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探索者ライフ②パーティーハウスを建てよう!

テイクスリーは飛来して

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「……クリスがいなくなって、もう四日も経つのね」

 カムナが大通りのカフェでぽつりと呟いた通り、クリスがどこかに消えてからもう四日も過ぎていた。
 これまでは建設予定地で作業をするところも見ていたのだが、今回はホープ・タウンの中で、一度もクリスの作業風景を見てないというのだ。

「街の人に聞いたが、誰も行き先を知らないとはな。素材を集めていた業者も、街の門番兵も顔を見ていないというのならお手上げだっ!」
「マガツの鼻も、触手も探せないの。クリスはすごいね」

 フレイヤやマガツすらお手上げの状況で、カムナは椅子にもたれかかった。

「今日は探しに行きませんの? わたくしも付き合いましてよ」

 リゼットの言うように、カムナも最初の二日ほどはクリスを探し回った。
 一度、誘拐される形で彼を失ったカムナにとっては気が気ではなかったし、街の中から外まで、手が届く範囲で主を捜索したが、やはり見つかりはしなかった。

「ホープ・タウンで探せるところはもう全部探したわよ。ローズマリーにも相談したけど、あいつがああ言うなら、あたし達は待つしかないじゃない」

 しかも、探索三日目には、ローズマリーがカムナを止めたのだ。

『男ってのはね、たまに自分と向き合って戦う生き物なのよぉ。クリスちゃんもそういう時期になったってだけだから、どっしり構えて帰りを迎えてあげてちょうだぁい』

 こう言われてはどうしようもなく、カムナも捜索を諦めた。
 以前のようにトラブルに巻き込まれていないと察しているからであって、本当ならもっと遠くにも行きたかったが、無意味であるとも察していたのだ。

「ローズマリー様は男心を理解している乙女ですの。あの方には敵いませんわ」
「それでも、いつ帰ってくるか分からないのはもどかしいなっ!」

 苛立ちにも寂しさにも似た顔で頬杖を突き、カムナはため息もついた。

「……二度もあたしの前からいなくなるなんて、帰って来たらただじゃおかないわ」
「自分もクリス様も、責めるものではありませんわ。今はあのお方の無事を……」

 そんな彼女をリゼットが珍しく慰めようとした、その時だった。

「……この音、なぁに?」

 マガツがふと、耳をぴくりと動かした。
 三人もつられて耳をそばだててみるが、何も聞こえない。

「音? 音なんて、何も……」

 だが、フレイヤとカムナはすぐに、次第に近づいてきて明確化する音に気付いた。

「いいや、確かに聞こえるぞっ! しかも、近づいてきているっ!」
「何か迫って来てるって、ろくなもじゃないでしょ! あんた達、構えなさいっ!」

 音は次第に振動となり、カフェ全体を揺らすほどの衝撃になる。
 しかも外からは、男女問わない叫び声まで聞こえてきたのだ。

「地鳴り、それに悲鳴……外かっ!」

 おかしな現象の原因が外にあると察したフレイヤについていくように、全員がカフェの外に飛び出した。
 そこにあったのはいつもの大通りと噴水広場、わらわらと集まった人々。



「「なんじゃこりゃあぁーっ(なんですのこれはーっ)!?」」

 そして――見上げるほど巨大な、人型の建造物だ。
 マガツ以外の全員が大声を上げるそれは、パーティーハウスよりもずっと巨大なのだ。
 人々はこれを見て騒いでいたわけだが、なぜこんなものがホープ・タウンの中央に鎮座しているのか、太陽の光を浴びて黒く輝いているのか、さっぱりわからない。

「こ、こんな魔獣メタリオがいたわよね? 『土人形』とかなんとかいう、どでかい人型のやつ! あれがホープ・タウンまで来たってわけ!?」
「ううん、違う。これ、魔獣の匂いがしないの」

「だったらなんだってんですの!? とにかく街で暴れる前に、さっさとぶっ潰す――」
 皆が唖然とする中、じゃらり、とリゼットは鎖付きのナイフを振り回そうとしたが、すぐにその手を止めてしまった。

「――皆、ただいまーっ!」

 人型建造物の頭がぱかっと開き、クリスが姿を現したからだ。

「クリス!?」
「クリス様!?」
「クリス君っ!?」
「あ、クリス」

 これまた仰天する四人の前に、巨人の手のひらに載ったクリスが降りてくる。
 最後に彼を見た時よりもずっとくまがひどく、衣服もぼろぼろで、明らかに何日か作業に没頭していて食事も睡眠もとっていないのが丸分かりだ。

「四日も待たせちゃってごめんね! これを作るのに、思いのほか手間取ったんだ!」

 少し足がふらついてすら見えるクリスの身を案じながら、四人が彼に駆け寄った。

「こ、これ……? クリスが作ったの?」
「というかなんですの、この巨大な人型の建築物は?」

 リゼットの問いに、クリスはあっけらかんと答えた。

「何って、パーティーハウスだよ?」
「「えええぇーっ!?」」

 もう、何度驚けばいいのか。
 クリスはこの鋼の巨人が、これから住まうパーティーハウスだというのだ。
 手の中に住むのか、足の中で暮らすのか、もう四人の理解が追い付かない。

「ああ、このモードのままだと分かりづらいよね。ちょっと待ってて、『探索者居住形態ハウスモード』に変形させるから!」

 などと考えているうちに、クリスが巨人の足元に近づき、せり出た赤いボタンを押した。

「は? いやいやいや、何を言って……」

 手をぶんぶんと振ってツッコむ一同の前で、巨人が急にがくん、と震えた。
 頭が胴体にめり込み、足が半分ほどの短さになる。
 手の内側がべろりと外に露出して、家屋の壁の色になる。
 誰も、何も言えないまま数十秒ほどで、巨人の形が完全に変わった。

((家になったーっ!?))

 カムナ達は、開いた口が塞がらなかった。
 くろがねの巨人が、あの時見たパーティーハウスへと変形したのだから。
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