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おっさん、幽霊屋敷に行く
次のクエストは?
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「う~……頭がまだズキズキするぅ……」
翌日、冒険者ギルドに戻ってきたセレナは、ひりひりと痛む頭をさすっていた。
ダンテは素材を納品し、リンがずっとセレナの様子を見ていたが、彼女はずっと口を尖らせている。
「よ、よしよし……」
リンが親身に接して頭を撫でているのは、もちろん彼女がセレナの頭を殴ったから。
要するに、ちょっぴり罪悪感があるのだ。
「マンドラゴラの歌って、こんなにダメージが残るんだね……というか、頭にコブができてる気がするんだけど、なんでかなぁ?」
もっとも、当の本人はすっかり覚えていないようだが。
「知らない。ボク、なんにも知らないよ」
「そっかぁ……」
汗を流しながら素知らぬ顔をするリンを、セレナはちっとも疑わなかった。
まあ、世の中には知らない方がいい事実もあるものだ。
「クエストを受注してから、外の薬屋で湿布でも買えばいいさ。『龍王の冠』にいた時に、アポロスが買ってたのを知ってるだろ?」
そうしているうち、ギルド内の納品所から戻ってきたダンテが言った。
彼との会話の中で、セレナはふと、ギルドの雰囲気がいつもと違うのに気づいた。
「そういえば、アポロスもエヴリンも、しばらくギルドで見てないね」
「『龍王の冠』もいない。どうしたんだろ」
「もしかして、あたし達『セレナ団』が怖くなって逃げ出しちゃったとか~?」
痛みも忘れてにやにやと笑うセレナだが、ダンテは首を横に振る。
「あいつに他人を怖がるだけの知能があれば、今頃アポロスの口は裂けちゃいないさ。大方、『長期クエスト』にでも行ったんだろ」
「長期クエスト?」
セレナとリンが、そろって首を傾げた。
彼女達の仕草は時折、獣人というより小動物のように見えて仕方ない。
「国外、大陸外の依頼だ。海底遺跡の調査や騎士と協力する魔獣暴動の鎮圧、よそに逃げた犯罪者の追跡とかが主な内容だな」
「犯罪者って……そんなところまで逃げたら、騎士団が動くんじゃないの?」
「アンダーグラウンドの人は、騎士を警戒する。冒険者は、警戒されない」
「察しがいいな、リン」
「むふふー」
褒められたリンは、相変わらず無表情で喜ぶ。
「基本的にはB級以上の冒険者だけが受注できて、達成までに最低でもふた月、長ければ1年以上かかるが、その分報酬もたんまりもらえる……ま、今の俺達には関係ない話だ」
「だったら、うるさくてヤな奴がいない間に、あたし達もどんどん実績を上げないとね!」
セレナはリンを連れて、すたすたとカウンターに向かった。
彼女のこの明るさこそが、仲間を引っ張る力になるのだと、ダンテは知っている。
だから彼も、何も言わないが、彼女を肯定するようについていく。
「受付嬢さん、新着のクエストを見せてください」
いつものように、ボードに貼られた依頼書を整理する受付嬢とダンテ達の目が合うと、彼女はにっこりと微笑んだ。
「どうぞ、こちらが今日依頼されたものです」
カウンターの下から取り出した書類は、合わせて10枚ほど。
これらに目を通していくのは、リーダーのセレナの仕事だ。
「『鶏泥棒の追跡』……なんだか地味だしパス。『ゴブリンアーチャー討伐』は……なにこれ、報酬が500エメトぽっちってケチすぎるよ、これもパス!」
とはいえ、セレナに任せていては、いつまで経っても受けるクエストは決まらない。
なんせ彼女は何かと理由をつけて、報酬が高く、簡単で、有名になるようなクエストしか選ぼうとしないのだから。
前回受注したマンドラゴラの討伐クエストですら、最終的にはセレナではなく、しびれを切らしたダンテとリンが決めたのである。
「セレナ、小さなことからコツコツだよ」
「地味にちまちまって、あたしの性に合わないんだよねー。どうせやるなら、どかーんと派手に、お金もがっぽり稼げるクエストがいいじゃん!」
リンがたしなめると、セレナはふん、と鼻を鳴らした。
「報酬は最低でも3千エメト、王都から馬車で1日以内に往復出来て、昼食と追加報酬付きがあったら、即決なんだけどな~っ!」
そんな楽な仕事があれば、冒険者はきっと人気の職業になっているだろう。
有名になれるのは間違いないが、常に死と隣り合わせて、危険な仕事と引き換えに高額の報酬を得られるのが冒険者の常なのだから。
「あるわけないよ。夢見すぎ」
「この調子じゃ、半日かかっても決まらないぞ」
何を言っているのだ、と言いたげにダンテとリンがため息をついた。
すると、受付嬢は3人の様子を見て、ボードに貼られた紙を1枚剥がした。
「でしたらダンテさん、こんなクエストはどうですか?」
どんなものかとダンテは書類を受け取り、たちまち眼を細くする。
まるで、すっかり見慣れた嫌な物を見たかのようだ。
「……それか。受けるわけがないって、分かって言ってるだろ?」
「えへへ、バレちゃいましたか」
舌を出して笑う受付嬢に、ダンテは書類を突き返した。
「ねえダンテ、どんなクエストなの?」
彼のリアクションを見て、セレナが興味を示さないはずがない。
「受けないクエストの詳細を見たって、どうしようもないだろ……あっ!」
「もーらいっ!」
軽く話を流そうとしたダンテだったが、セレナは彼が油断したスキを見逃さず、ぱっと書類を奪い取ってしまった。
身のこなしと手癖の悪さは、剣士というより盗賊に近いところがあるだろう。
「ええと、なになに……」
セレナとリンが書類に顔を寄せると、早くも気になる言葉が飛び込んできた。
