにはそうすることしかできない。
「リン、何か知らない!? ああいうモンスターをやっつける魔法とか、対策とか!」
「これは夢だこれは夢だこれは夢だこれは夢だこれは夢だこれは夢だこれは夢だこれは夢だこれは夢だこれは夢だこれは夢だ……」
「現実逃避してる場合かーっ!」
彼女が隣を走るリンに助けを求めても、鼻水を垂らしてつぶやく彼女はあてにならない。
それでもレイスに捕まるよりはましだと、セレナは必死に走っていたが、そのうち無限に続く廊下におかしな変化が現れた。
「え、ちょ、うわわっ!?」
なんと、廊下が90度に折れ曲がり、ふたりが真下に向かって走り出したのだ。
しかも足はカーペットにくっついたままという、あまりにおかしな空間だ。
「なんで、おかしいよ! あたし達、垂直に走ってる……今度は逆さだー!?」
ぐねぐねと曲がり、天井を走る。
前後不覚、縦横無尽、右往左往。
幻想の世界の如く揺れ動く幽霊屋敷のさまを前に、リンは思考を放棄した。
「ちぴちぴちゃぱちゃぱどぅびどぅびだばだば……」
走りながら腰を揺らし、現実から逃げ出した幼馴染。
気づけば50近い数で迫りくるレイス。
何が何やら、この状況はもう、セレナの理解の範疇を越えていた。
「もう、もう……幽霊屋敷なんて、サイアクだーっ!」
だから彼女は、ただひたすら、叫びながら逃げることしかできなかった。
一方、先に食べられたセレナとリンは、ダンテとはまるで違うところにいた。
同じように見える廊下だが、仲間の姿は見えず、やはりどこまで歩いても終わりがない。
「丸呑みされたと思ったら屋敷の中にいて、しかもどこまで歩いてもずっと、ずーっと長い廊下から抜け出せないなんて、どうなってるのさーっ!」
「落ち着いて、セレナ。きっと幻覚を見せられてるんだよ」
腕を振り回して怒鳴るセレナの隣で、リンはいつもの調子で言った。
「ボク達を呑み込んだのは、間違いなくモンスターだ。幽霊屋敷なんて存在しないし、怪奇現象もない。全部、特殊能力を持つ怪物に襲われただけ」
摩訶不思議な現象に遭遇しても、やはり彼女はマイペースだ。
「だから、怖がる理由はない。ダンテもいるし、きっと幻覚を解いてくれる」
「リン、足が震えてるよ」
「うるさい」
訂正――マイペースに見えるのは、恐怖を隠しているだけかもしれない。
とにもかくにも、進まなければ財宝も手に入らないし、出口にもたどり着けないと思い、ふたりはどかどかと青い廊下を歩いていた。
すると、セレナの猫耳がピンと動き、何かを察知した。
「……ねえ、廊下の奥から、何か聞こえない?」
ふたりが足を止めると、確かに誰かが囁くような声が、廊下の奥から聞こえてくる。
しかも、青いカーペットの端で、人影がうずくまっているのだ。
「あそこに誰かいるよ! もしかしたら、脱出する方法を知ってるかも!」
「待って、セレナ!」
リンの制止も聞かず、セレナは人影に駆け寄った。
薄暗いせいではっきりと姿は見えないが、間違いなく人の形をしているのだから問題ないと、セレナは思っていた。
「すいませーん! あたし達、幽霊屋敷に食べられて、気づいたらここに……」
それがまずかった。
『シャアァ……!』
彼女が肩を叩こうとした相手は――半透明の恐怖のモンスター、レイスだったのだ。
「――ぎゃああぁーっ!?」
セレナは目が飛び出るほど驚き、リンに飛びついた。
「お化けだよ、リン、お化けがいるよーっ!?」
真っ青な顔で怯えるセレナがリンにしがみついているのは、彼女が怪奇現象を信じない、クールで頼れる幼馴染だと思っているからだ。
ところが、彼女の予想は見事に裏切られた。
「お、おば、おばおばおばおばけなんて、い、い、いないよ。あ、あ、あれは、あれあれは、モ、モモ、モモモモンスターだよ」
(めちゃくちゃビビってるーっ!)
リンは脂汗と涙をだらだらと流しながら、足を生まれたての子鹿のように震わせていた。
やはり、彼女の力説は臆病さを隠す手段だったのだ。
『フォオオオ……!』
『シュオオオ……』
そうこうしているうち、レイスがふたりに向かってきた。
おまけにいつの間にか、あらゆる隙間から仲間が集まってきている。
「とにかく、こっちに来る前に追っ払わないと! リン、魔法を使って!」
「う、うん!」
じりじりと退きながら、セレナに急かされ、リンは魔導書を開いた。
「『踏まれた土くれ、お前が呑みこむ者となれ』!」
そして呪文を唱えると、床から石の槍がせり出してレイスを貫いた――はずだった。
「……あれ?」
「すり抜けて、当たってない?」
石の槍は、どういうわけかモンスターの体を通過して、何のダメージも与えていないのだ。
「『手のひらの雷、舌の先まで痺れさせろ』!」
今度は魔導書を黄色く光らせて、雷撃でレイスを焼き焦がそうとしたが、やはり何の効果ももたらさない。
しかもカーペットや屋敷の壁を雷が破壊しても、すぐに元通りになった。
要するに、リンの魔法はレイスにも幽霊屋敷にも、まるで効果がないのである。
「……当たってない……」
「……こうなったら……」
レイスに対して、ふたりは無力。
ならば、どうするか。
「「逃げろーっ!」」
三十六計逃げるに如かず、である。
ふたりはものすごい形相のままレイスに背を向け、全速力で走り出した。
もちろん、後ろからは悲鳴を上げてモンスターが追いかけて来る。
「どうして当たらないのさ、いくらお化けみたいだからって攻撃が全部通り過ぎちゃうなら、倒す方法なんてないじゃない!」
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「リン、何か知らない!? ああいうモンスターをやっつける魔法とか、対策とか!」
「これは夢だこれは夢だこれは夢だこれは夢だこれは夢だこれは夢だこれは夢だこれは夢だこれは夢だこれは夢だこれは夢だ……」
「現実逃避してる場合かーっ!」
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それでもレイスに捕まるよりはましだと、セレナは必死に走っていたが、そのうち無限に続く廊下におかしな変化が現れた。
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なんと、廊下が90度に折れ曲がり、ふたりが真下に向かって走り出したのだ。
しかも足はカーペットにくっついたままという、あまりにおかしな空間だ。
「なんで、おかしいよ! あたし達、垂直に走ってる……今度は逆さだー!?」
ぐねぐねと曲がり、天井を走る。
前後不覚、縦横無尽、右往左往。
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「ちぴちぴちゃぱちゃぱどぅびどぅびだばだば……」
走りながら腰を揺らし、現実から逃げ出した幼馴染。
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何が何やら、この状況はもう、セレナの理解の範疇を越えていた。
「もう、もう……幽霊屋敷なんて、サイアクだーっ!」
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