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2巻

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「――もういいだろう、二人とも部屋で騒がないでくれ!」
「クリス!?」

 しかも、これまで一度だって出したことがないほどの大声でだ。
 穏やかな面持ちの彼がまさかこんな声を出すとは思っていなかったのか、カムナは当然びっくりしたし、無抵抗のクリスしか知らない少女は一層驚愕した。

「きゃっ!?」

 すると、少女の半分透けた体は突如として飛び跳ねた。
 そして、まるできりのような姿となり、カムナを縛っていたナイフと鎖の中へと溶け込んでいく。
 鎖がじゃらりと落ち、ようやく解放されたカムナとクリスがアームズを見つめていると、中からさっきの少女の声が聞こえてきた。

「も、もう、クリス様! 大声をいきなり出さないでくださいまし、クソビビりましたわ!」

 間違いなく、貴族らしい外見をした、さっきの少女の声だ。
 何がどうなっているのか、頭がちっとも追い付かず、二人は顔を見合わせた。

「……嘘でしょ」
「ナイフの中に、入っていった? どうなってるんだ、この子は……?」

 もう人間とは到底呼べない奇行を繰り出す『何か』を前にして硬直していると、外から何やら騒がしい声が聞こえてきた。

「二人とも、こんな真夜中に騒々そうぞうしいぞっ!」

 そうして扉を開き、深夜に騒ぎ立てる二人をたしなめに来たのは、フレイヤだ。
 カムナやクリスと同じく、宿から支給されたパジャマを纏った彼女の後ろから顔を出すのは、何が起きているのかとのぞきに来た、宿の宿泊客達だ。扉の向こうで騒いでいたのはこの者達だろう。

「フレイヤ! ちょうどよかった、実は……」

 まるで何者かと戦った後のような光景と、クリスが拾ってきたアームズが乱雑に転がっているのを見たフレイヤは、わずかに思案にふけった。

「……ふむ、成程なるほど! どうやら事情があるようだな、では部屋の中で聞くとしよう!」

 そうして、恐らくパーティーの中では最も洞察力どうさつりょくに優れる彼女は、腕を組んで頷いた。

「皆、夜中に騒いでしまった二人にはきつく言っておくっ! 自室に戻ってくれっ!」

 彼女にこう言われると、野次馬達もこれ以上部屋をのぞき見る理由もないと判断したのか、寝ぼけまなこを擦って自室へと戻っていった。
 こうしてどうにか騒動の拡散を抑えた面々の脳裏には、ある想いがよぎった。

(フレイヤの声も、かなりうるさいんじゃないかな……)

 しかし、勢いよく扉を閉めた彼女には、誰もそうは言えなかった。

「……さて、どうやら厄介やっかいな事態に巻き込まれているようだな、クリス君」

 のしのしと部屋の奥まで歩いてきて、ランタンの灯りを大きくしてからどかっと座り込んだフレイヤに、クリスは疲れた様子で言った。

「厄介というか、なんというか……俺の拾ってきたアームズに、妙な女の子がくっついてきたんだ。その子は今、ナイフの中に隠れてるよ」
『コンコンっ』
「アームズに、ついてきた? それはまた随分と納得しがたい話だなっ!」

 フレイヤの反応は至極当然で、普通はクリスとコネクトの戯言ざれごとだと捉えてしまうだろう。

「――納得しがたいことなどありませんわ。わたくしはここにいますもの」

 だが、そんな理屈や常識は、ナイフの中から聞こえた声と共に消し去られた。
 光るもやのような物体をともない、少女が再びクリス達の前に現れたのだ。

「あーっ! また出てきたわね、変態へんたい幽霊! 今度こそ頭をかち割ってぶっ殺してやる!」
「ぶっ殺すとは下品な言い方ですわね。レディならお上品に、ぶちのめすと言いなさいな」

