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おっさん、新人冒険者の面倒を見る
ふたりでひとりの冒険者
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「まずはセレナからだ。この木剣を使って、俺に斬りかかってみろ」
ダンテが用意していた木剣をセレナに投げ渡すと、彼女はいやらしく笑った。
「へっへっへ……ダンテ、ケガしても知らないよ~?」
「なんだよ、そのチンピラムーブは」
演技なのだろうが、セレナのゴロツキのような口調と動きは、なぜか違和感がない。
けらけらと笑いながら木剣を舐めるさまも、王都の路地裏によくいる、どこぞのバカがナイフを舐める仕草の真似だろう。
本当に、憎めないお調子者だとダンテは思った。
「ま、俺に一発でも攻撃を当てられたら、酒場で好きなだけ肉と酒をおごってやる」
彼の提案を聞いて、セレナは目を輝かせた。
「マジで!? 後でナシとか言わせないよ!?」
「当たり前だ。男に二言はないからな」
「よーし、やる気マシマシだっ! 行くよ、ダンテっ!」
木剣を尻尾で掴み、ゆらゆらと器用に揺らす。
「おりゃああああっ!」
そしてセレナは、足をばねに見立てて空高く跳び上がると、太陽を背にして斬りかかった。
ダンテは斬撃を軽くかわすが、セレナも負けじと連撃を繰り出す。
「はっ! せいっ! やあぁっ!」
木剣を避ければ、長い爪が迫ってくる。
その爪を回避しても、尻尾が脳天をかち割ろうと襲いかかる。
しかも尻尾は手足と違い、普通では全く想像のつかない方向から攻撃してくるのだ。
(尻尾の剣と、両腕の長く伸びた爪か。トリッキーな戦い方だ)
セレナは冒険者の中でも前衛、剣士に適性があるようだが、戦い方だけを見てみれば、獣に近いところがある。
(猫耳族は爪を自由に伸び縮みさせられると聞いたが……セレナの場合は普通より長く、硬い爪の持ち主みたいだな)
しかも彼女の爪は伸びるだけでなく、他の獣人よりも固く鋭いのだ。
空を切る音からして、並の人間が斬られれば肌どころか、肉を削いで骨に届くだろう。
「どうしたの、ダンテ! 反撃しないと、ほんとーに痛いのを打ち込んじゃうよ!」
そんな武器をセンスだけで活かしているのだから、慢心するのも頷ける。
「調子に乗るなっての」
もっとも、それだけでダンテに勝てるわけがないのだが。
思い切り振り下ろされた爪を、ダンテはもう避けなかった――代わりに右腕をぶつけて、完全に勢いを殺してしまったのだ。
しかも爪は、骨肉はおろか、肌に切れ目すら入れられなかった。
「え、あ、あれ?」
「考えなしに突撃すると、痛い目を見るぞ……っと!」
戸惑うセレナの足をダンテが引っかけると、彼女はあっさりと転んでしまった。
「ひゃああーっ!?」
ひっくり返った彼女が次に見たのは、眩しい太陽と、覗き込むダンテの顔だ。
「痛たた……おかしいな、あたしがずっと優勢だったのに……!」
「優勢なわけないだろ、ずっと俺が攻め続けさせてやったんだよ。お前はそれに気づかずに、調子に乗ってただけだ」
「えぇーっ!?」
まさか手のひらの上で踊らされていたとは知らず、セレナが驚いた。
ダンテとしては、最初からこうなるのは計算ずくだったのだが。
「お前はもうちょっと冷静になった方がいいな。よし、次はリンだ」
セレナを起こしたダンテが、リンを呼んだ。
彼女が手にしているのは、昨日買ったばかりの、ぴかぴかの魔導書。
昨日から相当大事にしているのか、カバーを何度も磨いているのをダンテは知っていたが、飾って手入れしてやるだけでは宝の持ち腐れだろう。
「せっかく手に入れたんだ、新しい魔導書を使おう。セレナと同じで、俺に魔法を当てられたら何でも言うこと聞いてやるぞ」
「甘いスイーツ美味しいフルーツ珍しい本と魔導書ホルダーとふかふかのベッド!」
いつものリンとは思えないほどの饒舌に、ダンテはずっこけそうになった。
「……意外と強欲なんだな」
とはいえ、セレナの時と同様に、撤回するつもりはない。
リンの目にやる気の炎が灯るなら、ダンテは何度でもこの約束をしてやるつもりだ。
「行くよ、ダンテ」
「ああ、いつでも来い」
びり、と先ほどとは違う空気が張り詰める。
セレナが見つめる中、最初に動いたのはリンだった。
