追放された美少女を助けた底辺おっさんが、実は元”特級冒険者”だった件について。

いちまる

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おっさん、新人冒険者の面倒を見る

女の子、引き取ります

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「……ダンテ……!?」

 アポロスが息をのんだ時、ギルド中が静かになった。
 さっきまで騒いでいた冒険者達も、わたわたと仕事に励んでいたスタッフも。
 併設されたカフェのマスターまで、コーヒーをこぼすのも構わず、ダンテを見つめていた。

「おい、あれって、あのダンテだよな?」
「間違いねえよ、C級冒険者の……」

 なんせあのC級の、くたびれたおっさん冒険者が、A級の超有名人が放った巨大な剣の一撃を、ナイフ1本で受け止めてみせたのだから。

「うそ……ナイフ1本で、大剣を受け止めるなんて……!?」

 セレナやリン、エヴリン達ですら驚愕きょうがくする中、アポロスが歯ぎしりした。

「なんのつもりだ、ダンテェ! 万年C級のおっさんが、割って入ってくんじゃねえ!」
「お前こそ冷静になれ、アポロス。今の一撃、殺す気で繰り出したな?」

 赤毛の英雄は大剣に力を込めるが、びくともしない。
 変わった形のナイフの持ち主に、アポロス以上の腕力がないと、こうはならないだろう。

「この『王都冒険者ギルド』でお前の横暴が目こぼしされてるのは、モンスター討伐の功績を認められたからだ。けどな、人殺しとなりゃ話は別だぞ」

 ダンテと目が合った途端、アポロスはぞっとした。
 誰も気づいていないが、彼の目は、いつものやる気のないおっさんではない。
 まるで今しがた、外で何十、何百の人間の首を掻き斬った後のような、鳥肌が立つほどの狂気に満ちているのだ。

「もう一度だけ言う。冷静になって、武器を収めろ」
「C級のザコの分際で、俺様に命令してんじゃ……」

 それでも力の差を認めないアポロスだったが、不意にエヴリンが彼の肩を叩いた。

「待って、アポロス」

 アポロスは恋人に振り返り、ダンテの代わりに彼女に殺気を向ける。

「あァ!? ダンテの肩を持つってのか、エヴリン!」
「そうじゃないわ。もっと面白い提案があるのよ」

 エヴリンはというと、すっかり慣れた調子で受け流し、ダンテを見つめた。

「ダンテ、その子達をかばったってことは――後の面倒も見てあげるのよね?」

 辺りがざわつき、ダンテは顔をしかめた。
 まさかA級冒険者のパーティーを追放された少女の世話をするなど、彼は想像もしていなかったし、予定だってない。

「そんなつもりはねえよ。俺はただ、昼間から殺しの現場に遭遇したくなかったって、それだけだ」
「あら、随分と無責任なのね。自分から首を突っ込んで守ったのに、最後まで責任を取れないなんて、情けないおじさんねぇ?」

 もっとも、こう言われるとダンテも反論しづらい。
 エヴリンは意地の悪い笑みを浮かべて、アポロスの耳に唇を近づけた。

「……あの3人でパーティーを組んだところで、たいした成果なんて出せやしないわ。連中が破滅していくところを見るほうが、面白いと思わない?」
「……お前は悪い女だぜ、エヴリン」

 彼女の真意を知ったアポロスは、エヴリンよりもずっと嫌な笑顔を見せる。

「ああ、エヴリンの言う通りだな! ダンテ、ここまで出しゃばってきたテメェが、まさかこいつらの世話もせずに放っておくなんてしないよなァ!?」
「別に、俺は……」

 大声でまくしたてるアポロスを相手にしても、ダンテは屈してやるつもりはなかった。
 ただ――少しだけ振り返り、セレナとリンの顔を見てしまった。

 強気な態度を崩すまいと、唇をかみしめるセレナ。
 今まさに自分が殺されかけていると実感し、無表情の中に恐れを浮かべるリン。
 金髪と黒髪の獣人少女の目を見て、放っておけないと彼は思った。

「……分かった。少しの間だけ、面倒を見てやる」
「決まりだ。お望み通り、武器は収めてやるよ」

 ダンテがナイフをしまうと、アポロスも大剣を鞘に納め、勝ち誇った顔で鼻を鳴らした。

「じゃあな、C級のザコと無能なガキども! クエストに失敗しまくって仕事がなくなったら、靴磨きとしてならもう一度、パーティーに入れてやるよ!」

 そうしてエヴリンの肩に手を回し、パーティーメンバーと一緒に、げらげらと笑いながらギルドの外に出て行った。
 騒ぎを見に来たやじ馬も、仕事や談笑だんしょうに戻ってゆく。

「……あいつら……!」
「セレナ、もう口喧嘩しちゃダメだよ」
「わ、分かってるよ……」

 獣のようにうなるセレナをいさめるリンに、ダンテが声をかけた。

「お前ら、名前は?」

 自分達よりも屈強な男――しかも、大剣の一撃を手にしたナイフだけで止めた謎の男を、ふたりは少しだけ警戒しているようだ。
 だが、いつまでもじろりと視線をぶつけているだけでは、話にならない。

「……セレナ。セレナ・ソーンダーズ」
「リン・ミリィ。おじさんは?」
「おじ……」

 悪気のない一言で、ダンテは思わず言葉を詰まらせた。
 35歳ならおじさんと呼ばれてもおかしくないが、改めて若者にこう言われると、ぐさっとくるものがある。
 それこそがおっさんの証なのだが、ダンテはあまり認めようとしなかった。

「……こほん。ダンテ・ウォーレンだ」

 咳払せきばらいと共に、ダンテは話を続ける。

「その様子だと、宿も『竜王の冠ドラゴンクラウン』頼りみたいだな。手持ちの金はどれくらいだ?」

 セレナとリンは顔を見合わせて、ポケットの中の、空っぽの麻袋あさぶくろを見せた。

「ええと、実は……パーティーに加入した時に、決まりだって言われて、持ち金は全部アポロス達に渡して、そのまま追放されたから……」
「ボク達の財布、すっからかんだよ」
「新入りは金銭を没収される。冒険者同士の、古い暗黙あんもくのルールか」

 これではせっかく王都にいるのに、野宿する羽目になるだろう。
 女の子ふたりが道端みちばたで眠るさまなど、間違いなくコソ泥か変態の標的になるのがオチだ。
 ダンテとしても、決して良い気分ではない。

「仕方ない、俺が世話になってる宿がある。部屋を取ってやるから、今日はそこで休め」

 彼の提案を聞いて、ふたりはぽかんと口を開く。

「でも、ボク達、宿代なんてないよ」
「しばらくは俺が払ってやる」

 彼の話を聞いたセレナとリンは、背を向けてこそこそと話した。

「リン、このおじさん、まさか夜になったら……」
「宿代の代わりとか言って、ボク達を……!?」

 どうやら、ダンテをスケベオヤジの類だと思っているらしい。
 こちらをちらちらと見ながらひそひそ話を続けるふたりにツッコむ気もなく、ダンテはため息をついた。

「そんなわけないだろ。バカなこと言ってないで、ついてこい」

 ダンテはギルドの出入り口の大きな扉に向かい、すたすたと歩いてゆく。
 しばらくして、ふたり分のあわただしい足音が聞こえてきた。

 ――まったく、どうして助けてしまったんだか。
 彼は自分自身に呆れながらも、なぜか後悔はしていなかった。
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