 フリルを靡かせて宙を漂う彼女に向かって、またもカムナが牙をいて吼えた。
 そんな光景を見て、フレイヤは目を丸くした。

「……驚いたな。君は、悪霊あくりょうたぐいか?」

 聖騎士パラディンが思わず呟いてしまった台詞を、少女は聞き逃さずとがめた。

「悪霊ではありませんわ。確かにわたくしは一度死んでよみがえってはいますが、悪事を働いたり、人をのろったりはしませんことよ。第一、初対面の相手に、その言いようは失礼ではなくて?」
「どの口が言ってんのよ、この……」
「それはすまなかった! 初対面の相手には、まずは自己紹介からだなっ!」

 フレイヤのリアクションは、カムナより幾分か大人だった。
 相手がいかなる人物だろうと、礼儀を通す――つまり、挨拶あいさつをすることから始めた。

「私は元聖騎士団ロイヤルナイツ所属、現Cランク探索者のフレイヤ・レヴィンズだっ! ここにいるカムナ、クリス・オロックリンと共にパーティーを組んで、日々探査を続けているっ!」
「まあ、聖騎士団ロイヤルナイツにおられたのですね。わたくしはリゼット・ベルフィ・ラウンドローグ。帝国貴族の名家、ラウンドローグ家の三女ですわ。以後、お見知りおきくださいまし」

 フレイヤが元気よく自己紹介をすると、これまで会話が通じなかったのがウソのように、リゼットと名乗った少女も、スカートの端をつまんで高貴な面持ちで返した。
 口調や節々の仕草からクリスも察していたが、やはり彼女は高いくらいの生まれらしい。

「ラウンド……俺達は詳しくないけど、本当に貴族なのか?」
「ああ、彼らはまつりごとにも関わる由緒ゆいしょ正しき血筋の貴族だっ! 今は政界から退しりぞいているが、裕福さで上回る者はあまりいないだろう!」
「貴族ってのはともかく、相手はいきなりクリスを襲った奴だって分かってんのよね?」

 ひとまず名前や出自を聞けた一同だが、カムナはまだ、彼女を疑っている。

「分かっているとも。だが、どんな理由があろうとも、今目の前にいるのは、既に命を落としてここに蘇ったと話す少女だ。なら、まずは事情を聞いてやるのが一番だろう」
「……俺も賛成かな。リゼット、どうしてそんな姿になったのか、俺についてきたのかを教えて欲しいんだ。何の理由もなく、襲ってきたわけじゃないんだよね?」

 だが、フレイヤはともかく、クリスすらも問い詰める気は失せているようだった。
 主人がリゼットを理解しようとしているのなら、カムナから手を出すわけにもいかない。
 特に、相手が下種げすとは呼べない類の者ならば猶更なおさらだ。

「クリスがそう言うなら、仕方ないわね……」
「……あなた様は、やはりお優しいです。最初から、お話しさせてくださいまし」

 彼の甘さに呆れつつ、渋々カムナが一歩引くと、リゼットは宙を漂うのをやめた。
 そして、クリスに向き直り、彼女は改めてこうなった経緯を語り出した。


「わたくしはラウンドローグ家に生まれ、何一つ不自由ない生活を送ってきましたわ。自分で言うのも恥ずかしいのですが、箱入りの暮らしを続けてきたのもあって、好奇心は人一倍で……貴族の友人と一緒に、街の視察に来た際にダンジョンへと忍び込みましたの」

 リゼットの脳裏を過るのは、過去の思い出と、今の姿を得る前の最期の夜だ。
 前者は、とにかくあらゆる意味で満たされた生活だった。貴族として遊び、食べ、学び、また遊ぶ。何もかもが充足じゅうそくしていて、まさしく裕福と呼ぶにふさわしい生き方だった。
 だが、後者はもっと明確に覚えている。
 いつからか、人々が求めてやまない未知の世界に、足を踏み入れたいと望むようになった。
 もとより努力を惜しまない性格であったリゼットは、召使いや両親に黙って体を鍛え、アームズを手に入れ、ダンジョンへと挑む準備をした。
 そうしてある日の夜、友と迷宮へ挑んだ彼女は、未踏の空間に興奮した。
 だが彼女は、ダンジョンに入る際に最も大事なものを二つ、忘れていた――探索者としての資格と、あらゆる事柄に注意を払う警戒心だ。

「ダンジョンに? まさか、資格は持っているのかい?」
「もちろん、持っていませんでしたわ。ちょっとした散歩をする程度でしたが、想像以上に深く潜ってしまい、気が付いた時には地下で迷っていましたわ。その時……」

