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探索者ライフ②パーティーハウスを建てよう!
完成テイクツー
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「皆! 待たせてごめんね、遂に完成したよ!」
数日後、クリスは再びパーティーハウスを披露するために仲間を集めていた。
シートに覆われた家屋は以前よりもさらに大きく、街の住民も今度はどんなものができあがったのかと興味深そうに集まってきている。
「このシートの向こうに、わたくし達の……前にもやりましたわね、このやり取り」
リゼット達仲間を呼びつけたクリスは笑顔だが、どこか不安に見える。
というのも、口元は笑っているが目に活気がないうえに、タヌキのようにひどいクマができているのだ。
「……あー、クリス? 最初の披露から三日経ったけど、その間ちゃんと寝てた? 目の下にクマができてるわよ……?」
「心配してくれるのは嬉しいけど、問題ないよ。修理屋をしてた頃は、五日くらい眠らなくたって作業できたからさ!」
けたけたと笑うクリスは、カムナの意見をしっかりと受け止めて、パーティーハウスをゼロから組み立て直した。
嫌がらせや悪意からではなく、純粋に皆の力になりたい一心からだ。
だが、今のカムナ達は、心に重石をいくつも載せられた気分だ。
(クリスってば、嫌味がちっともないから余計に優しい言葉が刺さるのよぉ……!)
(さすがのカムナも反省してますわね)
げんなりとした空気を壊したのは、にょきっと顔を出したマガツだ。
「新しいパーティーハウス、気になる。クリス、見せて?」
「そうだね、もったいぶるのもよくないし、早速披露しよっか!」
クリスは強く頷き、建物にかかったシートを勢いよくひっぺがした。
「俺達のパーティーハウス――第二弾だっ!」
彼が作り上げた建物は、以前のそれよりもずっと大きくなっていた。
いや、大きいだけではない。ひとつひとつの装飾が豪華になっており、それでいてホープ・タウンの中で異様に目立つほどのおかしさがない。
何より、カムナの要望だった屋根の色合いは、息を呑むほど美しいのだ。
「すごい……屋根の赤色が太陽に映えて、とってもきれい……!」
「家屋そのものの形もすっかり変わっているし、まるで屋敷のようだなっ! これと同じものを帝都で買おうとしたなら、相当な額になるだろう!」
フレイヤの言う通り、帝都にこれほどの家を構えようとすれば、探索者の年収では到底維持できないし、そもそも不動産屋も売ってはくれない。
それほどに豪華な家がパーティーハウスになるのだから、クリス・オーダーの面々のみならず、周囲からも羨む声が上がってくるのは当然である。
「見てくださいまし! 屋根の上にバルコニーがありますわ! あそこで椅子に腰かけてティータイムなんて、素敵ですわぁ~♪」
「お庭、広くて青い。マガツ、ごろごろしたい」
これで満足しないとなれば、それは果たしてどれほどの贅沢か。
フレイヤやマガツはともかく、貴族であるリゼットをして豪奢だと言わしめるパーティーハウスは、もはやその類の最終完成形といっても過言ではなかった。
これほどの建築を成したクリスに、カムナは心底申し訳なく思っていた。
「ありがとう、クリス! それと……ごめんね。あたし、変なこと言って、真剣にパーティーハウスを作ってくれたクリスのこと傷つけちゃって……本当にごめんなさい」
彼女がばっと頭を下げる事態など、まず見られない。
これほどまでに真摯に謝っているのは、相当珍しいと言っていいだろう。
「クリス君、カムナもしっかり反省した! ここは許してやってくれないか!」
フレイヤが彼女の肩をバンバンと叩き、クリスに言った。
リゼットやマガツも、きっと同じ気持ちだ。
「……クリス、君?」
ただ、クリスからの返事はなかった。
もしやまだ怒っているのだろうか、と不安に思ったカムナがゆっくりと顔を上げると、そこには予想もしていない表情のクリスがいた。
「――違う」
彼の顔は、妄執に憑りつかれていた。
「へっ?」
カムナも、仲間も、群衆の方すら見ていない。
ひたすらパーティーハウスを睨みつけ、ぶつぶつと呟いているのだ。
「改めて見ればまるでダメだ。まだまだ上がある、完璧にできる。俺ならやれる、皆がもっと喜んでくれる最高のパーティーハウスを作れる。不可能なんてない、不可能だって思うのは俺の実力が足りないからだ。素材も技術精度も洗練できるはずだ……」
明らかにまともではない。
よくよく見れば、彼の頬が少しこけているのが分かる。
「な、何言ってるの……?」
「……ちょっと、素材を調達してくるよ。しばらく宿には帰らないかもしれないけど、心配しないで。作業が落ち着いたら、必ず戻ってくるからさ」
絶句するカムナの前で、クリスは彼女を見ずに言った。
そして民衆をかき分け、すたすたと歩き始めたのだ。
「クリス様、ど、どちらに!?」
フレイヤに返事すらせず、クリスの姿は消えてしまった。
誰も引き留められなかったし、引き留めようともしなかった。
誰も止めようとしなかったのは、彼の雰囲気が異様だったのも理由のひとつではあるが、なんだか止めてはいけない気持ちに駆られたのだ。
それこそ、クリスが自分のもとを離れるのをひどく嫌うカムナですら、である。
「……行っちゃった、わね。あたし、もしかしてまた余計なこと言った……?」
「今回はカムナには何の非もないぞ! あの様子を見るに、クリス君は自分の中の何かと戦っているようだっ!」
フレイヤも、ただ彼がいなくなるのを見送るばかりだった。
「嫌な予感が的中しましたわね……」
リゼットのつぶやきは、ある意味では的中している。
というのも――本当に嫌な予感が当たるのは、三度目のお披露目だからだ。
そのことを、彼女達はまだ、誰も知りえないのだが。
数日後、クリスは再びパーティーハウスを披露するために仲間を集めていた。
シートに覆われた家屋は以前よりもさらに大きく、街の住民も今度はどんなものができあがったのかと興味深そうに集まってきている。
「このシートの向こうに、わたくし達の……前にもやりましたわね、このやり取り」
リゼット達仲間を呼びつけたクリスは笑顔だが、どこか不安に見える。
というのも、口元は笑っているが目に活気がないうえに、タヌキのようにひどいクマができているのだ。
「……あー、クリス? 最初の披露から三日経ったけど、その間ちゃんと寝てた? 目の下にクマができてるわよ……?」
「心配してくれるのは嬉しいけど、問題ないよ。修理屋をしてた頃は、五日くらい眠らなくたって作業できたからさ!」
けたけたと笑うクリスは、カムナの意見をしっかりと受け止めて、パーティーハウスをゼロから組み立て直した。
嫌がらせや悪意からではなく、純粋に皆の力になりたい一心からだ。
だが、今のカムナ達は、心に重石をいくつも載せられた気分だ。
(クリスってば、嫌味がちっともないから余計に優しい言葉が刺さるのよぉ……!)
