追放された技術士《エンジニア》は破壊の天才です~仲間の武器は『直して』超強化! 敵の武器は『壊す』けどいいよね?~

いちまる

文字の大きさ
上 下
129 / 133
探索者ライフ②パーティーハウスを建てよう!

完成テイクワン

しおりを挟む
「皆! 待たせてごめんね、遂に完成したよ!」

 翌日、クリスはパーティーハウスを披露するために仲間を集めていた。
 シートに覆われた家屋はとても大きく、街の住民もどんなものができあがったのかと興味深そうに集まってきている。

「このシートの向こうに、わたくし達のパーティーハウスがありますのね!」
「なんだか、ワクワクしてきたわね……!」
「うむっ! 早速披露してくれ、クリス君っ!」
「マガツ、わくわく?」

 四人のリアクションに満面の笑みで応えながら、クリスは手元の紐をぐっと握った。

「うん――これが、俺達のパーティーハウスだよっ!」

 そして力強くそれを引っ張ると、シートが四方から勢いよく剥がれた。
 中から出てきたのは――帝都の一等地に建っていてもおかしくない、立派な家だ。

「あらまぁ~っ!」
「おお、これはっ!」

 リゼットやフレイヤが感嘆の声を上げたのを見て、クリスが満足げに頷く。

「カムナの希望だった整備室を工房と一体化して、トレーニングルームを併設したんだ! 一番日当たりのいいところに観葉植物付きの休憩室! リゼットの要望通り浴室は広めに設計しておいたよ!」

 建築家でもなく、大工でもないのに、クリスは技術士エンジニアの技術力だけで、ホープ・タウンにある建物の中でトップクラスに豪奢な家を組み上げた。
 その場にいる誰もが「ここに住みたい」「自分もリフォームしてもらいたい」と囁き合う完成度の家屋は、本業の大工すら肩をすくめてお手上げしている。
 マガツですら無言で小躍りしているほどの完成度は、誰もケチをつけられないだろう。

「壁や家具の素材はできる限り厳選したし、他にも――」

 ただ、一人は少しだけ首を傾げた。

「――ちょっと地味じゃない?」

 カムナだけは――ほんのちょっぴり、不満げな顔をしていたのだ。
 クリスのみならず、その場にいた全員が彼女の無神経な発言に注目した。

「地味?」
「うん、色んな魔獣メタリオの素材を使ってるって聞いたから、もっと明るい雰囲気になってるかと思ったんだけど、これじゃ家ってよりデカい工房……痛だっ!?」

 悪気なく自分の意見を述べるカムナだったが、デリカシーのない発言の連発を見かねて、とうとうフレイヤのげんこつが彼女の頭に突き刺さった。

「流石にその物言いはどうかと思うぞ、カムナ!」
「せっかくクリス様が建ててくださったパーティーハウスに、なんて失礼なこと……」

 リゼットも顔をしかめて叱りつけていたが、クリスだけは違った。

「や、やっぱりそうだよね!」

 彼はちょっぴり焦ったような顔つきで、顎に指を当てて深く頷いていたのだ。

「「え?」」

 もっとも、クリスの様子はどこかおかしい。
 カムナの発言が何かの引き金になったように、心の中で抜けてはいけない楔が抜けてしまったかのように、汗をだらだらと流して思案に耽っているのである。

「実は俺も思ってたんだ、せっかく建てるならもうちょっと派手にした方がいいんじゃないかって! 本当はちょっぴりモヤモヤしてたんだよ!」
「あの、その、ど、どうしたんですの、クリス様?」
「『紫鼠』の素材を使ったのが間違いだったかな、屋根の色合いをつけるのに『紅葉蝶もみじちょう』を潰したペンキに変えておくべきだったかも……いや、そもそも魔獣由来よりはダンジョン植物の素材の方が発色はいいはずだから、というより建築物の日の当たり方も良くないし、レイアウトも全部変更して……うん、決めた!」

 ぶつぶつと独り言をつぶやいた末に、クリスはぱっと顔を上げた。
 明らかにいつもの彼ではない。
 クリスの目の奥に、ぐるぐると渦巻いた狂気が見えた。

「ありがとう、カムナ! もう少し改修してから、また皆に声をかけるよ!」
「待ちたまえクリス君、私達はだな……」
「二、三日だけ追加で待ってて! それじゃ!」

 フレイヤの制止などまるで聞こえていない様子で、クリスはパーティーハウスを置いたままどこかへ走り去ってしまった。
 きっと、ここで待っていれば彼はもう一度建築をしに来るだろうが、誰も視界に入れはしないだろう。
 クリス・オーダーの面々のみならず、周りの人々もただ茫然としていた。

「い、行ってしまったな……ああなると、クリス君は自分の世界に入ってしまうぞ……」
「でも、あれがクリスの望みのはずよ? もしもあたし達が妥協してたら、きっとクリスはモヤモヤしたままパーティーハウスで暮らしてたはずだわ」

 カムナはというと、自分の発言にまるで疑いを持っていない。

「ふふーん、どうかしら、リゼット? デキる女ってのは、ヨイショしてあげるだけじゃダメってわけ! 男の気持ちを引き出してやるのが、一流なのよ!」
「そうなの? クリスの目、変だったよ?」

 と、いうのはほんの一瞬だけ。
 マガツがさらりとそう言うと、たちまちカムナの表情に焦りが浮かんできた。

「……え、ホントに?」

 彼女らしいと言えばらしい無責任さに、フレイヤ達はげんなりとした。

「どこか思いつめたようにも見えたなっ! 普段以上に集中しているだけならいいんだが、そうでないなら、厄介かもしれないぞっ!」
「なんだか、嫌な予感がしますわね……」

 虚しくぽつんと建つパーティーハウスには、今はもう何の素晴らしさも感じられなかった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

八百長試合を引き受けていたが、もう必要ないと言われたので圧勝させてもらいます

海夏世もみじ
ファンタジー
 月一に開催されるリーヴェ王国最強決定大会。そこに毎回登場するアッシュという少年は、金をもらう代わりに対戦相手にわざと負けるという、いわゆる「八百長試合」をしていた。  だが次の大会が目前となったある日、もうお前は必要ないと言われてしまう。八百長が必要ないなら本気を出してもいい。  彼は手加減をやめ、“本当の力”を解放する。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。