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2巻

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 プロローグ


 とあるダンジョンの最下層。
 そこは、どこまでも広がるように錯覚さっかくする平原。点在する木と岩、どこからか射し込む太陽の光だけを見れば、背の低い草がしげるここを地面より下の空間とは思わないだろう。
 だがしかし、これは紛れもなく地下迷宮だ。
 人を襲う怪物と未知の環境が探索者シーカー達を待ち受ける、異境いきょうとも呼べる世界。ダンジョンとも呼ばれる、人が多くを知らない世界。
 そんな広大さの一方で危険が常に潜む場所で、今まさに死闘を繰り広げる者達がいた。

「――オロックリン流解体術、『壱式乙型いちしきおつがた』ッ!」
「ギギャウ……」

 たった今、素手で灰色の巨大な虎の首をへし折ったのは、エクスペディション・ギルドに所属するDランク探索者、白目が黒く、瞳が紫という不思議な右目を持つ少年――クリス・オロックリンだ。
 ダンジョンに潜む怪物、魔獣メタリオを倒す数少ない手段であるアームズを修理する技術士エンジニアにして、あらゆるものを解体する能力の持ち主である。
 高級な庭園のようでありながら草木が鬱蒼うっそうとして、陰湿いんしつな空気をただよわせるこのDランクダンジョン、通称『深い庭』においてもそのスペックは遺憾いかんなく発揮された。

「お見事っ! 素手で魔獣を倒すとは、流石さすがだなっ!」

 痛みを感じる間もなく絶命した魔獣を見て、彼の背後から声がした。
 腕を組んでうなずくのは、クリスと一緒にダンジョンにもぐる元聖騎士パラディン深紅しんくの髪と巨大な十字架型じゅうじかがたのこぎりを背負うフレイヤ・レヴィンズ。
 その隣で彼に賛辞さんじの拍手を送っているのは、ブロンドをなびかせるはがねの武器少女、カムナことカムナオイノカミだ。
 この三人は『クリス・オーダー』という名のパーティーを組み、それぞれの夢に向かって今日もダンジョン探索にいそしんでいた。
 クリスは探索者となって姿を消した姉を追い、カムナは『アメノヌボコ』という名の正体不明のものを探している。そしてフレイヤはクリスの手助けをしながら、新米探索者として経験を積んでいる最中だ。
 ここに来たのは、それらの目標とはやや異なるが、ある素材を集める為だった。

「うん、市販のツールはどうしても修理以外には使えないからね。今作っているあれが完成すれば、もっと手際よく解体できるんだけど……」
「その部品を集める為に、ここに来たんでしょ。ほら、これ。『灰色虎はいいろとら』の牙よ」
「ありがとう、カムナ」

 素手で魔獣を倒すという、拳と足だけで建築物を解体するのに匹敵ひってきする荒業あらわざをやってのけたクリスに、カムナが怪物からへし折った牙を手渡す。
 荒っぽいカムナの素材収集法にも慣れた彼は、受け取った素材をかばんに詰め込んだ。

(この牙を加工して歯車にすれば、いよいよコネクトの改良ができる……修理するだけじゃなく、皆を守る力になるんだ)

 彼はショルダーバッグのように肩から巻いた布袋の中でこちらを見る、狐型の万能修理ツール――『コネクト』の頭を軽くでた。
 てのひらより少し大きいくらいの鋼の狐から、ロッド状の修理ツールに変形する世にも珍しい狐は、以前の戦いで無茶をしてしまい、半壊状態におちいってしまっていた。
 しかし、今こうして、壊れる前よりも立派な姿を取り戻そうとしているのだ。

『コン!』

 コネクトが鳴くと、クリスが頷いた。

「よし、目当ての物も手に入れたし、この辺りで撤退しよう」
「うむ!」
「オッケー!」

 目標を達成した三人は、早々に最下層を離れることにした。

「にしても、『深い庭』なんて言っておきながら、この前の『深淵しんえんの森』よりもずっと探索は簡単だったわね。お目当てのアイテムもすぐに見つかったじゃない」
「『深い庭』は、Dランクの中でも本当に初心者向けのダンジョンだからね。カムナからすればちょっと物足りないかもしれないね」

