追放された美少女を助けた底辺おっさんが、実は元”特級冒険者”だった件について。

いちまる

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おっさん、新人冒険者の面倒を見る

オババのお店

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 武具屋を出て、ダンテ達はさらにギルドから離れたところまで歩いてきた。
 少し日が傾き始めており、人通りもずっと減っている。

「次はここだ」

 そんな中、一行がやって来たのは寂れた廃屋はいおくのような家だった。
 さっきの場合は一軒家として機能しているようには見えたが、こちらはちょっと壁を蹴飛ばせば、ぺしゃんこになってしまいそうなぼろ屋だ。

「うーん、こっちもただのボロい家にしか見えないよね」
「いいや、立派な魔導書の専門店だ。俺は魔法を使わないし、店を知ってる奴はめったにいないし……何より店主が頑固だから、あまり立ち寄る機会はないけどな」

 ギシギシと音の鳴る扉を、ダンテはやや力を入れて、無理矢理開けた。

「最後に来たのはもう何年も前だ……俺のことを、覚えてるといいが」

 ダンテの後ろをセレナ達がついて行くと、すえた臭いが鼻をつく。
 獣人特有の嗅覚の良さを恨み、顔をしかめながらふたりはリビングに入る。
 すると、薄暗い部屋の中に、これまた椅子に腰かけた老婆がいた。

「あれ、またおばあちゃんだ」
「ってことは……ダンテ、今度はあたしにやらせて!」

 何かに気付いたらしいセレナが、ダンテより先に老婆に近寄った。

「あ、おい待て!」

 彼が止めるのも構わず、セレナは老婆の耳に手を当てて、ダンテの真似をした。

「ええと、『烏がなんと鳴く、雄鶏の声で鳴く』! おばあちゃん、これで奥のお店に案内してくれるんだよね!」

 さっきはこの暗号で、秘密の武具屋に行けたのだ。
 だから今回も、老婆が家の奥の道を案内してくれると思っていた。

「――なーに戯言たわごとをぬかしてんだい、このクソガキ!」

 ところが、返ってきたのは、目を見開いた老婆の怒鳴り声だ。

「わあああっ!?」

 思わずひっくり返ったセレナの前で、老婆は杖をついて椅子から立ち上がり、人食い鬼のような形相で睨みつけた。

「いきなり家に入ってきて、耳元で騒いでんじゃないよ! とっとと出て行かないと、この鉄よりかたぁい杖で、頭を滅多打めったうちにしてやるからね!」

 杖を振り回してわめき散らす老婆を見て、セレナもリンもすくみ上る。

「ば、バイオレンスおばあちゃん……!」
「やばいよやばいよ! ダンテ、助けてぇ~っ!」

 あっさりと泣きついてきたセレナをなだめながら、ダンテが一歩前に出た。

「オババ、俺だ。ダンテ・ウォーレンだ」

 すると、オババという名の老婆は、杖を振り回すのをやめた。
 本当にダンテであるかを確かめるように、舐め回すような視線を投げかけた後、オババは鼻を鳴らして杖を下ろした。

「……ダンテかい。随分と歳をとったね」
「最後にここに来たのは、もう10年も前だからな。オババは変わらないな」
「毎日『シタナガカエル』の肝を丸呑みにしてるからね。美容と健康の秘訣だよ」

 しゃがれた声のオババは、ダンテを杖でさした。

「で、あんたみたいな魔法も使えない坊主が何の用だい? 珍しくガキを引き連れてるんだ、どうせろくな相談じゃないんだろうがね」

 まだ会ってわずかな間のうちに、セレナとリンは、このオババという人間がどれほど厄介かと、嫌というほど思い知らされた。
 一方でダンテは、すっかり慣れた様子で、杖に手をかけて静かに下げた。

