追放された美少女を助けた底辺おっさんが、実は元”特級冒険者”だった件について。

いちまる

文字の大きさ
上 下
17 / 95
おっさん、新人冒険者の面倒を見る

エンカウント!

しおりを挟む
「――じゃあ、ダンテにも何度か昇格クエストの誘いがあったの?」

 セレナの声が、木々の間に響いた。
 ドラゴーレム討伐クエストを受けた一行が向かったのは、前回フレイムリザードを倒した地域だが、岩場ではない。
 目撃情報があったのはさらにその奥の山林地帯で、より危険な場所でもある。
 そんな中でも、どうしてセレナ達が悠々と歩いているかというと、ここに来る道中ですでに襲ってきたモンスターを何匹か狩っているからだ。
 ダンテはともかく、ふたりがすっかり自信をつけているのはそれが理由なのだ。

「3年前まではな。それからは、俺にやる気がないと判断されたのか、すっかり声もかけられなくなったよ」

 さて、セレナの問いかけに、ダンテはあごを掻きながら答えていた。

「よく降格されなかったね」
「C級からの降格は、基本的にはない。引退勧告はあるが、俺は採取だけとはいえそれなりにクエストはこなしてたし、そんな話はなかったな」

 ダンテの言うように、冒険者は引退するか死ぬまで冒険者でいられる。
 欲張りさえしなければ、C級でも存外生活はできるものだ。

「でもさ、あたし達はダンテがすっごく強いって知ってるよ? なのにどうして、B級とか、A級冒険者に昇格しないの?」
「うん。ボクも気になってた」
「前に言ったろ? 昇格しなくても食うには困らないからだ」

 だからダンテは、同じ質問をされるたびに、同じ答えを返していた。
 ただ、彼の視線はすっと下りて、自分の手のひらをじっと見つめていた。

「……それに、俺は……」



 不意に足を止めた彼の手のひらが、赤く染まる。
 ダンテ・ウォーレンの脳裏に浮かぶのは、死屍累々ししるいるいの戦場に立つ自分の姿と、彼の四肢を斬り落とさんとするかつての同胞はらからの姿だ。
 彼らの顔は嫌でも覚えているが、不思議と記憶の中では黒く塗りつぶされている。
 そして誰もが、怨嗟えんさに満ちた声で叫ぶのだ。

『なぜ特級冒険者をやめるんだ、お前の損失は国の存亡にかかわるというのに!』
『どれだけ多くの人を殺してきたか分かってる!? 今更後戻りなんてできないわ!』
『いいですか。あなたのような人間に、居場所なんてないんですよ』

 誰もが友だった。誰もが敵になった。ひとつの信念を貫くべく、その道を選んだ。
 なのに、どうして――。

『『――戻ってこい、ダンテ!』』

 ――俺はまだ、あの頃の幻覚を見るのか。
 ――まだ、あの日の選択を後悔しているのか。



「ダンテ、どうしたの?」

 セレナの尻尾で肩を叩かれ、ダンテは我に返った。
 どろどろの底なし沼よりもよどんだ瞳が、いつもの色に戻るのに、幸いセレナもリンも気づいていないようだ。
 少し心配そうなふたりを見て、ダンテは意地悪い鼻の鳴らし方をする。

「……俺は、お前らみたいに金にがめつくないから、今で十分なんだよ」

 そうしてたこのように口を尖らせると、ふたりの不安は明るさに変わった。
 ついでに、自分達が強欲だと言われているのも分かった。

「言ったなー、こんにゃろーっ!」
「デュクシ、デュクシ」

 歯を見せて笑いながら、セレナ達が尻尾でダンテの頬をつつく。
 獣人の中でも、猫耳族だけがやってくれる、じゃれつきのようなものだ。
 こんなことをしてくれるほど、彼女達と仲良くなれたという事実が、ダンテの心臓の奥底に残るどす黒い泥を押し込めてくれた。

「よせよせ、もうドラゴーレムの縄張りに入ってるんだから……おっと」

 とはいえ、いつまでもはしゃいではいられない。
 ダンテだけでなく、セレナとリンも尻尾を下ろして、その場にとどまった。

「ふたりとも、来たぞ」
「うん、あたしもリンも気づいたよ」
「尻尾がビリビリしてる。あいつが近づいた証拠だ」

 拓けてもいない、鬱蒼うっそうと木々の生い茂る森の中央で、3人が周囲を警戒した時だった。

「上だっ!」

 ダンテの声とともに、セレナとリンが、とっさにその場から離れた。
 その判断は正解だ――なんせ、彼女達がいた場所を押し潰すように、モンスターが空から落ちてきたのだから。