「『手のひらの雷、舌の先まで痺れさせろ』」
ひとりでにめくれた魔導書のページ。
そこに書かれた呪文をリンが読み上げると、空気を一筋の小さな稲妻が裂いた。
ほとんど反射的にダンテが横に動いてかわした結果、稲妻は地面に炸裂し、彼がついさっきまでいたところに黒い焦げができていた。
リンがこれまで使わなかった属性魔法――雷の力を操る魔法だ。
「雷属性……他の属性魔法より習得が難しいものまで使えるとは、魔導書との相性はバツグンみたいだな!」
「おかげさまで。『爪先のともしび、我を指さす愚人を焼け』」
今度は違うページがめくれて、リンの呪文詠唱に応じて小さな火の玉が飛んでくる。
モンスターを倒すには心もとないが、人間にやけどを負わせるには十分な威力だ――当然、ダンテに当たればの話だが。
「次は火の魔法か! 連続で発射するのはいいが、そんなんじゃ当たらないぞ!」
「……むう」
ダンテの挑発に頬を膨らませたリンが、魔導書を光らせ、魔法を放つ。
「『焼け』、『痺れろ』、『焼け』、『焼け』……」
雷と火を何度も発射するが、そのすべてがひょいひょいと避けられる。
そうして何度目か分からない呪文を唱える時、とうとうリンが膝をついた。
「……はあ、はあ」
どうやら魔法を使いすぎて、すっかり疲れてしまったらしい。
ダンテはリンに近づき、軽くデコピンした。
「あだっ」
「セレナと同じだな。こんな見え見えの挑発に乗るなよ、おバカちゃん」
こちらもまた、実戦であれば死んでいたに違いない。
セレナとリンも分かっているが、納得できないところもあるのか、むくれていた。
「新調した魔導書でも、魔法を短時間に連発すると息切れするみたいだな。それでも、フレイムリザードと戦った時よりはずっとましか」
ふたりに無傷で完勝したダンテは、腰に腕を当てて鼻を鳴らした。
「地元じゃ負け知らずってのは納得できる。剣をそれなりに振り回せて、魔法を使えるなら、ゴブリンやジャッカロープ程度なら相手にならないだろうな」
「他のモンスターじゃ厳しいって意味だよね」
「そうだ、半人前のお前らじゃ難しい。だから――」
果たしてダンテには、未熟なふたりでも実績を出せる策があった。
人差し指をぴんと立てて、ダンテは言った。
「セレナ、リン。ふたりでひとりの冒険者になれ」
「「は?」」
彼女達には、ダンテの言葉の意味がすぐには理解できなかった。
ダンテが用意していた木剣をセレナに投げ渡すと、彼女はいやらしく笑った。
「へっへっへ……ダンテ、ケガしても知らないよ~?」
「なんだよ、そのチンピラムーブは」
演技なのだろうが、セレナのゴロツキのような口調と動きは、なぜか違和感がない。
けらけらと笑いながら木剣を舐めるさまも、王都の路地裏によくいる、どこぞのバカがナイフを舐める仕草の真似だろう。
本当に、憎めないお調子者だとダンテは思った。
「ま、俺に一発でも攻撃を当てられたら、酒場で好きなだけ肉と酒をおごってやる」
彼の提案を聞いて、セレナは目を輝かせた。
「マジで!? 後でナシとか言わせないよ!?」
「当たり前だ。男に二言はないからな」
「よーし、やる気マシマシだっ! 行くよ、ダンテっ!」
木剣を尻尾で掴み、ゆらゆらと器用に揺らす。
「おりゃああああっ!」
そしてセレナは、足をばねに見立てて空高く跳び上がると、太陽を背にして斬りかかった。
ダンテは斬撃を軽くかわすが、セレナも負けじと連撃を繰り出す。
「はっ! せいっ! やあぁっ!」
木剣を避ければ、長い爪が迫ってくる。
その爪を回避しても、尻尾が脳天をかち割ろうと襲いかかる。
しかも尻尾は手足と違い、普通では全く想像のつかない方向から攻撃してくるのだ。
(尻尾の剣と、両腕の長く伸びた爪か。トリッキーな戦い方だ)
セレナは冒険者の中でも前衛、剣士に適性があるようだが、戦い方だけを見てみれば、獣に近いところがある。
(猫耳族は爪を自由に伸び縮みさせられると聞いたが……セレナの場合は普通より長く、硬い爪の持ち主みたいだな)
しかも彼女の爪は伸びるだけでなく、他の獣人よりも固く鋭いのだ。
空を切る音からして、並の人間が斬られれば肌どころか、肉を削いで骨に届くだろう。
「どうしたの、ダンテ! 反撃しないと、ほんとーに痛いのを打ち込んじゃうよ!」
そんな武器をセンスだけで活かしているのだから、慢心するのも頷ける。
「調子に乗るなっての」