「リンに、魔導書を見繕ってほしい。金は出す」

 どうやらここにいる老婆が、ダンテの言っていた魔導書を売ってくれる相手らしい。

「このオババ・バーバヤーガの昼寝を邪魔したんだ、代金は割増だよ」
「2割乗せる。それでいいか?」

 少しだけ間を空けてから、オババは黄色い歯を見せて、心底面倒くさそうな顔をした。

「……フン、しょうがないね。そこの死んだ魚みたいな目をしたチビ、手を出しな」

 杖でさされたリンが、ちょっぴり顔をしかめる。

「ボクのこと?」
「あんた以外に誰がいるんだい。ついでに魔導書も見せるんだよ、早く!」

 リンのようなマイペースな少女からしてみれば、友人や家族でもないのに行動を急かしてくる相手など、会話もしたくないだろう。
 眉間にしわを寄せながらも、リンはオババに古びた魔導書を渡した。

「……せっかちな人、キライ」
「私もあんたみたいな生意気なガキは嫌いだよ。ふむ……」

 売り言葉に買い言葉とは、まさにこのこと。
 一層顔をしかめるリンをよそに、オババは魔導書をペラペラとめくってゆく。

「獣人にしちゃあ、魔力を操る力に長けてるね。属性魔法も複数使いこなせる……ダンテ、あんたが連れてきただけあって、将来有望じゃないか」
「でしょでしょ! リンはあたしの幼馴染で、魔法の天才なんだよ!」

 自分のことのようにセレナが誇ると、オババは魔導書を閉じた。

「みたいだね。だがまあ、魔導書がぜぇんぶ邪魔してるじゃないか」
「魔導書が、邪魔?」
「そうさ。人間には人間、エルフにはエルフに合う魔導書ってのがあるんだよ。それを無視して魔法を使えば、本来の力が出せないどころか、本の魔力もすぐ底を尽きるもんさ」

 オババの説明を聞いて、セレナがぽん、と手を叩いた。

「やっぱり!」
「思い当たることがあるんだな」
「うん、リンって魔法を使い続けるとすぐ疲れちゃうんだ!」

 説明するセレナの隣で、リンも深く頷く。
 言われてみれば、フレイムリザードの攻撃を防いでいる時、まだ3つほどしか魔法を使っていないにもかかわらず、リンはひどく汗をかいていた。
 恐らく、魔力をしっかりと制御できないせいで、それが駄々洩だだもれになっていたのだろう。
 しかも魔法としては還元かんげんできていないから、出力は低めというマイナスのおまけつきだ。

「今まで、魔導書の魔力を使いこなせてないだけだって、思ってたけど……」
「素人なら気づかなくて当然さな。待ってな、獣人用の魔導書を探してやるから」

 驚くリンの反応を予想していたように、オババは背を向けて、壁に手を当てた。
 いや、壁ではない――壁のように見えるが、ぎっしりと魔導書が詰め込まれた本棚だ。

「こ、これ……全部、魔導書!?」
「私が集めたんだ、魔導書に決まってるだろう!」

 どう少なく見積もっても100冊は下らない本が詰められた棚を見つめながら、ダンテが悪戯っぽく口を開く。

「オババはな、元々は魔導書専門の盗賊だったんだ。少し前にちょっとした事件があって、改心してからは知る人ぞ知る名商人に転向したのさ」
「何言ってんだい! 改心したんじゃない、あんたが私達の盗賊団を……」

 歯を剥き出しにして唸るオババだが、ダンテと目が合うと、そそくさと本探しに戻った。

「……ったく、あんたがバケモンみたいな奴だと知ってりゃ、私達は戦わずにとんずらしてたってのに。世の中はままならないね」
「あれ? オババさんも、ダンテが強いって知ってるの?」
「ボク達も、初めて見た時は驚いた。モンスターを、簡単にやっつけたから」

 セレナ達が想像しているのは、フレイムリザードを切り刻んだダンテの姿。
 だが、オババは「なにも理解していない」と言いたげに、わざとらしく首を振った。

「フン。ダンテ・ウォーレンより強い人間なんて、この世にいやしないさ」
「……?」

 頭に疑問符を浮かべるセレナ達の横で、ダンテは小さくため息をついた。
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