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おっさん、新人冒険者の面倒を見る
斬り、穿ち、刺す!
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「ダンテが教えてくれたやり方、ヒット・アンド・アウェイだ!」
先手を取ったのはセレナだ。
彼女は四足動物の如く飛び跳ねながら、勢いよく剣を抜いてドラゴーレムを斬りつけた。
ところが、150万エメトもする剣ですら、外殻に切れ目すら入れられない。
「……硬いっ!」
びりびりと手が痺れる感覚が骨に伝わり、セレナはモンスターと距離を取った。
ドラゴーレムが口を大きく開き、彼女に頭を向けているのに気づいたのだ。
「セレナ、ドラゴーレムが火を吐くよ!」
リンの警告とほぼ同時に、敵の口が赤く染まった。
『ボオオォーッ!』
解き放たれたのは、熔岩流のように地面を舐める炎。
大袈裟なほどドラゴーレムから距離を取ったセレナの判断は正しく、そうしなければたちまち炎に呑み込まれていただろう。
しかもモンスターは、炎を吐く口を閉じると、前脚で殴りかかってきた。
額を伝う汗を拭う間もなく、セレナとリンは回避に徹させられる。
そんなふたりのさまを、ダンテは少し離れた木々の間で見ていた。
(岩が幾つも重なった硬い外殻と、フレイムリザ―ドとは違う火を吐く力がドラゴーレムの特徴だ。対処法は似てるが、討伐難度はケタ違い……さあ、どう出る?)
特別な事情がない限り、絶対に手出しをしない。
そう考えていたダンテだが、どうやらまだ、増援は必要ないようだ。
「火属性は通じない! 風属性の鋭い魔法を右脚の太ももに集中させて、リン!」
「分かった。『つむじ風、針の如く尖り貫き穿て』」
ドラゴーレムの耐性に気付いたセレナの指示で、リンが魔導書を光らせた。
彼女の本から発射されたのは、触れた樹木を傷つけるほど鋭い、かまいたちだ。
「『穿て』、『穿て』、『穿て』!」
攻撃を繰り出すドラゴーレムに連続で撃ち込まれた風は、外殻を砕けない。
(――ほう、気づいたか)
ただ、ダンテはにやりと笑った。
「『穿て』、『穿て』……『穿て』……!」
リンはやみくもに魔法を発射していたのではない。
彼女はとある1カ所――右後ろ脚だけを狙い、魔法を叩き込んでいた。
セレナの斬撃だけでは何のダメージもなかった石の甲殻が、みし、ぱき、と音を立てているのを、彼女自身が耳をピクリと動かして察知した。
「やっぱり、外殻にひびが入った!」
尻尾の大ぶりな薙ぎ払いをスライディングでかわし、セレナが足に駆け寄る。
「あとは、ルミナリ鋼製なら……でやぁッ!」
太ももの部位の外殻に剣を振り下ろすと、石の鎧が見事に砕け散った。
『ギャアアースッ!』
流石に外殻が砕ければ痛みを感じるのか、ドラゴーレムが悲鳴を上げる。
同じやり方で、もう片方の後ろ脚を破壊して動きを鈍らせようとしたセレナだったが、彼女の後ろからリンの荒い息が聞こえて、振り返った。
「はぁ、はぁ……」
「リン! まさか、魔法を連続で使ったから……!」
肩で呼吸をするリンだったが、まだ魔導書は光っているし、目に闘志も灯っている。
「……ボクなら大丈夫! まだ、やれるよ!」
奮い立たせるように黒い尻尾を立ち上げたリンが、魔導書を高く掲げた。
「『竜巻、木枯らし、逆巻き嵐となりて突き刺され!』」
彼女が呪文を唱えると、今度は空から竜巻が舞い降りて、ドラゴーレムを切り刻む。