 攻略が簡単なのも当然で、ここはあくまで探索者になりたての者達が挑むDランクダンジョンだ。その中でも、特に簡単だとすら言われている。先に潜っている者がいたから後回しにしていたが、そうでなければ『深淵の森』よりも優先して探索したかったほどだ。
 だから、最下層からいくつか階層を戻るのも、全く苦ではなかった。

「そうよ! 『アメノヌボコ』とクリスのお姉さんを探すなら、もっと難しいダンジョンに行かないといけないわ! さっさとCランクに昇格したいわね!」
「ならば必要なのは、地道な努力だなっ! 何事もいきなりとはいかんっ!」
「フレイヤの言う通りだ。あと何回かダンジョンを巡れば、俺達にも機会が――」

 じきにCランクの探索も夢ではない、とクリスは言おうとしたが、不意に言葉を止めた。

「……ん? あれは……」

 少し離れたところに見える、他よりちょっぴり背の高い雑草のむらがり。
 岩の陰になっていてどうにも目立たないそこに、クリスは鈍く光る何かを見つけた。

「どうしたの、クリス? 魔獣でもいた?」
「ううん、あそこの草むらで何かが光ってる気がしたんだ……ちょっと待ってて」

 カムナとフレイヤを置いて駆けていったクリスは、岩の傍に集まった草の陰、つまり人目にはほとんど触れないところで、太陽の光をわずかに浴びて光るそれの正体を見つけた。

「やっぱり。かなり古びててガタもきてるけど、確かにアームズだ」

 アームズ。怪物の素材を使って造り上げる武器。
 これがなければダンジョンでは容易に死んでしまう。
 絶対に手放してはいけないと言える生命線を、この空間で拾うことそのものが珍しい。
 クリスが雑草の中から掴み上げたのは、つかを細く長い鎖で繋がれた、一対いっつい鈍色にびいろの、ボロボロのナイフだった。

(……気のせいかな? 今、このアームズがけていたような……)

 クリスには、手にしたそれがほんの一瞬だけ透けて見えたのだ。
 当然、そういった魔法を付与する武器がないわけではないし、彼の錯覚に過ぎない可能性もある。だが、クリスは確かに、その質量すら消えたように思えた。
 武器の幽霊ゆうれい。持ち主をなくし、新たな握り手を求めてダンジョンを徘徊はいかいする幽霊がいるとすれば、こんな姿をしているのだろうか。
 そんなことを考えながら、しげしげとそれを眺めていると、カムナとフレイヤが後ろからやってきた。

「何それ、アームズ? よく気付いたわね、そんなのが落ちてるって」
「アームズを落とすとは珍しい。ダンジョンでは、これは命を守る唯一のたてにして剣だ。よほどのうっかり者がなくしてしまったか、あるいは……」

 フレイヤは言葉を濁したが、要は命を落とした誰かの遺品いひんだと言いたいのだ。

「……だったら、元の姿に戻してあげないと」

 ぐっとナイフを握り締めて立ち上がったクリスは、それを鞄の中にしまった。

「噓でしょ、持って帰るの!? クリス、それの持ち主は十中八九死んでるわよ!?」
「言いたいことは分かるよ、カムナ。けど、どこにも帰るあてがないなら、せめて綺麗きれいにしてあげたいんだ。これも、技術士としての役割だよ」
「もう……本当に何でも直そうとするんだから……」

 自分もかつて直された立場である以上、強くは言えないカムナの前で、クリスは微笑んだ。
 そうして、改めてダンジョンの出口に向かおうとした時。


『――お待ちしていましたわ』


 ふと、風に紛れる程度に静かな声が聞こえた気がした。
 クリスは思わず振り向いたが、当然の如く、彼の後ろにもどこにも誰もいなかった。

「……? 誰か、今何か言った?」
「え? 何もしゃべってないわよ?」
「右に同じだなっ!」
『コン!』

 袋の中のコネクトもこう言うのだから、間違いなさそうだ。

「……そっか。じゃあ、帰ろうか」

 二人揃って首を横に振ったのを見て、彼はその声を幻聴と判断した。
 幻聴ならば何の問題もないと思い、三人はまた歩き出した。
 ――クリスの鞄の中で、古びたナイフがあやしく輝いたのに、誰も気付かないまま。




