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おっさん、新人冒険者の面倒を見る
「可能性の天才」
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「まったく……今日は騒がしい客がよく来る日だ」
やれやれ、と首を振るヤヴァンがダンテ見て舌打ちすると、子分達が彼を取り囲む。
「武器を置け!」
「こっちには人質がいるんだぜ!」
「ぐ、うう……」
セレナとリンの髪を他の子分が掴むと、ダンテの目が細くなる。
「ふたりをこっちに渡せ。未来のA級冒険者にこれ以上触れてみろ、地獄に叩き込むぞ」
「なんだぁ? もしかしてお前も、ガキの叶いもしない夢を信じてやってるのか?」
A級冒険者と聞いて、ヤヴァンは半月のように口端を吊り上げて笑った。
「こいつらは自分を天才だなんだと過信した、何の才能もないバカだ! 金蔓になるならまだしも、そうじゃないなら助ける価値すらねえんだよ!」
親分だけではない、子分達も腹を抱えて笑う始末だ。
まさか夢見がちな子供の戯言を、本人以外に信じている輩がいると思っていなかったし、真剣なまなざしでダンテが言ってのけたのが、おかしくて仕方ないのだ。
もしかすると、ダンテも笑って受け流すかもしれない。
「…………」
セレナもリンも俯くしかなかった。
自分も信じてはいないなんて冗談交じりに会話を続けられるのと思ってしまった。
「……どいつもこいつも、見る目がねえな」
ところが、ダンテの声を聞いて、ふたりは顔を上げた。
彼の表情は、いつもよりずっと真剣で――ふたりの夢を疑ってなどいなかったのである。
「何?」
小バカにした表情で問い返すヤヴァンに、ダンテが言った。
「あのな、こいつらは天才なんだよ――可能性の天才だ」
ふたりが紛れもない、天才であると。
「「はぁ?」」
ヤヴァンどころか子分すらも理解できていないようだったが、ダンテは意に介さない。
もとより盗賊団に、セレナとリンのすごさを理解できると思ってはいないのだから。
「何度失敗したって前を向ける。何度だってやり直すし、くじけない。それは、いいか、俺ですらできなかったことだ。紛れもない才能なんだ」
だが、ダンテは知っていた。
彼女達には決して折れない芯の強さと、誰も知らない才能が眠っていると。
「夢が叶うその日までひたむきに走り続けられる。だから絶対、A級冒険者になれる」
ダンテはセレナ達以上に自分の才能と向き合い、信じてくれていた。
夢を聞いても笑わないどころか、背中を押してくれるダンテの存在がどれほど大きく、頼もしいのか。
気づけばセレナの目から、涙がぽろぽろと零れていた。
リンもまた、嬉しさで胸がギュッと締め付けられる感覚を覚えた。
「ハッ、くだらねえ!」
一方、ヤヴァンは変わらず呆れていた。
夢をつまらないものだと嘲笑っていたが、ダンテはマヌケな男を見る目で肩をすくめた。
「俺から言わせてみれば、ヤヴァン、お前こそ才能なんてないんじゃないのか?」
「んだとォ!?」
「お前はもともと、違法賭博の拳闘士だったそうじゃないか」
ヤヴァンの顔が、たちまち青くなった。
「な……ど、どうしてそれを……!?」
子分達もざわついているあたり、どうやら誰にも知られていない、というより誰にも知られてはいけない秘密のようだ。
だらだらとヤヴァンの額から流れるあぶら汗が、これ以上話すなと告げている。
もちろん、ダンテが要求を呑んでやるわけがない。
「最初は勝ちまくったが、地下闘技場でのランクが上がって、相手が強くなると連戦連敗。最後は小便漏らして命乞いして、赤っ恥をかいたから盗賊に転向したんだろ?」
「て、てめえ!」
「そんなクズが――セレナ達の夢を、笑うんじゃねえよ」
今度は顔を赤くした負け犬を、ダンテがぎろりと睨む。
竜にも、魔族にも似ているのに、そのどれよりも心臓を鷲掴みにするような目だ。
「ぐっ……!」
怒りに満ちた目に射殺されるような気がして、とうとうヤヴァンは恐怖を無理矢理振り払うかのように、肩から提げた斧を掴んだ。
「黙って聞いてりゃ、好き放題言いやがって! 頭をかち割ってやらぁ!」
ヤヴァンが喚き散らしながら、斧をダンテの頭頂部めがけて振り下ろす。