やはり大したダメージは与えられていないが、外殻の多くにひびが入ったのを、セレナもリンも確かに見逃さなかった。
「さっきの風魔法が掠めて、他の部位も脆くなってる! セレナ、何度か攻撃を叩き込んでくれたら、ボクが魔法を撃ち込んで肉ごと壊すよ!」
「役割交代だね! 任せて、あたしの爪と剣で――」
ふたりでドラゴーレムを討伐できる。
そんな未来が頭をよぎったが、予想外の事態が起きた。
「な……!?」
「飛んだ……ッ!」
なんとドラゴーレムが翼をはためかせ、空を舞ったのだ。
石のような体だからか忘れていたが、もとはこれも空を飛んできたのだし、そもそもドラゴンが飛ばない道理はないだろう。
とにもかくにも、飛ばれるのはまずい。
このまま取り逃がしてしまうのか、反撃を受けてしまうのかと、ふたりが息を呑んだ時。
「――翼があるんだ、いざとなったら飛ぶに決まってるだろ」
ふたりの間を駆け抜ける、一陣の風があった。
両手に鉤状のナイフを構えた――ダンテだ。
「ダンテ!」
セレナが叫ぶと、ダンテはナイフを逆手に持ち替える。
「お前らのやり方も悪くないが、翼をもつモンスターは飛行能力を奪うのが定石だ。お手本を見せてやる」
そしてぐっと体を沈み込ませると、ドラゴーレムよりも高く跳んだ。
「ダンテも……!?」
「飛んだ……ッ!」
驚愕するセレナとリンの体が遠く見えるほど跳躍したダンテを、ドラゴーレムが驚愕の目で見つめる。
そんなドラゴーレムの瞳に映るのは、一対の刃を構える羅刹だ。
「さて――地面に着くまでに解体するか」
言うが早いか、ダンテのナイフがドラゴーレムの硬い翼を斬り落とした。
『ゴォ、ギャ、アギャアアーッ!』
モンスターの絶叫が轟くのも構わず、ぐらりとよろめいたドラゴーレムの胴体に着地したダンテが、片っ端から体を斬り刻んでゆく。
身を翻しながら石の外殻をバターのように斬り落とすダンテ。
難敵を焼き払ってやろうと、ドラゴーレムは火を吐いて最後の反撃を試みようとした。
「翼、尻尾、前脚……あとは、火を吐くその頭だッ!」
彼が勢いよくナイフを投擲すると、ドラゴーレムの頭に突き刺さる。
『ウギャギィッ!』
頭から紫色の血を噴き出すドラゴーレムの目から光が消えると、それはダンテもろとも、制御を失ってさっきの拓けた場所へと墜落した。
「きゃああっ!?」
セレナ達の視界が、墜落したモンスターが起こす砂埃で遮られる。
「……ど、どうなったの……?」
もうもうと立ち込める砂埃が晴れると、のそりと近寄ってくる黒い影が見えた。
「よし、これでドラゴーレム討伐は完了だな」
ドラゴーレムの首を引きずってくる、ダンテだ。
果たして彼は、ふたりがあれだけ苦戦したモンスターをたちまちミンチにしたのだ。
フレイムリザードと同様の、あまりにもあっさりとした決着を目の当たりにして、セレナもリンもがっくりと肩を落とした。
「け、結局ダンテがやっちゃった……」
「ボク達じゃ、倒しきれなかったね」
「おいおい、何言ってんだ?」
しかし、今回ダンテがふたりを助けた理由は、以前とはまるで違う。
「翼を狙わなかったとはいえ、お前らが追い詰めて空に飛ばしたから、俺が追い打ちをかけるスキが生まれたんだぞ? いわばこいつは、俺達3人の功績ってわけだ」
ふたりとも、格上のモンスターと渡り合えた。
現状に必要な十分に力を付けたと判断したからこそ、ダンテは手を貸したのである。
「よくやったな。ふたりとも、もう立派な冒険者だ!」
生首を置いたダンテは、彼女達の健闘を称えるようにわしゃわしゃと頭を撫でた。
それがまるで、父親に褒められたみたいに思えて。