『ゴオオオオオォーッ!』

 落ちてきたというよりは、着陸したと言うべきか。
 全身を灰色の岩で覆われた、フレイムリザードのメスよりも大きなドラゴン型のモンスターの落下は、もはや隕石の墜落と似たようなものだ。
 周りの木々を薙ぎ倒し、ドラゴーレムは黒玉ジェットのような瞳でセレナ達を睨んだ。

「……ドラゴーレム……こんな間近で見るのは、初めて……!」

 ドラゴーレムはあくまでゴーレムの仲間で、ドラゴンのまがい物でしかない。
 しかし、セレナとリンにとっては、他のどんなモンスターよりも脅威だ。
 サマニ村で触れてはならないと言われ、自分達よりも強かった大人がことごとく倒された怪物とぶつかるプレッシャーは、想像以上のものに違いない。
 一方でダンテは、モンスターを冷静に観察していた。

(同種の中でもかなり大きい……体を形成する石の色や傷からして、相当年季の入ったモンスターだ。恐らく、B級冒険者でもソロなら返り討ちに遭うだろうよ)

 ダンテがもしも戦うなら、難儀する相手ではない。

(まあ、想定の範囲内だ。あとはあいつらが怖気おじけづかないか、だな)

 セレナやリンが戦うとすれば、話は別だ。
 彼女達が足の震えを抑えられないでいたなら、あるいは恐怖で鳴り続ける歯を止められないでいたなら、ダンテが代わりに戦うつもりだったのである。

「セレナ、ボク……」
「分かってる、あたしもビビってるよ!」

 だが、セレナは恐れを押し殺すように声を張り上げた。

「でも、やれる! ダンテが、戦い方を教えてくれた!」
「……!」
「ここで逃げたら、アポロスの言ってた3流冒険者のままだ! ドラゴーレムのクエストを受ける時から、あたしは決めてたんだ――絶対に逃げないって!」

 剣を抜き、尻尾で強く握りしめた時、セレナの足はもう震えてはいなかった。
 敵をしっかと見据える目に、恐れもない。

「なら、ボクも逃げない」

 そんな勇気に触発されたリンも、魔導書をめくってゆく。

「どんな時だって、セレナひとりに戦わせたりしない。ボクは、セレナの親友だから」
「……うん!」

 拳をぶつけ合ったふたりは、ドラゴーレムの前に立つ。
 セレナもリンも、ダンテに助けは求めなかった。

「そこで見ててね、ダンテ! あたし達が、ドラゴーレムをやっつけるところを!」
「ああ、見てるぞ。特訓の成果を、見せてやれ」

 ダンテがにやりと微笑んだ。

『グルオオォォーッ!』

 会話が終わるのを待っていたかの如く、ドラゴーレムが雄叫びをあげた。
 これから3つの餌をむさぼるのだという、モンスターの意思表示でもあった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした

コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。 クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。 召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。 理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。 ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。 これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。

チートスキル【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得&スローライフ!?

桜井正宗
ファンタジー
「アウルム・キルクルスお前は勇者ではない、追放だ!!」  その後、第二勇者・セクンドスが召喚され、彼が魔王を倒した。俺はその日に聖女フルクと出会い、レベル0ながらも【レベル投げ】を習得した。レベル0だから投げても魔力(MP)が減らないし、無限なのだ。  影響するステータスは『運』。  聖女フルクさえいれば運が向上され、俺は幸運に恵まれ、スキルの威力も倍増した。  第二勇者が魔王を倒すとエンディングと共に『EXダンジョン』が出現する。その隙を狙い、フルクと共にダンジョンの所有権をゲット、独占する。ダンジョンのレアアイテムを入手しまくり売却、やがて莫大な富を手に入れ、最強にもなる。  すると、第二勇者がEXダンジョンを返せとやって来る。しかし、先に侵入した者が所有権を持つため譲渡は不可能。第二勇者を拒絶する。  より強くなった俺は元ギルドメンバーや世界の国中から戻ってこいとせがまれるが、もう遅い!!  真の仲間と共にダンジョン攻略スローライフを送る。 【簡単な流れ】 勇者がボコボコにされます→元勇者として活動→聖女と出会います→レベル投げを習得→EXダンジョンゲット→レア装備ゲットしまくり→元パーティざまぁ 【原題】 『お前は勇者ではないとギルドを追放され、第二勇者が魔王を倒しエンディングの最中レベル0の俺は出現したEXダンジョンを独占~【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得~戻って来いと言われても、もう遅いんだが』