斧は銀色の軌道を描き、ダンテの頭に直撃した。
「ダンテ!」
セレナの悲鳴を背中で聞き、ヤヴァンはダンテの最期を確信した。
血が噴き出ているか、粉々に頭蓋骨が砕けているか。
「へへへ……モンスターの頭蓋骨を砕き割る大斧だ! 人間なんざ……」
今回は、砕けていた。
ただし――鉄の斧の方が、だが。
何が起きたのか、誰も理解できていないようだった。
この状況で唯一平静だったのは、斧を頭で割り砕いたダンテだけだ。
「悪いな。俺の頭は、鋼より硬いんだ、よッ!」
彼はお返しとばかりに、茫然とするヤヴァンに頭突きをお見舞いした。
次の瞬間、ヤヴァンの体が凄まじい衝撃と共に吹っ飛ばされた。
「ぶぎゃあああ!?」
「「親分ーっ!?」」
壁にめり込み、ずるりと倒れ込む親分に、子分達が押し寄せてゆく。
セレナ達を捕らえていた子分すら、親分が心配で、人質を放って駆けだした。
彼らの誰もがダンテを見ようとはしなかったが、この男が魔法の類でインチキをしたわけでも、不思議な力を使ったわけでもないと直感していた。
ただひたすらに、人知を超越した肉体を持っている。
斧の一撃を受けても無傷である理由を説明するには、それしか思い浮かばなかった。
「しばらくの間は、あっちに夢中になってるだろ。ふたりとも、まだ動けるか」
さて、無様な盗賊団のさまを鼻で笑い、ダンテはセレナ達のそばに行く。
「だ、ダンテ……あたし……」
目の下を赤くしたセレナが何かを言おうとした。
それよりも先に、ダンテがふたりを縛るロープを手刀で斬った。
「話はあとで聞いてやる。今はこいつらを倒すのに集中しろ」
ダンテに微笑みかけられ、わしゃわしゃと髪を撫でられ、ふたりの心から不安と悲しみが霧散してゆく。
「お前らは俺が信じた仲間だ。こんなところで、やられるわけないよな」
そしてもう一度彼に勇気づけられた時、セレナ達はもう、恐れを抱いていなかった。
「……大丈夫、まだ戦えるよ!」
「ボクも、やれる!」
「よく言った! そんじゃ、かましてやるか!」
ふたりは強く頷いて立ち上がり、ダンテと拳をぶつけ合った。
「ほら、武器と魔導書だ。俺が買ったんだから、ちゃんと使いこなしてやれ」
ダンテがふたりに渡したのは、セレナとリンが所持していた剣と魔導書だ。
彼が返した頃になって、やっとアイテムを奪っていた盗賊の子分も、それを奪われていたのに気づいたようだ。
「あいつら、いつの間に!」
「構うもんか、ブチ殺せ!」
ヤヴァンを囲んでいた子分のうち、何人かがセレナ達に襲いかかった。
突入した時よりもずっと敵の数は多いが、今のふたりにとっては敵ではない。
「さっきは油断したけど、今度はそうはいかないよ!」
なんせ今は、ダンテの励ましという、最高のバフが付与されているのだから。
やれやれ、と首を振るヤヴァンがダンテ見て舌打ちすると、子分達が彼を取り囲む。
「武器を置け!」
「こっちには人質がいるんだぜ!」
「ぐ、うう……」
セレナとリンの髪を他の子分が掴むと、ダンテの目が細くなる。
「ふたりをこっちに渡せ。未来のA級冒険者にこれ以上触れてみろ、地獄に叩き込むぞ」
「なんだぁ? もしかしてお前も、ガキの叶いもしない夢を信じてやってるのか?」
A級冒険者と聞いて、ヤヴァンは半月のように口端を吊り上げて笑った。
「こいつらは自分を天才だなんだと過信した、何の才能もないバカだ! 金蔓になるならまだしも、そうじゃないなら助ける価値すらねえんだよ!」
親分だけではない、子分達も腹を抱えて笑う始末だ。
まさか夢見がちな子供の戯言を、本人以外に信じている輩がいると思っていなかったし、真剣なまなざしでダンテが言ってのけたのが、おかしくて仕方ないのだ。
もしかすると、ダンテも笑って受け流すかもしれない。
「…………」
セレナもリンも俯くしかなかった。
自分も信じてはいないなんて冗談交じりに会話を続けられるのと思ってしまった。
「……どいつもこいつも、見る目がねえな」
ところが、ダンテの声を聞いて、ふたりは顔を上げた。
彼の表情は、いつもよりずっと真剣で――ふたりの夢を疑ってなどいなかったのである。
「何?」
小バカにした表情で問い返すヤヴァンに、ダンテが言った。
「あのな、こいつらは天才なんだよ――可能性の天才だ」
