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探索者ライフ②パーティーハウスを建てよう!
押すなよ、絶対押すなよ!
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「人型から家に変形するパーティーハウスなんて、前代未聞よね」
「街中の人が集まってくるのも当然ですわね……」
カムナやリゼットだけでなく、集まった人々は誰もがそう思っている。
「さあ、入って! 居住性も保証してるから、普段は普通のパーティーハウスとしても使えるよ!」
感嘆、呆れなど様々な感想が入り乱れる中、クリスは手を広げて仲間を歓迎した。
「お、おじゃましまーす……」
恐る恐るドアを開けて中に入ったカムナ達だが、内装は意外にも普通で、二代目パーティーハウスと大差ない。
暮らせば大満足間違いなしの、高級感あふれる部屋ばかり。
もう一度ボタンを押せば巨人に変形するであろう点を除けば、だが。
「クリス君、さっきの人型の形態は一体なんなんだ!?」
「ああ、あれは『戦闘巨人形態』のこと? あれは皆を狙って攻撃してくる悪党を迎撃する形態だよ。もし魔獣を従えてきても対応できるし、武器も内蔵しているんだ!」
心底楽しそうに壁や廊下を指さしながら説明するクリスだが、様子は正気ではない。
「こっちの廊下は腕になって、バトルブレードを下に隠してるよ。背中には火魔法の応用で炸裂する筒を射出する機能がついてて、さらに一定時間だけど飛行もできる! これなら、どんな敵が来ても心配ないよ!」
目がぎょろぎょろとせわしなく動いていて、指先はすすのような汚れで真っ黒。
まるでドラッグの常用者みたいな彼の所業を尊敬するどころか、誰もがまず心配するのは、『クリス・オーダー』のメンバーとして当然だ。
「あの、クリス様? ひどいクマですわ、ちゃんとお眠りになっていまして?」
「まさか! この傑作を作るのに、眠ってなんかいられないよ!」
やはり、クリスは眠ってなどいなかった。
いや、おそらく眠るどころか、一瞬一秒、休憩すら入れていないのだろう。
(これは重症ですわね……)
クリスの暴走ぶりにリゼットがげんなりする一方で、カムナ達は相変わらず生活の場としては最高級のランクを誇るパーティーハウスを喜んでいるようだった。
「でも、ちゃんと内装は、一つ前のパーティーハウスみたいになってるわ!」
「むしろもっといい雰囲気になっているな! うむ、これは素晴らしい!」
クリスも彼女達の反応が嬉しいのか、腕を組んで何度も頷いている。
「何でも自由に使っていいけど、『自爆スイッチ』だけは押しちゃいけないよ。ハウスに何かあった時の為に、空高く飛んで安全に爆発する機能が起動するからね」
ただ、彼の当然のような発言に、マガツ以外の全員がぴたりと止まった。
自爆スイッチとは、なんぞや。
何が起きるのかある程度想像がつくほどにシンプルな危険アイテムが、部屋のどこかに隠されているのかと思うと、誰もが家具や道具を触るのをやめてしまった。
「安全に、爆発……?」
「どうしてそんな機能を……?」
「男のロマンかな。でも大丈夫、スイッチはすごく分かりやすく置いてあるし――」
クリスが自爆スイッチをさほど恐れていない、あるいは設置そのものを問題ないと思っているのは、そう簡単に押されるわけがないと確信しているからだ。
スイッチはガラスで囲われていて、色は真っ赤。周りには黄色と黒のストライプ模様の塗装が施されていて、上部には押すな、とまで書かれている。
だから、気づいてさえいれば、決して誰も有事以外は押そうとしないだろう。
そう――気づいてさえいれば。
かち。
「――かち?」
妙な音、何かが押し込まれるような音と共に、全員の呼吸が一瞬だけ止まった。
今回ばかりはクリスも皆と同じリアクションを示したうえで、音が聞こえた方向――カムナがもたれかかった壁を凝視した。
誰もが目を見開いているが、一番驚愕しているのはカムナだ。