もっとも、それだけでダンテに勝てるわけがないのだが。
思い切り振り下ろされた爪を、ダンテはもう避けなかった――代わりに右腕をぶつけて、完全に勢いを殺してしまったのだ。
しかも爪は、骨肉はおろか、肌に切れ目すら入れられなかった。
「え、あ、あれ?」
「考えなしに突撃すると、痛い目を見るぞ……っと!」
戸惑うセレナの足をダンテが引っかけると、彼女はあっさりと転んでしまった。
「ひゃああーっ!?」
ひっくり返った彼女が次に見たのは、眩しい太陽と、覗き込むダンテの顔だ。
「痛たた……おかしいな、あたしがずっと優勢だったのに……!」
「優勢なわけないだろ、ずっと俺が攻め続けさせてやったんだよ。お前はそれに気づかずに、調子に乗ってただけだ」
「えぇーっ!?」
まさか手のひらの上で踊らされていたとは知らず、セレナが驚いた。
ダンテとしては、最初からこうなるのは計算ずくだったのだが。
「お前はもうちょっと冷静になった方がいいな。よし、次はリンだ」
セレナを起こしたダンテが、リンを呼んだ。
彼女が手にしているのは、昨日買ったばかりの、ぴかぴかの魔導書。
昨日から相当大事にしているのか、カバーを何度も磨いているのをダンテは知っていたが、飾って手入れしてやるだけでは宝の持ち腐れだろう。
「せっかく手に入れたんだ、新しい魔導書を使おう。セレナと同じで、俺に魔法を当てられたら何でも言うこと聞いてやるぞ」
「甘いスイーツ美味しいフルーツ珍しい本と魔導書ホルダーとふかふかのベッド!」
いつものリンとは思えないほどの饒舌に、ダンテはずっこけそうになった。
「……意外と強欲なんだな」
とはいえ、セレナの時と同様に、撤回するつもりはない。
リンの目にやる気の炎が灯るなら、ダンテは何度でもこの約束をしてやるつもりだ。
「行くよ、ダンテ」
「ああ、いつでも来い」
びり、と先ほどとは違う空気が張り詰める。
セレナが見つめる中、最初に動いたのはリンだった。
「『手のひらの雷、舌の先まで痺れさせろ』」
ひとりでにめくれた魔導書のページ。
そこに書かれた呪文をリンが読み上げると、空気を一筋の小さな稲妻が裂いた。
ほとんど反射的にダンテが横に動いてかわした結果、稲妻は地面に炸裂し、彼がついさっきまでいたところに黒い焦げができていた。
リンがこれまで使わなかった属性魔法――雷の力を操る魔法だ。
「雷属性……他の属性魔法より習得が難しいものまで使えるとは、魔導書との相性はバツグンみたいだな!」
「おかげさまで。『爪先のともしび、我を指さす愚人を焼け』」
今度は違うページがめくれて、リンの呪文詠唱に応じて小さな火の玉が飛んでくる。
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「……むう」
ダンテの挑発に頬を膨らませたリンが、魔導書を光らせ、魔法を放つ。
「『焼け』、『痺れろ』、『焼け』、『焼け』……」
雷と火を何度も発射するが、そのすべてがひょいひょいと避けられる。
そうして何度目か分からない呪文を唱える時、とうとうリンが膝をついた。
「……はあ、はあ」
どうやら魔法を使いすぎて、すっかり疲れてしまったらしい。
ダンテはリンに近づき、軽くデコピンした。
「あだっ」
「セレナと同じだな。こんな見え見えの挑発に乗るなよ、おバカちゃん」
こちらもまた、実戦であれば死んでいたに違いない。
セレナとリンも分かっているが、納得できないところもあるのか、むくれていた。
「新調した魔導書でも、魔法を短時間に連発すると息切れするみたいだな。それでも、フレイムリザードと戦った時よりはずっとましか」
ふたりに無傷で完勝したダンテは、腰に腕を当てて鼻を鳴らした。
「地元じゃ負け知らずってのは納得できる。剣をそれなりに振り回せて、魔法を使えるなら、ゴブリンやジャッカロープ程度なら相手にならないだろうな」
「他のモンスターじゃ厳しいって意味だよね」
「そうだ、半人前のお前らじゃ難しい。だから――」
果たしてダンテには、未熟なふたりでも実績を出せる策があった。
人差し指をぴんと立てて、ダンテは言った。
「セレナ、リン。ふたりでひとりの冒険者になれ」
「「は?」」
彼女達には、ダンテの言葉の意味がすぐには理解できなかった。
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