「……『幻影の幽霊屋敷』の調査クエスト?」
翌日、冒険者ギルドに戻ってきたセレナは、ひりひりと痛む頭をさすっていた。
ダンテは素材を納品し、リンがずっとセレナの様子を見ていたが、彼女はずっと口を尖らせている。
「よ、よしよし……」
リンが親身に接して頭を撫でているのは、もちろん彼女がセレナの頭を殴ったから。
要するに、ちょっぴり罪悪感があるのだ。
「マンドラゴラの歌って、こんなにダメージが残るんだね……というか、頭にコブができてる気がするんだけど、なんでかなぁ?」
もっとも、当の本人はすっかり覚えていないようだが。
「知らない。ボク、なんにも知らないよ」
「そっかぁ……」
汗を流しながら素知らぬ顔をするリンを、セレナはちっとも疑わなかった。
まあ、世の中には知らない方がいい事実もあるものだ。
「クエストを受注してから、外の薬屋で湿布でも買えばいいさ。『龍王の冠』にいた時に、アポロスが買ってたのを知ってるだろ?」
そうしているうち、ギルド内の納品所から戻ってきたダンテが言った。
彼との会話の中で、セレナはふと、ギルドの雰囲気がいつもと違うのに気づいた。
「そういえば、アポロスもエヴリンも、しばらくギルドで見てないね」
「『龍王の冠』もいない。どうしたんだろ」
「もしかして、あたし達『セレナ団』が怖くなって逃げ出しちゃったとか~?」
痛みも忘れてにやにやと笑うセレナだが、ダンテは首を横に振る。
「あいつに他人を怖がるだけの知能があれば、今頃アポロスの口は裂けちゃいないさ。大方、『長期クエスト』にでも行ったんだろ」
「長期クエスト?」
セレナとリンが、そろって首を傾げた。
彼女達の仕草は時折、獣人というより小動物のように見えて仕方ない。
「国外、大陸外の依頼だ。海底遺跡の調査や騎士と協力する魔獣暴動の鎮圧、よそに逃げた犯罪者の追跡とかが主な内容だな」
「犯罪者って……そんなところまで逃げたら、騎士団が動くんじゃないの?」
「アンダーグラウンドの人は、騎士を警戒する。冒険者は、警戒されない」
「察しがいいな、リン」
「むふふー」
褒められたリンは、相変わらず無表情で喜ぶ。
「基本的にはB級以上の冒険者だけが受注できて、達成までに最低でもふた月、長ければ1年以上かかるが、その分報酬もたんまりもらえる……ま、今の俺達には関係ない話だ」
「だったら、うるさくてヤな奴がいない間に、あたし達もどんどん実績を上げないとね!」
セレナはリンを連れて、すたすたとカウンターに向かった。
彼女のこの明るさこそが、仲間を引っ張る力になるのだと、ダンテは知っている。
だから彼も、何も言わないが、彼女を肯定するようについていく。
「受付嬢さん、新着のクエストを見せてください」
いつものように、ボードに貼られた依頼書を整理する受付嬢とダンテ達の目が合うと、彼女はにっこりと微笑んだ。
「どうぞ、こちらが今日依頼されたものです」
カウンターの下から取り出した書類は、合わせて10枚ほど。
これらに目を通していくのは、リーダーのセレナの仕事だ。
「『鶏泥棒の追跡』……なんだか地味だしパス。『ゴブリンアーチャー討伐』は……なにこれ、報酬が500エメトぽっちってケチすぎるよ、これもパス!」
とはいえ、セレナに任せていては、いつまで経っても受けるクエストは決まらない。
なんせ彼女は何かと理由をつけて、報酬が高く、簡単で、有名になるようなクエストしか選ぼうとしないのだから。
前回受注したマンドラゴラの討伐クエストですら、最終的にはセレナではなく、しびれを切らしたダンテとリンが決めたのである。
「セレナ、小さなことからコツコツだよ」
「地味にちまちまって、あたしの性に合わないんだよねー。どうせやるなら、どかーんと派手に、お金もがっぽり稼げるクエストがいいじゃん!」
リンがたしなめると、セレナはふん、と鼻を鳴らした。
「報酬は最低でも3千エメト、王都から馬車で1日以内に往復出来て、昼食と追加報酬付きがあったら、即決なんだけどな~っ!」
そんな楽な仕事があれば、冒険者はきっと人気の職業になっているだろう。
有名になれるのは間違いないが、常に死と隣り合わせて、危険な仕事と引き換えに高額の報酬を得られるのが冒険者の常なのだから。
「あるわけないよ。夢見すぎ」
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何を言っているのだ、と言いたげにダンテとリンがため息をついた。
すると、受付嬢は3人の様子を見て、ボードに貼られた紙を1枚剥がした。
「でしたらダンテさん、こんなクエストはどうですか?」
どんなものかとダンテは書類を受け取り、たちまち眼を細くする。
まるで、すっかり見慣れた嫌な物を見たかのようだ。
「……それか。受けるわけがないって、分かって言ってるだろ?」
「えへへ、バレちゃいましたか」
舌を出して笑う受付嬢に、ダンテは書類を突き返した。
「ねえダンテ、どんなクエストなの?」
彼のリアクションを見て、セレナが興味を示さないはずがない。
「受けないクエストの詳細を見たって、どうしようもないだろ……あっ!」
「もーらいっ!」
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身のこなしと手癖の悪さは、剣士というより盗賊に近いところがあるだろう。
「ええと、なになに……」
セレナとリンが書類に顔を寄せると、早くも気になる言葉が飛び込んできた。
「……『幻影の幽霊屋敷』の調査クエスト?」
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