「……ね、ねえ、クリス? このスイッチ、なんだかいかにもって感じで置いてあったけど、違うわよね? あんたの言ってた、あれじゃないわよね?」
ゆっくりと壁から離れたカムナの背中。
その奥から現れたのは、目に毒なほど赤い円柱型の装置。
カムナの鋼の体で砕けたガラスと一緒に出てきたそれに、何の疑いもない。
「それ――自爆スイッチだよ」
カムナが押したのは、自爆スイッチだった。
「――えええええっ!?」
叫ぶパーティーメンバーの声を遮るように、すさまじい警告音が鳴り響いた。
同時にがしゃん、がしゃんと音が聞こえてくるのに合わせて、部屋の内装が引っ込んだり、飛び出したりとおかしな挙動を始める。
「早く脱出して! もう変形してるから、すぐに飛んで行っちゃうよ!」
どうやら、部屋が手足や胴体になり、巨人に戻ろうとしているらしい。
しかも飛んでいくというのだから、このまま滞在しているのは危険だ。
「マガツに掴まって。ぴょーんって、外に跳んじゃうね」
危機を察したマガツが触手で仲間を掴み、窓を叩き割ってパーティーハウスの外に飛び出すのと、すっかり巨人に変形完了した家が噴煙と共に空に飛ぶのは、ほぼ同時だった。
「うわああああっ!」
クリス達が大声をあげて着地するのをよそに、巨人はぐんぐん空に向かってゆく。
「あれを見ろ!」
「デカい人形が、空に……!」
そうして人々が指さす中、かっと巨人が煌めいた。
轟音、猛火が空に瞬き、ちかちかと光った末に、パーティーハウスは跡形もなくなり、残骸が降り注ぐことすらなかった。
文字通り、クリスが命を注いで造り上げた家は、塵と化したのだ。
「ホントーに爆発、したわね……クリス、自爆ボタンなんて作らない方が……」
呆れたカムナがクリスの肩を叩こうとしたが、もう彼はいなかった。
どこに行ったのかと辺りを見回すと、彼は意外にも近くにいた。
「気絶してる。クリス、ばたんきゅうだよ」
マガツの言う通り、彼は疲労がたたったのか、白目をむいて仰向けに倒れていた。
「誰か、救助班を呼んできてーっ!」
仲間達の声が響き、広場が騒然とする。
こうして、暴走した技術士の大騒動は、事の発端となったクリスがぴくりとも動かなくなったことで収束したのであった。
「街中の人が集まってくるのも当然ですわね……」
カムナやリゼットだけでなく、集まった人々は誰もがそう思っている。
「さあ、入って! 居住性も保証してるから、普段は普通のパーティーハウスとしても使えるよ!」
感嘆、呆れなど様々な感想が入り乱れる中、クリスは手を広げて仲間を歓迎した。
「お、おじゃましまーす……」
恐る恐るドアを開けて中に入ったカムナ達だが、内装は意外にも普通で、二代目パーティーハウスと大差ない。
暮らせば大満足間違いなしの、高級感あふれる部屋ばかり。
もう一度ボタンを押せば巨人に変形するであろう点を除けば、だが。
「クリス君、さっきの人型の形態は一体なんなんだ!?」
「ああ、あれは『戦闘巨人形態』のこと? あれは皆を狙って攻撃してくる悪党を迎撃する形態だよ。もし魔獣を従えてきても対応できるし、武器も内蔵しているんだ!」
心底楽しそうに壁や廊下を指さしながら説明するクリスだが、様子は正気ではない。
「こっちの廊下は腕になって、バトルブレードを下に隠してるよ。背中には火魔法の応用で炸裂する筒を射出する機能がついてて、さらに一定時間だけど飛行もできる! これなら、どんな敵が来ても心配ないよ!」
目がぎょろぎょろとせわしなく動いていて、指先はすすのような汚れで真っ黒。
まるでドラッグの常用者みたいな彼の所業を尊敬するどころか、誰もがまず心配するのは、『クリス・オーダー』のメンバーとして当然だ。
「あの、クリス様? ひどいクマですわ、ちゃんとお眠りになっていまして?」
「まさか! この傑作を作るのに、眠ってなんかいられないよ!」
やはり、クリスは眠ってなどいなかった。
いや、おそらく眠るどころか、一瞬一秒、休憩すら入れていないのだろう。
(これは重症ですわね……)