 第一章 彼女の名はリゼット


 クリス達が『深い庭』から帰ってきたのは、最下層踏破から三日後だった。
『深淵の森』よりも遠いところに入り口があるので帰りは遅れたが、素材の納品には間に合った。
 探索者シーカー達が拠点としているホープ・タウンに戻ってきた頃には日が暮れていて、三人は宿で夕飯を食べ、そのまま自室へと戻っていった。
 フレイヤはクリスの二つ隣に部屋を取っていて、カムナは相変わらずクリスと同室。
 彼女が水浴びを済ませた時には、もう窓の外はすっかり暗くなっていた。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「――やっぱり、無骨な構造だけど、材質はとてもいいね」

 そんな中、クリスは部屋に置いたランタンの灯りだけを頼りに、作業を続けていた。
 ダンジョン内で採れる『蓄光草ちくこうそう』を燃やすこのランタンは、部屋いっぱいから手元まで、自由に明るさを調節できる優れものだ。

「『鉄猪てついのしし』のひづめをベースにして、Dランクダンジョン辺りじゃ見かけない『鱗刃りんじん』の背びれに『一角獣いっかくじゅう』の素材を繋ぎ合わせたやいばを装着してる。違う魔獣の素材同士のパッチワークは、造った技術士エンジニアの腕がいい証拠だ……もしかすると、君はオーダーメイド品なのかな?」

 調整や修理の間に、直しているアイテムに声をかけるのは彼の癖だ。

「鎖やアームズ本体の繋ぎ目に砂やほこりが詰まってただけだから、調整自体は簡単にできたよ。あとは君を忘れていった人を、ギルド本部で探すだけだね」

 汚れを取り除き、各部に詰まった泥や土を払いながら、油を塗り込むのも手慣れたものだ。
 すっかり新品の如く光を放つようになったナイフをランタンに近づけると、柄には『ラウンドローグ』と小さく刻まれていた。

「『ラウンドローグ』、か。これが持ち主の名前だといいけど。ねえ、カムナ?」

 この名前が、持ち主を探すあてになってくれるだろうか。
 クリスがカムナに声をかけると、彼女はベッドの上で大の字になり、寝息を立てていた。

「ぷひゅるー……くぴー……」
「って、機能停止してたのか。確かにもう、遅い時間だけど……」

 武器に近しい存在である彼女は睡眠を必要としないが、一時的に機能を停止することもある、と知り合って三日目に教えてもらっているから、彼は驚かなかった。
 むしろ、外が暗く静まり返っている方に驚いたくらいだ。

『コーン……コーン……』

 コネクトも機能を止めて袋の中で丸まっているのを見て、クリスは大きく伸びをした。

「……うん、俺も寝よう。明日は朝一番にギルド本部に行かないとね」

 ナイフを机の上に置き、ランタンの灯りを消し、近くのソファに横たわる。
 カムナがやってきてからは、こちらがもっぱら彼の寝床だった。カムナは自分と一緒に寝てもいい、寝るべきだと言ったが、クリスにはどうにも気恥ずかしかった。

「それじゃあおやすみ、カムナ、コネクト――」

 くすりと微笑みながら、彼は仰向けになる。
 そうしてゆっくりと瞳を閉じ、自分も夢の世界へと向かおうとした。
 皆と語り合う夢。
 姉と再会する夢。
 カムナとの出会いを思い出す夢を、きっとこれから見るはずだった――。


「――お待ちしておりましたわ、あなた様」
「え?」


 ――それら全ては、彼の真上から聞こえてきた、覚えのない声で掻き消された。
 ぱちくり、と目を開いたクリスの視界の先にいたのは、およそ信じられないものだった。
 女の子だ。
 誰とも知らない女の子が、自分の真上、腹の上に乗っかっているのだ。

「君、どこから――むぐっ!」

 何をどうすればいいか分からないほど唐突な事態に、思わずクリスは叫ぼうとした。
 だが、その口は柔らかいてのひらで塞がれてしまった。

「静かにしてくださいまし。悪いようにはしませんわ」

 病的にも見える白い肌とあわい声が与える恐怖にも似た感情のせいで、そのままの姿勢で叫べばよいものを、彼は言われるがまま黙ってしまい、頷くほかなかった。
 大人しくなった彼の対応に一安心したのか、目が合った少女もはにかんだ。

(誰だ、いつの間に部屋にいたんだ!? 音も気配も、何もしなかったぞ!?)