(さすがのカムナも反省してますわね)
げんなりとした空気を壊したのは、にょきっと顔を出したマガツだ。
「新しいパーティーハウス、気になる。クリス、見せて?」
「そうだね、もったいぶるのもよくないし、早速披露しよっか!」
クリスは強く頷き、建物にかかったシートを勢いよくひっぺがした。
「俺達のパーティーハウス――第二弾だっ!」
彼が作り上げた建物は、以前のそれよりもずっと大きくなっていた。
いや、大きいだけではない。ひとつひとつの装飾が豪華になっており、それでいてホープ・タウンの中で異様に目立つほどのおかしさがない。
何より、カムナの要望だった屋根の色合いは、息を呑むほど美しいのだ。
「すごい……屋根の赤色が太陽に映えて、とってもきれい……!」
「家屋そのものの形もすっかり変わっているし、まるで屋敷のようだなっ! これと同じものを帝都で買おうとしたなら、相当な額になるだろう!」
フレイヤの言う通り、帝都にこれほどの家を構えようとすれば、探索者の年収では到底維持できないし、そもそも不動産屋も売ってはくれない。
それほどに豪華な家がパーティーハウスになるのだから、クリス・オーダーの面々のみならず、周囲からも羨む声が上がってくるのは当然である。
「見てくださいまし! 屋根の上にバルコニーがありますわ! あそこで椅子に腰かけてティータイムなんて、素敵ですわぁ~♪」
「お庭、広くて青い。マガツ、ごろごろしたい」
これで満足しないとなれば、それは果たしてどれほどの贅沢か。
フレイヤやマガツはともかく、貴族であるリゼットをして豪奢だと言わしめるパーティーハウスは、もはやその類の最終完成形といっても過言ではなかった。
これほどの建築を成したクリスに、カムナは心底申し訳なく思っていた。
「ありがとう、クリス! それと……ごめんね。あたし、変なこと言って、真剣にパーティーハウスを作ってくれたクリスのこと傷つけちゃって……本当にごめんなさい」
彼女がばっと頭を下げる事態など、まず見られない。
これほどまでに真摯に謝っているのは、相当珍しいと言っていいだろう。
「クリス君、カムナもしっかり反省した! ここは許してやってくれないか!」
フレイヤが彼女の肩をバンバンと叩き、クリスに言った。
リゼットやマガツも、きっと同じ気持ちだ。
「……クリス、君?」
ただ、クリスからの返事はなかった。
もしやまだ怒っているのだろうか、と不安に思ったカムナがゆっくりと顔を上げると、そこには予想もしていない表情のクリスがいた。
「――違う」
彼の顔は、妄執に憑りつかれていた。
「へっ?」
カムナも、仲間も、群衆の方すら見ていない。
ひたすらパーティーハウスを睨みつけ、ぶつぶつと呟いているのだ。
「改めて見ればまるでダメだ。まだまだ上がある、完璧にできる。俺ならやれる、皆がもっと喜んでくれる最高のパーティーハウスを作れる。不可能なんてない、不可能だって思うのは俺の実力が足りないからだ。素材も技術精度も洗練できるはずだ……」
明らかにまともではない。
よくよく見れば、彼の頬が少しこけているのが分かる。
「な、何言ってるの……?」
「……ちょっと、素材を調達してくるよ。しばらく宿には帰らないかもしれないけど、心配しないで。作業が落ち着いたら、必ず戻ってくるからさ」
絶句するカムナの前で、クリスは彼女を見ずに言った。
そして民衆をかき分け、すたすたと歩き始めたのだ。
「クリス様、ど、どちらに!?」
フレイヤに返事すらせず、クリスの姿は消えてしまった。
誰も引き留められなかったし、引き留めようともしなかった。
誰も止めようとしなかったのは、彼の雰囲気が異様だったのも理由のひとつではあるが、なんだか止めてはいけない気持ちに駆られたのだ。
それこそ、クリスが自分のもとを離れるのをひどく嫌うカムナですら、である。
「……行っちゃった、わね。あたし、もしかしてまた余計なこと言った……?」
「今回はカムナには何の非もないぞ! あの様子を見るに、クリス君は自分の中の何かと戦っているようだっ!」
フレイヤも、ただ彼がいなくなるのを見送るばかりだった。
「嫌な予感が的中しましたわね……」
リゼットのつぶやきは、ある意味では的中している。
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