 首を横に振るリゼットは、自分のおろかさを悔恨かいこんする。
 十四歳の興味と無知は、ダンジョンにおいては致命的だった。

「魔獣が、来たんだね。そして君は、殺された」
「……今でもまだ、その時の光景を覚えていますわ」

 リゼットが頷いた。
 回想の中の彼女達の前に現れたのは、漆黒しっこくの影を持つ魔獣だった。
 いかに彼女が訓練をしていても、質のよいアームズを持っていても、殺意を剥き出しにしてくる怪物を相手取って勝てる見込みはない。
 ただでさえ不利だというのに、リゼットは更に、圧倒的な絶望を叩きつけられた。

「わたくしは――友人に、置き去りにされましたの。足を傷つけられ、おとりとしてダンジョンの最深部に取り残され、魔獣の一撃でほふられました」

 彼女の視界に、最期に映った光景。
 それは、リゼットの足を剣で切り裂き、一人で逃げ出す友の姿だった。
 待って。
 置いていかないで。
 記憶の中の、リゼットの声にならない声は、魔獣の咆哮ほうこうに掻き消された。
 痛みを、憎しみを抱く間もなく、彼女の意識は途絶えた。

「わたくしは彼女を見捨てるつもりなんて、毛頭ありませんでしたわ。絶対に、一緒にダンジョンを脱出する……そう思っていたのは、わたくしだけでしたの」

 リゼット・ベルフィ・ラウンドローグの生前の思い出は、ここで終わった。


「それであんたは、殺されたってわけ。仲間にも裏切られるなんて、ご愁傷様しゅうしょうさまね」
「カムナ、やめなよ」
『コーンっ』
「はいはい」

 クリスとコネクトに窘められたカムナは、リゼットを挑発するのをやめた。
 リゼットもまた、カムナに噛みつかなかったし、平静に話を続けた。

「……あの時、確かにわたくしは死にましたわ。痛みを覚える間もなく、アームズはどこかにはじき飛ばされ、恐らく体は食われ……死んだはずですわ」
「だけど、君は今こうして、アームズと共にいる。それはどうしてかな?」
「……分かりませんわ。目が覚めると、わたくしはナイフの中にいましたの」

 リゼットにもこの現象の原因は見当もつかなかった。
 死の闇から長い時間を経て――リゼットは覚醒かくせいした。
 大金をはたいて買った一対のナイフの中から、彼女は自分が死んだ世界を眺めた。
 ただ――眺めるだけだった。それ以外は何もできなかった。
 多くの人が歩いていくのを眺めていたが、誰も自分に気付かなかった。
 まるで、幽霊と同じように透けてしまい、世界と同化しているかのようだった。
 発声も、動作も、何一つ許されなかった。

「当然ですが動けず、声も発せず、一切何もできませんでしたわ。ゲロヤバですわ、どうしたものかと頭を悩ませていると、わたくしの頭に声が響いてきましたの」
「声……?」

 クリスが問い返すと、彼女は銀髪を撫でつけて答えた。

「不思議な声はこう言いましたわ――『ダンジョンに秘められた摩訶不思議まかふしぎな力によって、お前は肉体と精神のはざまにある新たなる命を得た』! 『お前を見つける運命の相手が来た時、力を操り、元の姿を今一度外の世界に見せられるだろう』と!」

 クリスはほんのわずかだが、彼女が正気を保っていないのではと疑った。
 しかし、現に幽霊はここにいるのだ。

「肉体と精神のはざま……それが、さっきの透過した君の姿なのかい?」
「はい! わたくしの体は肉体を失ったせいで、文字通り透けていますわ! ですが人に触れたり、触れられたり、少しの間であれば何もかもを通り抜けさせる能力も手に入れましたわ! これも皆、不思議な力を持つ声が教えてくださいましたの!」

 話の内容から察するに、幽霊のようにふわふわと姿を出し入れしたり、物質を透過させたりするのは、どうやら今日が初めてらしい。だとすれば、この姿を見せられたのも、クリスに見つけて欲しい一心での能力の発現だったと言える。