「「いぇーいっ!」」
ふたりは顔を見合わせて笑い、互いの手を叩いた。
――3人は、初めて力を合わせてクエストを成功させたのだった。
先手を取ったのはセレナだ。
彼女は四足動物の如く飛び跳ねながら、勢いよく剣を抜いてドラゴーレムを斬りつけた。
ところが、150万エメトもする剣ですら、外殻に切れ目すら入れられない。
「……硬いっ!」
びりびりと手が痺れる感覚が骨に伝わり、セレナはモンスターと距離を取った。
ドラゴーレムが口を大きく開き、彼女に頭を向けているのに気づいたのだ。
「セレナ、ドラゴーレムが火を吐くよ!」
リンの警告とほぼ同時に、敵の口が赤く染まった。
『ボオオォーッ!』
解き放たれたのは、熔岩流のように地面を舐める炎。
大袈裟なほどドラゴーレムから距離を取ったセレナの判断は正しく、そうしなければたちまち炎に呑み込まれていただろう。
しかもモンスターは、炎を吐く口を閉じると、前脚で殴りかかってきた。
額を伝う汗を拭う間もなく、セレナとリンは回避に徹させられる。
そんなふたりのさまを、ダンテは少し離れた木々の間で見ていた。
(岩が幾つも重なった硬い外殻と、フレイムリザ―ドとは違う火を吐く力がドラゴーレムの特徴だ。対処法は似てるが、討伐難度はケタ違い……さあ、どう出る?)
特別な事情がない限り、絶対に手出しをしない。
そう考えていたダンテだが、どうやらまだ、増援は必要ないようだ。
「火属性は通じない! 風属性の鋭い魔法を右脚の太ももに集中させて、リン!」
「分かった。『つむじ風、針の如く尖り貫き穿て』」
ドラゴーレムの耐性に気付いたセレナの指示で、リンが魔導書を光らせた。
彼女の本から発射されたのは、触れた樹木を傷つけるほど鋭い、かまいたちだ。
「『穿て』、『穿て』、『穿て』!」
攻撃を繰り出すドラゴーレムに連続で撃ち込まれた風は、外殻を砕けない。
(――ほう、気づいたか)
ただ、ダンテはにやりと笑った。
「『穿て』、『穿て』……『穿て』……!」
リンはやみくもに魔法を発射していたのではない。
彼女はとある1カ所――右後ろ脚だけを狙い、魔法を叩き込んでいた。
セレナの斬撃だけでは何のダメージもなかった石の甲殻が、みし、ぱき、と音を立てているのを、彼女自身が耳をピクリと動かして察知した。
「やっぱり、外殻にひびが入った!」
尻尾の大ぶりな薙ぎ払いをスライディングでかわし、セレナが足に駆け寄る。
「あとは、ルミナリ鋼製なら……でやぁッ!」
太ももの部位の外殻に剣を振り下ろすと、石の鎧が見事に砕け散った。
『ギャアアースッ!』
流石に外殻が砕ければ痛みを感じるのか、ドラゴーレムが悲鳴を上げる。
同じやり方で、もう片方の後ろ脚を破壊して動きを鈍らせようとしたセレナだったが、彼女の後ろからリンの荒い息が聞こえて、振り返った。
「はぁ、はぁ……」
「リン! まさか、魔法を連続で使ったから……!」
肩で呼吸をするリンだったが、まだ魔導書は光っているし、目に闘志も灯っている。
「……ボクなら大丈夫! まだ、やれるよ!」
奮い立たせるように黒い尻尾を立ち上げたリンが、魔導書を高く掲げた。
「『竜巻、木枯らし、逆巻き嵐となりて突き刺され!』」
彼女が呪文を唱えると、今度は空から竜巻が舞い降りて、ドラゴーレムを切り刻む。
やはり大したダメージは与えられていないが、外殻の多くにひびが入ったのを、セレナもリンも確かに見逃さなかった。
「さっきの風魔法が掠めて、他の部位も脆くなってる! セレナ、何度か攻撃を叩き込んでくれたら、ボクが魔法を撃ち込んで肉ごと壊すよ!」