 少女の朗らかな様子とは正反対に、クリスの頭は完全にパニックに陥っている。
 その一方で、彼の目は驚くほど冷静に少女の外見を捉えていた。
 背はカムナと比べて頭半分ほど低い。白銀しろがねの髪をツインテールにしてその先端を巻いている。
 肌は陶器とうき人形のように真っ白で、ゴシックロリータ調の黒と青を基調にしたワンピースを着て、シンプルなパンプスをいている。
 それら全てが普通でも、異常性は彼女の体そのものにあった。

(いや、そもそもこの子――透けてる!?)

 そう――透けているのだ。
 きらびやかなドレスも、柔らかな肌も、全てが文字通り透き通っているのだ。
 こんな様を形容する固有名詞は一つしか知らなかったが、クリスが正体を問いかけるよりも先に、少女の方がおだやかに質問を繰り出してきた。

「……あなた様、お名前は?」
「むぐ、ん……クリス、クリス、オロックリン」
「クリス様、ですわね。いいお名前……実家の愛犬を思い出させる名前ですわ」

 塞がれた口でどうにか答えを返すと、少女は一層うっとりと微笑んだ。


(褒められてるのか? ついでに前にも、こんな形で名前を聞かれたような気が……)

 鋼の少女との出会いをフラッシュバックさせるクリスに、彼女は尚も語り掛ける。

「わたくしを拾ってくださったあなた様。綺麗に身なりを整えてくれただけでなく、持ち主まで探そうとしてくれたあなた様。わたくしの願いを、運命の人として聞いてくださいませ」
「拾った? 運命? な、何を、言ってるんだ?」
「ああ、その前にしっかりきたえられているか、体を見ておかないといけませんわね。軟弱なんじゃくな野郎では、わたくしの願いは果たせませんもの」

 クリスの問いかけは、彼女に一切無視されてしまった。
 代わりに少女は、なんと空いた方の腕で、彼の腹部を優しく撫で始めたのだ。

(な、なんだってぇ!?)

 恐怖と困惑が、たちまち羞恥しゅうちへと変わってゆく。何を果たすのか、何を求めているのかは知らない。だが、透けているのに手の感触はある――これでは夜這よばいも同然だ。
 一方で彼の内心を見抜いているかのように、硬い腹部を少女がまさぐる。
 くすくすと笑いながら、指で男の腹を撫で回す彼女の表情は、ともすれば強姦魔ごうかんまのそれだ。

「……素敵な腹筋。服の上からでも分かりますわ、どちゃくそテンションが上がる――」

 きっと、誰の助けもなければ、彼女の要求はエスカレートしていただろう。
 事実、クリスもそうなると思っていた。
 少女もあわよくば、そんな展開を狙っていたかもしれない。

「――カアアァムナアアアアァァッッックルッ!」

 ――彼女の腹を、背後から貫くように放たれた『神威拳カムナックル』。
 それに加え、憤怒ふんぬ形相ぎょうそうで目を見開き、既に目を覚ましていたカムナがいなければ、だが。
 魔獣の装甲すら叩き砕く一撃。それが今、少女の腹を貫通した。

「フー、フー……あんた、クリスに何やってんのよ」
「カムナ……!」

 少女が間に挟まっていてもクリスに分かるくらい、カムナは激怒していた。
 口と鼻から白い息が漏れ出すくらい、彼女は凄まじい怒りに満ちていた。
 それこそ、殺人など躊躇ためらわないくらいに。