「ダンジョンの不思議な力って、何よ」
皆目かいもく見当もつかないなっ!」

 ひそひそと話す二人を差し置き、リゼットの語りに熱がこもる。

「わたくしは声に従い、待ちましたわ。眠り、目を覚まし、それをずっと繰り返しておりましたが、三年ほど待っても誰もわたくしに気付きませんでしたの。きっと、運命の相手だけがわたくしに気付くのだと、自分にひたすら言い聞かせていましたわ」
「それまでずっと姿を見せられなかったのは、能力が制御できていなかったから、かな」
「違いますわ! きっと、わたくしにとっての運命の人が現れなかったからですわ! 魔獣や探索者が気付かなかったのも、縁がなかったからですのよ!」
「あたしが言うのもなんだけど、バカみたいにポジティブな奴ね」
「そうでもないと、ダンジョンの中で孤独ではいられないだろうっ!」

 こそこそと話す二人を差し置き、リゼットの語りに一層熱がこもる。

「そうして動けないまま延々と待ち続け、誰も来ないのかと復活したことすら呪い始めた時――ついに、わたくしを拾ってくださった方が現れましたの!」

 彼女が敬愛の眼差まなざしで見つめたのは、自分を見つけ、しかも持って帰ってくれた青年だ。

「そのお方はアームズを綺麗に整えて、素敵だと言ってくださって……気付けばわたくしの中に、またも声が聞こえましたわ! 『今こそ力は取り戻された』と、『お前を拾った男こそ、運命の王子であり、切れぬきずなで結ばれている』のだと!」
「……まさか」
「そのまさかですわ! わたくしがこの姿を取り戻せたのは、あなた様……クリス様と運命の出会いを果たしたからですわ! 本当に、本当に……わたくしを見つけてくださってマジ感謝ですわ、クリス様ぁーっ!」
「うわぁっ!?」

 リゼットはもう、三年間も溜め込んだ想いを解き放つのを我慢できなかった。
 目の中にハートマークを浮かべたリゼットは、透けた体で彼に抱き着いた。

「わけ分かんないこと言ってんじゃないわよ、あとクリスに抱き着くなっ!」
「ぎゃわーっ!? い、いきなり強い光を当てないでくださいまし!」

 同時に、カムナがそんな事態を許すはずがなかった。
 目潰しとばかりに彼女がランタンを掴み、灯りを調節して強くすると、リゼットは奇怪な声を上げてナイフの中へと戻っていった。

「わたくしの体は強い光に弱いんですわ、長時間当てられると体が溶けてしまうんですのよ! おまけにこんな光を当てられると無敵になれなくなるのですわ! どつかれればたんこぶだってできるというのに、失礼極まりないですわね!」

 がたがたとひとりでに揺れるナイフは、中から怒声を発する。
 暴れ散らすリゼット入りのアームズを見て、三人は顔を見合わせた。

(幽霊だよね?)
(幽霊じゃないのよ)
(幽霊だなっ!)
(コン)

 詳細はともかく――彼女は、幽霊と呼んで差し支えない存在だった。

「ついでに言うと、わたくし、強い日差しも苦手ですわ! ナイフの中にいる間は平気ですけども、そこのところ、覚えておいてくださいまし!」

 日光まで苦手だというのなら、いよいよ幽霊だとしか形容のしようがないのだが、クリスは敢えてその点に触れずに話題を変えた。

「え、ええと……ところで、君が俺に言っていた『願い』っていうのは、何なんだい?」
「それですわ、その話をしたかったのですわ!」

 本題に触れてもらい、リゼットはナイフの中から再び姿を見せた。

「実は生前、ダンジョン探索中にお母様から誕生日に頂いたティアラを落としてしまいましたの。クリス様には、わたくしとそれを探しに『深い庭』に戻って欲しいのですわ」
「ティアラ? 何年前の話よ、そんなもんとっくに他の探索者に拾われているわよ」