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します

あけちともあき
ファンタジー
異世界召喚されたコトマエ・マナビ。 異世界パルメディアは、大魔法文明時代。 だが、その時代は崩壊寸前だった。 なのに人類同志は争いをやめず、異世界召喚した特殊能力を持つ人間同士を戦わせて覇を競っている。 マナビは魔力も闘気もゼロということで無能と断じられ、彼を召喚したハーフエルフ巫女のルミイとともに追放される。 追放先は、魔法文明人の娯楽にして公開処刑装置、滅びの塔。 ここで命運尽きるかと思われたが、マナビの能力、ヘルプ機能とチュートリアルシステムが発動する。 世界のすべてを事前に調べ、起こる出来事を予習する。 無理ゲーだって軽々くぐり抜け、デスゲームもヌルゲーに変わる。 化け物だって天変地異だって、事前の予習でサクサククリア。 そして自分を舐めてきた相手を、さんざん煽り倒す。 当座の目的は、ハーフエルフ巫女のルミイを実家に帰すこと。 ディストピアから、ポストアポカリプスへと崩壊していくこの世界で、マナビとルミイのどこか呑気な旅が続く。

職業・遊び人となったら追放されたけれど、追放先で覚醒し無双しちゃいました!

よっしぃ
ファンタジー
この物語は、通常1つの職業を選定する所を、一つ目で遊び人を選定してしまい何とか別の職業を、と思い3つとも遊び人を選定してしまったデルクが、成長して無双する話。 10歳を過ぎると皆教会へ赴き、自身の職業を選定してもらうが、デルク・コーネインはここでまさかの遊び人になってしまう。最高3つの職業を選べるが、その分成長速度が遅くなるも、2つ目を選定。 ここでも前代未聞の遊び人。止められるも3度目の正直で挑むも結果は遊び人。 同年代の連中は皆良い職業を選定してもらい、どんどん成長していく。 皆に馬鹿にされ、蔑まれ、馬鹿にされ、それでも何とかレベル上げを行うデルク。 こんな中2年ほど経って、12歳になった頃、1歳年下の11歳の1人の少女セシル・ヴァウテルスと出会う。凄い職業を得たが、成長が遅すぎると見捨てられた彼女。そんな2人がダンジョンで出会い、脱出不可能といわれているダンジョン下層からの脱出を、2人で成長していく事で不可能を可能にしていく。 そんな中2人を馬鹿にし、死地に追い込んだ同年代の連中や年上の冒険者は、中層への攻略を急ぐあまり、成長速度の遅い上位職を得たデルクの幼馴染の2人をダンジョンの大穴に突き落とし排除してしまう。 しかし奇跡的にもデルクはこの2人の命を救う事ができ、セシルを含めた4人で辛うじてダンジョンを脱出。 その後自分達をこんな所に追い込んだ連中と対峙する事になるが、ダンジョン下層で成長した4人にかなう冒険者はおらず、自らの愚かな行為に自滅してしまう。 そして、成長した遊び人の職業、実は成長すればどんな職業へもジョブチェンジできる最高の職業でした! 更に未だかつて同じ職業を3つ引いた人物がいなかったために、その結果がどうなるかわかっていなかった事もあり、その結果がとんでもない事になる。 これはのちに伝説となる4人を中心とする成長物語。 ダンジョン脱出までは辛抱の連続ですが、その後はざまぁな展開が待っています。

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

『おっさんの元勇者』~Sランクの冒険者はギルドから戦力外通告を言い渡される~

川嶋マサヒロ
ファンタジー
 ダンジョン攻略のために作られた冒険者の街、サン・サヴァン。  かつて勇者とも呼ばれたベテラン冒険者のベルナールは、ある日ギルドマスターから戦力外通告を言い渡される。  それはギルド上層部による改革――、方針転換であった。  現役のまま一生を終えようとしていた一人の男は途方にくれる。  引退後の予定は無し。備えて金を貯めていた訳でも無し。  あげく冒険者のヘルプとして、弟子を手伝いスライム退治や、食肉業者の狩りの手伝いなどに精をだしていた。  そして、昔の仲間との再会――。それは新たな戦いへの幕開けだった。 イラストは ジュエルセイバーFREE 様です。 URL:http://www.jewel-s.jp/

処理中です...