「本気で殴ったから、腹に風穴が開いちゃったかしらねぇ!? でもあんたが悪いのよ、あたしより先にクリスの腹筋に触れるなんて、万死ばんしあたい――なん、ですって?」

 ところが、カムナは不意に怒声と欲望を放つのをやめた。
 渾身の力で放ったはずの拳に、腕に、何の温かさも感覚もなかったからだ。

「こいつ、透けてる!? あたしの拳が透けて、通り抜けてるって、どういうこと!?」

 それもそのはず――カムナの腕は、文字通り貫通していた。
 少女の体は完全に、背後からの一撃を透過していたのだ。まるで空気を殴ったかのような虚無感に、クリスどころか、流石のカムナも狼狽うろたえた様子を隠し切れないでいる。

「まあ、無礼な一撃ですわね。レディなら、もっとスマートに戦いなさいな」

 一方で少女は、何事もない様子で、ゆっくりとカムナに向き直った。
 あまりに驚きすぎて、カムナは少女がアームズを腰にたずさえているのにも気付かなかった。

「例えばこのように、ですわッ!」

 言うが早いか、少女はクリスが修理していたアームズ――長い鎖がついたナイフを、カムナめがけて勢いよく投げつけた。
 いかに至近距離といっても、カムナの反射神経は人間を上回っている。さっと攻撃をかわしてみせた。

「うひゃあっ!?」

 かわした、はずだった。
 カムナが驚愕の声を上げた理由は、避けたはずの鎖が体を縛っていたからだ。
 姿勢を崩してしまった彼女は、ソファからごろりと転げ落ちてしまった。しかも鎖が絡まっているせいで、まともに身動きも取れない。

「何よ、これ!? いつの間にこんなことに、鎖が体中に絡まってるのよ!?」

 その奇々怪々な様は、クリスの目にも映っていた。

(この女の子、どうなってるんだ!? カムナの拳を、体を透かして回避しただけじゃない! 俺が修理したアームズの鎖も透過させて、カムナに巻き付けた!)

 やはり、こんな存在を形容する言葉は、彼には一つしか思い浮かばなかった。

(まるで、何でも通り抜ける、『幽霊』みたいに!)

 幽霊。
 彼女の持った道具も体も、幽霊のように透けるのだ。

『コ、ココンっ!?』

 やっとコネクトも目を覚ましたみたいだが、遅すぎる。

「さて、邪魔者はいなくなりましたわ。クリス様、あなた様に大事なお話が……」

 カムナを無事に撃退した少女は鎖を鳴らすようにして腕に巻き付けながら、今度はクリスに覆いかぶさってきた。
 何か重要な事柄を告げようとした少女だったが、彼女は知らない。
 じたばたと暴れるカムナが、主人の危機を、指をくわえて眺めているほど甘くないと。

「ふ、ざ、けんじゃ、ないわよーっ!」

 どうにかして一矢報いっしむくいようとするカムナは、倒れた姿勢のまま、少女に蹴りを放った。

だっ!」

 すると、今度は透けて通らず、彼女の脇腹に命中した。
 ようやく解放されたクリスの傍で、少女はカムナ同様、床に転がってしまった。

「スケスケだなんてお化けみたいなことしても、あたしはビビらないわよ! 幽霊だのお化けだの、そんなものがいるわけないわ! 透けて見えるあんたのそれはハッタリよ! その証拠に、あたしの蹴りが命中してるもの!」

 鎖は未だに解けていないが、カムナはぴょんぴょんとどうにか立ち上がり、幽霊に向かってえた。幽霊もまた、カムナに向き直ってにらみつける。

「お化けだなんて、失礼ですわ! わたくしはリゼット・ベルフィ・ラウンドローグ! 貴族の名にふさわしい、きよらかなるたましいとお呼びなさい!」
「わけ分かんないわよ、透明女!」
「口汚い金髪バカがやかましいですわ!」

 お嬢様らしい少女も、売り言葉に買い言葉で返す。
 カムナが怒鳴ると、リゼットと名乗る少女も怒鳴り散らす。
 このままではらちが明かないと思ったのか、とうとう二人の口喧嘩くちげんかにクリスが介入した。


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