クリスの暴走ぶりにリゼットがげんなりする一方で、カムナ達は相変わらず生活の場としては最高級のランクを誇るパーティーハウスを喜んでいるようだった。
「でも、ちゃんと内装は、一つ前のパーティーハウスみたいになってるわ!」
「むしろもっといい雰囲気になっているな! うむ、これは素晴らしい!」
クリスも彼女達の反応が嬉しいのか、腕を組んで何度も頷いている。
「何でも自由に使っていいけど、『自爆スイッチ』だけは押しちゃいけないよ。ハウスに何かあった時の為に、空高く飛んで安全に爆発する機能が起動するからね」
ただ、彼の当然のような発言に、マガツ以外の全員がぴたりと止まった。
自爆スイッチとは、なんぞや。
何が起きるのかある程度想像がつくほどにシンプルな危険アイテムが、部屋のどこかに隠されているのかと思うと、誰もが家具や道具を触るのをやめてしまった。
「安全に、爆発……?」
「どうしてそんな機能を……?」
「男のロマンかな。でも大丈夫、スイッチはすごく分かりやすく置いてあるし――」
クリスが自爆スイッチをさほど恐れていない、あるいは設置そのものを問題ないと思っているのは、そう簡単に押されるわけがないと確信しているからだ。
スイッチはガラスで囲われていて、色は真っ赤。周りには黄色と黒のストライプ模様の塗装が施されていて、上部には押すな、とまで書かれている。
だから、気づいてさえいれば、決して誰も有事以外は押そうとしないだろう。
そう――気づいてさえいれば。
かち。
「――かち?」
妙な音、何かが押し込まれるような音と共に、全員の呼吸が一瞬だけ止まった。
今回ばかりはクリスも皆と同じリアクションを示したうえで、音が聞こえた方向――カムナがもたれかかった壁を凝視した。
誰もが目を見開いているが、一番驚愕しているのはカムナだ。
「……ね、ねえ、クリス? このスイッチ、なんだかいかにもって感じで置いてあったけど、違うわよね? あんたの言ってた、あれじゃないわよね?」
ゆっくりと壁から離れたカムナの背中。
その奥から現れたのは、目に毒なほど赤い円柱型の装置。
カムナの鋼の体で砕けたガラスと一緒に出てきたそれに、何の疑いもない。
「それ――自爆スイッチだよ」
カムナが押したのは、自爆スイッチだった。
「――えええええっ!?」
叫ぶパーティーメンバーの声を遮るように、すさまじい警告音が鳴り響いた。
同時にがしゃん、がしゃんと音が聞こえてくるのに合わせて、部屋の内装が引っ込んだり、飛び出したりとおかしな挙動を始める。
「早く脱出して! もう変形してるから、すぐに飛んで行っちゃうよ!」
どうやら、部屋が手足や胴体になり、巨人に戻ろうとしているらしい。
しかも飛んでいくというのだから、このまま滞在しているのは危険だ。
「マガツに掴まって。ぴょーんって、外に跳んじゃうね」
危機を察したマガツが触手で仲間を掴み、窓を叩き割ってパーティーハウスの外に飛び出すのと、すっかり巨人に変形完了した家が噴煙と共に空に飛ぶのは、ほぼ同時だった。
「うわああああっ!」
クリス達が大声をあげて着地するのをよそに、巨人はぐんぐん空に向かってゆく。
「あれを見ろ!」
「デカい人形が、空に……!」
そうして人々が指さす中、かっと巨人が煌めいた。
轟音、猛火が空に瞬き、ちかちかと光った末に、パーティーハウスは跡形もなくなり、残骸が降り注ぐことすらなかった。
文字通り、クリスが命を注いで造り上げた家は、塵と化したのだ。
「ホントーに爆発、したわね……クリス、自爆ボタンなんて作らない方が……」
呆れたカムナがクリスの肩を叩こうとしたが、もう彼はいなかった。
どこに行ったのかと辺りを見回すと、彼は意外にも近くにいた。
「気絶してる。クリス、ばたんきゅうだよ」
マガツの言う通り、彼は疲労がたたったのか、白目をむいて仰向けに倒れていた。
「誰か、救助班を呼んできてーっ!」
仲間達の声が響き、広場が騒然とする。
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