ふたりが紛れもない、天才であると。
「「はぁ?」」
ヤヴァンどころか子分すらも理解できていないようだったが、ダンテは意に介さない。
もとより盗賊団に、セレナとリンのすごさを理解できると思ってはいないのだから。
「何度失敗したって前を向ける。何度だってやり直すし、くじけない。それは、いいか、俺ですらできなかったことだ。紛れもない才能なんだ」
だが、ダンテは知っていた。
彼女達には決して折れない芯の強さと、誰も知らない才能が眠っていると。
「夢が叶うその日までひたむきに走り続けられる。だから絶対、A級冒険者になれる」
ダンテはセレナ達以上に自分の才能と向き合い、信じてくれていた。
夢を聞いても笑わないどころか、背中を押してくれるダンテの存在がどれほど大きく、頼もしいのか。
気づけばセレナの目から、涙がぽろぽろと零れていた。
リンもまた、嬉しさで胸がギュッと締め付けられる感覚を覚えた。
「ハッ、くだらねえ!」
一方、ヤヴァンは変わらず呆れていた。
夢をつまらないものだと嘲笑っていたが、ダンテはマヌケな男を見る目で肩をすくめた。
「俺から言わせてみれば、ヤヴァン、お前こそ才能なんてないんじゃないのか?」
「んだとォ!?」
「お前はもともと、違法賭博の拳闘士だったそうじゃないか」
ヤヴァンの顔が、たちまち青くなった。
「な……ど、どうしてそれを……!?」
子分達もざわついているあたり、どうやら誰にも知られていない、というより誰にも知られてはいけない秘密のようだ。
だらだらとヤヴァンの額から流れるあぶら汗が、これ以上話すなと告げている。
もちろん、ダンテが要求を呑んでやるわけがない。
「最初は勝ちまくったが、地下闘技場でのランクが上がって、相手が強くなると連戦連敗。最後は小便漏らして命乞いして、赤っ恥をかいたから盗賊に転向したんだろ?」
「て、てめえ!」
「そんなクズが――セレナ達の夢を、笑うんじゃねえよ」
今度は顔を赤くした負け犬を、ダンテがぎろりと睨む。
竜にも、魔族にも似ているのに、そのどれよりも心臓を鷲掴みにするような目だ。
「ぐっ……!」
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「黙って聞いてりゃ、好き放題言いやがって! 頭をかち割ってやらぁ!」
ヤヴァンが喚き散らしながら、斧をダンテの頭頂部めがけて振り下ろす。
斧は銀色の軌道を描き、ダンテの頭に直撃した。
「ダンテ!」
セレナの悲鳴を背中で聞き、ヤヴァンはダンテの最期を確信した。
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今回は、砕けていた。
ただし――鉄の斧の方が、だが。
何が起きたのか、誰も理解できていないようだった。
この状況で唯一平静だったのは、斧を頭で割り砕いたダンテだけだ。
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彼らの誰もがダンテを見ようとはしなかったが、この男が魔法の類でインチキをしたわけでも、不思議な力を使ったわけでもないと直感していた。
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「……大丈夫、まだ戦えるよ!」
「ボクも、やれる!」
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ふたりは強く頷いて立ち上がり、ダンテと拳をぶつけ合った。
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ダンテがふたりに渡したのは、セレナとリンが所持していた剣と魔導書だ。
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「あいつら、いつの間に!」
「構うもんか、ブチ殺せ!」
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突入した時よりもずっと敵の数は多いが、今のふたりにとっては敵ではない。
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