 神妙な顔をするリゼットの前で、カムナは早々に結論を出した。
 拾われていないにしても、魔獣に踏み潰されているか、時間の流れと共に土に埋まっているだろう。

「……重々承知ですわ。でも、それだけはどうしてもあきらめられませんの」

 それでも、リゼットは諦め切れないようで、ぐっと拳を握り締めた。

「わたくしを置き去りにした友人への恨みは諦められますわ。お父様やお母様、家族に会うのもいつかと思えますわ。でも、お母様が十歳の誕生日にくださったティアラだけは、どうしても有無を確かめたくて……」
「どうする、クリス君?」
「あたしの提案はシンプルよ。こいつを近くの川に投げ捨てて、全部忘れて――」

 フレイヤがクリスに聞くと、カムナが代わりに口を開いた。
 彼女は厄介ごとに首を突っ込む前に、リゼットのことを忘れるべきだと提言した。普通の探索者なら、提案を受け入れて、ナイフを窓の外から投げ捨ててしまうだろう。

「――『深い庭』のどの辺りで落としたか、覚えてるかな?」

 だが、クリスは違った。彼は何の疑いも躊躇ためらいもなく、リゼットに問いかけた。

「クリス!?」
「そう言うと思ったぞ、はっはっは!」

 大口を開けて笑うフレイヤと驚くカムナの前で、最もびっくりした顔を見せていたのはリゼットだった。

「……それは、つまり……」
「カムナの言う通り、他の誰かがもう拾ってしまった可能性はとても高い。俺達は探索のプロじゃないし、できる範囲でしか探せないけど……それでもいいなら、手伝うよ。自分で言うのもなんだけど、困ってる人を見過ごせないのが、俺の性分しょうぶんでね」

 その言葉の中にどれほどの優しさが詰まっているかに気付き、リゼットは両手で口を覆った。

「クリス様……わたくし、感謝感激雨霰あめあられですわ……!」

 涙を流しそうな顔のまま、彼女は心から彼に感謝した。
 はにかんだクリスに、リゼットは目をごしごしと手で擦り、詳細を話した。

「わたくしが行きたいのは、『深い庭』の最下層ですわ。けど、一度他の道を使って地上に戻ろうとした時に落としてしまったので、死んだ場所とは別のところになりますわ……確か、二つある道のうち、今日クリス様が使わなかった方だった、ような……」

 やはり、彼女がティアラを落としたのは『深い庭』だった。
 ただし、クリス達が『灰色虎』の素材を回収しに行った道ではなく、他のルートを用いたようだ。

「ふむ、一度の突入で、ダンジョンの中を二度も探索していたのだな」
「俺達が今回通った道は『西ルート』だから、リゼットが最下層の出入りに使ったのは『深い庭』の『東ルート』か。前回探索したのとは、また別の階層になるね」
「ダンジョンの中に、複数の道に繋がる扉があるの?」

 ダンジョンは階層ごとに扉があり、その先には下の階層へ繋がる通路がある。カムナがそれを思い出しつつ尋ねると、クリスは頷いた。

「そういうダンジョンもあるんだ。『深い庭』は中間辺りから分かれ道が出てきて、下の階層同士が横で繋がってる。リゼットが出られなかったのは、多分同じ階層に進む扉を開けていたからじゃないかな」
「なるほど、一つの階層に一つの扉とは限らないってわけね」

 クリスはギルド本部で何度か聞いていたし、他のダンジョン探索でも聞いていたが、地下迷宮にはいくつかの道筋が存在するのだ。

「よし、明日の朝に探索申請を出して、明後日には出発しよう。いいね?」
「うむ!」
『コン!』
「もう、お人好しなんだから……」

 クリスはいい加減、フレイヤ達を拘束するのはよくないとも判断した。
 すっかり月が夜闇やあんを照らす時間帯に起きているのは、肌荒れや健康不良の原因だ。

「満場一致だね。とりあえず、今日はもう寝よっか。皆、起こしちゃってごめんね」
「一向に構わんっ! ではクリス君、カムナ、リゼット、おやすみっ!」

 フレイヤは腕を組んで大袈裟おおげさに笑い声を上げながら、大股で歩いて部屋を出ていった。彼女が扉を閉めるのを見送ったクリスも、ランタンの灯りを消した。
 こうしてカムナとリゼットと同室のクリスも、どうにか眠りにつくことができた。


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