「役割交代だね! 任せて、あたしの爪と剣で――」
ふたりでドラゴーレムを討伐できる。
そんな未来が頭をよぎったが、予想外の事態が起きた。
「な……!?」
「飛んだ……ッ!」
なんとドラゴーレムが翼をはためかせ、空を舞ったのだ。
石のような体だからか忘れていたが、もとはこれも空を飛んできたのだし、そもそもドラゴンが飛ばない道理はないだろう。
とにもかくにも、飛ばれるのはまずい。
このまま取り逃がしてしまうのか、反撃を受けてしまうのかと、ふたりが息を呑んだ時。
「――翼があるんだ、いざとなったら飛ぶに決まってるだろ」
ふたりの間を駆け抜ける、一陣の風があった。
両手に鉤状のナイフを構えた――ダンテだ。
「ダンテ!」
セレナが叫ぶと、ダンテはナイフを逆手に持ち替える。
「お前らのやり方も悪くないが、翼をもつモンスターは飛行能力を奪うのが定石だ。お手本を見せてやる」
そしてぐっと体を沈み込ませると、ドラゴーレムよりも高く跳んだ。
「ダンテも……!?」
「飛んだ……ッ!」
驚愕するセレナとリンの体が遠く見えるほど跳躍したダンテを、ドラゴーレムが驚愕の目で見つめる。
そんなドラゴーレムの瞳に映るのは、一対の刃を構える羅刹だ。
「さて――地面に着くまでに解体するか」
言うが早いか、ダンテのナイフがドラゴーレムの硬い翼を斬り落とした。
『ゴォ、ギャ、アギャアアーッ!』
モンスターの絶叫が轟くのも構わず、ぐらりとよろめいたドラゴーレムの胴体に着地したダンテが、片っ端から体を斬り刻んでゆく。
身を翻しながら石の外殻をバターのように斬り落とすダンテ。
難敵を焼き払ってやろうと、ドラゴーレムは火を吐いて最後の反撃を試みようとした。
「翼、尻尾、前脚……あとは、火を吐くその頭だッ!」
彼が勢いよくナイフを投擲すると、ドラゴーレムの頭に突き刺さる。
『ウギャギィッ!』
頭から紫色の血を噴き出すドラゴーレムの目から光が消えると、それはダンテもろとも、制御を失ってさっきの拓けた場所へと墜落した。
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「……ど、どうなったの……?」
もうもうと立ち込める砂埃が晴れると、のそりと近寄ってくる黒い影が見えた。
「よし、これでドラゴーレム討伐は完了だな」
ドラゴーレムの首を引きずってくる、ダンテだ。
果たして彼は、ふたりがあれだけ苦戦したモンスターをたちまちミンチにしたのだ。
フレイムリザードと同様の、あまりにもあっさりとした決着を目の当たりにして、セレナもリンもがっくりと肩を落とした。
「け、結局ダンテがやっちゃった……」
「ボク達じゃ、倒しきれなかったね」
「おいおい、何言ってんだ?」
しかし、今回ダンテがふたりを助けた理由は、以前とはまるで違う。
「翼を狙わなかったとはいえ、お前らが追い詰めて空に飛ばしたから、俺が追い打ちをかけるスキが生まれたんだぞ? いわばこいつは、俺達3人の功績ってわけだ」
ふたりとも、格上のモンスターと渡り合えた。
現状に必要な十分に力を付けたと判断したからこそ、ダンテは手を貸したのである。
「よくやったな。ふたりとも、もう立派な冒険者だ!」
生首を置いたダンテは、彼女達の健闘を称えるようにわしゃわしゃと頭を撫でた。
それがまるで、父親に褒められたみたいに思えて。
「「いぇーいっ!」」
ふたりは顔を見合わせて笑い、互いの手を叩いた。
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