追放された美少女を助けた底辺おっさんが、実は元”特級冒険者”だった件について。

いちまる

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おっさん、幽霊屋敷に行く

マンドラゴラ討伐

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「――いいか、今回のクエストはスピード勝負だ」

 とある小さな森の奥。
 ひとりの男と、ふたりの少女が茂みに身を隠し、こそこそと話し合っていた。
 男の腰には一対のナイフ、少女はそれぞれ剣と魔導書を携えている。

「もたもたしてると逃げられて、近くの村に被害が出る……ふたりとも、準備はいいか」
「うん!」
「いつでも、いけるよ」

 彼女達が頷いたのを見て、男はナイフをホルスターから抜いた。

「よし、それじゃあ――『マンドラゴラ討伐クエスト』、始めるぞ」

 そして3人が――ダンテ、セレナ、リンが同時に茂みから飛び出した。
 標的は草むらの中からひょっこりと顔を出している、にんじんに手足を生やし、顔を描いたようなモンスター、マンドラゴラだ。

『キー!』
『キキー!』
 マンドラゴラは1匹、2匹ではない。
 どう少なく見積もっても30を超えるモンスターが、一斉に彼らを見て、叫び声を上げた。

「こっちに気付いた! セレナ、リン、片っ端から倒していけ!」

 セレナは武器を抜き、リンは魔導書を開き、それぞれマンドラゴラを追いかける。

「逃げるな、大人しく斬られろっつーの!」

 尻尾で握られた剣と長い爪が、雑草を刈り取るようにマンドラゴラを切り裂く。

「『焼ける空、焦げるほむら蟒蛇うわばみの如く地を撫でよ』」

 赤く光る魔導書から現れた炎の大蛇が、モンスターを丸呑みにする。
 手際よくマンドラゴラを倒していくふたりの腕前に、ダンテは舌を巻いた。

(セレナの攻撃は、以前よりずっと正確になった。リンも強力な魔法を放ってもすぐにはへばらなくなったし、確実に成長してる)

 猫耳族特有の身軽さでモンスターを追いかけ、金と黒の髪をなびかせ、敵を倒す。
 セレナもリンも、もう新米冒険者の域はとうの昔に抜けていた。

(こりゃあ、俺が思ってるよりもずっと早く、B級に昇格するかもな)

 ただ、未だに弱点もあると、彼はすぐに思い知らされる。

『『キキキ……!』』

 20匹ほど倒したところで、複数のマンドラゴラがセレナの前に立ちはだかった。

「なんだ、こいつらチョー弱いじゃん! あたしの爪なら、全部やっつけて……」
『キキ~♪』
「……あだだだだだ! 頭、頭が割れるううううううっ!?」

 ゆらゆらと体を揺らしながら、マンドラゴラが妙なコーラスをかなでた。
 途端に、セレナがものすごい形相になって頭を抱え、その場をゴロゴロと転がり始めたのだ。
 実は、マンドラゴラの歌声には強烈な精神破壊効果がある。
 だからダンテ達は、事前にリンに『防音魔法』をかけさせたのだ。
 ところがセレナが猫耳を押さえているのは、明らかにおかしい。

「おいおい、リン! セレナに『防音の魔法』をかけたんだよな!?」

 想定外の事態に、リンは思わず炎の蛇を引っ込め、ダンテは驚いてしまう。

「確かにかけたし、ボクにも効いてる……あ」
「なんだ、何か思い出したのか?」

 ぴこん、と猫耳を振りながら、リンがつぶやいた。

「セレナ、昔から魔法にかかりにくいって言ってたし、そのせいかも」
「それを最初に言え!」

 思わずツッコむダンテの足元で、セレナはよだれを垂らしてへらへらと天をあおぎ、くねくねと手足を振り回して踊っている。
 防音効果が薄れ、恐ろしい歌に聞き入ってしまっているのは明らかだ。

「あ~♪ 向こうにお花畑が見える~♪ た~りらりら~♪」

 しかも、幻覚まで見えているのだから始末が悪い。

「セレナがおかしくなっちゃった」
「マンドラゴラの声を聞くと、精神が汚染される。頭痛から始まって、幻聴と幻覚にとらわれて、最後には正気を失って二度と戻ってこなくなるぞ」

 呑気な会話だが、セレナに差し迫った危機は存外大きく、放ってはおけない。

「どうしよう、ダンテ?」
「どうもこうも、マンドラゴラの歌をこれ以上聞かせないのが大事だな」
「オッケー。セレナ、ごめんね」

 リンは一切躊躇ためらいなく、本をぱたんと閉じる。

「ちぴちぴちゃぱちゃぱどぅびどぅびだばだば……んごッ」

 そして分厚い魔導書で、セレナの頭を思い切り殴りつけた。
 猫のように首をかくかくと動かしていたセレナは、白目を剥いて気絶してしまう。

「本は剣よりも強し。気絶すれば、しばらく何も聞かないで済むね」
「判断が早いんだな、お前……」

 ダンテが呆れて肩をすくめると、マンドラゴラ達の態度にも変化が現れた。

『『キーッキ! キキーッ!』』

 さらに草むらから姿を現した仲間も含めて、ダンテ達から逃げなくなったのだ。
 合わせて100は下らない数になったモンスターは、どう見ても顔に自信が満ち溢れていて、人間を打ち負かす気満々だ。

「ま、セレナがやられてくれたおかげで、あいつらは逃げなくなったな。どうやら俺達を、倒せる程度の敵だと認識したみたいだ」

 もっとも、この反応はダンテにとって好都合である。
 彼の握り締めるナイフが鋭い音を鳴らした時、マンドラゴラが口を開こうとした。

「おかげで――全部まとめて、ぶった斬れるッ!」

 ――遅かった。
 ――刃がきらめいた刹那せつな、100近いマンドラゴラの顔が、真っ二つに斬られたのだ。

『『ギッ』』

 歌など歌えるはずもなく、マンドラゴラはことごとく死に至る。
 ぼとり、ぼとりと双葉の生えた頭がすべて地面に落ちると、残っているのは少しも動かないモンスターの下半身だけ。
 たったひと薙ぎでモンスターの命を奪い取ったダンテを見て、リンは目を丸くした。

「……すごいね。100匹はいたマンドラゴラを、一撃で倒しちゃった」
「リンが魔法で牽制してくれたおかげだ。セレナもマンドラゴラの歌を聞くまでは1匹も逃がさなかったし、お前らも確かに成長してるよ」
「……ぶい」

 ダンテに褒められたのが嬉しかったのか、リンは無表情でVサインを作った。

「う~ん……むにゃむにゃ……」

 一方で、セレナは悪い夢でも見ているようで、顔色を悪くしている。
 きっと目を覚ました時には、何も覚えていないだろうが。

「討伐した証拠になるから、マンドラゴラの双葉は全部回収する。それが終わったら、セレナを担いで王都に帰るとするか」
「ラジャー」

 セレナをひとまず近くの木陰に寝かせて、ダンテとリンはマンドラゴラの双葉をブチブチと引っこ抜き始めた。
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